遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『アキハバラ』  今野 敏  中公文庫

2015-04-17 10:15:11 | レビュー
 1999年4月に中央公論新社から単行本が出版され、文庫本となったのは2004年2月である。単行本で読んだが、文庫本の表紙を引用させていただいた。
 アキハバラでマスメディアを騒然とさせる事件が起きたのは2008年6月の「秋葉原通り魔事件」だろう。秋葉原でのそれ以前の大きな事件というのは知らない。電気街の常として日常茶飯事に万引き行為が連綿として続いているだろうとは想像する。
 この作品は、様々な誤解や行き違いというハプニング要素のが錯綜し、誤解が誤解を生み、雪だるま式に拡大しながら、とんでもない事件に発展していくというストーリーである。
・秋葉原の電子機器パーツ専門店での万引き行為誤解を生み出す六郷史郎
 彼は、私立大学の理工学部に何とか合格、夢の秋葉原での初ショッピングに緊張。
・万引き少年をつかまえたが親から逆ねじをくわされ、その気晴らしがしたい石館洋一
 彼は、大学中退でアルバイトの店員。その専門店に史郎入り商品を物色するのが発端
・キャンペーンガールのアルバイト仕事にウンザリしている仲田芳恵
 史郎はキャンペーンでの会話から田舎オタクと侮られ後にストーカーと誤解される。
 一方、洋一はこの芳恵にちょっと関心を抱いている。いいところを見せたい気分。
・武闘派ヤクザで小さな組の組長・菅井田三郎は洋一の勤める専門店を狙っている。
 店主が借金をしているのをネタに、地上げのために嫌がらせで店に出入りする。
 だが、恐れながらも、店主と洋一は依頼主に気づいているので屈しない。
 菅井田の短気さ、武闘派ヤクザのプライド、誤解の積み重なりが油に火を注ぐ。
・秋葉原好きでイラン航空スチュワーデスのファティマが専門店での騒動の起動原因。
 イスラエルの諜報員の尾行を知り、それをまくために菅井田を利用したのだ。
 専門店で万引き誤解を受けた史郎がヤクザ怖さもありその場を逃走し一因を追加。
・イスラエルの諜報員でファティマを尾行するのがアブラハム・ベーリ少佐。
 彼はファティマの戦術に引っかかり、菅井田に向けて発砲することになり、大騒動。
 名誉挽回を計るために、まかれたファティマの後をさらに追跡することになる。
・ロシアのマフィアであるチェルニコフは白昼に大型家電店からの家電品強盗を計画。
 北朝鮮軍情報部の為に働く李源一を手引きにした偽装爆破通告による強盗のつもり。
 無防備な日本の大型家電店で容易に進むとい想定が、誤解の累積で思わぬ展開になる。
 さて、この作品の面白いのは波紋が広がるように、誤解が誤解を生み拡大していき、全く無関係の事象の想定が誤解により結びつき、大変な事態になるその経緯展開のおもしろさにある。一種の荒唐無稽さがなんだか自然な流れにも感じられるのだから、ひととき楽しむエンタテインメントとしては楽しい読み物である。
 この作品の構想で面白いのは、作品の前半ではほとんど警察が絡んでいないストーリー展開である。大型家電店に爆発予告が入り、大変な事態が発生したところで、やっと碓氷弘一部長刑事が登場する。
 つまり、読み始めた段階では、なぜこの作品が碓氷弘一シリーズなのか全くわからない状態なのだ。前半は誤解の連鎖が生み出す極限への状況設定といえる。ここには、この筋どう展開するのかという楽しみがある。
 そして、家電製品強盗計画と虚仮にされたヤクザの報復行動という異次元のものが、誤解により交点が生み出される。大型家電店内の様子がわからない・・・・。そこでハッカーが秋葉原の主のようなオヤジから頼まれて碓氷に協力する羽目になる。このあたり、一般家電から電子機器製品・パーツ販売に業容拡大・変貌してきた姿を巧みに組み合わせていくところがおもしろい。
 後半は、「実績は認める。だが、君は部長刑事に過ぎん。そして、役割はS班との連絡係だったはずだ。ここの指揮を取るのは私だ。出過ぎた真似はやめたまえ」と管理官から命じられる。
 碓氷 「ただ、私は特捜扱いなので、好きに行動させてもらいますよ」
 管理官「私の邪魔をせんのなら、何をしてもいいさ」
このやりとりから、碓氷の独自行動が始まっていく。その碓氷に協力者が出現する。それは誰か? 後は本書で確かめてほしい。後半のメインテーマは、人質の救出ととんでもない事態の鎮圧である。そのストーリー展開がよませどころである。


 ご一読ありがとうございます。

人気ブログランキングへ
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。


この作品で関心を抱いた事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。

ようこそ秋葉原へ! ホームページ :「秋葉原電気街振興会」
   秋葉原の歴史
秋葉原 - 秋葉原の歴史   :「ニコニコ大百科(仮)」
秋葉原通り魔事件  :ウィキペディア
万引き統計  少年犯罪統計データ(警察庁の統計による。)
万引きに関する調査研究報告書  平成21年8月  「万引きをしない・させない」社会環境づくりと規範意識の醸成に関する調査研究委員会
1回の万引きの補填には6倍の売上が必要? 深刻な万引き事情 :「防犯泥棒大百科」
全国万引犯罪防止機構  ホームページ
ウィリアム・ギブスン  :ウィキペディア
ニューロマンサー  :ウィキペディア


インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

人気ブログランキングへ
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)


徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。

『パラレル』  中公文庫
『軌跡』  角川文庫
『ペトロ』 中央公論新社
『自覚 隠蔽捜査 5.5』  新潮社
『捜査組曲 東京湾臨海署安曇班』  角川春樹事務所
『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』  幻冬舎
『闇の争覇 歌舞伎町特別診療所』  徳間文庫

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新4版 (45冊)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿