遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『京都狛犬巡り』 小寺慶昭  ナカニシヤ出版

2019-03-16 10:39:39 | レビュー
 寺社探訪が趣味の一つである。京都市を中心に、周辺の京都府内、周辺他府県の神社を訪れるうちに、様々な狛犬像を目にするようになった。寺社の建物を主とし、狛犬像は通りすがりに楽しむだけだった。しかし、神社の本殿の回縁に木像の狛犬が置かれていたり、京都御所の清涼殿で、御帳台の傍に狛犬が置かれていることと、参道の狛犬の姿に様々なものが見られることから、狛犬自体にも興味が湧いてきた。
 そこで出会ったのが本書である。そのタイトルにまず関心を抱いた。京都市とその周辺を主体にしているので、丁度ピッタリのタイトルだからということも一因している。

 まずは著者の狛犬巡りのスタンスから触れよう。「はじめに」に明確に述べられている。著者は長年の中学校教諭、副校長等を経て、結果的に龍谷大学の教授になられたようである。しかし、本書は「研究」というより、むしろ「遊び」の世界・「好奇心」の世界の産物だという。「狛犬と神社を楽しむためのガイドブック」を目指したという。
 といいながら、純粋なお堅い研究書ではないが、けっこう調査研究的アプローチがなされているというのが、読後印象の一端にある。。
 狛犬探し、狛犬巡りを楽しむ上での著者流のやり方がシステマチックなのだ。多分狛犬巡りを続ける中から生み出されたものを、整理して説明できるようにする中から生み出されたのではないかと推測する。狛犬巡りという遊び、好奇心の追究が一歩深められたせいだろう。
 著者は参道に置かれた狛犬に限定して巡っている。少なくとも本書の内容はそうである。「参道狛犬」というカテゴリーを自分で特定し、限定的なアプローチをする。狛犬を眺めて単純に楽しむという私のような一般人と違い、狛犬のサイズの測定方法や神社に置かれた狛犬の特定方法及び本殿に対する狛犬の向きの種類分けなど、データ収集と記録のためのフレームワークを独自に設定されていることである。
 狛犬像は新規奉納や老朽化等による取り替えなども発生し常に変化する側面がある。そこで、昭和時代までに限定してデータ採集するという期間限定のアプローチであると共に、その定義のもとに全数調査が行われるという徹底ぶりである。

 著者は「1 まずは清水寺の狛犬から」始めていく。清水寺が有名だからか? 
 まあ、それもあるだろうけれど、著者の疑問の一つを投げかけるのに便利だからだろう。①なぜお寺に狛犬がいるのか。狛犬は神社の前だけじゃないのか? 清水寺が例外なだけか? 他の寺院の参道にも狛犬がいるのか? このような疑問をまず抱くことが、狛犬マニアなのだろう。著者はほぼ4ページにわたって①として要点書きした疑問を含め、「まずは疑問点を10点ほど挙げていくことにしよう」とそれらを列挙する。言われてみればそうだな・・・・と思う疑問ばかりである。
 
 本書を読み、清水寺の狛犬は、奈良・東大寺南大門の正面から門を入った内側、つまり超有名な運慶・快慶作の金剛力士像が置かれている背後になり、そこに置かれている狛犬がモデルだということを初めて知った。序でに、この南大門の狛犬が、東大寺復興時に、宋の工人が中国から買い求めた石材で彫刻した石像獅子だということも。

 少し微に入り細に入りという側面もあるが、事例に挙げられる狛犬の形姿の説明が具体的に描写されおもしろい、

 基本的に江戸時代までの日本の文化は京都を中心に発信され、同心円状に全国に伝搬していくという傾向が見られる。だが、参道狛犬は違うと著者は言う。江戸狛犬が発信源であり、それが伝搬していったのだそうである。そして、単に江戸狛犬の模倣ではなく、各地で工夫され、多様化し、咀嚼されて言ったという。著者はその大きな原因は狛犬のモデルについて共通の理解がなかったことだと分析する。
 江戸狛犬が大坂に伝わると、浪花風に造り替えられて、浪花狛犬が瀬戸内海沿岸を中心にしながら、西日本のかなりの範囲に広がって行った様子を事例により説明する。その浪花狛犬が京都に伝わるとともに、京都に店を構えて進出してきた様子も事例で解説する。浪花狛犬の京への流入から、逆に影響を受けた白川の石工たちが、石灯籠などで培った伝統と技術を活かし、洗練された白川狛犬が創出されたという。
 著者は京都出見られる様々な狛犬を巡りながら、各地との関連性を調べて行き、また各地の狛犬巡りを重ねてそのデータ対比や類型分布を考察することで、浪花狛犬・白山狛犬・丹後狛犬・出雲狛犬・舞鶴狛犬などの類型化と特徴の抽出、京の狛犬への影響、それぞれの文化圏の広がりを明らかにしていく。さらに、「9 現代画一的狛犬事情」と題して、状況証拠から、岡崎狛犬の特徴とその影響を論じている。現代の狛犬制作の状況がわかっておもしろい。
 
 本書は著者が独自のデータベースを作り、京都市を含む京都府全体のデータから言えることとして、京都府の狛犬全体から一般読者の興味を引きそうなトップテンの一覧づくりと説明を展開している。これは悉皆調査の成果発揮と言えるだろう。
  4 京都市で一番古い狛犬は? 
  6 京都府で一番古い狛犬は?
  7 京都府で一番多い狛犬は?
 11 京都府で一番大きい狛犬は?
 12 狛犬がたくさんいる神社は?
 一般読者には興味を引きそうな投げかけである。ちょっと覗いてみたくなるのでは?
 冒頭の数字はセクションの番号を示す。

 上記で飛ばしたセクションの見出しをご紹介しておこう。
「2 平安神宮の狛犬は?」「3 逆立ちした陶器の狛犬」「5 砲丸投げのポーズの狛犬」 「13 狛犬の名工たち」「14 狛犬のいろいろ」である。
 最後のセクション「狛犬のいろいろ」では、変わり種を紹介していて興味深い。

 付録として、「京都府狛犬年度別設置数一覧」がまとめてあり、主な設置狛犬等の例示が年度ごとに付されいる。西暦1718~1989の一覧表である。
 もう一つ、「京都狛犬巡りモデルコース」が3つ、紹介されている。「1 東山周辺コース」「2 御所周辺コース」「3 宮津・天橋立周辺コース」である。狛犬巡りを楽しむ手始めのガイドをちゃんと用意してくれているところが、親切なところだ。
 このモデルコースと各狛犬文化圏に類型化された狛犬の特徴をまとめたページが、まずは手引きとして、一歩踏み込んだ狛犬巡りを楽しむ準備資料として役立ちそうである。
 この部分をコピーして、さあまずは出かけよう! そんな気にさせる本である。

 ご一読ありがとうございます。

関心の波紋を広げてネット検索してみた。すると、狛犬を専門に扱うサイトもある。
狛犬 :「京都国立博物館」
狛犬 :「コトバンク」
狛犬 :ウィキペディア
狛犬とは何か? 100万人の狛犬講座 ホームページ  ← 注目サイト
こまけん 三遊亭円丈責任編集 ホームページ ← 注目サイト
狛犬の意味と由来・どうして神社に狛犬がいるの? :「開運日和」
狛犬 :「京都 神楽岡 宗忠神社」
神社の入口を守る「狛犬」のルーツと霊力 :「京都の摩訶不思議探訪」
京の七不思議 その6『清水寺の七不思議』 :「京都トリビア× Trivia in Kyoto」
東大寺南大門の狛犬 :「愛しきものたち」
安井金比羅 狛犬 :「京都観光Navi」
狛犬コレクション :「愛知県陶磁美術館」
狛犬の佐助 迷子の巻 作/伊藤游 絵/岡本順  ポプラ社
  狛犬でファンファジーの世界を描いた児童向け単行本もありますね。

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