怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

吉森 保「life science 長生きせざるをえない時代の生命科学講座」

2021-08-28 06:42:42 | 
350ページに及ぶハードカバーの生命科学講座と言うので読み終えることができるかどうかと構えて読んでみたのですが、文章はわかりやすく、小難しい理屈はスルーしても分かるように書いてあるので、最近脳細胞が減少し、目も見えにくくなっている身でも結構スムーズに読了できました。

私は不明なことに吉森保先生という名前はまったく知りませんでしたが、ノーベル賞を受賞した大隅良典先生の下でオートファジーの研究に従事していて、大隈先生との共同受賞も噂されたほどの第一級の研究者です。最近の進歩が著しい生命科学を第一級の研究者だからこそ文系の私にも分かりやすく書けたのでしょう。
「難しいことをやさしく やさしいことを深く 深いことを愉快に 愉快なことをまじめに書く」井上ひさし
ところでこの講義の最初は「科学的思考を身につける」です。真実は神様しか分からない領域で科学理論は「真実っぽい仮説」ですが仮説が真実に近いとそこから他のいろいろなことを説明したり、予想できたりできる。仮説と検証が科学の基本で、「相関」と「因果」を繰り返し検証しなければいけない。現在のコロナ禍においていろいろな人が専門家と称してマスコミに登場しているが、現在進行形で検証が不十分な仮説が多く矢鱈と断言する人はマスコミ受けはいいのだろうが科学的に怪しい。
この第1章はコロナ禍の今こそ理解していなければいけないことで、必読です。
因みに学者の評価についてもいろいろ紹介してあって、基本は論文によります。論文が掲載される雑誌では生命科学では「nature」「cell」「science」がトップ3。論文が掲載されるには査読を経なければいけないので、このフィルターを通過するだけでも大変なこと。この3誌に掲載されるだけで評価は高くなります。でも雑誌に論文がのっても間違っていたこともあって、論文の世界は性善説によっているので、小保方さんのように不正があれば編集部も査読者もスルーしてしまいます。
第2章からはいよいよ生命科学についての講義。高校の頃の生物の授業程度の知識しかない私のも分かるように噛んで含めて書いてありますが、もちろん最新の研究成果が織り込んであって、知らなかったことが続出です。
生命の基本は細胞。人間は約37兆の細胞で出来ているのですが、一つ一つの細胞の中それぞれに、ひとりの人間を作るすべての遺伝情報が入っている。細胞の中はたんぱく質が主役。そのたんぱく質を決めるのは遺伝子で、一つの遺伝子は一つのたんぱく質だけを決める。ところで細胞はたんぱく質以外のものからもできているのですが、それらは遺伝子で規定されていません。ではたんぱく質以外の体の成分はどうやって作られるのかと言うと、酵素(これもたんぱく質)がそれらを作ったり取り込んだりできるから。たんぱく質はすごいと言うかDNAはすごい。
病気になるのは体の恒常性が保てなくなるから。恒常性を保つために働いているのが細胞なので細胞に異変が生じたときに病気になる。ここらあたりからだんだん難しくなってくるのですが、適当にスルーしつつ我慢して読んでいきましょう。
病気になるのを防ぐための免疫のについて講義に進んでいきます。敵を排除する方法としては皮膚などの物理的な壁、食細胞やキラーT細胞の免疫細胞による排除。そして抗体によるウイルスの侵入を阻止。ウイルスの鍵にくっついてウイルスが細胞に入り込めなくすのですが、鍵穴に入りこめなくする抗体を「中和抗体」と言います。抗体にはいろいろあって感染阻止に重要なのはこの中和抗体。最近コロナワクチンの効果の議論でよく聞きます。集団免疫とかの話もあって、コロナ禍での議論を考えるのに参考になりますが、まだ結論付けるにはデータが少ないので確定的なことは言えないのが本当のところ。逆にあまり確定的なことを言う議論は疑わしい。
ところで不老長寿は人間だれしも願うのですが、人間は生物的に見ると老化のスピードはめちゃくちゃ早くて、老化も死と同じで進化の過程で絶滅を避けるためにわざわざそれを選んだ可能性が高いとか。
ここから第4章となり吉森先生の専門の「オートファジー」。これは最新の議論で、私にとっては未知の領域。オートファジーとは細胞の中の物を回収して、分解してリサイクルする現象」であり、その役割は
①飢餓状態になった時に、細胞の中身をオートファジーで分解して栄養源にする
②細胞の新陳代謝を行う
③細胞内の有害物を除去する
因みにオートファジーの研究が進んだのは大隈先生が必要な遺伝子を発見し1993年に論文を発表してから。私の学生時代には未知だったはずです。
学生時代に学んでいなかった人は、この章は是非実際の本で読んでください。
最後の章では「寿命を延ばせば何をすればいいか」です。どうしたら寿命が延びるかはある程度分かっているそうで、主なものは5つ。
①カロリー制限
②インスリンシグナルの抑制
③TОR(細胞の中にいて細胞の増殖や代謝をコントロールしているたんぱく質)シグナルの抑制
④生殖細胞の除去(ほとんど機能が失われつつある我が身では今更除去しても手遅れのような気がしますが)
⑤ミトコンドリアの抑制
いずれも生存には必要な機能だけれども、その機能は押さえた方がいいみたい。元気がありすぎると長生きしないと言うことか。ただいずれも「なぜ」かははっきりしてませんし、相互の関係性もない。でもいずれもオートファジーを活性化する。オートファジーを活性化できれば、加齢性疾患つまり老化の抑制につながる可能性が高い。
オートファジーを活性化する食品成分は「スペルミジン」で、納豆、味噌醤油、チーズなどの発酵食品とかシイタケなどのキノコ類に含まれている。「レスベラトール」もよくてブドウや赤ワインに含まれています。運動もオートファジーを活性化するそうで、結論的には食べすぎず、適度な運動がベスト!ちょっと当たり前すぎる結論なんですけどね。やっぱり晩酌はチーズに赤ワインか、冷奴になめ茸和えで日本酒(これも広義の発酵食品?)ですか。
だいぶ端折っての紹介ですが、新しい知見が豊富に出て来て、特に今のコロナ禍の状況では有用な情報が多く、文系の人こそ多少なりとも興味を持てたのなら実際にしっかり読むべき本だと思います。図書館でも予約の順番待ちなので注目されているのでしょう。

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