紹介するのが、ちょっと遅くなってしまいましたが、「青い海の宇宙港」の文庫版が書店に並んでいます。
文庫版も上下巻(春夏篇・秋冬篇)で、表紙のイラストは、おとないちあきさん、ブックデザインは、bookwallさんです。
解説は小川一水さんが引き受けてくださいました。小川さんの『天冥の標』シリーズは、今年完結しましたが、日本が誇る宇宙SFです。小川さんの目から見て、本作品がどう見えたのか、よい解説をいただきました。
そして、帯には宇宙飛行士の毛利衛さん。ぼくが宇宙もの(というかロケットもの)を書くに至った発端にいる人物です。毛利さんは科学未来館の館長として、多くの人材を科学解説の世界に送り出しており、いわば「毛利さんの子どもたち」とは時々仕事をさせていただくことがあるのですが、考えてみると毛利さんと同じ場所に名前が並ぶのははじめてかもしれません。うれしいことです。
さて、本作についての「能書き」はあちこちに書きました。それで、ブログ記事に何を書けっていうんだよっという状態になっていたわけでして、まずはともあれ、リンクを紹介します。
紹介記事として、早川書房のサイトがまとまっています。
どんな話かについては、こちら。
夢と希望、絆と情熱に満ちた青春宇宙小説の傑作、いよいよ文庫化! 川端裕人『青い海の宇宙港 春夏篇/秋冬篇』書影&あらすじ公開!
そして、冒頭の試し読みはこちら。
【試し読み】夢と希望、絆と情熱に満ちた青春宇宙小説、いよいよ文庫化! 川端裕人『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』
さらに、ぼくがこの作品を書くに至ったかれこれ30年くらいにわたる昔話がこちら(文庫版のためのあとがきとして、文庫本に収録)。デビューから20年超の軌跡を語る文庫版あとがき公開! 川端裕人『青い海の宇宙港』
そして、このブログ記事では、ひとつ付け加えたいことがあります。
かつて『夏のロケット』を書いた時、「アマチュアが宇宙ロケットを開発するなんて荒唐無稽すぎる」という感想をたくさんいただきました。ぼくとしては、今そこにあるもののちょっと先を描いたつもりで、SFというよりも、現代小説のつもりでしたし、当時も、現代小説として楽しんでくださったからこそ今も読みつがれていると思うのですが、それでも「ありえない」「荒唐無稽」と感じる人も多かったのです。
でも、さすがに最近は、言われなくなりました。
そして、むしろ、1990年代という時代背景の中で、民間宇宙の「夜明け前」で展開される、ちょっと昔の現代小説として読まれるようになったと思います。
本当に、当時と今では、いろんなことがもう違いますよね。
『夏のロケット』の中ではポケベルがまだ現役で、携帯電話は一部しか普及していません。ミュージシャンが「金になる」職業でした。JAXAはまだNASDAとISASとNALでした。ミサイルを作るのにテロ組織よりも過激派の方がリアリティがありました。もしも書いたのが数年後なら、ぼくはカルト団体を選んだかもしれないなと思っていた時期があるんですが、今となってはその時代も遥か遠いですね。
さて、『青い海の宇宙港」です。
これは、簡単に言えば、小学生が地元の人たちを動かして、地元ロケットを開発、太陽系を脱出するような宇宙機を打ち上げる話です。
荒唐無稽?
そうですよね。荒唐無稽です。
でも、ぼくはいずれそれが荒唐無稽でなくなると信じています。
小学生がちょっと周囲の人たち恵まれると、宇宙機を開発して打ち上げられる、というのは、今、小学生がモデルロケットを扱うくらい、「あり得る」ことになるでしょう。
だから、『青い海の宇宙港』の風景は、そんなに珍しくないものになるかもしれません。
いや、それ以上に大切なことがあります。
宇宙が「足元の日常」と地続き、というと変ですが、「空間続き」に感じられるようになる、ということです。
近未来にそれが起きます。
例えば、作中では、「宇宙ロケットは農業だ」という認識が出てきます。
なぜなら、作中の燃料は農業生産物だからです。
あるいは化石燃料だって生物由来で、宇宙ロケットって、生命が何十億年かけて培ったリソースで地球から出ていくんですよ。
というわけで、地球上の物質循環は、すごく大きく見ると、宇宙的物質循環の一部であると、小学生たちは気づきます。現状では、本作の中のそういった部分が「荒唐無稽」に見える可能性があります。
でも、荒唐無稽ではなくなりますからね。
別の言い方をしてみましょう。
今、環境問題というと、地球上のことをイメージしますよね。
でも、人間の活動範囲が広がれば、「環境」も広がります。
火星環境保護みたいなことはすでに言われているし、太陽系全体について、「地球環境」と言うのと同じように、「太陽系環境」などと言うようになるかもしれません。いや、これももう言われてますね。
でも、まだまだ、ぼくたちは、そういう様々な環境が、今ほとんどの人がいる地球上と「空間続き」であることをそれほど納得していません。一部の人たちを除き、日常の中には降りてきていないんです。それが、遠からず、違ってくるよ、と本作はきっと予言しています(笑)。
作中では、一番の視点人物(主役)の男の子が、やたら地面を見ているんですけど、それが宇宙なんです。
うん、そういう話です。
そういう未来が来ます。
そういうちょっと先の未来のお話です。
そういう未来は、ぼくには望ましいです。
子どもたちと、一緒にぜひ、地球と宇宙がつながる一年を、だいたいはまったりと、時にはドキドキしながら、お過ごしください!
それでは、また次回作でお会いしましょう!