kintyre's Diary 新館

野球(西武ファン)や映画観賞記等を書き綴っています。野球のオフ期には関心の高いニュース等も取り上げています。

映画『その夜の侍』を観て

2013-01-06 20:59:47 | 映画・邦画

13-2.その夜の侍
■配給:ファントム・フィルム
■製作年、国:2012年、日本
■上映時間:119分
■観賞日:1月5日、新宿武蔵野館(新宿)
■料金:1,800円

 

□監督・脚本:赤堀雅秋
◆堺雅人(中村健一)
◆山田孝之(木島宏)
◆新井浩文(青木順一)
◆綾野剛(小林英明)
◆谷村美月(関由美子)
◆安藤サクラ(ミカ)
◆でんでん(佐藤進)
◆坂井真紀(中村久子)
◆田口トモロヲ(星信夫)
◆山田キヌヲ(川村幸子)
【この映画について】
劇団「THE SHAMPOO HAT」の赤堀雅秋が作・演出・主演を手掛けた戯曲を、彼自らの演出で映画化したヒューマンドラマ。
ひき逃げ事件の犠牲になった妻の復讐に燃える男と、その事件の犯人で刑務所から出てきた男の対峙(たいじ)を、重厚なタッチで紡ぎ出す。堺雅人が復讐の機会をうかがいつつも、良心の呵責(かしゃく)にさいなまれる男を熱演。また、山田孝之が、粗暴と孤独を併せ持つひき逃げ犯を演じ切る。人間の残酷さと狂気、そこから生まれるかなしさを深くえぐった深遠なテーマも見逃せない。
(この項、シネマトゥデイより転載しました)
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
東京のはずれで小さな鉄工所を営む中村健一は、5年前、トラック運転手に最愛の妻久子をひき逃げされた。死んだ妻の思い出から抜け出せず、留守番電話に遺された妻の声を延々再生しながら糖尿病気味にも関わらず甘いプリンを食べ続けている。

喪失感を抱え絶望的な毎日を過ごす中村に、従業員の久保や佐藤たちは、腫れ物に触るように接するしかない。久子の兄で中学校教員の青木は、中村を早く立ち直らせようと、同僚の川村と見合いをさせるが、中村は「僕なんかあなたにふさわしくない」と新しい人生に向かうことを拒絶する。
一方、久子をひき逃げした犯人、木島宏は、2年間の服役後、ひき逃げトラックに同乗していた腐れ縁の友人小林の家に転がり込んでいる。そんな木島のもとに、1ヶ月前から「お前を殺して俺も死ぬ。決行まで後○日」という無記名の脅迫状が連日執拗に送られてきていた。決行日は木島が中村の妻を轢いた日で、もう数日後に迫っている。

木島から脅迫状のことを知らされた青木は、脅迫状を送っているのは中村と察し、復讐の決行をやめさせようとするが、中村を前にすると何も言えなくなってしまう。そんな中、中村は鉄工所の仕事の合間、包丁をしのばせた袋を手に毎日のように木島をストーキングし続けていた。
決行前夜。ラブホテルでホテトル嬢のミカと過ごし、虚しさをさらに募らせる中村。一方、木島は復讐を思い留めさせられない青木に腹を立て、生き埋めにすると脅すのだった。そして決行日の夜。台風の激しい雨が町を覆っている。歩き回ったあげく、人気の無いグラウンドまでやってきた木島は、闇の中、後を追いかけてきた中村と遂に対峙する……。

「健ちゃーん、また隠れてプリン食べてるんでしょ、バレてるんだからね。本当、いい加減にしないと死んじゃうんだからね、冗談抜きで!」
この映画の主役はある意味で姿を現さない、事故死した健一の妻の存在ともいえる。何故なら、健一は妻・久子の突然の事故死で立ち直ることが出来ずに、殻に閉じこもってしまう。殺風景な部屋で、妻の残した「健ちゃーん」の留守電を聞きながらプリンを食べるのが、唯一、妻との繋がりを現世で持てるので、糖尿病が進行しようとお構いなくプリンを食べる、そんな単調な生活の毎日。(ラストでは、そのプリンを頭に乗せてグチャグチャにして留守電を抹消する、何か吹っ切れたのだろうか?)
そして、その妻をトラックで轢き殺した木島をひたすらつけ狙い、包丁を隠し持って「決行の日」へ向けてのカウントダウンを儀式みたいにしている。だが、そもそも健一に木島を抹殺する勇気は持ち合わせていない。また、木島もその最低人間振りがやたらに強調されているが、彼も臆病で寂しさから虚勢を張っている、健一と木島はどこか似た者同士ではないだろうか?

ストーリー的には終盤の公園での雨中の決戦?がハイライトであるが、そこに至るまでの登場人物のキャラとそれを演じる俳優陣の演技は良かった。山田孝之の「嫌な奴、最低人間?」で工事現場警備の若い女性を手籠めにするキャラ、堺雅人の頼り無さそうな暗そうなキャラ、その健一が経営する工場の従業員達が腫れものを触るように接する様子、久子の兄を演じる新井浩文のこれまた木島に良いように脅され健一に再婚を勧めるキャラなど、どの俳優も脚本通りの演技を通り越して観ている者に訴える演技は評価したい。
だが、残念ながらミニシアター系での公開に留まったのは、ストーリーとしての広がりとか華やかさに欠ける点や監督の知名度などが挙げられるが、作品自体は良かったと思う。


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