川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

「動物園にできること」再読で、今の動物園にキャッチアップする

2016-06-05 21:41:01 | 日記

(写真はフローレス島で会った野生のツカツクリ。深い意味はありません)

動物園にできることの再読タスクフォースが本格始動しました。

「川端裕人の秘密基地からハッシン!」の最新号である17号に、「序章・走り回る子どもたち」について、7人の再読パートナーズたちがコメントしてくれています。

これがもうこってり。メルマガ末尾に特別付録としてつけてあるのですが、それだけで17000字にもなっています。興味のある方には、間違いなく役に立つ内容だし、ぼく自身も、この本を出して、十数年ぶりに、「動物園の今」にキャッチアップしているようなかんじです。

例えば、再読メンバーはこんなコメントをくれます。

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ブロック4:キーセンテンス その2
【本来の生息地から引き離され、本能に刻み込まれた行動(この場合は狩りのた
めに遠距離を歩き抜くこと?)をとることが妨げられていることからおこる「イ
ライラ行動」なのだ】
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▼(メンバーコメント)
「イライラ行動」と断言してしまうことには違和感を覚える。動物園動物管理学
のp.17に以下のような事例が紹介されている。
――――――
常同行動は(高いとはいえ)コントロールできるレベルの刺激を自身に与え,個
々の動物が不快な環境やコントロールできない環境に何とか耐えられるようにす
るという点で,やりがいがあり,気持ちを落ち着かせる行動であることが示され
た (Rushen 1993).したがって,常同行動を示している動物の中には,実際には
同様の環境下で飼育されているが常同行動を示していない動物と比較して,心拍
数およびコルチゾール値は低く,循環血中の内因性オピオイド値が高い動物もい
る (Dantzer 1986, Mason 1991a).
――――――
※内因性オピオイドとは、エンドルフィンなどの…平たく言うと脳内麻薬。

さらに『~野生動物でも常同行動をはっきりと示している実例が述べられている 
(Veasey, Waran, and Toung 1996).』
実際にどうかは別として、常同行動は一般の来園者に囚われた動物が、病的な状
態にあるような印象を与えてしまう。個人的には、少なくとも日本の動物園は常
同行動をどう解釈するかの議論も大切ではあるが、まずは多様な刺激を十分に提
供することが先決なように感じている。動物のためにも、来園者のためにも、動
物園のためにも。

【川端コメント】
たしかに、「常同行動=イライラ行動」とするのは、今の理解水準では雑にすぎる
と思います(でも本文中にはこれから後にも出てきます)。刺激に乏しい環境で
の、彼らの適応行動だという捉え方もできるわけですね。……略

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常同行動とエンリッチメントを語る時に、「エンリッチメントってなに?」的なところから始めなければならなかった頃に書いた本なので、今の水準から見ると、こういう

ツッコミどころがあるわけです。

そして、それは大歓迎です。

今は、エンリッチメントの実践者は日本中にいて、紹介にあったような理論的後ろ盾になるような研究書まで翻訳されている。

「動物園動物管理学」は、結構、高価な本なので、ぼくは持っていなかったのですが、とうとうこのコメントに背中を押されて買ってしまいましたもの。

そうやって、ぼくも再読でキャッチアップ、するです。

そして!

もうひとつ再読メンバーのコメントで、今回、ちょっと分かってきたのは、エンリッチメントについては、結構「有名」になってきたのに、「種の保存」にかかわる個体群管理の発想や、その基礎になる集団遺伝学的な考え方が、あまり理解されていない!という現実。

最近話題のだれちょこ」(知っている人は知っている)なんかが、とても大切な仕事をしているのがわかりました。これ、動物園の当事者だけでなく、動物園にかかわる行政にも必要な知識で、そこがおろそかになっていると、大変なことになりがちです。

本当に、我々が置かれている諸相がちがってきています。

そのズレから、また学ぶことも多いのです。

そういうことを実感中。