か ら け ん


ずっと走り続けてきました。一休みしてまわりを見ます。
そしてまた走ります。

機械は単純になって完成形になる。

2012年12月15日 | 技術

その昔、三井三池炭鉱の切り羽(最先端の採掘現場)まで行ったことがある。サンダーバード2号みたいな機械が石炭を切り出していた。つるはしで石炭を掘り出していると思っている人が多いがそんな姿は戦前ですらない。

人の身長もある歯車、うちの風呂場より大きいモーターのたくましい動きに魅了された。そこに到達するにはエレベーターと電車を乗り継いで2時間以上かかった。有明海の海底からさらに300メートルも下だ。今はない。操業をやめ「切り羽」は海に沈んで久しい。

えらい人に会うので家の一番大きいクルマで行ったのだが、帰りにクルマに乗るときは地底のサンダーバードと比べるととてもチャチくて情けなかった。

男の職場だ。若いころ出会いたかった。三井三池炭鉱。

で、最近のクルマの話をこの後にするのはとても意地わるそうだ。しかしそんなことはない。基本工具から始める。

工具とかねじとか単純な形をしているモノは要注意だ。長年の試行錯誤のうえに落ち着いた形というものは信じられないほどの工夫が詰まっている。メガネレンチの角度は少し上を向いている。これが絶妙だ。たった数度の傾きを得るために払った代価は大きい。涙ぐましい努力の果てにあの角度は決まった。

工具を使うようなことはしない人が多いので述べても無駄だ。まれに旧車時代からの生き残りには大いに賛同していただけると思う。モンキやスパナはなぜ傾いてボルトをつかむのか。

ねじ一本締めることはできなくてもマルチリンクサスとかには詳しい人が多い。じつはねじを締めるというのは難しいのだ。いちいちトルクレンチは使えない。手に覚えてもらうほかない。

そういう僕もマルチリンクサスにあこがれて190Eを買った。一本のワイパーで四角に拭くのも気に入った。FRだったのでいわゆるチャッちく作るわけにはいかない。ダブルウィッシュボーンが消えゆく中で当時は意地でもマルチリンクサスにしてやると思った。マルチリンクサスといってもロッドを増やしただけのウィッシュボーンだが180キロ/時までは素直に吹きあがったし車体に不安感はなかった。2.6リッタあったのでもっと出ただろうが罰金が怖かった。

じつはそのわずか一本のロッドがタイヤと路面の関係を絶妙にコントロールしていたのだ。

ひるがえって小型車のはやり,リヤビーム式だ。グリコのおまけのように左右のタイヤはつながれ単純この上ない。あとはばねとショックだけ。いったいこれ以上はずせるものはあるだろうかと思えるほど必要最小限だ。またトレーリングアームの短いこと。ただタイヤをはめ込むだけに延ばされたようなアーム。

ところがこのビーム、捻じれているのだ。このぐにゃぐにゃがあたかも独立懸架のような効果を生んでいる。ブッシュはタイヤを揺らして接地性を確保できるようにビックリするぐらい大型なものが付いている。

つまり、無駄をそぎ落として基本性能を追求するという精神を持ちつづければ、カット&トライを繰り返すうちモノは単純化するのだ。それはそのモノの完成形に近づいていると言える。けっして複雑になって喜ぶようなバカになってはならぬ。

Posted at 2012/03/19

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