デジカメぶらりぶらり

デジカメのほやほやの写真をご覧下さい。

奇跡

2014-01-30 08:09:06 | Weblog
人間という「商品」にはどんな宣伝文句がふさわしいだろうか。「男は黙って、サッポロビール」ではないが、その商品がきっと好きになるようなうまい文句はないか。

あくまで宣伝なので「人間」の良い部分を強調しなければならない。ただ、この商品には自分勝手で残酷で強欲でうそつきという「欠陥」もあるから、美辞麗句を並べても十分ではない。

だから難しい、俳優のすまいけいさんが亡くなった。1985年の初演「きらめく星座昭和オデオン堂物語」(井上ひさし・作)ですまさんが演じた。広告文案家のせりふがある。

「人間広告」について語る。約4兆の惑星に地球のような星があるのは「奇跡」。そこに生命が生まれたのも奇跡で、その生命が人間にまで進化したのも「奇跡の連続」とポツリ、ポツリと話しだす。

「何億何兆もの奇跡が積み重なった結果、あなたもわたしもいまここにかうしているのです。いま生きているといふだけでもうそれは奇跡の中の奇跡なのです」。「人間は奇跡そのもの。だから人間は生きなければなりません。

長すぎる広告文ですが、かう書くしかないんぢやないでせうか」。すまさんの声が聞きたくなる。全国の小中高校などで19万8千余のいじめが確認されたという。「奇跡」の子どもたちへ。いじめてはならぬし、死んではならぬ。「奇跡」なのだから。

重圧

2014-01-22 08:01:13 | Weblog
松の内も過ぎ、日常が帰ってきた。また1年かと思うとどうも気が重い。東京五輪マラソンの銅メダリスト円谷幸吉がその人生に終止符を打ったのはメキシコ五輪の年の1968年1月9日だった。

幕の内を過ぎたのを待ったかのようである。64年の中日マラソン。レース中、ジュースの容器をごみ箱にわざわざ捨てに行ったという。投げ捨てればいいのに真面目な人だったのだろう。

死を選んだのは、期待の重圧だったのか。福島県須賀川の円谷メモリアルホール。「忍耐」という石碑の文字が、悲しい。苦しい、「父上様母上様 三日とろゝ美味しうございました。干し柿、もちも美味しゅうございました」「幸吉はもうすっかり疲れきってしまって走れません」。

戦後最も有名な遺書の大部分は両親や親類へのお礼の言葉で占められている。川端康成は「千万言もつくせぬ哀切」と評した。ソチ冬季五輪まで1カ月を切った。期待も高まるが、選手たちは国や国民のためと思い詰めることはないだろう。

「あんたの人生とは違う。自分のやるべきことをやる。しくじったら、ごめんなさいだ」。ローリング・ストーンズのキース・リチャーズさんの自伝の中にある。少し気が楽になりませんか?

成人

2014-01-13 09:32:25 | Weblog
さすが、超一流のスポーツ、選手は、プレーだけでなく、言葉でもしびれさせてくれる。イタリヤの名門チーム入りを果たしたサッカー日本代表、本田圭佑選手が先日、移籍会見で口にしたひと言には、舌を巻いた。

移籍の理由を聞かれて、一言。「簡単なことだ。心のリトル本田に聞いた。お前はどのクラブでプレーしたいのか、と。リトル本田が、ミランでプレーしたいと答えた」「僕は大人になったら世界一のサッカー選手になりたいと言うよりなる」と小学校の卒業文集に書いて夢を、愚直なまでに大切にするその心。

スーパーゴールのような鮮やかな答えを聞き、思い出したのが、谷川俊太郎さんの言葉。「大人」になるということはどういうことなのか、大人と子どもの違いは何かと聞かれ、詩人は答えた。「自分のうちにひそんでいる子どのを怖れずに自覚して、いつでもそこからエネルギーを汲み取れるようになれば、大人になれるんじゃないかな」。

どんなおとなも100パーセント大人ではなく、必ず何パーセントかの子どもが含まれている。自分の中の子どもをきちんと見つめ、大切につきあえる。それが大人だと、詩人は言う。13日は成人の日。121万人が大人の仲間入りをするという。

自分の中の子どもとじゅくリ話すにはいい日だ。


香り

2014-01-09 08:32:22 | Weblog
香りのプロともなると、天然と人工合成の香料を、2千5百種ほどもかぎわけ、記憶しているという。そういう鼻の持ち主だから、こんなことも起こる。通勤電車でよく会う知人の息に妙な匂いが潜んでいるのに気づく。

一種の腐敗臭だ。気になったまま別れ、二度と会うことはなかった。胃がんでまもなく亡くなった。練達の嗅覚は、死期をもかぎ分けてしまったのだ。猪瀬直樹さんのインタビュー集「日本凡人伝」に出てくる化粧品会社の調香師の体験談だ。

その道のプロの技の妙を伝える本は少なくない。だが、この本ほど、語り手の息遣い、その人に染み込んだ時代の空気までをも活写している本は、そうはない。猪瀬さんの作家としての嗅覚は脱帽ものだ。

『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』・・・。近現代史の急所をかぎ分け、鮮やかに切り取る手腕で読者を魅了してきた。政治をめぐるカネの腐敗臭は、それほど優れた嗅覚をも狂わせてしまうのか。

「徳洲会」グループから5千万円を受け取った疑惑で、猪瀬さんが都知事の座を降りた。すべて疑うのが、作家。自分自身を疑うだけでは、十分ではない。権力機構までをも抱え込みつつ、自分自身を疑えば、感性が研ぎ澄まされるーとは、猪瀬さんが『東京の副知事になってみたら、』に記した言葉。作家猪瀬直樹はいま、政治家猪瀬直樹をどう見ているのだろう。

だし

2014-01-04 07:42:41 | Weblog
だしは、日本料理の命。一代で名店・吉兆を築いた湯木貞一さんによると、エアコンのなかった昔は、寒暑に合わせ、だしの味付けを変えていたという。冬はしょうゆ7分に塩3分、夏はしょうゆ3分に塩7分。

季節による体調と味覚の変化に応じた、暖と涼のさりげない演出。高級料亭でなくとも、腕のいいラーメン屋さんが常連の顔色を色を見て、疲れ具合で味を加減するという話も聞く。

もてなされる側は築かないようなごく自然な気配り。それこそもてなしの極意だろう。その心遣いを「お・も・て・な・し」と大いに強調して勝ち取った東京五輪だが、各省庁が「五輪関連」として検討する事業の数々を見れば、なんともあきれる。

新型ロケットの打ち上げやら次世代ロボットの普及・・・。優秀な官僚のみなさんのこと、無関係と思われる事業がどう五輪と結び付くのか、きっとそれらしい理屈をお考えだろうが、これはどう見ても、おもてなしではなく、あからさまなお手盛りだ。

国の借金が1千兆円を越え、増税など国民の負担は増すばかりだが、政府はお手盛り体質をそのままに、財政再建などできるのだろうか、語源辞典を引けば、「もてなす」は「モウケナス・儲成」から生まれたとの説もあるという。

役所も、東京五輪招致で名を上げながら5千万円疑惑にさらされる都知事も、「儲成」の心ならありそうだ。