花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

東京都美術館「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」を観た。

2013-05-10 01:45:50 | 展覧会
前回、少し愚痴っぽく書いてしまった(汗)東京都美術館「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」を観た。会場は意外に明るく、《アトランティコ手稿》の照明も見やすいもので、デジタル映像解説も有り難かった。暗さへの不安は杞憂に終わったようで、ほっ(^^;

手稿はやはりミラノで観たものと違うページで、興味深く観ることができた。レオナルドは基本的に科学系の人なのだろうね。走り書きデッサンでさえ上手いと思わせるのは流石だが、彼にとっての絵画は自然観察によって得た知識応用の一つに過ぎないんじゃないかと思ってしまう。
ちなみに、解説の中に1502年チェーザレ・ボルジア云々とあり、イーモラだわ♪と極私的に喜んでしまった。

そして、アンブロジアーナ図書館蔵らしい展示もあった。「レオナルドの愛読書」と銘打ったコーナーで、当時の写本や印刷本が並び、特に新プラトン主義のフィチーノ『プラトン神学-魂の不死について』はレオナルドがフィレンツェ人であることを断然証明するものだと思う。それと、友人ルカ・パチョーリの数学本。ルカさんはボルゴ・サンセポルクロ出身=ピエロ・デッラ・フランチェスカの弟子なのだ♪ 

さて、美術作品の方はミラノ・ロンバルディア地方を中心とするレオナルド及びレオナルデスキ(カラヴァジェスキと同じ)作品が中心で、絵画作品よりも素描作品が多い。ミラノで修業したカラヴァッジョに何らかの影響を与えているかも…という視点で観れば、少しは熱心に眺めることができるのだった。

その中で印象的だったものを挙げると
①ベルナルディーノ・カンピ(1522-1591)《受胎告知》(16世紀半ば)はカラヴァッジョ《受胎告知》と構図が似ている。カラヴァッジョの天使は上部に位置するけれど、雲に乗っているし聖母マリアとの左右位置が同じ。カンピはクレモナ出身であり、カラヴァッジョ村とも近い。ロンバルディアの主流構図だったのか?


カラヴァッジョ《受胎告知》(ナンシー美術館)

②ジュリオ・ロマーノに基づく《太陽の馬車と月の馬車》(16世紀後半)はパラッツォ・テの天井画であり、模写素描が流布しているということはマントヴァに行かなくとも知ることができるし、それをカジノ・ルドヴィーシの天井画に応用した可能性もある。でも、そのためにマントヴァまで行った私としてはカラヴァッジョが実物を見たと思いたい(^^;


ジュリオ・ロマーノ《太陽の馬車と月の馬車》(パラッツォ・テ)

③デューラー《普段着のニュルンベルクの女性》(1500年頃)は流石に緻密さが際立っていた。衣服やポシェットの質感、特にポシェットの膨らみ表現に目が寄ってしまった。

絵画作品としての目玉はやはり《音楽家の肖像》で、ガラスの防護壁の奥に鎮座していた。昔は絵画館の展示室に普通に展示されていたし、あんな金ぴかの額縁じゃなかったような気がするのだが、記憶違い?。研究者により真筆が疑問視されている作品なので、いつも「どうなんだろうね?」と眺めていた。今回は「真筆」とお墨付きの展示。


レオナルド・ダ・ヴィンチ《音楽家の肖像》(アンブロジアーナ絵画館)

斜め右向き上半身の音楽家は巻き毛を含めた顔部分が写実的で、特に澄んだ目元が印象的だ。なんとなく《岩窟の聖母》の天使に似ているような気がする。顔以外は筆致も荒いままだが、未完成だからという解説だった。楽譜を持つ右指の関節部分は短縮法的にこちらに突出させようとしたのだろう。背景が暗いためにキアロスクーロ効果が際立つ。真筆かどうかは抜きにして、ルネサンス肖像画として魅力的な作品だと思う。

話はちょっと逸れるが、音楽家の瞼が若干気になった。というのも《ジネブラ・ベンチの肖像》の皮膚感をどうしても想起してしまうからだ。彼女の皮膚が骨格と筋肉を覆う皮膜であるという事実をレオナルドは薄い瞼に込めていた。もちろんそれを男女の骨格と表現技術の変化による違いと言われればそうなのだけどね。


レオナルド・ダ・ヴィンチ《ジネブラ・ベンチの肖像》(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)

レオナルデスキ作品ではベルナルディーノ・ルイーニがダントツでレオナルド風そっくり。カラヴァッジェスキのマンフレディというところだろうか?ルイーニ作品は以前にも多々観ていたが、レオナルド工房出身ではないことを今回初めて知った。画家が作品だけを観て研究し、その技術を自分のものにする...リスペクトが無くてはできないし、吸収するにも力量が無くてはできない。ルイーニ《幼子イエスと子羊》はレオナルド風フスマート技法で描かれた作品だが、レオナルド作品には見られないほのぼのとした愛らしさにあふれた作品である。

それから、オープニングの方に展示されていたヴェスピーノによる模写《岩窟の聖母》は17世紀前半作品らしいが、当時の絵具の質や時間的経過による退色・キアロスクーロ表現を含めて、なんだかカラヴァッジョ後期作品を想起してしまった。カラヴァッジョがミラノでレオナルド作品から学んだことは多かったと思う。同時代人のヴェスピーノ作品にカラヴァッジョと共通したものを見たと思った...。

ということで、前回の愚痴っぽい内容をフォローしなくちゃと感想文を書いたが、かなり散漫な内容になってしまった。お見苦しい点はご容赦あれ(^^;