怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」

2020-10-13 17:49:48 | 
どうせ時間はあるのだから、今回は腰を落ち着けてかねてから読んでみたいと思っていた「銃・病原菌・鉄」を読みました。

上下巻で合わせて600ページ以上。
知的好奇心をバンバン刺激してきて、読みにくいということはないのですが、集中力が続かないふにゃふにゃ頭になって、加えて最近目も悪くなったことにより薄暗いところでは全く見えず、結局読了するまでに2週間以上かかりました。
それでもコロナ禍の今、人類が病原菌、ウイルスとどう出会い、どう折り合いをつけてきたか考えるには押さえておく本でしょう。
約1万3千年前の更新世後期の人類は、世界各地で小グループの狩猟採集生活をしていた。その文明度と言うか暮らしぶりは大陸ごとにほとんど差はなかった。小集団での狩猟採集生活が基本で、比較的食糧確保の容易な恵まれた地域では定住生活をしてるところもでてきた。しかし、農耕栽培はまだ行われておらず、家畜の飼育も始まっていなかった。
それでは世界の各地の文明の差はどうして生じたのだろうか。
人類が植物を栽培することを見出したのは、チグリスユーフラテス文明が誕生した肥沃な三日月地帯、そして少し遅れて中国。そこには栽培に適した植物の原種があり何世代かの品種改良の結果、農耕栽培を営むことによって定住生活を実現していった。つまりユーラシア大陸には栽培化可能な植物種(麦とか米)が分布しており、さらに家畜可能な適性のある野生の動物種(牛、馬、羊、豚)がいた。農耕栽培と家畜によって食糧生産は飛躍的に上昇し、定住化し、余剰生産物の蓄積を可能にした。そのことが非生産者階級の専門職を養うゆとりを生み出し、人口の稠密な大規模集団の形成を可能にした。実は南北アメリカ大陸、オーストリア大陸そしてアフリカ大陸には、家畜に可能性のある大型哺乳類は更新世後期には絶滅しており、農耕栽培に適した植物原種も少なかった。
ユーラシア大陸は東西に方向に延びており、緯度が同じのため環境に合わせて技術の内容を変える必要がなく、作物や家畜の伝播が容易だった。一方南北アメリカ大陸、アフリカ大陸は南北に伸びており、四季の変化が大きく違い、農耕の伝播や拡散が極めて難しかった。麦も亜熱帯、熱帯では栽培不可能、牛や馬も熱帯ではうまく生き延びられないのだろう。
さらにアフリカ大陸は広大な砂漠によって分断されており、南北アメリカ大陸は中央は狭い地峡で隔てられていて、ユーラシア大陸とは大洋によって隔てられている。オーストラリア大陸はインドネシア海域によってユーラシア大陸と隔てられていた。
地図を見ればすぐにわかる事だが、ユーラシア大陸は面積が大きく、当然そこに暮らす人口も多い。人口が多ければ何かを発明する人間の数が相対的に多く、利用可能な技術も相対的に多く、技術の受け入れを促す社会的圧力もそれだけ高い。新しい技術を受け入れなければ競合する社会に負けてしまうからだ。多くの狩猟採集民は、新しい技術を取り入れず、自分たちの土地に入り込んできた農耕民にとってかわられてしまった。
農耕と家畜がもたらした人口の稠密な社会では、家畜などからもたらされてきた色々な病原菌、ウイルスの攻撃にさらされてきた。多くの犠牲を払いながら、それらの病原菌と何世代もかけて免疫を獲得していき、共存できるようになってきた。今回のコロナ禍でも時間はかかるのだろうが犠牲を払いつつ人類は集団免疫を獲得していき、ウイルスと共存していくことになるのだろう。
ところがそれらの病原菌にさらされたことがなく免疫を持っていなかった南北アメリカの狩猟採集民は天然痘の免疫を持たずに社会全体が危機に陥る。スペイン人が進出してきたときには天然痘のパンデミーとなり、インカ帝国が容易に征服されてしまう一つの要因となった。ところでピサロによるインカ帝国征服の大虐殺は読むだけで反吐が出そうだが、それを可能にした思想的背景としてのキリスト教も人口稠密社会で争いなく共生し余剰生産物を円滑に分配する必要から生まれたものと考えると、生産力が社会を規定する…
いささか唯物史観的だが、カバーするレンジは長く、視野は広い。重複する面もあるのかエンゲルスの「家族、私有財産、国家の起源」を読み返してみようかなとも思うのだが、まだ本棚にあるか…
とにかく600ページ余りの本なので読むだけでも大変なのですが、レビューを書くのも大変。強引に2千字余りで要約するなんて言うのは無茶で、作者のダイアモンドさんに失礼なのですが、専門書ではないので予想外に読みやすくて、20年前の出版なんですが、知的好奇心を刺激される楽しい時間を過ごせました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする