川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

破格なる者よ、いでよ!

2008-05-22 16:03:02 | サッカーとか、スポーツ一般
Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2008年 6/5号 [雑誌]Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2008年 6/5号 [雑誌]
価格:¥ 550(税込)
発売日:2008-05-22
今書店に並んだ、ナンバーに表題のごときエッセイを寄せています。特集に連動した特別寄稿みたいなカタチです。
中田ヒデの久々のインタビューがあったり、読み応えありますよ。なかなか異色のサッカー特集号です。
ちなみに、中田英寿のインタビューは読み応えあり。
現役の時よりずっと「いい顔」に見える理由も、透けてみえてきたり。
ボールは友だち、だよね。
「よい旅」を、彼がしているようだと感じられて、なぜかほっとしたり。
ま、おせっかいですね。

個人史的な小文その1(2000年の「読書人」から)「言葉の力を信じるに至るまで」

2008-05-22 14:58:09 | 雑誌原稿などを公開
2000年、読書人という読書新聞に書いた文章。えらそうに、自分の文章遍歴をつつづっています。
4日連続で掲載予定です。
第一回目で言及されるのは、こちら。

苦海浄土―わが水俣病 (講談社文庫)苦海浄土―わが水俣病 (講談社文庫)
価格:¥ 700(税込)
発売日:2004-07

 言葉の力を信じるに至るまで

 文章を書くのは嫌いだった。また、言葉が持つ力を信じてもいなかった。いったいいつ、何が変わって、書くことを生業にすることになったのか。
 
 もちろん、「その瞬間」というものが存在しているわけではないだろう。ただ、とりあえずのところ、もっともらしく感じられる出来事がひとつある。
 
 高校2年生の1学期、国語の時間。花粉症で鼻水が止まらず、おまけにハンカチを持っていなかったため、ワイシャツの袖を鼻にあてて栓をするような姿勢で、机の上に覆い被さっていた。
 
 もう四半世紀も同じことを教え続けて、喜怒哀楽も漂白されてしまったような教師の平坦な声がただ流れていた。退屈だった。あまりにも退屈なので、机の上の国語の教科書をぱらぱらめくっていた。
 
 最後の方のページを読み始めて、鼻水に涙が加わった。まわりの連中が気付いて、奇異の目で見るのも気にせず、何度も読み返して、そのたびに泣きじゃくった。顔はくしゃくしゃ、ばりばりである。まいった。生まれてはじめての強烈な体験だった。
 
 石牟礼道子さんの「苦界浄土」からの抜粋だ。「ゆき女聞き書き」という、それこそ水俣病患者の聞き書きだけで成立している一章である。
 
 言葉に力があった。「教科書、あなどるべからず」である。不意打ちをくらったぼくは、感情を揺さぶられ、これまで知らなかった世界に、強制的に連れて行かれたのである。
 
 水俣病についてのいきさつを知っていたわけではなかった。水俣という町のこともほとんど知らなかった。それなのに、その時、水俣の町並みや、そこで暮らす人々や、さらに、水俣病の被害者たちの姿が、心の中でしっかりと形をとった。一冊まるまる読んだ訳でもなく、ただ、その一部を読んだだけなのに。
 
 今、文庫版で同じはずの文章を読み返しても、どの部分でどう感じたのかを思い出すことは出来ない。なぜ、あの時、あれだけ強く感情を揺さぶられたのかも分からない。ただ、その時は、痛いほど心に突き刺さった。目の前の現実より、ずっとリアルだったと、たしかに言えた。
 
 ものを書きたいと思い始めたのは、たぶんそれからだ。かなり漠然とした気持ちではあるけれど。
 
 なにせ高校生なので、とりあえず、夏休みに「国語の教科書」の感想文を書いてみた。もちろん「宿題」の感想文である。書くに当たって、文庫の「苦界浄土」も読んではみたが、この本の感想ではなく、授業中という無味無臭な日常のさなか、教科書という超絶的退屈メディアの中から、突如、立ち現れた圧倒的リアリティについて、書きたかった。教室の日常に、ぽっかりと開いた異空間のことを。
 
 「話題作」として国語教師の間で回し読みされたらしい。ある国語教師には、「感想文ではない」と批評された。それでも、「そもそも感想文とはなんぞや」と切り返すことができた。ぼくとしては、はじめて、書きたいという意欲と、こう書こうという戦略を持って構築した文章だった。自信はあった。書かれた言葉が時として持つ力を、その時ぼくは、素朴に信じていた。
 
 そんな一種の興奮状態が続いたのは、せいぜい半年の間。やがてその熱意は薄れ、ふたたび文章を書くことが苦痛になった。
 
 しかし、ちょっとした事件がおきる。何もかも悟りきったような、穏やかな諦観を表情に浮かべつつ国語教育に携わるベテラン教師が、それも学年が終わる頃になって、ぼくのところにやってきた。声だけは相変わらず漂白されたようなトーンで、「おもしろかった」と、半年も前に読んだ文章について伝えに来てくれたのだった。
 
「センセにおもしろいって言われたってねえ」なんて表情をつくりながら、実のところうれしかった。「自分が書いたものが誰かの心に届く」と確信できる瞬間が、脳の快感回路をいたく刺激するものだということを、ここで発見してしまう。

 もっとも、プロの書き手になろうと本気で思うのはずっと後のことだし、実際にそれを生業にできる目処がついたのは、もっと最近だ。それでもこの時の体験が、ぼくの中で、「ポジティブ・フィードバックの最初の一蹴り」になったのではないかと思っている。
 
 小説もノンフィクションも書き、挿し絵のために動物写真まで撮る、無節操な書き手として、書くことに関して、自分の中で一貫したものを見いだすとしたら、「日常の中の中で突如あらわれる現実の亀裂を描きたい」というモチベーションであり、また、それを表現する手段として書き言葉への信任だ。とすると、あの花粉症の高校生を襲った出来事は、彼の関わるテーマと、表現の手段が、同時に開示された瞬間だったのかもしれない。
 
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追記@2008年
水俣病にはそれからも関心があって、こんな本をお勧めできます。
下下戦記 (文春文庫)下下戦記 (文春文庫)
価格:¥ 541(税込)
発売日:1991-09
「苦海浄土」とセットで読むべき、リアリティ指向の水俣ルポ。身もふたもないぶぶんまで。

著者の吉田さんとは、対談したことがあって、それはこちらに収録。
聖賎記―吉田司対談集聖賎記―吉田司対談集
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2003-04
もっとも、話し合っているのは、水俣病ではなくて、ヴァーチャルリアリティのこととかなんですが。

さらに、津田敏秀さんのこれ。何度も紹介していますが。
医学者は公害事件で何をしてきたのか医学者は公害事件で何をしてきたのか
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2004-07

水俣病の50年―今それぞれに思うこと水俣病の50年―今それぞれに思うこと
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2006-12




一行も書かなかった日

2008-05-22 08:27:43 | 日々のわざ
R0017459近所在住のカシノユウタさんと神田で会ってお話(写真は特に関係ありません)。数学やら疫学やら物理やらの話をしながら、子どもの話になって3時間半。こういうのって、たいそう楽しく豊かな時間だ。今書いている算数小説にいろいろアドバイスをいただくことになって心強い限りです。
「エピデミック」をきっかけに疫学に非常に興味を持ってくださったのだけれど、統計物理的なバックグラウンドを持つ人が、この分野をみるといろいろ新しい流れが起こるんじゃないかと感じることしきり。


で、カシノさんと話していると息子から電話があって、サッカースクールに行きたくないとか言い出して、話を聞いているとそこのチームメイトとの問題があってどうのこうの……。
行きたくないというのははじめてなので、コーチに電話して事情を話して様子を伝えておくと、コーチはコーチでその問題をそれとなく練習の中の「課題」として処理して(つまり、コミュニケーションの問題を練習の中で改善というか解消というか、より正確には可視化するみたいなこと)くれたよう。
寝る前に「きょう楽しかったことなんかあった?」と聞くと、息子は「サッカー!」とか言っていたくらいで、よかったよかった。

Pさん紹介の「虫えい」の本が濃ゆい。
とりあえず、入門しとくか、という気分になって、下の方を購入。
日本原色虫えい図鑑日本原色虫えい図鑑
価格:¥ 14,700(税込)
発売日:1996-06
虫こぶ入門 増補版―虫えい・菌えいの見かた・楽しみかた虫こぶ入門 増補版―虫えい・菌えいの見かた・楽しみかた
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-03