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ティペットのオラトリオ『我らが時代の子』はロジェストヴェンスキーによって「時代の子」として定着した?

2010年07月16日 13時10分38秒 | BBC-RADIOクラシックス

 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の30枚目です。次回からは第2期20点のライナーノートを順次掲載します。


【日本盤規格番号】CRCB-6040
【曲目】ティペット:オラトリオ「我らが時代の子」
【演奏】ロジェストヴェンスキー指揮BBC交響楽団、BBC交響合唱団
    ジル・ゴメス(ソプラノ)
    ヘレン・ワッツ(コントラルト)
    ケネス・ウーラム(テノール)
    ジョン・シャーリー=カ―ク(バリトン)
【録音日】1980年10月15日

■このCDの演奏についてのメモ
 イギリス作曲界の長老、マイケル・ティペットの代表作「オラトリオ《我らが時代の子》」は、この作品そのものが、ナチス・ドイツのユダヤ人迫害への抗議を背景にした〈時代の落とし子〉的作品だ。第2次世界大戦が勃発する直前の悲劇的エピソードに霊感を受けたかのように、作曲者自らが台本の執筆をして書き上げられたこの作品は、平和を希求するティペットの心情が切々と伝わってくる作品で、これまでは、1957年に英デッカに録音されたジョン・プリッチャード指揮ロイヤル・リヴァプール・フィル他による演奏がよく知られていた。
 今回CDで初めて紹介されたこの演奏は、旧ソ連出身の名指揮者ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーがBBC交響楽団の首席指揮者に就任していた時期の録音。同交響楽団の創立50周年記念の演奏会のひとつとして行われたコンサートのライヴ収録盤だ。
 これまで知られていたプリッチャード盤は、録音された年代や当時のプリッチャード自身の年齢的若さもあってか、ストレートに怒りを叩きつけるような演奏だが、このロジェストヴェンスキー盤では、落ち着いた、陰影の細やかなニュアンスの間から、怒りや慟哭が悲しみとともに滲みでてくるといった趣きで、この濃密な音楽の気配からは、この曲が〈時代の落とし子〉にとどまらずに、平和を希求するすべての人のための使命を帯びて、普遍性を獲得しつつあることが感じられる。
 ティペットのラディカルな作品も、歳月を経て、〈怒り〉の音楽から〈祈り〉の音楽へと変貌してきたのだろう。この作品が将来、ひとつの時代の古典としてレパートリーに定着するとしたならば、このロジェストヴェンスキー盤の役割は大きいに違いない。(1995.9.16 執筆)

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ブリテン『シンフォニア・ダ・レクイエム』(鎮魂交響曲)のロジェストヴェンスキー/BBC響による熱演

2010年07月15日 11時12分56秒 | BBC-RADIOクラシックス


 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の29枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6039
【曲目】ブリッジ:管弦楽のための2つの詩
    ブリテン:交響組曲「グロリアーナ」
        :パッサカリア(「ピーター・グライムズ」より)
        :シンフォニア・ダ・レクイエム
    アルヴォ・ペルト:カントゥス――ブリテンの思い出に
【演奏】ノーマン・デル・マー指揮BBCノーザン交響楽団
    ロジェストヴェンスキー指揮BBC交響楽団
【録音日】1977年8月4日、1977年10月3日、1978年12月6日、
     1981年6月4日、1979年8月31日

■このCDの演奏についてのメモ
 今世紀のイギリスの偉大な作曲家のひとりであるベンジャミン・ブリテンの作品を中心に編成されたCD。
 冒頭にブリテンの師でもあるフランク・ブリッジの、洒落たウィットに富んだ作品を置き、ブリテンの作品を3曲挟んで、最後にブリテンの思い出に捧げられたアルヴォ・ペルトの現代作品を収めている。ペルトの作品は、当CDに収録された演奏がイギリスにおける初演。
 前半の2曲はノーマン・デル・マー指揮BBCノーザン交響楽団(現BBCフィルハーモニック管弦楽団)の演奏で、これは放送用の録音のようだが、後半のロジェストヴェンスキー指揮BBC交響楽団による3曲は公開のコンサートのライヴ収録。ロジェストヴェンスキーの指揮で異常な緊張を孕んだBBC響の熱演による「シンフォニア・ダ・レクイエム」(鎮魂交響曲)が、このCDでは特に聴きもの。作曲者自身による指揮の名盤もあるこの名曲の演奏として、このロジェストヴェンスキー盤は貴重な名演奏のひとつとして残るだろう。
 旧ソ連の指揮者ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーは、1978年から82年まで、BBC交響楽団の首席指揮者だった。旧ソ連政府の横ヤリで、このポストを放棄させられ帰国するが、それまでの3年余に残されたこのオーケストラとの録音にも、この指揮者の明快で鋭い感性が息づいている。
 ノーマン・デル・マーは1919年に生まれたイギリスのホルン奏者、指揮者。王立音楽学校を卒業後、名指揮者トーマス・ビーチャムに見いだされ、ロイヤル・フィルのホルン奏者をしながら、やがて指揮者となった。夭折の天才ホルン奏者として有名なデニス・ブレインは親友だったという。BBCスコティッシュ交響楽団などで活躍し、後期ロマン派、特にリヒャルト・シュトラウスを得意としていたが、1994年には世を去った。(1995.9.15 執筆)



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イギリス軽音楽系指揮界の重鎮だったアシュリー・ローレンスで聴くディーリアス作品のおもしろさ

2010年06月29日 11時22分06秒 | BBC-RADIOクラシックス




 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の28枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6038
【アルバムタイトル】ディーリアス名曲集
【曲目】
 グレインジャー:ブリッグの定期市
 ディーリアス:ブリッグの定期市――イギリス狂詩曲
       :「イエルメリン」前奏曲
       :ノルウェー組曲(フォルケラーデッド幕間音楽)
       :夏の庭園にて(第1版)
       :ダンス・ラプソディ第2番
【演奏】アシュリー・ローレンス指揮
    BBCコンサート管弦楽団、BBCシンガーズ
    ガース・ロバーツ(テノール)
【録音日】1974年8月3日、1974年1月12日

■このCDの演奏についてのメモ
 イギリスの音楽ファンにとって、大好きなごちそうのひとつ、〈音による田園詩人〉とも言うべきディーリアスの作品の、自然で耳に優しい響きの特質がよくわかるCD。
 ここで指揮をしているアシュリー・ローレンスは、ニュージーランドに生まれロンドンの王立音楽学校を卒業後、名指揮者のラファエル・クーベリックにも指揮を学んでいる。イギリスを中心にバレエ指揮者として研鑽を積み、王立バレエの指揮者陣のひとりに加えられたのが1962年のことだ。一方、バレエ指揮者としてのキャリアとは別に、このCDでも演奏しているBBCコンサート管弦楽団の首席指揮者に71年に就任し、軽音楽まで含めた幅広いジャンルの演奏活動で、多くのファンを獲得した。この方面でのイギリス音楽の魅力の表現に、生涯を通して尽力したが、90年の急逝が惜しまれている。
 このCDでは、例えば「ノルウェー組曲」での、堂々とした音楽の構えを忘れずに、のどかで楽天的な音楽が鳴り響くのを聴くと、イギリスの軽音楽系の潮流のなかでのディーリアスの音楽の受け入れられ方が、手に取るように聞こえてくる。これは、ビーチャムやバルビローリといったディーリアスを得意にしている指揮者たちのシリアスなアプローチとは異なった、伸び伸びとくつろいだ世界に生きるディーリアスの魅力が満喫できるCDだ。おそらく、これがロンドンっ子たちの日常のなかでのディーリアスなのだろうが、これまでに日本で発売されたディーリアスの演奏にはなかったスタイルのように思う。(1995.9.15 執筆)



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ボールトの名演で聴くエルガー「序奏とアレグロ」ほか、イギリス近代の管弦楽曲

2010年06月25日 13時53分07秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の27枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6037
【アルバムタイトル】ボールト/イギリス管弦楽名曲集
【曲目】E. エルガー:序奏とアレグロ 作品47
         葬送行進曲 作品42より
    A. バックス:地中海
    P. ハドリー:春の朝
    A. ブリス:序奏とアレグロ
    G. ホルスト:ハンマースミス 作品52
    J. アイアランド:忘れられた儀式
【演奏】エイドリアン・ボールト指揮
    BBC交響楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
    フィルハーモニア管弦楽団
【録音日】1975年9月4日、1969年11月26日、
     1963年2月27日、1963年3月18日

■このCDの演奏についてのメモ
 今世紀にイギリスで作曲された管弦楽のための小品から、親しみやすく抒情的な美しい旋律の作品を集めたCD。いずれも、その穏やかな起伏の品格が、イギリス音楽のある一面をよく伝えている。
 指揮をしているのは、すべてエードリアン・ボールトで、オーケストラはBBC交響楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、フィルハーモニア管弦楽団と様々で、録音時期も各々異なっている。このCDは、イギリス的リリシズムの様々な姿を、イギリスの聴衆に愛され続けて世を去ったボールトの指揮でまとめて聴こうとして企画されたもののようだ。
 エードリアン・ボールトは、1889年に生まれ、1983年にイギリス指揮界の重鎮と言われながら世を去った。イギリスの近代作品の紹介に尽力する一方で、若き日にライプチッヒ音楽院やニキッシュに学んだ幅広いレパートリーを持ち、ドイツ古典派から後期ロマン派の作品まで、多くの作品を取り上げてイギリスの聴衆に愛されていた。
 全7曲での白眉は、何と言っても冒頭に置かれたエルガーの「序奏とアレグロ」だろう。この魂をえぐるような厳しさは、ヤワで浅薄なリリシズムの真似事など吹き飛んでしまうだけの力がある。この重さを通り抜けなければ、抒情世界の真実にはたどり着けないのだ。聴き終えた後の心地よい疲労感には得難いものがある。この曲には、かつてジョン・バルビローリの名盤があったが、それもまた同じく、真摯で誠実な彼らの国民性が、高純度で結晶化している演奏だった。(1995.9.17 執筆)




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ウェストミンスター寺院のためにヘンリー・パーセルが書いた音楽

2010年06月22日 11時15分31秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の26枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6036
【アルバムタイトル】パーセル:ウェストミンスター寺院のための音楽
【曲目】パーセル作曲:
  主よ、わが祈りを聞き給え
  ベネディクト―3人の子どもの歌
  主よ、われらが罪を思い給うことなかれ
  オルガンのためのヴォランタリー
  マニフィカ―トとヌンク・ディミティス ト短調
  汝の言葉は燈なり
  メアリー女王の葬送のための音楽
  おお神よ、汝はわが神なり
  マニフィカ―トとヌンク・ディミティス 変ロ長調
  詩篇第100番によるヴォランタリー
  おお主よ、われらをかえりみ給え
  おお主に感謝を捧げん(詩篇第106番)
  われらの心の秘密を知り給う主よ    
【演奏】マイケル・ハワード指揮カンターズ・イン・エクレジア
  ジーン・ニプス(ソプラノ)
  ジェフリー・ミッチェル(カウンター・テノール)
  ピーター・ホール(テノール)
  デイヴィット・トーマス(バス)
【録音日】1972年7月14日

■このCDの演奏についてのメモ
 パーセルは、17世紀後半のイギリスに彗星のごとく現れ、わずか36年でその生涯を終えた天才作曲家。このCDでは、20歳でウェストミンスター教会のオルガニストに就任し、以後宮廷作曲家として活躍したパーセルの、言わば公的な仕事の部分での代表作を聴くことができる。
 ウェストミンスター寺院では11世紀以来、イギリス国王の戴冠式や埋葬儀式が行われるが、パーセルの残したアンセムとは、その英国国教会(聖公会とも言う)の礼拝式で歌われる英語モテットで、イギリス人の精神的故郷、イギリス音楽の原点と言ってもよいものだ。これらは現在、マーロウ盤、デラー盤などでも聴くことが出来るが、このCDは英国放送協会(BBC)による録音であり、イギリス国民の生活の一部に密着した演奏とみることが出来るだろう。
 指揮のマイケル・ハワードは1922年にロンドンに生まれ、王立音楽学校で学んだ。父親は戦前、名指揮者トーマス・ビーチャムの管弦楽団でビオラを弾いていたという。(1995.9.26 執筆)



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ロジェストヴェンスキーとBBC響が、ヴォーン・ウイリアムズの交響曲演奏で聴かせた「平和への祈り」

2010年05月25日 10時58分24秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の25枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6035
【曲目】ヴォーン・ウイリアムズ:交響曲第5番 ニ長調
               :オラトリオ「聖なる市民」
【演奏】ロジェストヴェンスキー指揮BBC交響楽団、
    ガース・ロバーツ(テノール)ブライアン・レイナー・クック(バリトン)
    BBCシンガーズ、BBC交響合唱団
【録音日】1980年10月22日、1979年11月21日    


■このCDの演奏についてのメモ
 ヴォーン・ウィリアムズの交響曲のなかで、「交響曲第6番」と並んで第2次世界大戦の暗い影を宿した「交響曲第5番」の、平和への深い想いを真正面から見据えて、澄み切った静けさを緊張感の持続した中に実現している演奏だ。ヴォーン・ウィリアムズとも縁の深いBBC交響楽団を指揮をしているのは、政治的に難しい立場に居ながらも、1978年から82年までこのオーケストラの首席指揮者をしていたロシア(当時のソビエト連邦)の指揮者ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー。
 彼は、この貴重なロンドン体験の間、数多くのイギリスの作曲家の作品に接しているが、当CDは、その成果のひとつと言ってよいだろう。ロジェストヴェンスキーの、音に対する鋭敏な感覚と的確で鮮やかな指揮の技術が、この曲の響きの、ほぼ理想的な名演を生み出している。これはBBC交響楽団の創設50周年記念のシーズンの録音だ。
 なお、この「交響曲第5番」には、同じBBC交響楽団で、現在の首席指揮者であるアンドリュー・デイヴィスが92年に録音したCDも発売されている。(1995.9.16 執筆)


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1983年ポーランド政変のころ、ロンドンの聴衆がプロムスで聴いたシマノフスキ、パヌフニク

2010年05月17日 10時59分32秒 | BBC-RADIOクラシックス






 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の24枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6034
【曲目】シマノフスキ:交響曲第4番「シンフォニア・コンチェルタンテ」           :交響曲第3番「夜の歌」
    パヌフニク:「シンフォニア・ヴォティーヴァ」(交響曲第8番)
【演奏】マーク・エルダー指揮・ノーマン・デル・マー指揮・パヌフニク指揮
    BBC交響楽団、ピオトル・パレチュー(pf)、フィリップ・ラングリッジ(テノール)、BBCシンガーズ、BBC交響合唱団
【録音日】1983年2月16日、1983年9月17日、1983年9月14日    

■このCDの演奏についてのメモ
 別項にあるようにイギリスの音楽界は、広く世界の様々な音楽の吸収に、熱心に取り組む歴史を古くから持っているが、このCDは、ポーランドの作曲家の作品を集めたものとなっている。この内、1914年生まれで第2次世界大戦後にイギリスに亡命したパヌフニクの作品は、作曲者自身の指揮による演奏で、しかもイギリス国内初演の記録。亡命後のパヌフニクは、自作を中心に、母国ポーランドの作曲家の作品の指揮をかなり手掛けているという。
 シマノフスキの二つの交響曲の内、ピアノ独奏を加えた交響曲第4番で指揮をしているマーク・エルダーは1947年生まれのイギリスの指揮者。1970年にはレイモン・レッパードの助手としてグラインドボーン・オペラで学び、72年にオーストラリアのシドニー・オペラハウスでヴェルディの「ナブッコ」でデビューしている。その後もオペラ畑でのキャリアが目立つが、アメリカのロチェスター・フィルの音楽監督を89年から94年まで、サイモン・ラトルが率いるバーミンガム市交響楽団の首席客演指揮者を92年から務め、またプロムスにもしばしば登場するなど、活動の場は広い。
 一方、シマノフスキの声楽付きの作品、交響曲第3番を指揮しているベテラン指揮者ノーマン・デル・マーは1919年に生まれたイギリスの指揮者、ホルン奏者。王立音楽学校を卒業後、名指揮者トーマス・ビーチャムに見いだされ、ロイヤル・フィルのホルン奏者をしながら、やがて指揮者となった。夭折の天才ホルン奏者として有名なデニス・ブレインは親友だったという。BBCスコティッシュ交響楽団などで活躍し、後期ロマン派、特にリヒャルト・シュトラウスを得意としていたが、1994年には世を去った。
 なお、この3曲の録音が1983年に集中していることに、ご注目いただきたい。この年は、ポーランドではワレサ委員長の率いる自主管理労組「連帯」が、当時の政府により戒厳令発布後、非合法化されて弾圧を受け、それが国際的に問題化していた時期にあたる。この年のロンドンのプロムスにパヌフニクやシマノフスキの作品が登場したのも、おそらく、その関係だろう。(1995.9.15 執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
 今回分の冒頭にある「別項」とは、もちろん、本日も掲載してある前文に書いてある2010年1月2日付け当ブログ掲載文章のことです。
 イギリスの音楽ジャーナリズムが政治的状況に敏感に反応したプログラムの一端を聴く思いがします。思えば、ロンドンは、多くの亡命者に演奏の機会を与えてきた都市でもあります。


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ギュンター・ヘルビッヒ/BBCフィルのベートーヴェン交響曲

2010年05月15日 16時12分14秒 | BBC-RADIOクラシックス






 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の23枚目です。


【【日本盤規格番号】CRCB-6033
【曲目】ベートーヴェン:交響曲第4番
           :交響曲第5番「運命」     
【演奏】ギュンター・ヘルビッヒ指揮BBCフィルハーモニー管弦楽団
【録音日】1982年12月14日、1983年7月6日    

■このCDの演奏についてのメモ
 ベートーヴェンの交響曲を2曲収めたこのCDで、イギリスの聴衆にドイツ・オーストリア圏の音楽の神髄を聴かせているギュンター・ヘルビッヒは、1931年にチェコスロヴァキアに生まれたが、ドイツの名指揮者ヘルマン・アーベントロートに学び、ワイマール歌劇場でデビューするなど、ドイツの正統的な音楽環境の中で育った指揮者。ヘルマン・シェルヘンのアシスタントを務めたこともある。
 72年から77年までドレスデン・フィルハーモニー、77年から83年までベルリン交響楽団の首席指揮者、音楽監督を歴任しており、この時期までは、当時の東ドイツ側を活動の場としていたが、83年以降アメリカに移り、ダラス交響楽団の首席客演指揮者を経て、84年からドラティの後任としてデトロイト交響楽団の音楽監督に就任した。90年からは、カナダのトロント交響楽団の音楽監督に就任している。
 BBCフィルハーモニーはBBCノーザン交響楽団が83年に改称されたもので、BBC放送局が傘下に収める管弦楽団のひとつ。イギリスのマンチェスターに本拠を置いている。
 ヘルビッヒは80年代に入ってから、毎年のように、このBBCフィルハーモニーに客演していて、この顔触れでのレコーディングには、英コリンズ・クラシックスにブラームス「交響曲第1番」他などもあり、息のあったところを聴かせている。
 このCDのベートーヴェンは、単なるスタンダードに留まっていない、歴史や伝統に深く根を下ろした確かさのある演奏で、表情にも無理がなく、豊かに音楽が呼吸しているのが聴いていて心地よい。イギリスの音楽界は、こういう地味だが本物の手ごたえを持った演奏家を見つける、独特の鑑賞眼を持っている。(1995.9.21 執筆)



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ギュンター・ヘルビッヒ/BBCフィルの「英雄の生涯」ほか

2010年05月11日 14時23分10秒 | BBC-RADIOクラシックス






 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の22枚目です。




【日本盤規格番号】CRCB-6032
【曲目】R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」
           :交響詩「死と変容」     
【演奏】ギュンター・ヘルビッヒ指揮BBCフィルハーモニー管弦楽団
    ジョン・プリッチャ―ド指揮BBC交響楽団
【録音日】1985年4月6日、1980年1月10日    


■このCDの演奏についてのメモ
 リヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲を2曲収めたCDだが、演奏者が各々異なっている。
 それぞれの経歴を以下に簡単に記そう。
 ギュンター・ヘルビッヒは1931年にチェコスロヴァキアに生まれたが、ドイツの名指揮者ヘルマン・アーベントロートに学び、ワイマール歌劇場でデビューするなど、ドイツの正統的な音楽環境の中で育った指揮者。ヘルマン・シェルヘンのアシスタントを努めたこともある。
 72年から77年までドレスデン・フィルハーモニー、77年から83年までベルリン交響楽団の首席指揮者、音楽監督を歴任しており、この時期までは、当時の東ドイツ側を活動の場としていたが、83年以降アメリカに移り、ダラス交響楽団の首席客演指揮者を経て、84年からドラティの後任としてデトロイト交響楽団の音楽監督に就任した。90年からは、カナダのトロント交響楽団の音楽監督に就任している。
 ヘルビッヒは80年代に入ってから、毎年のようにイギリスのBBCフィルハーモニーに客演していて、この顔触れでのレコーディングも英コリンズなどにあり、息のあったところを聴かせている。BBCフィルハーモニーはBBCノーザン交響楽団が83年に改称されたもので、BBC放送局が傘下に収める管弦楽団のひとつ。マンチェスターに本拠を置いている。
 一方のプリッチャードは1921年にロンドンに生まれ、47年に名指揮者フリッツ・ブッシュの助手としてグラインドボーン音楽祭に参加。49年には急病のブッシュの代役でデビュー。その後はロイヤル・リヴァプール・フィル、ロンドン・フィルなどの首席指揮者、グラインドボーン音楽祭の音楽監督、そして西ドイツのケルン歌劇場の首席指揮者などを歴任した。BBC響の首席指揮者には1982年から、1989年の死の年まで着任している。(1995.9.21 執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
なんとも素っ気ない文章で、今更ながら、申し訳なく思っています。特記すべき特徴がなかったのでしょう。すっかり忘れています。100点ものアイテムが揃えば、そういうものもあります。ただ、「ヘルビッヒ」という指揮者を聴いたのも、経歴を調べたのも、このCDの解説の時が最初だったと思います。手堅い演奏だったという印象だけは記憶にあります。たしか、この後、同シリーズの中で、ヘルビッヒの演奏については、何か書いたように思います。


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エルガーの交響曲の本質を気づかせるプリッチャードの名演は、バルビローリ、ボールトを超えている?

2010年05月08日 07時56分47秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の21枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6031
【曲目】エルガー:序曲「南国にて(アラッショ)」作品50
         交響曲第1番 変イ長調 作品55     
【演奏】ジョン・プリッチャ―ド指揮BBC交響楽団
【録音日】1974年7月30日、1983年3月22日    

■このCDの演奏についてのメモ
 BBC RADIO-クラシックスのシリーズに収められたブラームスの「第2交響曲」で、感動的なまでに精神の燃焼する瞬間を聴かせた名指揮者プリッチャードによる、エルガーの作品の演奏を聴くCD。「交響曲第1番」では、序奏部のずしりとした確かな足取りを聴いた瞬間から、英国流ロマンの世界が濃密に開始される。金管楽器群の低域をえぐるような響きにティンパニが重なり合う轟音にたどり着く一瞬の間(ま)にも、プリッチャードの〈構え〉の大きな音楽の手ごたえが感じられる。
 この曲では同じイギリスの名指揮者ジョン・バルビローリの、優しく弦楽器が歌う抒情的な演奏が有名だが、プリッチャードの容赦のない厳しさと確固とした造形感によって鳴りわたる巨大さの気配からは、この作品がまぎれもなくアングロ・サクソン系の偉大な作曲家の作品であることが確信できる。バルビローリ的な演奏スタイルのカンタービレ精神が、必ずしも〈イギリス〉を代表するものではないということを、思い知ったのは、私ひとりではないだろう。
 ボールトの演奏も、これほどにどっしりとした押し出しのよい歩みは聴かせてくれなかった。このプリッチャードの演奏は、作品の真正のイメージに、おそらく最も近い演奏だと思う。日本での知名度はあまり高くないプリッチャードだが、戦後に登場した世代では、イギリスで最も愛されていた指揮者だというのも頷ける。
 1921年にロンドンに生まれたプリッチャードは、47年に名指揮者フリッツ・ブッシュの助手としてグラインドボーン音楽祭に参加。49年には急病のブッシュの代役でデビュー。その後はロイヤル・リヴァプール・フィル、ロンドン・フィルなどの首席指揮者、グラインドボーン音楽祭の音楽監督、ケルン歌劇場の首席指揮者などを歴任。BBC響の首席指揮者には1982年から、1989年の死の年まで着任している。(1995.9.21 執筆)
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マーラー『大地の歌』の個性的な演奏(レッパード/BBCノーザン響、ジャネット・ベイカーほか)を聴く

2010年04月28日 00時52分38秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の20枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6030
【曲目】マーラー・交響曲「大地の歌」
【演奏】レイモンド・レッパード指揮BBCノーザン交響楽団
    ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)
    ジョン・ミッチンソン(テノール)
【録音日】1977年2月22日    

■このCDの演奏についてのメモ
 第1楽章を聴き始めてすぐに気付くことだが、これは、聴き慣れたマーラー演奏とかなり異なり、きびきびした音楽の運びで、ロマン的情緒に耽溺することなく進んで行く演奏だ。こうしたスタイルが上滑りにならないのは、管弦楽各部の旋律線がどこまでも明瞭に捉え切れていて、そのくっきりとしたラインに沿って、歌手の方も明るく乾いた感触で軽々と歌い継がれて行くからだろう。
 こうした印象は第2楽章に入ってからも、それほど変わらない。極めて個性的な演奏で、必ずしもこの曲の標準を示すものではないが、こうした演奏が、イギリスの演奏家と聴衆との間で成立していたという事実には、興味深いものがある。第4楽章の細やかで軽やかな表現など、この作品の魅力に新しい視点を提示している。
 この特異なマーラー演奏を指揮しているレイモンド・レパードは、1927年にロンドンに生まれ、主として17、18世紀音楽の指揮者、チェンバロ奏者として活躍している。59年にはヘンデルの「サムソン」で王立歌劇場(コヴェントガーデン)にデビュー。60年以降イギリス室内管弦楽団の指揮者としても活躍し、73年から80年までは、BBCノーザン交響楽団の首席指揮者でもあった。モンテヴェルディ作品の校訂者としても高く評価されている。
 テノールのジョン・ミッチンソンは1933年生まれのイギリス人。この「大地の歌」やワグナーの「トリスタン」、ストラヴィンスキーの「エディプス王」などを得意にしているという。
 メゾ・ソプラノのジャネット・ベイカーも1933年生まれのイギリスの歌手だが、62年にクレンペラー指揮によるマーラーの「交響曲第2番《復活》」で評価されて以来、マーラー歌手としても高く評価されている。 (1995.7.30 執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
この演奏の「個性」については、もっと詳しく書かなければならないと思いながら、未だに果たせていません。今回の再掲載を機会に、ゆっくり聴き直そうと思っていたのですが、私事で恐縮ですが本日より1週間ほど、ゆっくりと音楽を聴ける環境でなくなるので、とりあえず、このブログアップだけ行います。ブログの更新も、1週間ほど休止せざるを得ないかもしれません。しばらくお待ちください。(実は、この連休を機会に、私の厖大なコレクションの山の、抜本的な分類、再整理作業に入るのです。言うなれば、本気で、「晩年の仕事」の準備を開始するのです。)

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イギリスのめずらしい管弦楽曲を聴くCD(フィンジのクラリネット協奏曲ほか)

2010年04月27日 14時26分31秒 | BBC-RADIOクラシックス





 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の19枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6029
【アルバムタイトル】「イギリス音楽名曲集」
【曲目】バターワース:青柳の堤~管弦楽のための牧歌
    V=ウイリアムズ:タリスの主題による幻想曲
    W・リー:ハープシコード協奏曲
    P・ウォーロック:カプリオル組曲
    フィンジ:クラリネット協奏曲
    フィンジ:イントロイト~Vnと管弦楽のための
【演奏】エイドリアン・ボールト指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
    エイドリアン・ボールト指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
    ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団
    レナード・ハーシュ指揮ハーシュ・チェンバー・プレイヤーズ
    ブライデン・トムソン指揮BBCノーザン交響楽団
    ジョージ・マルコム(ハープシコード)
    ジャネット・ヒルトン(クラリネット)
    ジェラルド・ジャーヴィス(ヴァイオリン)
【録音日】1969年11月26日、1972年7月7日、1972年9月7日、1965年2月18日、1978年9月27日
■このCDの演奏についてのメモ
 このCDは、演奏者も録音時期もばらばらで、一見とりとめがないが、イギリスの北国的な自然を彷彿とさせる田園詩風、あるいは牧歌風といった美しい作品を収めたCD。比較的めずらしい作品が多いが、イギリス音楽の一面の傾向がコンパクトに凝縮されている。
 エードリアン・ボールトは1889年に生まれ、1983年に、イギリス指揮界の重鎮と言われながら94歳の高齢で世を去った。イギリスの近代作品の紹介に尽力する一方で、若き日にライプチッヒ音楽院やニキッシュに学んだ幅広いレパートリーを持ち、ドイツ古典派から後期ロマン派の作品まで、多くの作品を取り上げてイギリスの聴衆に愛された。
 ネヴィル・マリナーは1924年にイギリス東部のリンカーンに生まれた。オーケストラのヴァイオリン奏者として活動した後、アカデミー室内管弦楽団(アカデミー・オブ・セントマーチン・イン・ザ・フィールズ)を結成した。チェンバロで共演しているジョージ・マルコムは、1917年生まれのイギリスの指揮者、チェンバロ奏者。1947年から59まではウェストミンスター大聖堂楽長を務めた。
 レナード・ハーシュは、1902年にアイルランドの州都ダブリンに生まれたヴァイオリニスト、指揮者。ハレ管弦楽団の奏者を経て自らの室内アンサンブル、ハーシュ・チェンバー・プレイヤーズを組織した。また、ハーシュ弦楽四重奏団も結成した。BBCトレイニング・オーケストラの初代音楽監督にも就任し、王立音楽学校の教授として後進の指導に当たるなど、教育方面でも活躍している。
 ブライデン・トムソンは、1928年にスコットランド南西部の港湾都市エアーに生まれた指揮者。BBCスコティッシュ交響楽団、オスロ、ストックホルムなど北欧のオペラハウスの指揮者を経て、68年から73年までBBCノーザン交響楽団、79年から88年までBBCウェールズ交響楽団の首席指揮者を歴任し、88年からスコティッシュ・ナショナル管弦楽団の首席指揮者となったが、91年に世を去った。イギリス近代の作品や北欧音楽の指揮では定評があった。(1995.9.23 執筆)

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ダグ・ウィレン『弦楽セレナード』が隠れた名曲だと知ったCDのこと。

2010年04月20日 13時00分44秒 | BBC-RADIOクラシックス





 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の18枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6028
【アルバムタイトル】「北欧音楽名曲集」
【曲目】シベリウス:交響詩「フィンランディア」
          交響詩「トゥオネラの白鳥」
    ニールセン:序曲「ヘリオス」
    グリーグ:「過ぎし春」
        :組曲「ホルベアの時代から」
    ダグ・ウィレン:弦楽セレナード 作品11
【演奏】モーリス・ハンドフォード指揮BBCスコティッシュ交響楽団
    チャールズ・グローヴズ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
    ロジェストヴェンスキー指揮BBC交響楽団
    レナード・ハーシュ指揮ハーシュ・チェンバー・プレイヤーズ
【録音日】1981年12月11日、1973年2月19日、1979年11月19日、1965年2月19日、1978年12月12日    

■このCDの演奏についてのメモ
 イギリスの音楽ファンが大好きな北欧音楽を集めたCD。演奏者の顔触れがかなり入り組んでいるが、いずれもそれぞれの音楽の勘どころをよくとらえた演奏で、とくにレナード・ハーシュが自身の室内アンサンブルを指揮したグリーグとダグ・ウィレンの演奏は、彼らイギリス人にとって北の国の音楽が、どのような響きを理想としているのかを聴く思いがする。厳しくも温かい、澄み切った美しさがここにある。
 レナード・ハーシュは、1902年にアイルランドの州都ダブリンに生まれたヴァイオリニスト、指揮者。ハレ管弦楽団の奏者を経て自らの室内アンサンブル、ハーシュ・チェンバー・プレイヤーズを組織した。また、ハーシュ弦楽四重奏団も結成した。BBCトレイニング・オーケストラの初代音楽監督にも就任し、王立音楽学校の教授として後進の指導に当たるなど、教育方面でも活躍している。
 ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーは1931年生まれの旧ソ連の名指揮者。1978年から82年まで、このCDで共演している BBC交響楽団の音楽監督に就任していた。
 チャールズ・グローヴズは1915年にロンドンに生まれ、92年にロンドンで急性心不全により急逝したイギリスの指揮者。このCDで共演しているロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニック管弦楽団とは、63年から77年まで首席指揮者として活躍していた。
 モーリス・ハンドフォードは1929年に生まれ86年に世を去ったイギリスの指揮者。シベリウスを得意にしていた名指揮者ジョン・バルビローリの下で、49年から61年までハレ管弦楽団の副指揮者を務めたのち、バーミンガム市交響楽団の指揮者陣に加わり、71年から75年までカルガリー・フィルハーモニック管弦楽団の首席指揮者を務めていた。(1995.7.30 執筆)

【ブログへの再掲載に際しての付記】
 レナード・ハーシュによるダグ・ウィレンの作品は、確かジョージ・ウェルドンが録音しているのを、この原稿執筆直後に知って聴いたようにも記憶しています。いずれにしても、私自身は、このBBCのCDで初めて知りました。とても印象的な曲です。
 レナード・ハーシュという人については、当時の私の原稿のフロッピー・データでは「レオナード・ヒルシュ(名前の発音が不明なので、とりあえず、こう表記する)」となっています。今回、ブログに再掲載するにあたって、発売されたときのパンフレットを見たところ「レナード・ハーシュ」となっていたので、それに従いました。かなり昔のことなので記憶があいまいですが、CDの発売までに、なんらかの根拠によって表記を決定したものと思います。


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ロンドンの聴衆を震撼させたロジェストヴェンスキー/レニングラード・フィルの1971年「幻想」ライヴ

2010年04月16日 07時52分56秒 | BBC-RADIOクラシックス




 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の17枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6027
【曲目】ベルリオーズ:「幻想交響曲」
     :「べンヴェヌート・チェルリーニ」序曲
【演奏】ロジェストヴェンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
    ローレンス・フォスター指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
【録音日】1971年9月9日、1970年11月29日    


■このCDの演奏についてのメモ
 このCDで「幻想交響曲」を指揮しているゲンナジー・ロジェストヴェンスキーは、1931年生まれの旧ソ連の名指揮者だが、イギリスにとっては縁の深い指揮者のひとりだ。このCDでの演奏もそうだが、たびたびのロンドン訪問で、その実力の程をロンドンの聴衆に示していたロジェストヴェンスキーは、ルドルフ・ケンペが就任後1年たらずで急逝して後任に困っていた BBC交響楽団の首席指揮者に、1978年から82年までの間、就任していた。もっと長く続くはずだった BBC響との関係は、当時のソ連政府の強引な引き戻し策により4年間で終わってしまったが、その充実した時代の演奏は、このBBC-RADIO・クラシックスのシリーズでも聴くことができるはずだ。
 ところでこの「幻想」の名演は、そのロジェストヴェンスキーがロンドンの聴衆の心を捉えたロイヤル・アルバート・ホールでの、1971年9月の演奏会のライヴ録音だ。オーケストラが当時のソ連を代表していたレニングラード・フィルハーモニック。ロジェストヴェンスキーの抜群の棒さばきで、精緻な音のひだを織り上げていく色彩感、豊かなダイナミズムを補完するメリハリのはっきりしたリズムの切れなどが、豊かな感興にあふれてくりひろげられて行く。終楽章でのあけすけな金管群の大音響は、ロシア系の音楽家が率直に音楽するときに、しばしば聴かれるものだ。彼らをここまで燃え上がらせたものが、ロイヤル・アルバート・ホールの大観衆の熱気だったと信じさせる拍手と歓声まで、後半は一気に聴かせてしまう推進力がある。貴重なライヴ盤の登場だ。(1995.7.30 執筆)


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20代ピーター・ドノホーの、若々しい「パガニーニ変奏曲」ライヴ録音を聴く

2010年04月13日 11時41分44秒 | BBC-RADIOクラシックス







 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第1期30点の16枚目です。


【日本盤規格番号】CRCB-6026
【曲目】ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
    チャイコフスキー:ワルツ~バレエ「白鳥の湖」第1幕より
            :幻想序曲「ロメオとジュリエット」
    ボロディン:ダッタン人の踊り~歌劇「イーゴリ公」第4幕より
【演奏】ピーター・ドノホー(pf)
    セルジュ・コミッショーナ指揮バーミンガム市交響楽団、同合唱団
    ギュンター・ヘルヴィッヒ指揮BBCノーザン交響楽団
【録音日】1978年1月14日、1981年7月17日    


■このCDの演奏についてのメモ
 セルジュ・コミッショーナ指揮バーミンガム市交響楽団によるロシア音楽の演奏会からの3曲に、ギュンター・ヘルヴィッヒ指揮BBCノーザン交響楽団による1曲を加えたCD。演奏者の経歴からも感じられることだが、二人とも東欧出身でありながら、ロシア的でもなければ、生粋のイギリス趣味で描かれたロシア的ノスタルジーの表出とも異なる、インターナショナルな感覚の演奏が聴きとれる。
 コミッショーナは、1928年にルーマニアのブカレストに生まれた指揮者。56年にブザンソン国際青年指揮者コンクールで2位となった後、59年にイスラエルに移住した。イギリスの音楽界とは62年から66年までロンドンの王立歌劇場(コヴェントガーデン)のバレエ指揮者を務めた時代が一番関係が深く、この頃はロンドン・フィルの演奏会にも登場していたようだ。だが、66年にスウェーデンのエーテボリ交響楽団の音楽監督に就任した後、69年にはアメリカに渡り、84年までボルティモア交響楽団の音楽監督、84年から88年まではヒューストン交響楽団の音楽監督をしている。その間、76年にはアメリカの市民権を得ている。90年からはスウェーデンのヘルシンキ・フィルハーモニーの音楽監督として活躍している。
 ピアノで共演しているピーター・ドノホーは、1953年にイギリスのマンチェスターで生まれた。最近は、現在のバーミンガム市響の音楽監督サイモン・ラトルとのコンビでの録音が多いが、これはドノホーがまだ20歳代の録音。最近売り出し中のピアニストの若き日の貴重な記録だ。
 ヘルビッヒは、1931年にチェコスロヴァキアに生まれ、72年から77年までドレスデン・フィル、77年から83年までベルリン響、と当時の東ドイツの音楽監督、首席指揮者を歴任した。その後アメリカへと活動の場を移してダラス響、デトロイト響を経て、カナダのトロント響の音楽監督に就任した。なお、このCDでヘルビッヒと演奏している BBCノーザン交響楽団は、マンチェスターを本拠地とする BBC傘下のオーケストラのひとつ。83年にBBCフィルハーモニック管弦楽団と改称した。(1995.7.21 執筆)



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