M.スコセッシ監督の映画「沈黙」を観てきました。観る前に思っていたよりも印象深い映画でした。「良い映画」といえるかどうかは、エンターテイメント映画としてみるのか、小説の映画化として成功しているのかとか、俳優は適役だったかとか、いろいろな角度からの評価があるのだろうから、わたしにはなんともいえない。カト研のみなさまとも映画鑑賞後の感想を語り合ってみたいものである。
映画を観る前は、遠藤周作の原作は改めてもう一度軽く読み直してあったので、あれこれと予想というか、視点をはっきりさせておこうと思ってメモ風のものを書いて持っていった。
1 スコセッシ監督はこの遠藤周作の「沈黙」をどう理解したのか
2 監督はこの映画を通して何を訴えたかったのか メッセージはなにか、または特定のメッセージを伝えない選択をしているのか
3 観客は誰を想定しているのか、日本人か欧米人か、クリスチャンかノンクリスチャンか、カトリックかプロテスタントか
4 宗教映画(救済論)なのか 日本文化論なのか
5 遠藤周作の神義論(神はなぜ黙っているのか)を監督はどのように説明しているのか6 遠藤は「沈黙」は「神が黙っている」という意味ではなく、「沈黙の声」を話しているといっているが、監督はそれをどう表現するのか
7 ジョンストン師の英訳をどう読んだか、脚本は成功しているか
8 ストーリーは小説そのものかそれとも大幅な変更がなれているのか
など、など、いくつか知りたいことを心に抱きながら観た。観客もそれなりに多かった。
結果、観て良かった、と思った。答えや結論のある話ではないし、また、楽しい話でもない、でも、なぜ現代日本でカトリックが信仰集団としてこれほどマイナーな存在なのかを、遠藤ではなく、イタリア系アメリカ人スコセッシが考えているかを、知ることができた。映画の最後のキャプションに「日本の司祭と信徒のために」と出てきたときはほっとした。バックグランドで流れる、蝉の声、海の音、がスコセッシ監督が考える日本の「自然」なのかもしれない。
「日本は泥沼の湿地だ」という遠藤の命題は、遠藤自身が歳を重ねるにしたがって変化してきていると思われるので固定的に捕らえるのは危険だ。しかもこの本が発表されたのは1966年だ。書かれたのは1960年代初頭だろう、60年安保直後の頃だ、そして描かれているのは1600年代初頭。関ヶ原から島原の乱に至る時だ。1960年代当時、フェレイラを、ジュゼッペ(ロドリゴ)を「転んだ棄教者」として見なす雰囲気があった。かといって、遠藤周作のように、訳者のジョンストン師のように、彼らに近づきすぎることも、「沈黙する神」の望むところではなかったであろう。
遠藤は言う。
踏むがいい、お前の足は今、痛いだろう。
、、、、、、
わたしは沈黙していたのではない、一緒に苦しんでいたのだ
(昭和41年 新潮社 初版 247頁)
ジョンストン師はこう言っていた、
主は人類の歴史に介入しない。主は言う、あなたが苦しむとき、わたしも苦しん でいる。
この意味で言えば、この映画では訳者や訳本(20数カ国語に訳されているという)に言及がない、映画館で購入した分厚いパンフレット(解説本)にもなんの言及もない、不思議と言えば不思議である。今は亡きジョンストン師の生涯を思い起こすとき、ロドリゴの世界は昔話ではない気がしてくる。
キャストや監督の采配にあれこれ感想を述べる力はわたしにはない、主役のA.ガーフィールドなる者も、井上築後守役のイッセー尾形、モキチ役の塚本晋也監督も、力演だったのだろう。デジタル映像ばかりの近年の映画に比べれば、台湾のロケーション撮影は美しい。話は重いが絵は美しい。
この美しい映像は、昨年(2016年4月)イタリア人宣教師シドッチ(~1714)の遺骨が文京区のキリシタン屋敷跡から偶然発見されたことを思い起こさせる。シドッチの場合は相手は新井白石であった。ロドリゴの相手は井上築後守だった。二人の間には半世紀の時間差しかない。潜伏キリシタンと隠れキリシタンの分岐はこの頃始まったのであろうか。
スコセッシ監督はこの映画を撮る経験を通して、再びカトリックの信仰に戻ったのだろうか。遠藤周作は生前この映画について監督と語り合ったという。ジョンストン師がもしこの映画を観れたらどういう印象を持たれただろうか。
と、まぁあれこれと思いが湧いてくる。この種の映画はやはり誰かと一緒に行って、コーヒーでも飲みながらあれこれと感想をしゃべりたくなる。そういう意味では「良き映画」と言えるだろう。
この映画を観て一人でも教会に足を運ぶ人が生まれれば、映画は成功と言えるだろう。
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