1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。
以下に掲載の本日分は、第1期30点の15枚目です。
【日本盤規格番号】CRCB-6025
【アルバム・タイトル】イングリッシュ・ランチタイム・コンサート
【曲目】
W.ウォルトン:戴冠式行進曲「宝珠と笏」
M.アーノルド:4つのコーンウォール舞曲
T.ダンカン:コルシカの娘
T.ライリー:無伴奏ハーモニカのためのセレナード
G.ヴィンタ―:ヴェールの婦人のためのセレナード
R.ファーノン:コルディッツ・マーチ
R.ベネット-R.ドッカー編曲:オリエント急行殺人事件
R.ドッカー:モダンなワルツ
R.ビンジ:エリザベス朝のセレナード
R.ファーノン:「サウンズ・ファミリア」~ウエストミンスター・ワルツ
E.コーツ:ダム・バスター・マーチ
【演奏】ロバート・ファーノン指揮BBCノーザン交響楽団
トミー・ライリー(ハーモニカ)
ロバート・ドッカー(pf)
【録音日】1977年7月7日
■このCDの演奏についてのメモ
1977年7月7日に行われたイギリスのライトミュージック・フェスティバルは、同年8月5日にイギリス国営放送(BBC)の第3チャンネル「ランチ・タイム・コンサート」で放送された。このCDは、その放送をCD化したもので、曲目解説の項にもあるように、BBC放送の番組のための音楽や映画のための作品を中心に、イギリスのライト・ミュージックの魅力が一望できる盛りだくさんな内容となっている。
こんな素晴らしいランチ・タイムが過ごせるとは、イギリス人は世界で最も贅沢な人々かも知れない。彼らの自然で気取らない、ウィットに富んだ音楽との付き合い方は、ほんとうに楽しい。この1枚のCDからあふれでてくるのは、まさしく〈音楽の泉〉だ。
イギリス人たちの生活の中に溶けこんだ〈音楽の匂い〉が、どのようなものかは、例えば、ダンカンの「コルシカの娘」や、ヴィンターの「セレナード」のストリングスの調べや、トミー・ライリーのハーモニカの音色からでも容易に理解できるだろう。また、指揮のロバート・ファーノン自身が、映画音楽やテレビ番組から編曲したメドレー「サウンズ・ファミリア」では、ディズニー・ランドばりのパレードが展開し、ドッカーが弾くピアノからは、ごきげんなムード・ジャズが流れでてくる。フィナーレのエリック・コーツの「ダム・バスター行進曲」も元気いっぱいの音楽だ。
この1枚のCDからは、理屈ではなく、身体の中に音楽をまるごと抱えている〈普段着のイギリス人〉たちの姿が見えてくる。ジャンルにこだわりなく音楽を愛する人々に、音楽の楽しさの原点のひとつとして、ぜひとも聴いていただきたいアルバムだ。(1995.8.8 執筆)
【ブログへの再掲載に際しての付記】
このCD解説では詳しく触れませんでした(当時の私の知識が足りなかったのです)が、このCDは、ハーモニカ界でその名を知らない人はいないとまで言われる「トミー・ライリー」のハーモニカ・ライヴが聴ける珍しいCDということで、ハーモニカ・ファンの間でかなり話題となったCDでした。