物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

山本義隆『力学と微分方程式』

2009-08-20 11:03:43 | 物理学

山本義隆著『力学と微分方程式』(数学書房)を数日前に入手した。

なかなか読む時間がとれないのだが、ぱらぱらとめくってみた。彼の駿台文庫の『物理入門』と似た感じの書物である。これはページの余白を本文の脇にとっているからだろう。数学と物理のファンにとってはまた一つ楽しい本が出た(これは昨年10刊)。

本文の両脇に余白を取り、そこに傍注をつけたことで読みやすくなっているところもあるが、またその制約のためかと思うが、微分公式と不定積分の公式が並べて書けなくなるという不利な点も出ている。

やはり、余白を気にしないで一行に対照して微分公式とそれに対応する積分公式をおいた方がよいと思う。分かりやすさの点を優先すべきでしょう。

積分の導入として区分球積法から入るのは、積分の意味がはっきりしていいが、「微分と不定積分とが逆演算である」ことの印象が希薄になっているような気がする。全体をみればそういうことはないのだが、やはりそういう印象をもってしまう。

「微分と不定積分とが逆演算である」ことを強調すると、積分の意味が不明確になってしまうので、積分を区分球積法で導入したのだと思うが、この相反する要求にいつも直面してしまう。

運動方程式が力の定義式という側面と運動を決定する因果法則を表す二つの側面をもつという説明はやはりあまり他では読んだことがないが、数学とは違った物理の顕著な側面を表している。

私も物理には循環論的側面があるということをいつも強調しているが、さすがに山本さんが物理のそういう側面を見逃してはいないのがうれしい。

この本の特徴の一つに方程式からすぐに描ける相空間での図が多く出ているのはいい。

普通の力学の本ではあまりこういう図が出てこないのだが、微分方程式の解を解析的に得る前に定性的、直観的に解の様子を知るのはいい。

2次元、3次元の運動でマトリックスで速度や加速度を計算しているのはいい。こういう風に計算した力学の書がどうして少ないのだろうと思っていた。

私自身が力学を教えた少ない経験でもできるだけマトリックスを使った。もっともマトリックス全体を例えば時刻tで微分するとはマトリックスの各要素を微分することだと説明は必要だろう。

ベクトル記号として上に矢印を用いているが、これは線分OPの上に矢印を使うのは他にいい方法がないので仕方がないが、一般には使わないでゴチック(太字)でベクトルを表した方がわかりいいと思っている。

テイラー展開だが、テイラー展開の剰余項を付け加えた数学的に正しいマクローリン展開の式よりも、無限回微分可能な任意の関数をべき級数で表されると仮定してその係数を決めるという方針で書いた方がテイラー展開が直観的にわかりやすい。

もっともこれは数学書であるから、そんなあまり数学的ではない記述は滅相もないといわれれば、それまでだが。

主に表現法に注文をつけたが、いいテクストであることは間違いがない。しかし、これは一般の高校生ではなく、むしろ定年退職した科学者や技術者が読んで楽しむ書かもしれない。


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