美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

来るべき運命とは(米国務省)

2013年03月24日 | 瓶詰の古本

一九四一年三月二十九日ドイツ外相と松岡日本外相とのベルリン会談記録
   ………
   さらに外相は、またまたシンガポール問題を話題にもち出しこう語つた。『日本がフイリッピンから潜水艦攻撃を受け、あるいはイギリスの地中海艦隊または本国艦隊の掣肘を受けるかもしれないという脅威について、自分はレーダー海軍大将とその後さらに一度情勢を検討してみた。レーダー大将の語るところでは英艦隊は本国近海、地中海に今年は完全に釘づけにさせられていて、到底極東には一隻の軍艦も送り得ないであろう。また米潜水艦もレーダー大将の観察によればあまりに貧弱で、日本としてはそんなものを顧慮する必要は全然ないということである。』
   これに対し松岡はすぐ次のように応酬した。『日本海軍は英海軍には少しも危険を感じていないし、また米海軍と事を構えても、苦もなくこれを圧倒し得ると自分は信じている。しかし日本の不安というのは、アメリカがその艦隊を戦争に使用しないかも知れぬということだ。そうなるとアメリカとの戦争は五年間は続くかもしれない。これが日本に非常な不安を醸している。』
   外相は次のように答えた。『シンガポール占領成れば、アメリカは日本に向つて全く手が出せなくなるであろう。この理由からルーズヴェルトは対日行動を決定するまでには、おそらく再考を余儀なくされよう。こうしてルーズヴェルトが対日措置をためらつている間に、フイリッピンは日本の手に抑えられる可能性が出てくる。これに対しアメリカは準備不足のため報復手段に出ることができない状態にある。これは米大統領にとつては実に手痛い打撃となるであろう。』
   松岡は次のようにのべた。『自分はシンガポール問題については、極力イギリスの不安を緩和するように努力している。東亜におけるイギリスの中枢基地に対し、日本は何らの企図も抱いていない様子を示している。従つて自分の言動中には対英友好態度が見えるかもしれない。しかしドイツはこれについて誤解してはならない。他日突如としてシンガポール攻撃の火蓋を切るまでは、自分はイギリスに安心させるためばかりでなく、日本国内の親英米分子をごまかすためにも、このような態度をとつているのである。』
   これについて外相は、自分の考えでは、日本の対英宣戦布告は、シンガポール攻撃を以て幕が切つて落されるべきであると述べた。松岡は、『シンガポール急襲の一事により、全日本国民は一挙にして結束することはまず間違いない。自分はこの事実を基礎にして策を立てゝいる。』と述べた。(「まずうまくやつて見せることだ」と独外相はこゝで言葉をはさんだ。)松岡はさらに言葉を続けた。日露開戦の時ある有名な日本の政治家は、日本海軍に向つて「一発ぶつ放すことだ。そうすれば国民は一丸になるであろう。」といつた。日本国民を起ちあがらせるためには強い刺戟を与えねばならなかつたのだ。欲すると欲しないとにかかわらず、来るべき運命は信じなければならない。』

(「大戦の秘録」 米国務省編纂)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする