わたしの所属教会の信徒の集まりである「アカシアの会」でM氏の報告があった。復活節第4主日の翌日ということで、テーマは「ヨーロッパキリスト教千年王国期の始めと、終わり、今」というものであった。テーマに惹かれて、また教会の長老格であるM氏の発表ということで、11名もの方が雨にもめげずに集まった。
お話は1時間という短いものであったが、自説を交えた個性的なヨーロッパ論で、論争的な内容を含む興味深いものであった。基本的に神学論ではなく、歴史的観点からの議論だった。
無理に要約すれば、「ヨーロッパ」を「空間軸」(地理的に)と「時間軸」(歴史的に)に整理して定義し直すというものであった。
現在の混迷するヨーロッパ世界を理解する視点を提示したいという意欲が伝わるご発表だった。ヨーロッパを「西欧」と「東欧」の二つに分けて説明しがちな現状に対して、ヨーロッパを「一つ」のものとして理解したいというのが趣旨だと理解した。特にヨーロッパ中世はキリスト教世界という一つのものとして理解すべきで、よく言われる暗黒の時代ではなく、正義と平和が支配する千年王国期と考えたいというお話であった。
Ⅰ まず、ヨーロッパという概念は空間的には次のように変化してきたという。
1 ローマ帝国の時代
地中海周辺全域(イタリア・イスパニア・北アフリカ・エジプト・中東)+ガリア+黒海・ドナウ川ライン川以南・ブリテン島
2 中世
イタリア・ガリア・バルカン・地中海北岸・黒海・小アジア
3 現在
西端:イベリア半島・グレートブリテン島・アイルランド島
南端:ジブラルタ・シチリア・クレタ島
東端:黒海・ドン川・ヴォルガ川・ウラル山脈
北端:スカンジナビア半島・バレンツ海
中世ヨーロッパの地図のコピーを全員に配られ、特にローマ共和国時代のガリアはまだ蛮地だったこと、共和国直轄地はルビコン川以南だったことを詳しく説明された。
Ⅱ 次にヨーロッパ中世という概念の時間的な変化を説明された(1)
1 5世紀から15世紀にいたるヨーロッパの1000年を「キリスト教千年王国期」と呼びたい
2 中世の始まりを476年の西ローマ帝国の滅亡にみたい(2)
3 中世の終わりは1492年のコロンブスによるアメリカ大陸の発見にみたい
特に、西ローマ帝国滅亡により帝国の唯一の正統な後継者の立場に残ったビザンツも、フランク王国を初めとする西のゲルマン諸王権もキリスト教国であった点を強調された。
Ⅲ 質疑
講義のあと質疑応答があった。論争的な観点が多数提示されたので、皆さん熱心に質問された。また、M氏の応答も熱のこもったものであった。主な質問を無理に要約すれば次のようになるだろうか。
1 ヨーロッパを東ローマ帝国、ビザンツ帝国、東方教会を含むものとして説明する意図はわかるが、イスラム世界との関わりなしにヨーロッパの定義ができるのか
2 ヨーロッパ中世の形成に十字軍の果たした役割の評価が低いのではないか
3 男性の視点からみた歴史観すぎるのではないか ヨーロッパ中世の形成に女性が果たした役割を知りたい
3 ヨーロッパ中世を千年王国と呼ぶのなら、テーマの「千年王国期の終わり、今」とはなにか。現代は神学でいう終末期なのか(3)
M氏がすべての質問に答えられる時間は残っていなかった。というよりすぐに答えられるような質問ではなかったと言うべきだろう。M氏の続きの講義を期待したい。
注
1 この説の下敷きは大月康弘『ヨーロッパ史』(2024)だと強調されていた
2 教会史でいえば、313年のミラノ勅令から800年のカール大帝即位までの期間を、地図と年表を使いながら詳しく説明された
3 千年王国というのだから歴史学だけではなく神学からの議論も必要なのではないかという趣旨の質問のようだった。千年王国論や千年紀論(Millenarism)はヨハネ黙示録(the Revelation to John, 19:11~21)をベースに語られることが多いが、黙示録は終末論でもある(the Apocalypse)。M氏のヨーロッパ論の射程距離は長く、また幅広いようだ。
【ヨハネの黙示録】