現在フジテレビの月9ドラマでガリレオ(原作、東野圭吾)の2期作が放送されている。このドラマは面白いと思う。理系のトリックを使った魔法のような驚くべき事象を解き明かす様が好きだ。それが人気の要因の一つではないかと思う。ただ、見ていていくつか間違っているということがある。今回はそれを紹介する。
(1) 炭酸ガスレーザーを使ったトリック
画像1 ヘリウム・ネオンレーザーの光 - ガリレオ1期1話より
ガリレオ1期1話は炭酸ガスレーザーの光を人間にあてて発火させるというもの。まず害のないヘリウム・ネオンレーザーで狙いを定めて、炭酸ガスレーザーに切り替えて人体に当て発火させるというトリック。これは現実にやると偶然人に当たるということはあっても意図的に当てるのはほとんど成功しない。放送でも空気の温度差なんかでレーザーの終着点がずれて安定しない様が論じられているが、日や時間によって気温は刻々変化しており反射鏡を精密に調整して意図的にレーザーを当てるのはほとんど不可能だし、ターゲットも動いているからレーザーを当てるのは非常に難しい。
さらに放送では不良少年たちがいろいろな場所にいるような描写だったがそれでもレーザーが発射されていた。つまり、いつも同じ場所を狙ったわけではないような感じで、仮にそうならばかなりの精密さが要求される犯行のため、その都度反射鏡を調整せねばならず意図的にレーザーを当てるのはほとんど不可能だ。
これはドラマだから通用する架空の話であって、現実にやるのは無理。
(2)サブリミナルを利用した潜在意識への働きかけ
第2期3話で知覚できない音で好きな女性に「あなたは○○○を愛している。」という音声を流してターゲットの女性に好意を持たせようとした場面があった。栗林によればサブリミナルの効果はほとんど否定されているらしい。確かに科学的に検証されたことは一度もないが、本当に否定されているかというと疑問を持つ。現在も正確には不明ではないか。サブリミナル広告という言葉があるが、現在も信じている人はいるのだろう。
ただ、ドラマのように「あなたは○○○を愛している。」というような言葉を知覚できないような音で流すとターゲットが好意を持ってくれるかは全くわからない。まず間違いなく嘘だろう。
人間は愛していると言われ続けるとその人を愛するようになるのだろうか?そんなわけないでしょう。
しかし世の中にはプラセボ効果というのがあるので案外心理的な影響はあるかもしれない。
(3)物理学者がスポーツ科学の分析を行う
画像2 プロ野球投手のピッチングの解析を行う場面 - ガリレオ2期4話 より
これはトリックの間違いというのではないが、現実にはないこと。画像2は今週放送されたガリレオ2期4話で湯川がプロ野球投手のピッチングを分析し改善をはかる場面。湯川は物理学者で、このようなスポーツ科学のようなことをやることはまずない。物理学者は万能ではない。これはスポーツ科学の領域であって物理学の専門にこのような分野はない。
(4)物理学の研究者が白衣を着る
画像3 白衣を着る湯川と栗林 - ガリレオ2期2話 より
次の間違いは物理学者の服装について。研究室にいる時や研究を行う時湯川、栗林、研究室の学生は白衣を着ているが、物理学の研究者は白衣を着ることはまずない。白衣を着るのは化学系や医学系など主に薬品を扱う分野。白衣を着る理由は薬品が服について変色しないようにするため等。
物理学は液体窒素や液体ヘリウム、実験器具等はよく使うが、薬品を扱うことは少ない。理論系へ進むとそもそも実験を全くやらない[1]。だからアインシュタインのような理論物理学者で白衣を着る人はいない。
そして最大の間違いは次のもの。
(5)物理学の講義を女子学生が埋め尽くす
画像3 物理学の講義を受ける大学生たち - ガリレオ2期2話
湯川は容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能で女子学生から圧倒的な人気を得ているという設定。そのため湯川の物理学の講義をたくさん女子学生が受講し、画像3のように講義は女子大生で埋め尽くされている。
非常に残念なことに、現実にはこういうことは絶対にない。なぜか?どの大学でも物理学科にこんなに女子はいない。いくら湯川に人気があったとしてもここまで女子が講義室を埋め尽くすことは絶対にない。物理学に関心を持つ女性はほとんどいない。理系の中でも数学と物理学はそういう傾向がある。物理学の女性割合は1~2割程度だろう。
ガリレオで湯川が勤める大学は帝都大学という架空の大学で、現在岸谷が「帝都大を卒業したのだから何にでもなれる。」、「帝都大卒のエリート。」などと言っているので、おそらく帝都大は東大や京大のような超一流大学なのだろう。1期ではエンディングで京大キャンパスが出てくるし、湯川の名前は湯川秀樹からとっているのだろうし、帝都大というのはおそらくそのような学校を指すと考えていいのではないか。
だとすると尚更物理学科に女性はいない。東大、京大は慶応大や上智大とは違う。学生のうちの女子学生率は2割程度だ。理系主体の大学はどこもそんな感じだ。
どの大学も現在女性に理系分野に進んでほしいとがんばって活動している。少し前に九州大学が後期日程の理学部数学系で女子だけの特別枠を設けることを発表し、不平等という批判から取りやめになったことがあった。現在も推薦入試の選考過程のブラックボックスを利用して女性獲得のための不公正な入試をやっている。
湯川のような人物が現実にいたとしたら、ひょっとすると最大の功績は物理学科に女性を多く惹きつけられることかもしれない。
これからは科学者もイケメンでなくてはいけませんね!(笑)
参考
[1]物理学の分野は研究手法で理論物理学と実験物理学に分けられる。実験物理学とは文字通り実験的な手法で研究を行う。理論物理学は数学や概念、数値計算で研究を行う。