1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、合わせてお読みください。
以下に掲載の本日分は、第1期30点の1枚目です。
【日本盤規格番号】CRCB-6011
【曲目】ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲(1974年8月10日録音)
マーラー:交響曲第4番ト長調(1977年5月4日録音)
【演奏】サー・チャールズ・マッケラス指揮/BBC交響楽団
シーラ・アームストロング(ソプラノ)
■このCDの演奏についてのメモ
チャールズ・マッケラスは、オーストラリア人を両親に、1925年にニューヨークに生まれた。シドニー交響楽団のオーボエ奏者からスタートしたマッケラスは、ロンドンに留学、そして紹介者があって、チェコ・フィルハーモニーの大指揮者ヴァツラフ・ターリヒを頼ってプラハに留学した。ターリヒとの出会いは、マッケラスをヤナーチェクの音楽の虜[とりこ]にしてゆくきっかけになったという。25歳の1951年にロンドンのサドラーズ・ウェルズでヤナーチェクの歌劇「カーチャ・カヴァノヴァ」のイギリス初演を行い、その後、オペラ、バレエの指揮者としてまずまずの仕事をしていたマッケラスが、結局、その名声を決定付けたのは、ウィーン・フィルとのヤナーチェクの一連の作品の録音だった。
こうした経歴のマッケラスのマーラー録音ということで、奇異な感じを受けるかも知れないが、この若き日に一時、ロンドンから遠く離れたプラハで音楽的感性を豊かにしていった指揮者にとっては、近代的知性と傷つきやすい魂の体現者であるマーラーの世界も、ボヘミア出身の作曲家としてのマーラーの出自に引き寄せたものになっているようだ。風景画のような世界が眼前にひろがっていく豊かな情感を湛えた演奏だ。マッケラスの当CDの演奏はBBC響の首席客演指揮者就任のころのものだが、この演奏はロンドンの聴衆を深く感動させたと伝えられている。
ソプラノのシーラ・アームストロングは1942年生まれのイギリスの歌手。レコード録音ではバルビローリの「ペール・ギュント」や、バレンボイムのフォーレ、モーツァルトの「レクイエム」などがあった。(1995.7.24)