小説「新・人間革命」
【「聖教新聞」 2013年 (平成25年)12月4日(水)より転載】
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若芽38(12/4)
有竹富美枝の日々は、激闘であった。
彼女が勤めた会計事務所は、事務員は二人という小さな事務所であったが、顧客は多かった。
朝、出勤し、帰ってくるのは、午後十時を回ることも少なくなかった。確定申告の時期が近づくと、さらに仕事は増えた。しかし、その分、家計は楽になり、学費に頭を痛めることはなかった。
自分がいない間、正義の面倒は母親にみてもらっていた。富美枝は、“どんなに忙しくても、子どもとの触れ合いを大切にしよう”と心に決めていた。学会員である彼女は、仕事で帰宅が深夜になっても、午前六時には正義を起こして一緒に勤行し、言葉を交わし合ってから、学校へ送り出した。
親が子どもに関わることができる時間は短くとも、心は通じ合える。大切なのは、子への愛情から発する、工夫と行動である。
山本伸一は、有竹正義の母親が、大変な思いをして、子息を創価小学校に通わせているとの報告を、教員から聞いていた。
一九八〇年(昭和五十五年)の七月、創価小学校での「銀河のつどい」に出席した伸一は、教員から、有竹を紹介された。
テーブルを挟んでの語らいであった。
「そうか、君が有竹君か。いい顔をしているね。握手をしようよ」
伸一は有竹の手を握り、笑みを浮かべた。
「そうだ。君に切手をプレゼントしよう」
四月の第五次中国訪問の折に、お土産として買い求めたものであった。そして、こう言って、もう一つ切手を渡した。
「こっちは、お母さんの分です。お母さんは、大奮闘されている。生涯、お母さんを大事にするんだよ。立派な人になるんだよ。
くれぐれもよろしく伝えてください」
正義は、創立者が、自分の母の苦労を知ってくれていることが嬉しかった。
苦労を知ってくれる人がいるだけで、勇気を得ることができる。その苦労を讃えられることは、最大の励ましとなる。
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