お爺さんは、笠を5つもって売りに行ったのですが、ひとつも売れませんでした。
帰り道、降り始めた雪の中に立っている6つのお地蔵さんが眼に入りました。
売れなかった笠をお地蔵さんにかぶせてあげました。笠がひとつたりませんでしたので、自分のかぶっていた笠をぬいで最後のお地蔵さんにかぶせてあげました。
家につくと、お婆さんにその話をしました。「それはいいことをしましたね」とお婆さんは喜んでくれました。
その日は大晦日でしたが、笠が売れませんでしたので、いつものように粗末な夕食をとると眠りました。
吹雪の音に混じって聞こえる物音で、お爺さんとお婆さんは目を覚ましました。
その音は近づいてきて、家のそばまで来ると、なにかを投げ落とし、また離れていきました。
起き出して戸の隙間から外をのぞくと、米俵が積まれていて、遠くに笠をかぶったお地蔵さんの姿が6つ見えました。
だれでも知っている「笠地蔵」の話である。
子どものころの私は、吹雪の夜に「だんだん近づいてくる音」という部分が恐ろしかった。笠をかぶり太鼓を叩きながら近づいてくる寒行の列にも恐怖感をもった。
遠くの方で叫んでいるナマハゲが、より近くなってきているのを感じたときの恐ろしさに似ている。
近づいてくるものが恐いものかどうかは関係なく、未知のものであるときに不安になってくるのだ。
そういえば、正月が来るたびに確実に近づいてくる未知のものがある・・・。