goo blog サービス終了のお知らせ 
goo

イギリスの「ランチタイム・コンサート」の魅力と、トミー・ライリーのハーモニカの妙技が聴ける稀少盤

2010年04月11日 18時02分01秒 | BBC-RADIOクラシックス







 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の15枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6025
【アルバム・タイトル】イングリッシュ・ランチタイム・コンサート
【曲目】
 W.ウォルトン:戴冠式行進曲「宝珠と笏」
 M.アーノルド:4つのコーンウォール舞曲
 T.ダンカン:コルシカの娘
 T.ライリー:無伴奏ハーモニカのためのセレナード
 G.ヴィンタ―:ヴェールの婦人のためのセレナード
 R.ファーノン:コルディッツ・マーチ
 R.ベネット-R.ドッカー編曲:オリエント急行殺人事件
 R.ドッカー:モダンなワルツ
 R.ビンジ:エリザベス朝のセレナード
 R.ファーノン:「サウンズ・ファミリア」~ウエストミンスター・ワルツ
 E.コーツ:ダム・バスター・マーチ
【演奏】ロバート・ファーノン指揮BBCノーザン交響楽団
    トミー・ライリー(ハーモニカ)
    ロバート・ドッカー(pf)
【録音日】1977年7月7日    


■このCDの演奏についてのメモ
 1977年7月7日に行われたイギリスのライトミュージック・フェスティバルは、同年8月5日にイギリス国営放送(BBC)の第3チャンネル「ランチ・タイム・コンサート」で放送された。このCDは、その放送をCD化したもので、曲目解説の項にもあるように、BBC放送の番組のための音楽や映画のための作品を中心に、イギリスのライト・ミュージックの魅力が一望できる盛りだくさんな内容となっている。
 こんな素晴らしいランチ・タイムが過ごせるとは、イギリス人は世界で最も贅沢な人々かも知れない。彼らの自然で気取らない、ウィットに富んだ音楽との付き合い方は、ほんとうに楽しい。この1枚のCDからあふれでてくるのは、まさしく〈音楽の泉〉だ。
 イギリス人たちの生活の中に溶けこんだ〈音楽の匂い〉が、どのようなものかは、例えば、ダンカンの「コルシカの娘」や、ヴィンターの「セレナード」のストリングスの調べや、トミー・ライリーのハーモニカの音色からでも容易に理解できるだろう。また、指揮のロバート・ファーノン自身が、映画音楽やテレビ番組から編曲したメドレー「サウンズ・ファミリア」では、ディズニー・ランドばりのパレードが展開し、ドッカーが弾くピアノからは、ごきげんなムード・ジャズが流れでてくる。フィナーレのエリック・コーツの「ダム・バスター行進曲」も元気いっぱいの音楽だ。
 この1枚のCDからは、理屈ではなく、身体の中に音楽をまるごと抱えている〈普段着のイギリス人〉たちの姿が見えてくる。ジャンルにこだわりなく音楽を愛する人々に、音楽の楽しさの原点のひとつとして、ぜひとも聴いていただきたいアルバムだ。(1995.8.8 執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
このCD解説では詳しく触れませんでした(当時の私の知識が足りなかったのです)が、このCDは、ハーモニカ界でその名を知らない人はいないとまで言われる「トミー・ライリー」のハーモニカ・ライヴが聴ける珍しいCDということで、ハーモニカ・ファンの間でかなり話題となったCDでした。


goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

ボールト/BBC響のベートーヴェン「田園」に聴く英国的風景画に似た美しさ

2010年04月09日 10時26分05秒 | BBC-RADIOクラシックス







 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の14枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6024
【曲目】ベートーヴェン:『エグモント』序曲 作品84
     :『プロメテウスの創造物』序曲 作品43
     :交響曲第6番《田園》作品68
     :ロマンス第2番 作品50
【演奏】エイドリアン・ボールト指揮BBC交響楽団
    ヒュー・ビーン(vn)
【録音日】1972年8月1日、1969年8月11日    

■このCDの演奏についてのメモ
 1889年に生まれ、1983年にイギリス指揮界の重鎮と言われながら世を去ったエードリアン・ボールトは、イギリスの近代作品の紹介に尽力する一方で、若き日にライプチッヒ音楽院やニキッシュに学んだ幅広いレパートリーを持ち、ドイツ古典派から後期ロマン派の作品まで、多くの作品を取り上げてイギリスの聴衆に愛された。このCDは、そうしたボールトのベートーヴェン作品のライヴ録音を収録したもの。オーケストラは、彼が1930年の創立に加わり、以来1950年まで首席指揮者の地位にあったBBC交響楽団だ。
 このライヴ演奏ではボールトの豊かな音楽性が、息の長いフレージングのゆるやかな流動性の中で、一気に歌い込まれているのを聴くことが出来る。特に「田園」の第2楽章、第3楽章それぞれの、ひと息で楽々と進む早めのテンポの表情の柔らかさは、正に田園詩人のごとき美しさだ。第5楽章で、それは最高潮を迎える。聴く者を1枚の風景画の中に遊ばせるような、自然の息づかいと同化した境地に聴く者を誘い込んでいく演奏が展開される。
 音楽を〈愛する〉ということでは人後に落ちないボールトの、晩年の心境をここに聴くことができるように思う。
 なお「ロマンス」での独奏ヴァイオリンを弾いているヒュー・ビーンは、1929年にイギリスのバッキンガムに生まれた。フィルハーモニア管弦楽団(途中ニュー・フィルハーモニア管弦楽団と改称)のコンサート・マスターとして57年から67年まで活躍、その後BBC響に移った。エルガーのヴァイオリン・ソナタなど、イギリス作品を中心とした録音がある。 (1995.7.23 執筆)

goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

プリッチャード/BBC響のブラームス「交響曲第2番」は奇跡的な名演の記録だと思う。

2010年03月26日 20時21分24秒 | BBC-RADIOクラシックス







 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の13枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6023
【曲目】ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73
          悲劇的序曲 作品81
          大学祝典序曲 作品80
【演奏】ジョン・プリッチャ―ド指揮BBC交響楽団
【録音日】1981年9月3日、1983年5月19日、1983年3月22日    

■このCDの演奏についてのメモ
 プリッチャード指揮、BBC交響楽団によるブラームスの「交響曲第2番」は、奇跡的と呼んでも差し支えないほどの充実した演奏だ。こうした演奏について語らねばならない時は、本当に言葉の無力さを感じてしまう。まずは、ともかく、このCDを聴いていただきたいと思う。おそらく最初のフレーズから、この音楽の深く大きなふところに優しく抱かれる感覚に包まれるに違いない。思わせぶりなところが何ひとつない自然な息づかいで、のびのびと、しなやかに聴こえるブラームスが心に沁みてくるはずだ。
 このプリッチャードの演奏は、この上もなく幸福な田園詩として、理想的な歌心とテンポ感を持っている。これほどの名演奏の行われたその日、ロイヤル・アルバート・ホールに居合わせた聴衆は、さぞかし幸福だったろう。終楽章のフィナーレ、最後の1音が鳴り終わらない内に沸き上がる拍手に込められているのは、音楽を聴く喜びに対する、率直な感謝の表明であるだろう。私も今、CDとなってこの演奏に接することが出来たことに感謝している。たくさんのCDのなかには、時に、こうした〈空前絶後〉といって良い演奏があるのだ。
 この演奏が、ブラームスの悔渋な精神から自由に羽ばたいて、なおかつ全体の構成原理の安定感を見失わないのは、イギリスの演奏家や聴衆が育んできた音楽の、極めて良質な部分の成果だと思うし、また、プリッチャードのオペラ・ハウスでの長い経験も生きているだろう。日本での知名度はあまり高くないプリッチャードだが、戦後に登場した世代では、イギリスで最も愛されていた指揮者だというのも頷ける。
 1921年にロンドンに生まれたプリッチャードは、47年に名指揮者フリッツ・ブッシュの助手としてグラインドボーン音楽祭に参加。49年には急病のブッシュの代役でデビュー。その後はロイヤル・リヴァプール・フィル、ロンドン・フィルなどの首席指揮者、グラインドボーン音楽祭の音楽監督、ケルン歌劇場の首席指揮者などを歴任。BBC響の首席指揮者には、このブラームスの第2交響曲の演奏会の翌年の1982年から、1989年の死の年まで着任している。(1995.7.22 執筆)
goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

20代のマイケル・ロールとの協奏曲もあるプリッチャ―ド/BBC響によるモーツァルトの秀演

2010年03月22日 12時06分37秒 | BBC-RADIOクラシックス




 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の12枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6022
【曲目】モーツァルト:「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」k.525
           ピアノ協奏曲第22番 変ホ長調 k.482
           交響曲第40番 ト短調 k.550
【演奏】ジョン・プリッチャ―ド指揮BBC交響楽団
    マイケル・ロール(pf)
【録音日】1980年1月10日、1971年8月14日、1981年9月3日    

■このCDの演奏についてのメモ
 このBBC-RADIOクラシックスのシリーズには、当CDと同じプリッチャード指揮、BBC交響楽団によるブラームスの「交響曲第2番」の、奇跡的と呼んでも差し支えないほどの充実した名演奏がある。そこでも感じられたことだが、当CDでのプリッチャードの指揮にも、バランスのよくとれた歌心とテンポ感によって確保される広々とした世界の魅力がある。それは山あり谷ありのごつごつした劇性ではなく、どこまでも緑が続く山裾のようななだらかさと言ってよいだろう。こうした均衡感のある抑制に導き出される自由で伸びやかな音楽に、イギリス人たちの美意識の一端がひそんでいるように思う。スマートで澄ましたモーツァルトなのだが、その上品なたたずまいから、自在でチャーミングな音楽がにじみ出てくるのが、プリッチャードの音楽性の豊かさの証明だろう。
 1921年にロンドンに生まれたプリッチャードは、47年に名指揮者フリッツ・ブッシュの助手としてグラインドボーン音楽祭に参加。49年には急病のブッシュの代役でデビュー。その後はロイヤル・リヴァプール・フィル、ロンドン・フィルなどの首席指揮者、グラインドボーン音楽祭の音楽監督、ケルン歌劇場の首席指揮者などを歴任。当CDで共演しているBBC交響楽団の首席指揮者に1982年から着任した。戦後に登場した世代では、イギリスで最も愛された指揮者だと言われているが、1989年に惜しまれつつ亡くなっている。
 「ピアノ協奏曲」で共演しているイギリスのピアニスト、マイケル・ロールはレコードもなく、日本ではほとんど知られていないが、12歳の時にサージェントの指揮でロイヤル・フェスティバル・ホールでデビューしたという経歴を持ち、1963年の第1回リーズ国際ピアノ・コンクールで優勝した時は、まだ17歳だったという。当CDはその8年後の25歳前後の演奏。この年齢で既にリリカルな自身のスタイルが確立しているように思うが、その後の消息は手元の資料ではわからなかった。(1995.7.28 執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
 冒頭に書いてある「ブラームスの交響曲第2番」は、次回のこのブログに登場する規格番号CRCB-6023です。お楽しみに!
 マイケル・ロールに関して、執筆当時は、まったく情報が見当たらなかったのですが、今では、日本でもすっかり知られるようになりました。カントロフ、ウォフィッシュと組んだベートーヴェンの「三重協奏曲」も収録された「ベートーヴェンピアノ協奏曲全集」は注目盤でしょう。




goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

原曲と合わせて聴くブリテン「青少年のための管弦楽入門」と、ネルソヴァが弾くエルガー「チェロ協奏曲」

2010年03月10日 07時37分55秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の11枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6021
【曲目】エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 作品85(*1)
    ヴォーン・ウィリアムズ:「沼沢地方にて」(*2)
    パーセル:「アブデラザール」組曲(*3)
    ブリテン:「青少年のための管弦楽入門(パーセルの主題による変奏曲とフーガ)」(*4)
【演奏】ザーラ・ネルソヴァ(チェロ)(*1)
    チャールズ・グローヴズ指揮(*1、2、4)
    マルコム・アーノルド指揮(*3)
    BBC交響楽団(*1、2、3)
    ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団(*4)
【録音日】1969年8月28日、1969年8月16日、1977年7月23日    

■このCDの演奏についてのメモ
 このCDでは、ブリテンの作品が最もよく知られているだろうが、このグローヴズの指揮は、最もプロムス的な華やかさと楽しさにあふれた演奏ではないかと思う。この曲の直前に、この曲が主題として拝借しているヘンリー・パーセルの原曲が収められているので、余計に比較が容易だが、ブリテンのオーケストレーションの金管の壮麗さや打楽器の軍楽隊的な用法、それらを総合する華やかな楽しさは、間違いなくロンドンっ子たちを沸かせるプロムスの世界と同一のものだろう。この曲のそうした本質を実感できるだけでも、この演奏には価値がある。
 エルガーの「チェロ協奏曲」もよく知られている作品。当CDでのネルソヴァの演奏は、一聴して気付くように、比較的控え目で浅い呼吸の端正な演奏。この曲の決定的名盤と言われるジャクリーヌ・デュ・プレの演奏のような魂の揺さぶられる大きな抑揚が押えられているが、演奏後の聴衆の熱狂的な反応からも感じられるように、おそらくこのネルソヴァのような演奏が、この作品の日常的な姿なのだろうと推察できる。味わいのある自然体の演奏だ。
 チャールズ・グローヴズは1915年にロンドンに生まれ、92年にロンドンで心不全により急逝したイギリスの指揮者。その温かく、のびやかな音楽が愛されたロンドンの名物指揮者のひとり。チェロのザーラ・ネルソヴァは1917年にカナダに生まれた女流。ロンドンで学んだあと、カザルス、フォイアマン、ピアテゴルスキーらにもレッスンを受けている。12歳のデビューの時の伴奏がサージェント指揮ロンドン響というから、ロンドンの聴衆とは縁が深い。62年からは、ジュリアード音楽院で後進の指導にあたっている。マルコム・アーノルドは1921年にノーザンプトンに生まれた作曲家、トランペット奏者、指揮者。その学究的な活動で古典作品の指揮で定評がある。(1995.7.23 執筆)


goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

若き日のピーター・ドノホーとノーマン・デル・マーによるベートーヴェン「皇帝」ほか

2010年03月08日 12時21分01秒 | BBC-RADIOクラシックス




 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の10枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6020
【曲目】ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
            ピアノ協奏曲第4番
【演奏】ピーター・ドノホー(pf)
    アンソニー・ゴールドストーン(pf)
    ノーマン・デル・マー指揮
    BBC交響楽団
    ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
【録音日】1982年8月2日、1981年7月18日    


■このCDの演奏についてのメモ
 このCDは、ベテラン指揮者と2人の若手ピアニストによる、ベートーヴェンの有名協奏曲を収めたアルバム。溌溂としたピアノと、それを温かく包むオーケストラとのライヴ感覚の対話が魅力と言えるだろう。
 指揮のノーマン・デル・マーは1919年に生まれたイギリスのホルン奏者、指揮者。王立音楽学校を卒業後、名指揮者トーマス・ビーチャムに見いだされ、ロイヤル・フィルのホルン奏者をしながら、やがて指揮者となった。夭折の天才ホルン奏者として有名なデニス・ブレインは親友だったという。BBCスコティッシュ交響楽団などで活躍し、後期ロマン派、特にリヒャルト・シュトラウスを得意としていたが、1994年には世を去った。90年録音でシュトラウスの交響詩「マクベス」、交響的幻想曲「イタリアから」がASVレーベル(日本クラウン発売)にあるほか、安定感のある伴奏のレコードがいくつか印象に残っている指揮者だ。
 ピーター・ドノホーは1953年にイギリスのマンチェスターで生まれた。サイモン・ラトルとのコンビで、最近ガーシュインの音楽集などを出しているので、ベートーヴェンのような基本的で地味なレパートリーには無縁な人かと思っていたが、そんなことはないようだ。まだ20歳代のこの録音では、すらりとした生きの良い演奏に、1本筋の通ったさわやかな知性の発露が聞ける。最近売り出し中のピアニストの若き日の貴重な記録だ。
 アンソニー・ゴールドストーンは1944年にイギリスの港町リバプールに生まれた。65年21歳の時、バルビローリ指揮の協奏曲でデビューしたが、どちらかというと室内楽活動が多い。ピアノ・トリオを結成していたこともあるが、現在は妻であるキャロライン・クレモウとのピアノ・デュオで活躍している。(1995.7.21 執筆)


goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

プロムスの「ウィーン音楽の夕べ」を聴く

2010年03月03日 11時41分06秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の9枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6019
【アルバムタイトル】「プロムス」のウインナワルツ・コンサート
【曲目】ヨハン・シュトラウス:爆発ポルカ
    ヨハン&ヨゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ
    ホイベルガー:ご一緒に別室へ(「オペラ舞踏会」より)
    ヨゼフ・シュトラウス:ポルカ「おしゃべりなかわいい口」
    ヨハン・シュトラウス:ポルカ「百発百中」
    ヨゼフ・シュトラウス:ワルツ「天体の音楽」
    レハール:「あなたは私の太陽」(「ジュディッタ」より)
    レハール:「ヴィリアの歌」(「メリー・ウィドウ」より)
    ヨゼフ・シュトラウス:ワルツ「わが人生は愛と喜び」
    ヨゼフ・シュトラウス:ポルカ「鍛冶屋」
    ヨハン・シュトラウス:チャルダッシュ(「騎士パズマン」より)
    ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲
    ヨハン・シュトラウス:ワルツ「美しく青きドナウ」
【演奏】ジョン・プリッチャード指揮BBC交響楽団
    キャスリーン・ウィルソン(メゾ・ソプラノ)
    スチュワート・バロウズ(テノール)
【録音日】1971年8月14日、1972年8月12日    

■このCDの演奏についてのメモ
 「《プロムス》でのウィーンの夕べ」と題されたこのCDは、ロンドンの夏の風物詩としてすっかり定着している《プロムナード・コンサート》(略称プロムス)での、ヨハン・シュトラウスの音楽を中心とした、いわゆるウィーン音楽のコンサートを、ジョン・プリッチャードが指揮した1971年と72年の演奏で再構成したアルバム。このCDは、ただ単なるウィーン音楽集ではなく、イギリスの音楽好きたちが、自分たちのものとして心からウィーン音楽を楽しんでいる雰囲気が、そのまま伝って来るところが、何よりの魅力であり、驚きだ。顧みるに、私たち日本人は、まだ、このようにウィーン音楽を自分流に楽しむということに慣れていない。
 第2曲の「ピチカート・ポルカ」では、シュトラウスの原曲にない音を加えて楽員たちが遊んでいる事に、すぐに気付かれると思う。そして聴衆の笑い。フェスティバルのムードは一気に盛り上がっていく。第3曲に選ばれたホイベルガーのオペレッタからの二重唱の美しい旋律は、クライスラーがヴァイオリンの小品「真夜中の鐘」に編曲しているもので、ロンドンっ子のお気にいりのひとつ。そして第4曲のポルカ「おしゃべり」。これも、原曲から大きく離れて、正にプロムス風に染め上げられているが、この快活さ、自由さにはわくわくさせられる。最後の1曲まで聴く者の心をつかんで離さないのは、こうしたスタイルの演奏が、その場の思いつきではなく、音楽を愛する聴衆との長い歴史の中で育てられ、しっかりと根付いているからに違いない。ふだん着姿のロンドンが、どれほど豊かな音楽の喜びに満ちあふれているのかを知る、恰好のCDだ。「ウインナ・ワルツはウィーン・フィルでなければ」としか言えない《本場もの》主義の空しさを、このCDから確信できるのは、私だけではないはずだ。
 指揮のプリッチャードは、戦後に登場した世代では、イギリスで最も愛されていた指揮者と言われている。1921年にロンドンに生まれ、グラインドボーン音楽祭音楽監督、ケルン歌劇場首席指揮者などを歴任した後、1982年にBBC交響楽団の首席指揮者に就任。1989年の死の年まで着任している。(1995.9.23執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
 このBBCラジオのシリーズの個性に大きく気づかされた最初の1枚だったように思います。先日、久しぶりに聴き直す機会があったのですが、この執筆時の感慨は少しも変わりませんでした。この原稿を書いてから数年後に、小澤征爾の「ウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサート」が行われたわけですが、当時、あの小澤の「借りてきた猫」のような奇妙なウィーン音楽を、冷静に分析していた人はほとんどいませんでした。そして、ふだんニューイヤーコンサートに関心を持たない人々をも巻き込んで、空前の量のCDが売れました。「日本人の快挙」に沸いたのです。
 私は、日本人の西洋音楽演奏が成熟するのは、これからだと思っています。ヘンデルやハイドンを招聘したイギリスに遅れること数百年の時間差があるのですし、さらに日本とイギリスとでは、ヨーロッパ本土の音楽との文化的背景にも大きな差があるのですから、たいへんです。が、その「大きな差」こそが武器になるのが、21世紀の音楽の可能性でもあるでしょう。
 なお、そうした「日本人と西欧音楽」との問題に関わる小澤征爾や若杉弘については、昨年10月に青弓社から発行された『クラシック・スナイパー/第5集』所収の「クラシック音楽《迷演奏家》列伝」でも触れています。ご興味のある方は、ぜひお読みください。ついでながら、『同/第6集』は4月に刊行予定のようですが、そこで私は、上記の問題のルーツともいうべき事柄を、演奏史の流れのなかから導き出すことに着手したことを示唆しています。お楽しみに!




goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

ジョン・オグドンの弾くリスト「ピアノ協奏曲」「ピアノ・ソナタ」

2010年03月01日 15時04分43秒 | BBC-RADIOクラシックス




 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の8枚目です。



【日本盤規格番号】CRCB-6018
【曲目】リスト:ピアノ協奏曲第1番
    リスト:ピアノ協奏曲第2番
    リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
【演奏】ジョン・オグドン(ピアノ)
    ジョージ・ハースト指揮BBCスコティッシュ交響楽団
    コリン・デーヴィス指揮BBC交響楽団
【録音日】1983年9月7日、1971年9月18日、1987年10月1日    

■このCDの演奏についてのメモ
 このCDは、戦後のイギリスが生んだロマン派ピアノ曲の名手、ジョン・オグドンによるリストの代表作の演奏が収められている。
 オグドンは1937年にイギリスのマンチェスターに生まれた。モーツァルト、ベートーヴェンの権威として知られるデニス・マシューズと、無類のヴィルトーゾ的ピアニストのひとりエゴン・ペトリに学んでいる。1962年のチャイコフスキー・コンクールで、ウラジーミル・アシュケナージと二人同時優勝という、コンクール史上でもめずらしい経歴を持っている。チャイコフスキー、リスト、ラフマニノフなどを得意としており、力強い、芯のしっかりしたロマンティシズムに特徴のあるピアニストだったが、89年に52歳という、まだこれからという時期に惜しくも世を去った。
 2つの協奏曲は、録音時期も、指揮者、オーケストラも異なるが、「第2番」のコーリン・デイヴィスは、現在ではいわゆる巨匠のひとりとして広く知られている。1927年にイギリスのウェイブリッジに生まれ、この録音が行われた頃は、ここで演奏しているBBC響の首席指揮者だったが、後にはドイツの代表的なオーケストラ、バイエルン放送交響楽団の音楽監督に就任している。
 「第1番」で伴奏指揮を担当しているジョージ・ハーストは、1926年にイギリスのエジンバラに生まれた。指揮を、今世紀を代表する指揮者のひとりピエール・モントゥに学んだ。BBCノーザン交響楽団の首席指揮者を58年から68年まで務め、その後はボーンマス・シンフォニエッタの音楽顧問兼指揮者を78年まで続けたが、現在はフリー。(1995.7.22執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
 上記の文章があまりにも素っ気ないので、ひとこと。(このシリーズの解説のあり方についても、この時期はまだ試行錯誤をしていた記憶があります。)
 文中でも触れているように、オグドンは早逝の演奏家の部類に入る人だと思います。昨年だったか、英EMIから、未発売のままだった音源も含めた5、6枚組の「オグドン名演集」が発売され、彼の自作の協奏曲や独奏曲まで入っているのに驚いて、あわてて買いました。久しぶりにオグドンの演奏を聴きましたが、チャイコフスキーの協奏曲第1番など、感情の大きな抑揚に、しっかりとした芯の通った演奏で、やはり、惜しい人を早くに失ったと改めて思いました。今回の付記を書くにあたって、このBBC盤は改めて聴き直していませんが、演奏会記録の放送録音ならではの自然な音楽の運びが、この人のピアノのタッチと曲想にマッチしていて、生き生きとした切れのよい音楽を堪能した記憶があります。




goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

「ストコフスキー/ロンドン告別コンサート」

2010年02月22日 16時05分13秒 | BBC-RADIOクラシックス


 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の7枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6017
【アルバムタイトル】「ストコフスキー/ロンドン告別コンサート」
【曲目】クレンペラー:メリー・ワルツ
    ヴォーン・ウイリアムス:タリスの主題による幻想曲
    ラヴェル:スペイン狂詩曲
    ブラームス:交響曲第4番 作品98
【演奏】ストコフスキー指揮/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
【録音日】1974年5月4日    

■このCDの演奏についてのメモ
 ストコフスキーは1882年にロンドンで生まれた。戦前からのクラシック音楽のファンで、この名前を知らない人はいないだろう。SP録音期から、ベストセラーになったレコードは数多くあり、おそらくレコード史上、トップクラスの人気を最も長く保持していた長寿指揮者だったろう。90歳を越えて、まだ現役だった。
 22歳でアメリカにわたり、わずか29歳でフィラデルフィア管弦楽団の常任指揮者の座を射止め、以来、アメリカ楽壇の寵児となったサクセス・ストーリーの持主だが、本質的には英国紳士風ダンディズムの人だった。銀髪を揺らせての、お洒落で華麗な指揮ぶりは有名だった。独自の解釈による強調や改作をかなり行ったが、それぞれの音楽の〈魅力〉に忠実と言える見識が不思議な説得力を持っており、音楽の大衆化に半世紀以上にわたって尽力した。
 晩年1972年にイギリスに戻り、指揮活動を続けたが1977年に世を去った。このCDは、ストコフスキーの92歳を祝うコンサートの全貌。イギリスでの公開のコンサートとしては最後のもので、後には数枚のレコーディング演奏があるだけ。この日のメイン・プログラムであるブラームスの交響曲も、約1カ月後にはRCA系でスタジオ録音されている。当時最先端だった4チャンネル・ステレオ録音で、「SPから4チャンネルまでを体験したただ一人の指揮者」と話題になった。生涯現役で、引退のことなど考えたことがなかったと言われるだけあって、この最後のライヴ録音も万年青年の面目躍如たるものがある。情熱的に迫るブラームス演奏の若々しさからは、この指揮者の生涯を貫いていた〈わかりやすい〉音楽が、どれほど大切であるかが伝わってくる。音楽を聴く喜びについて考えさせられる感動の一夜の記録だ。(1995.7.21 執筆)


goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

エイドリアン・ボールトが指揮する「エリック・コーツの音楽」

2010年02月15日 10時47分09秒 | BBC-RADIOクラシックス





 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の6枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6016
【アルバムタイトル】エリック・コーツの音楽
【曲目】すべてエリック・コーツ作曲)
    「浮かれ人」序曲
    ロンドン組曲
    組曲「3人のエリザベス」
    行進曲「コーリング・オール・ワーカーズ」
    サマセットの緑の丘
    結婚式の道化師
    石割り人、ジョン
    ダム・バスター・マーチ(映画「暁の出撃」より)
【演奏】サー・エイドリアン・ボールト指揮/BBCコンサート管弦楽団
    イアン・ウォレス(バス・バリトン)
【録音日】1975年6月11日、1975年6月18日    

■このCDの演奏についてのメモ
 イギリスの、国民的人気作曲家エリック・コーツの作品を、まとめて聴くことができるめずらしいCD。
 もっともイギリス国内では、昔も今もエリック・コーツの作品のレコードやCDはクラシックのカタログに必ず載っていて、決してめずらしいものではない。そうした中に、指揮者でもあったエリック・コーツ自身の演奏したレコードもまじっているが、当CDの録音が行われた1970年代に発売されていたレコードの指揮は、チャールズ・マッケラス、ジョージ・ウェルドン、チャールズ・グローヴズ、そして、このCDでも指揮をしているエードリアン・ボールトといった名前が目に付く。ボールト盤は1976年にニュー・フィルハーモニア管弦楽団と録音した英リリータ・レコードで1度発売されただけで、長い間廃盤のようだ。当CDは、この前年に行われたBBC放送のための録音。
 他の3人の指揮者は皆、今世紀の生まれだが、1889年に生まれ1983年に世を去ったボールトにとって、1886年生まれのエリック・コーツは同世代にあたる。時代と共に歩んだ大衆作曲家の作品の録音として、このボールト盤は、数少ない同時代人の演奏として貴重なものだ。
 バス・バリトンのアイアン・ワレースは1919年ロンドン生まれ。46年にオペラ・デビューし、グラインドボーンなどで活躍したが、ミュージカルなど活動範囲をひろげ、ラジオ出演や執筆など多方面の仕事もこなすという。(1995.8.8)





goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

サージェント/ジャック・ブライマーのモーツァルト「クラリネット協奏曲」

2010年02月05日 13時00分08秒 | BBC-RADIOクラシックス

 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の5枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6015
【曲目】モーツァルト:歌劇「後宮からの逃走」序曲
           クラリネット協奏曲 k.622
    メンデルスゾーン:「結婚行進曲」~「真夏の夜の夢」より
    シューベルト:交響曲第8番「未完成」
【演奏】サー・マルコム・サージェント指揮/BBC交響楽団
    ジャック・ブライマー(クラリネット)
【録音日】1965年8月13日、1964年9月5日    

■このCDの演奏についてのメモ
 指揮のマルコム・サージェントは、1895年に生まれ1967年に世を去ったイギリスの指揮者。1921年に、ロンドンの夏の風物詩として有名な〈プロムナード・コンサート〉(プロムス)で指揮者デビューをした経歴を持ち、第2次大戦後も〈プロムス〉の指揮で毎年のようにロンドンっ子を沸かせた。合唱指揮者としても今世紀最高と謳われ、ヘンデルの「メサイア」、エルガーの「ゲロンテウスの夢」は得意曲だった。BBC響とは1950年から57年まで首席指揮者を務めた関係。当CDの64、65年のコンサートでも息の合ったところを聴かせ、たっぷりとした〈ため〉を抑制してすらりとした弦楽の響きや輝かしい金管など、ドイツ風の演奏とは違う、サージェントとロンドンの聴衆とで培ってきたスタイルが十全に実現されている。
 一方、クラリネットのジャック・ブライマーは1915年に生まれたイギリスを代表するクラリネット奏者。ロイヤル・フィル、BBC響、ロンドン響の首席奏者を歴任するかたわら、王立音楽院で後進の指導にあたり、ソロや室内楽活動も活発に行なった。モーツァルトの「協奏曲」は得意曲で、59年にビーチャム/ロイヤル・フィルと、64年にコリン・デイヴィス/ロンドン響と、71年にマリナー/アカデミー室内と録音している。当CDはデイヴィス盤の数カ月後の録音だが、若き日のデイヴィスの引き締まった造形感に呼応した普遍性を追及したような録音に比べて、当CDでは、以前のビーチャム時代のような柔和な表情に加えて、ライヴらしい自在な即興性が聴かれ、ブライマーの筋の通った確かな技術を支える、豊かな音楽性に触れることが出来る。(1995.6.27)





goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

サージェントが指揮するホルスト「惑星」、エルガー「エニグマ」

2010年01月22日 08時48分38秒 | BBC-RADIOクラシックス




 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の4枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6014
【曲目】ホルスト:組曲《惑星》作品32
    エルガー:エニグマ変奏曲 作品36
【演奏】サー・マルコム・サージェント指揮/BBC交響楽団
    BBC女声合唱団
【録音日】1965年2月3日、1966年8月6日    

■このCDの演奏についてのメモ

 イギリス人好みの二つの管弦楽作品をイギリスを代表する指揮者のひとり、マルコム・サージェント指揮のライヴ録音で聴くCD。
 どちらもサージェントの得意曲で、スタジオでの正規録音も残されている。エルガーはロンドン響と英デッカレコードにモノラルで、フィルハーモニア管との59年録音のステレオが英HMV(EMI)にあった。ホルストの方は、当CDと同じBBC響との58年録音が、英HMV(EMI)にあった。「惑星」の場合は、初演者エードリアン・ボールトが指揮する録音が日本では有名だが、その風格ある演奏に対するサージェントの軽妙な演奏スタイルは、ロンドンで人気を二分していたと伝えられている。
 サージェントは、1895年に生まれ1967年に世を去ったイギリスの指揮者。1921年に、ロンドンの夏の風物詩として有名な〈プロムナード・コンサート〉(プロムス)で指揮者デビューをした経歴を持ち、第2次大戦後も〈プロムス〉の指揮で毎年のようにロンドンっ子を沸かせた。合唱指揮者としても今世紀最高と謳われ、ヘンデルの「メサイア」、エルガーの「ゲロンテウスの夢」は得意曲だった。BBC響とは1950年から57年まで首席指揮者を務めた関係。(1995.7.23)



goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

ヘンリー・クリップス/ヴィレム・タウスキー/トミー・ライリーほかの「ライト・クラシック・コンサート」

2010年01月18日 17時43分28秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の3枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6013
【アルバムタイトル】「ライト・クラシック・コンサート」
【曲目】ウォルトン:戴冠式行進曲「王冠」
    グレインジャー:浜辺のモリー
    スメタナ:交響詩「モルダウ」
    C・ミレッカー:わたしが心を捧げる人(喜歌劇「デュバリー」より)
    T・マケベン:ミュンヘンの物語
    N・ドスタル:私はとても恋してる(「クリヴィア」より)
    ボロディン:ダッタン人の踊り
    M・アーノルド:ハーモニカ協奏曲
    ワインベルガー:ポルカとフーガ(「笛吹きシュワンダ」より)
【演奏】ヘンリー・クリップス指揮およびヴィレム・タウスキー指揮
    BBCコンサート管弦楽団/BBC交響楽団
    エリザベス・ハーウッド(ソプラノ)
    トミー・ライリー(ハーモニカ)
【録音日】1965年9月25日、1976年7月24日    

■このCDの演奏についてのメモ
 イギリスの気軽なクラシック・コンサートの良さが凝縮された1枚。主にサドラーズ・ウェルズ劇場で活躍していた演奏家で構成されており、イギリスでのこの種のコンサート・プログラミングの傾向を示すCDと言える。サドラーズ・ウェルズ劇場は、今でこそバロック歌劇の牙城の感があるが、かつてはオペレッタあり、バレエありの楽しさにあふれた場所だった。
 ヘンリー・クリップスは1914年にウィーンに生まれた指揮者で、ウィーン国立歌劇場で活躍した名指揮者ヨーゼフ・クリップスの弟。38年にオーストラリアに渡り、長い間その地での音楽振興に尽くしたため、レコード録音が少ないが、50年代後半にEMIに残したウィーン音楽を中心にした6枚のLPはいずれも音楽の喜びにあふれた名演。ロンドンっ子に愛され、毎年のように様々なオーケストラに客演し、サドラーズ・ウェルズも常連だった。ヘンリーの音楽の、沸き立つような楽しさは、冒頭のウォルトン「王冠」を聴いただけでも感じられるだろう。
 ヴィレム・タウスキーはチェコスロヴァキア出身の指揮者。彼の故郷の音楽である「モルダウ」でも、軽快な金管の強奏など、すっかり英国式ポップス・コンサート調になっているのは、さすがで、サドラーズ・ウェルズやBBCコンサート管弦楽団の常連だけのことはある。エリザベス・ハーウッドは1938年生まれのイギリスのソプラノ歌手で、サドラーズ・ウェルズでのヴェルディ「リゴレット」でデビューしたが、その後はむしろモーツァルト歌手として活躍している。トミー・ライリーはカナダ出身のハーモニカ奏者で、多くのハーモニカのための作曲、編曲も手掛けており、このジャンルでのスペシャリストとして高く評価されている。(1995.7.21)



goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

グローヴズの『新世界交響曲』武道館ライヴ(BBC-RADIOクラシックス)

2010年01月07日 11時12分24秒 | BBC-RADIOクラシックス





 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の2枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6012
【曲目】ドヴォルザーク:交響的変奏曲 作品78
            スラブ舞曲 ホ短調 作品72の2
            交響曲第9番《新世界より》作品95 
【演奏】サー・チャールズ・グローヴズ指揮/BBC交響楽団
【録音日】1975年8月6日、1975年6月16日    

■このCDの演奏についてのメモ
 このCDの指揮者チャールズ・グローヴスは、1915年3月10日にロンドンに生まれ、92年6月20日に同じくロンドンで心不全により急逝した。ドヴォルザーク作品を集めたこのCDはいずれもライヴ録音だが、この内「新世界」はグローヴスの初来日の時のもの。会場は何と、東京の武道館だ。ロンドンの有名なプロムナード・コンサートを模したつもりだったのか、ロック・コンサートでは有名だが、クラシックのコンサートなどめったにやらないこの会場に5000人以上の大観衆を集めて低料金のコンサートが行われたのだが、その貴重な記録が当CDだ。前半の2曲はその2カ月後、本物のプロムス会場でのライヴ。
 BBC響はこの時ピエール・ブーレーズの来日に同行していた。現代作曲家として戦後を代表するひとりであるブーレーズは、当時このオーケストラの音楽監督だった。ブーレーズ指揮のコンサートの合間をぬって、プロムスの心をよく知っているグローヴス指揮による気軽な名曲コンサートを、しかもプロムスの会場ロイヤル・アルバートホールにその規模が匹敵する武道館に、大観衆を集めて開催するといった洒落たセンスは、いったい誰の発案だったのだろうか?
 いずれにしても、残されたこのCDの演奏には、旅の途中でのリラックスした気分が満載で、彼らの音楽にとって幸福なひとときが聴かれるものとなっている。グローヴスの人間性にあふれる温かな音楽が最大の魅力だが、そのスマートなアプローチからにじみ出てくるおおらかな演奏は、自然を愛する都会人の哀愁かも知れない。いわゆる本場物の演奏とも、また、現代的な演奏とも異なった地平に立つ演奏だ。 (1995.7.18)



goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

マッケラスのマーラー『交響曲第4番』ほか

2010年01月05日 10時48分35秒 | BBC-RADIOクラシックス





 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。
 以下に掲載の本日分は、第1期30点の1枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6011
【曲目】ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲(1974年8月10日録音)
    マーラー:交響曲第4番ト長調(1977年5月4日録音)
【演奏】サー・チャールズ・マッケラス指揮/BBC交響楽団
    シーラ・アームストロング(ソプラノ)

■このCDの演奏についてのメモ
 チャールズ・マッケラスは、オーストラリア人を両親に、1925年にニューヨークに生まれた。シドニー交響楽団のオーボエ奏者からスタートしたマッケラスは、ロンドンに留学、そして紹介者があって、チェコ・フィルハーモニーの大指揮者ヴァツラフ・ターリヒを頼ってプラハに留学した。ターリヒとの出会いは、マッケラスをヤナーチェクの音楽の虜[とりこ]にしてゆくきっかけになったという。25歳の1951年にロンドンのサドラーズ・ウェルズでヤナーチェクの歌劇「カーチャ・カヴァノヴァ」のイギリス初演を行い、その後、オペラ、バレエの指揮者としてまずまずの仕事をしていたマッケラスが、結局、その名声を決定付けたのは、ウィーン・フィルとのヤナーチェクの一連の作品の録音だった。
 こうした経歴のマッケラスのマーラー録音ということで、奇異な感じを受けるかも知れないが、この若き日に一時、ロンドンから遠く離れたプラハで音楽的感性を豊かにしていった指揮者にとっては、近代的知性と傷つきやすい魂の体現者であるマーラーの世界も、ボヘミア出身の作曲家としてのマーラーの出自に引き寄せたものになっているようだ。風景画のような世界が眼前にひろがっていく豊かな情感を湛えた演奏だ。マッケラスの当CDの演奏はBBC響の首席客演指揮者就任のころのものだが、この演奏はロンドンの聴衆を深く感動させたと伝えられている。
 ソプラノのシーラ・アームストロングは1942年生まれのイギリスの歌手。レコード録音ではバルビローリの「ペール・ギュント」や、バレンボイムのフォーレ、モーツァルトの「レクイエム」などがあった。(1995.7.24)





goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )