世界変動展望

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(発見 STAP細胞)再現性の判断、時期尚早 外部評価委のスミス委員長に聞く

2013-02-28 00:33:03 | 社会

理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーらが報告した新しい万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の発見。その衝撃が冷めぬうちに、論文への疑義の指摘が相次いだ。CDBの活動全般にアドバイスをする外部評価委員会委員長のオースティン・スミス英ケンブリッジ大幹細胞研究所長に、発見の意義と論文の問題点を聞いた。

 ■胎盤作り、研究に応用

 ――STAP細胞を初めて知った時の印象は?

 英科学誌ネイチャーから論文の解説の執筆を依頼され、初めて論文を読んだ。これまでの生物学の常識を覆す内容で、非常に驚いたが、CDBで行われた研究なので、真実だろうと思った。

 ――STAP細胞のどんな点に興味があるか?

 刺激を与えると、もともと細胞内にある遺伝子だけで自発的に初期化が起こり、多能性を獲得する。これは、細胞の潜在能力を示しているのではないか。STAP細胞を研究すれば、生物学の根本的な原理を学べるのではないか。STAP細胞はそんな可能性を秘めており、興味深い。

 ■受精卵の移植にも

 ――STAP細胞はiPS細胞ES細胞とは異なる応用が可能か?

 STAP細胞はiPS細胞ES細胞ではほとんど作れない胎盤にもなる。ヒトの細胞でSTAP細胞ができたら、体外受精などで作った受精卵をどういう条件で子宮に移植すればいいかの研究や、胎盤にできるがんの研究、胎盤の形成のしくみなどの研究に応用できるかもしれない。

 私は長年、筋肉や脳神経など多種類の細胞に変化する能力を持ち、がん化せず、体内に移植できる細胞を作れないかと空想してきた。STAP細胞なら使えるかもしれない。外から遺伝子を入れないのに、既存の万能細胞より幅広い多能性を持つからだ。

 ■調査委設置「適切」

 ――論文のミスや不自然な点が指摘されている。CDB外部評価委員会としてどうみるか。

 外部評価委員会の役割は、論文の内容について判断するのではなく、CDBの対応が適切かどうかを検討する。CDBではなく理化学研究所の本部に、外部委員も含めた調査委員会を立ちあげたのは適切な対応だったと判断する。

 ――他の研究者がSTAP細胞を作れず、「再現性がない」との批判も出ている。

 その批判は科学の発見にはつきものだ。クローンやiPS細胞の時も同じ批判が出た。STAP細胞の再現性を批判する人たちの主張を読んだが、論文とは別の細胞を使うなど、異なる条件で実験している。それで再現性がないと批判しても、科学的には無意味だ。

 作り方は簡単ですぐにできそうに見えるが、実際に簡単とは限らない。小保方さんには簡単でも他の人には難しい、ということもあり得る。私の研究室 でもSTAP細胞作製を開始したが、1回目で成功しなくても驚かない。科学では再現性が最も重要だが、STAP細胞の再現性を判断するのは時期尚早だ。

 (聞き手・大岩ゆり)

    *

 英エディンバラ大幹細胞研究所長などを歴任、2006年からケンブリッジ大教授。専門は、細胞が様々な細胞に変化できる状態になる「初期化」の研究。

 <これまでの経緯>

 STAP細胞の論文は1月末、小保方さんらが英科学誌ネイチャーに発表した。2月中旬から専門家やインターネット上で「論文に不自然な点がある」との指摘が出て、理研や同誌が調査を始めた。

 指摘は主に、違うマウスを撮ったはずの2枚の写真に酷似している部分がある▽遺伝子を解析した画像に加工した跡のような線がみられる▽文章の一部が、引用表記がないのに他の海外の論文とほぼ一致している――の3点。加えて、STAP細胞の再現の成功を公表している第三者の研究者がおらず、研究成果についても議論となっている。

 画像などの指摘について論文共著者の若山照彦・山梨大教授は「単純なミス」と説明し、結論に影響はないとしている。理研も「成果はゆるがない」と説明している。

(朝日新聞 2014年3月6日)