カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

「ベルファスト71」を観る

2015-10-19 17:57:46 | 神学
 先日12日のジョンストン師の5周忌追悼ミサの後の雑談で話題になった「ベルファスト71」を観てきました。北アイルランドの「血の日曜日」(1972年1月30日)直前の1971年のベルファストでの一イギリス軍兵士の一日を描いた映画です。イギリス軍から見た北アイルランド紛争(Troubles)を描いたものです。この紛争に関する映画や小説はいくつかあるが、カトリックサイドから描かれたものが多かったので、イギリス側からの描写ということで興味深かった。といっても、イギリス軍とは誰か、という問いがすぐでてくるし、アルスター警察との歴史的関係もあり、一枚岩では無い。(アルスター警察は機関銃の所持が許される特殊な警察だという)
 日本では一般に「北アイルランド紛争」と呼ばれるこの「紛争」は、一般に思われているようにカトリックとプロテスタントの宗教対立・戦争ではない。ナショナリズムもからんだ多様な背景を持つようなので、背景に関する予備知識が少ないと、この映画は理解が難しいと思った。ユニオニストとナショナリストの対立、リパブリカンとロイヤリストの対立、リパブリカンのIRA(アイルランド共和軍)内部での正統派、暫定派(PIRA)、過激派の対立、アルスター長老派との対立、イギリス軍とアルスター警察・北アイルランド政府の関係、各サイドが敵側に送り込んでいる諜報機関やスパイ、など、映画を見ただけではよくわからないのではないかと思った。この映画はしたがって、政治劇では無い。なぜこの紛争が生まれたのか、とか、どういう歴史的経緯をたどっているのか、とかが説明されるわけでは無い。この映画はむしろスリラー劇・サスペンス劇と呼ぶべきだろう。一兵士の生き残りをかけたサバイバル映画とも言えそうだ。
 正義とヒューマニズムも描かれる。イギリス軍の主人公は、カトリックの医師に命を救われる。IRA過激派の少年は結局主人公を銃殺できない。人を殺すことを覚えることが大人になることと同義では無いと監督は言っているようだ。
 映画の冒頭から、ジョンストン師が育ったFalls Roadが出てくる。1971年当時の姿とは言え、ジョンストン師が見た30年代・40年代の街並みとそれほど変わっていないのではないか。ジョンストン師はこういう世界で育ったのか、と見入ってしまった。彼が生涯北アイルランド紛争については口をつぐんできたこと、かれがたどった神秘主義神学、そして人生の後半にたどどりついた非暴力主義と平和主義の思想は、こういう暴力の世界を背景に持っていることを知らされた。
 現在の北アイルランドは1998年4月の「聖金曜日の合意」以降なんとか静かさを保っているようだ。2005年には武装解除宣言も出た。しかしアルスター6州でもカトリック人口がついにマジョリティになったのではないか、と言われている。いつなにかが起きてもおかしくない状況に入りつつあるようだ。ジョンストン師があれほど愛したベルファストに平和が訪れることを願っている。
コメント
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