4月8日の午前8時に中の湯から釜トンネルに入り、上高地へ向かった。
冬季閉鎖中のトンネルは、なだらかな上り坂を30分程歩いて通り抜けられる。
最小限の照明はあるが、足元は暗く凍結部分や障害物があっても見落としてしまう。
前方が明るくなって、上高地の陽光が差し込んでくるとほっとする。
県道上高地線は、大正池の手前まで砂防工事車両の通行のため除雪はされていたが、路面が凍結して滑りやすかった。
程なく一部凍結した大正池が、眼前に飛び込んでくる。
池の前方には穂高連峰が、左から西穂、奥穂、前穂、明神岳へと屏風のように連なっていた。
左手にはお椀を伏せたような焼岳が、噴煙をたなびかせている。
池のほとりで小休止をして、雪が積もって不安定な木の桟道を渡り、シラカバやミズナラの林を抜けて田代池へと向かった。
シーズン中は遊歩道以外を歩くことは出来ないが、この時期はロープを張った湿原などの植生保護地域を除いて自由に歩くことが出来る。
六百山や霞沢岳の伏流水を集めた田代池は、透明度が高く冬枯れの茶色の藻が湖底で揺らいでいた。
田代湿原越しに望む穂高は、紺碧の空と対照的な白さが際立って美しい。
田代橋を渡って、梓川の右岸を溯って河童橋へ向かった。
川岸に降り立つと、澄んだ流れを泳ぐ岩魚の姿がよく見えた。
猿の大小の群れにも遭遇したが、子供や赤ちゃん猿も多く、厳しい冬を無事に越したようだ。
親猿は高い木に登って、わずかに出始めた芽や木の皮を盛んに食べていた。
お昼ごろに河童橋に着いたが、前方の穂高も後方の焼岳も雲一つかかることなく美しいままであった。
シーズン中は混み合って写真も思うように撮れない人気スポットも、数組のハイカーと除雪作業をするわずかの人しかいなかった。
風をよけた陽だまりで持参の弁当を食べ、小梨平あたりを散策した後、帰りは左岸にコースを取って釜トンネルに向かった。
バスターミナルは4月27日の開山を控えて除雪してあったが、人影は見当たらない。
ウエストン祭など、様々なイベントが企画されており、上高地もこの日を境に冬の眠りから覚めて、再び賑わいを取り戻す。
途中で穂高を振り返ると、西穂と奥穂に雲が掛かり始めた。
どうやら好天は今日一日だけだったようだ。
大正池では、水鏡に映る穂高に別れを告げて、7時間のトレッキングを終えた。
帰途、平湯バスターミナルの展望露天風呂から笠が岳を眺めながら疲れを癒した。 (写真が重複してますが、スライドショーもご覧ください)