カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

無からの天地創造説は珍しい ー 創造論(学び合いの会)

2022-05-23 21:41:57 | 神学


 5月の学び合いの会は久しぶりの五月晴れのもとに開かれた。会合にはマスクをしない人も数人おられ、コロナ禍も少しづつ落ち着き始めているようだ。

 今回からはいわゆる「神学的人間論」が取り上げられる。神学的人間論というのもわかりづらい表現だが、どうもカトリック神学の視点からの人間論という意味のようだ(1)。具体的には、創造論・原罪論・恩恵論・終末論を指し、さらに神論とマリア論を含むようだ。一言で言えば救済論のことのようだ。神学の中で言えば、教義学の中で(つまり実践神学以外で)キリスト論と教会論には含まれない領域を扱う幅広い分野を指すようだ。今回は創造論が取り上げられた。テーマとしては以下の通りだ。

1 概要
2 さまざまな創造神話
3 旧約聖書
4 新約聖書
5 聖書における人間観
6 教義史
7 結び

 細かく、専門的な議論が続くが(2)、私が理解しうる限りでの要約を試みたい。

Ⅰ 創造
  creatio(ラ) creation(英)Schöpfung独) creation(仏)

 創造とは、一切の世界に対する神の行為とわざを意味し、また、世界の神への全面的依存を理解しようとするテーマを指す(3)。創造論とは創造に対する神学的探究を意味する。それは自然科学が立証しようとする世界の形成や神化についての問いに対する答えではない。

 世界には、文化・歴史によって様々な創造論が「創造神話」という形で存在する。卵が割れて宇宙が誕生したとか、神が海から島をつり上げたとかいう神話だ。だが、キリスト教の創造論はまったく独自だ。他に例を見ない。キリスト教は、唯一の神による「無からの創造」を主張する。それは神の創造物に対する愛のわざであり、救済史と密接に関わっている。
 創世記では、天地創造に先立つ物質は何もなかったという。先立つと言うが、これは「時間」とは何かという問題にも関わるので改めて考えてみたい。

 創造論における以下に挙げる論点はどれも詳説が必要だが、ここでは主要な論点だけを指摘しておくにとどめたい。

①キリスト教の創造論は旧約聖書・新約聖書のいくつかの箇所に記されている。
②初代教会から現代に至るまで多くの神学者によって創造論が考察されてきた。古代中世においては、ギリシャ哲学やグノーシス主義などの思想に対する議論がなされた。
③近代においては、自然科学との対立という形をとった。地動説のガリレオ批判や進化論の問題などだ。だが現代カトリック教会においてはこれらの問題、すなわち自然科学との対立は解消されている。
④現在は創造論に関係する問題として環境問題が論じられている。創世記の記述は果たして環境破壊的なのか、それとも環境保護的なのか、という論争である。現教皇フランシスコは環境保護を強く主張しておられる。
⑤創造論はすでに触れたように原罪論と恩恵論に密接に関係する。これらは神学的人間論と総称され、教義学の一部をなしている。


システィナ礼拝堂(ミケランジェロの天地創造)

 

 

Ⅱ さまざまな創造神話

 古代人は身近な現象から世界や人間の起源を類推して、創造物語を作った。そこには似通ったいくつかの物語の共通のパターンがある。

①創造神の意志による創造:旧約聖書の創世記が典型。無からの創造が主張される。
②原人(世界巨人)の死体からの創造(死体化生説):アッカド(マルドクによるティアマト殺害)(4)、インド(プルシア)(5)、中国(盤古)(6)
③宇宙卵からの創造:フィンランドの神話(カレワラ)(7)、ギリシャ(オルフェウス教)(8)
④世界の両親による創造:日本の記紀神話(いざなぎ・いざなみ)(9)
⑤進化型:東南アジア(洪水の後の生物が出現した)
⑥海の底の泥による創造:シベリア

 旧約聖書の世界像は、アッカドのものと類似している。天・地・水の3分割などはアッカドの創世叙事詩に近いという。「エヌマ・エリシア」の影響もあるという(10)が、同一ではないという。キリスト教の創世記は無からの創造を唱えている点で異なるという。



1 光延一郎『神学的人間論入門ー神の恵みと人間のまこと』 教友社、2010
2 基本的には小笠原優師が東京カトリック神学院で講じておられる講義の一部のようだ。哲学が終わって神学課程に入った神学生向けの話のようだ。昔は哲学2年神学4年といって医学部と同じ課程だったようだが現在の態勢はわからない。中世には医学部も神学部の一部だった名残かもしれない。
3 創造の定義は辞書により(つまり寄稿者により)強調点が異なる。カトリックでもプロテスタントでも共通するのは、①無からの創造と、②言葉による創造 を区別している点だ。これはまた、①宇宙の創造と、②人間の創造 の区別でもある。これは、創世記の1章と2章が別の創造・誕生物語を語っているからであろう。創造論は神の人間および世界に対する関係を論ずるもので、プロテスタント神学では神の能動的行為としての創造と受動的な創造のわざとしての被造物を区別し、被造物としての人間の自己理解を強調する傾向があるようだ。
4 アッカドとはメソポタミア(現在のイラク)をしめるバビロニアの北半分の地域をさす。マルドクとはバビロニアの最高神で、敵のティアマト殺害のなかで天地の創造が語られるという。天と地はマルドクが分離したのだという
5 プルシアとはインド神話の神のことらしいが、詳しいことは解らない
6 盤固とは古代中国で天地を開闢した神の名前のことをいうようだ
7 カレワラとはフィンランドの民族的な叙事詩 一種の英雄譚でフィンランドの至高の古典とされる
8 オルフェウス教とはオルフェウスを創始者とする古代ギリシャの宗教。なお、「卵生神話」は世界各地で見られるという。
9 イザナギ・イザナミは古事記が語る国産み物語に登場する日本最古の夫婦神。高天原の神から生まれ、日本列島を作ったとされる。
10 エヌマ・エリシアまたはエヌマ・エリシュとは、バビロニア神話の創世記叙事詩のこと。マルドク神が中心らしい。

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