遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『図解 比べてわかる! 世界を動かす3宗教』 保坂俊司[監修]  PHP

2020-04-21 11:53:50 | レビュー
 世界の文明と文化を理解していく上で、その根っ子の部分には宗教が厳然と存在している。宗教について基本的な事を知っていないと人々の行動の背景や価値観などを理解できないし、文化が適切には理解できないと言われる。『孫子』の謀攻篇に「彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」という名言がある。これはここでの文脈にも通じることだろう。
 そこで問題となるのが、本書の「まえがきにかえて」の一文中の小見出しになっている「宗教音痴の日本人の常識は、世界の非常識」である。手軽に「無宗教」という言葉を使う。その言葉が他の国々の人々にはどのように受けとめられるかを気にかけない。その危うさをまず理解することが重要になる。この点で役立つ本として、先日『日本人はなぜ無宗教なのか』(阿満利麿著・ちくま新書)に触れた。「無宗教」という語句を手軽に発信しないこと。きっちりと意味を押さえて使うことの大事さである。
 文明と文化を理解し、相手の行動や考えを理解するうえで、相手の宗教のせめて概略でも理解を深めていくことが求められる。とは言っても、宗教を知るということは容易なことではない。長年日本に生きてきていても仏教や神道を深く理解しているとはとても思えない自分がまずここに居る。また、今までに個別に、部分的にはそれぞれの宗教の一端について読んだり見聞したことはある。だが、それどまりだった。そこで3宗教について頭の整理を兼ねて、読んでみたのがこの本である。著者による類書を一冊先に読んでいたので、この書も読んでみた。

 本書は、「世界を動かす」という視点から、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の3宗教を取り上げている。書名の最初に、図解という言葉がある通り、この3宗教について一貫して図解ベースで対比的に要点を解説している。この点が読者にとってわかりやすいメリットになっている。

 序章では、まず一神教VS多神教、民族宗教VS世界宗教という二軸四象限に世界の宗教をポジショニングしている図解がある。本書に取り上げられた3宗教が一神教という点で共通していて、その根源で捉えると、同じ神を崇めていると説く。その上で、3宗教の相違点を対比し、一覧表にざっくりと要約している。この3宗教を同じ土俵にのせて観点を整理して対比するということをしたことがなかったので、この点頭の整理に役立った。

 この後、4章構成で論旨が展開されていく。その折りに、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教という順番で、基本はほぼ同じ観点に立ち、重要な要点が整理されていく。
 4章の構成と対比されている観点の全体を概観すると次の通りである。
 第1章 3宗教の歴史  創始者の生涯とその後を辿る上でのポイントを押さえる。
    「誕生、迫害/確立、発展、宗派」の観点で順番に図解入り説明を行う。
 第2章 3宗教の教え  深遠な教義の内容理解のためのポイントを押さえる。
    「根本の教え、来世観・終末観」のエッセンスを簡略に抽出する。
    イスラム教については「刑罰」にも触れている。
 第3章 3宗教の生活・文化 日常の中での信仰のあり方を説明
    「聖職者」の位置づけ、「慣習」の主要点を解説。ユダヤ教については「祈り
    の場」と「聖日」にも触れる。
 第4章 3宗教と現代社会  宗教と世界との関係の押さえ所を解説する。
    まとめ方の観点で3宗教に共通するのは「経済」である。後はバラツキがある。    他の項を個別に紹介しておくと、ユダヤ教:社会、事件・紛争、文化でのまとめ。
    キリスト教:政治、イスラム教:政治、事件・紛争、となる。

 図解し対比的に要点をまとめていて、いわば3宗教への入門ガイダンスという位置づけの新書である。しかし、普通の日本人ならたぶん普段考えたことがないような局面も所々で抽出されて説明されている。以下の点を貴方はご存知だっただろうか。該当ページも併記する。試しに、このページをちょっと開いてみると興味深いかもしれない。
*ユダヤ教 アブラハムとモーセの道程  p57
*ユダヤ教 セファルディムの動きとアシュケナジムの動き p31
*イスラム教 ムハンマド誕生以前のアラビア半島の旧宗教 p53
*イスラム教 スンニ派とシーア派の違い p65
*聖地めぐり エルサレム旧市街における3宗教の聖地の位置関係 p66
*キリスト教の終末観は5段階  p83
*ユダヤ教はダビデの星、イスラム教は月と星、キリスト教は十字架がシンボル。
 だが、キリスト教のシンボル。十字架は何種類も存在する。 p112-113

 第4章は宗教を基盤にして、その宗教に属する人々の経済社会での行動面に触れているので、なぜ各宗教の基本を知る必要があるかの応用編ともいえる。
 実際に世界を動かしている3宗教について、アウトラインをまず知るうえで手頃な解説本と言える。

 ご一読ありがとうございます。

入門ガイダンスとしての本書に関連して、ネット情報を少し検索してみた。一覧にしておきたい。
ユダヤ教  :「コトバンク」
ユダヤ教  :ウィキペディア
ユダヤ教 ━ ユダヤ人とユダヤ教  :「ミルトス」
キリスト教 :ウィキペディア
日本人とキリスト教:なぜ「信仰」に無関心なのか? :「nippon.com」
キリスト教が日本で広まらなかった理由 - 島田裕巳(宗教学者):「BLOGOS」
日本キリスト教連合会 
イスラム教  :「TERUO MATSUBARA」
どうしてイスラーム教はわかりいくいの? 危険だと誤解を招く4つの理由:「SEKAI」
ムスリムを知る|イスラム教のルール(信仰、生活規範、服装)とは? :「ストラテ」

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

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その点、ご寛恕ください。)


 こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『知識ゼロからの世界の三大宗教入門』 保坂俊司 幻冬舎
   世界の三大宗教として仏教・キリスト教・イスラム教を扱っている
『日本人はなぜ無宗教なのか』  阿満利麿  ちくま新書



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