今野敏の作品群の中で、隠蔽捜査シリーズは特に好きなシリーズの一つである。『初陣 隠蔽捜査 3.5』と同様、「5.5」の本書は2011年7月号から2014年6月号に不定期に掲載された作品の短編集である。全部で7編の短編が収録されている。
収録された作品はそれぞれ独立した内容で、どれから読んでも支障が無い。相互に関連するというものではなかった。各作品では、主な主人公となる刑事は変化する。捜査本部の在り方も様々である。大森署の竜崎署長が直接主人公となって活躍することはない。だが、どの作品でも最後の決断あるいは方針を決めるに当たって要となるのは竜崎署長なのだ。でんと署長室に構え、黙々と管理監督下にある書類の決裁処理を行いつつ、必要な判断を的確に与える。原理原則を踏まえ、即座に指示や助言、方向付けをする。なんとも小気味が良い。さすが竜崎!と喝采したくなるストーリー展開となるのが、実に楽しい。あっという間に7編を通読してしまう。かなりバラエティに富んだ事件が扱われていておもしろい。以下、各作品ごとに内容と印象を簡単に御紹介しよう。
< 漏洩 >
登庁した大森署の貝沼副署長は、まず新聞各紙に眼を通す。東日新聞朝刊に連続婦女暴行未遂事件の容疑者逮捕の記事が載っているのを発見して、愕然とする。マスコミ対策は副署長の貝沼の役目なのだ。貝沼にとり、東日新聞の報道は寝耳に水。貝沼の知らない事実が報道されているのだ。貝沼は署内からの情報漏洩を真っ先に疑った・・・・。
関本刑事課長を呼び出し、事情聴取すると、誤認逮捕かもしれないという言葉が出てくる。現行犯逮捕は昨夜の23時頃だという。送検まで、あと38時間。東日新聞が竜崎署長の眼に触れないようにしておき、貝沼副署長は何とか自分の段階で対応処理しようと行動するのだが・・・・やはり、竜崎署長に報告して指示を仰ごうという結論になる。
竜崎の判断は至極原則論である。一切の迷いがなく、論理明快。気持ちが良い。
終わり方がまた実によい。
貝沼「臨時の記者発表をしようと思いますが・・・・」
竜崎「君に任せるよ」
< 訓練 >
警備企画係所属の畠山美奈子は、菅原警備第一課長に呼ばれて、大阪府警本部に出張して、スカイマーシャルの訓練を受けるようにと指示を受ける。課長は警視庁警備部長藤本警視監の指示だという。畠山はキャリア組である。菅原課長は、警備の現場に立つためとは思えないので、訓練参加の指示を出すのは部長に別の考えがあるためだろうと受け止めている。
スカイマーシャルとは、航空機に搭乗して、ハイジャックなどの犯罪に対処する武装警官のことなのだ。東京から参加するのは、総勢6名。畠山を除き、あとの5名はノンキャリアでSATからの参加者が多いようなのだ。大阪では、訓練期間中、男性5人は機動隊の隊舎内に寝泊まりするという。畠山はそこそこのホテルへの宿泊を指定されたのだ。
厳しい訓練への対応力、待遇の違いへの負い目、大坂府警の警備部長が一席を設けたことへの臨席・・・・重たい気分に沈んでいく畠山の頭をよぎったのが竜崎のことである。
午後十時、畠山は思いあまって竜崎の電話をかける。竜崎との会話は畠山にとって眼からウロコ・・・・となる。認識が変わる。こんなことがスラリと言える竜崎はさすがである。 訓練が終わり、東京駅で他の訓練メンバーと分かれることになる。この最後のシーンは実に絵になっている。
< 人事 >
二月末、警視庁幹部の人事異動があった。第二方面本部の野間崎政嗣管理官は異動を免れた。しかし、方面部長が入れ替わり、ノンキャリアの警視正・弓削篤郎が方面部長として着任した。この作品は、野間口管理官と弓削方面部長の関係づくりを軸にしながら、こんなやりとりがストーリーのはじまりとなる。
「君から見て、特に問題だと思う警察署はどこだね?」
「大森署ですね」
「どういう点が問題なんだね?」
「署長が、少々変わった経歴の持ち主で・・・・」
野間崎は、問題人物として指摘したつもりが、会話が進む中で、竜崎署長を弁護するような発言をしている気にもなるのだ。署長会議を招集する前に、弓削は竜崎署長に会って話をしてみたいいい、野間崎に呼んでくれと指示するのだが・・・・大森署に弓削部長が足を運ぶことになるのだった。
このおもしろい展開のしかたが読ませどころだ。
竜崎の原理原則がいずこにあるか。竜崎の真骨頂が現れていて、愉快である。
< 自覚 >
関本良次刑事課長は、小松茂強行犯係長から自宅で電話を受ける。大田区中央四丁目・・・での強殺事件の発生である。捜査一課長も臨場するという。関本が現場に着くと、ぼんやりとたたずんでいる捜査員が居た。それは戸高刑事だった。関本が「お前は聞き込みをしなくてもいいのか?」と言うと、戸高は「あまり意味がないですからね・・・・・」と答える。そして、そのうち戸高が現場から居なくなる。
遺体が現場から運び出され、捜査員たちが大森署に引きあげようとしたとき、銃声の音がした。銃声のした方向に、捜査員が向かう。発砲したのは戸高だったのだ。
拳銃を撃ったという行為自体が俎上にのっていく。
戸高は、自覚を持って拳銃を使用したという。
日本における警察官の拳銃使用問題がテーマとなっていて、興味深い。
竜崎署長が事情聴取した後の判断は、論理明快そのものである。
この作品の末尾の一行は関本刑事課長の思いが表出されて終わる。
「竜崎には、できればいつまでも大森署の署長でいてほしい、と」
< 実地 >
秋になると、警察学校で初任教養を終えた警察官の卵たちが、職場実習として各警察署に分散して卒業配置される。大森署の久米正男地域課長は、その卒配で最初に受け容れる地域課を担当している。卒配の新米警察官の面倒をみて、現場のいろはを教え、育ててやるのである。
卒配のことを久米が考えているところに、関本刑事課長が怒鳴り込んできたのだ。「地域課のばかが、犯人に職質をかけて、そのまま取り逃がしたんだ。知らないとは言わせない」。久米は事情が分からなかった。関本の暴言に腹を立てる。盗犯係によると、その犯人は、かなり名の通った常習犯であり、逮捕する千載一遇のチャンスだったようなのだ。 調べてみると、その被疑者に職質をかけたのは卒配の新米警察官だった。
警視庁の捜査三課が絡み、野間崎管理官までが現れてくる。
責任の追求問題と事件捜査の遂行。次元の違うフェーズが曖昧に交錯していく・・・・。
「私が話を聞こう」竜崎が発言する。そして、事態が再び事件解決に向かい回転し出す。
< 検挙 >
検挙数と検挙率のアップ。会議の席上でそれが問題となる。警察の上層部は統計的な数値でしかモノを見ていない。数字で考えるということだけの落とし穴をテーマにした短編だ。強行犯係やマル暴にとって、検挙数や検挙率の数値だけの成果アップにどれだけの意味があるのか・・・・。検挙数と検挙率の数値のカラクリがアイロニカルに描き出されていく。
関本課長の指示で、小松係長はやれと言われれば動かねばならない。
戸高は言う。「現場を知らないばかな官僚に音頭を取らせると悲惨なことになりますよ」「やれと言われればやりますが、どんなことになっても知りませんよ」と。
そして法律に則っているが、現実には奇妙な事態が署内に起こっていく。
竜崎が、関本、小松、戸高を前にして言う。「・・・・ばかばかしいのは、検挙数・検挙率をアップしろという警察庁からの通達だ」と。
竜崎の原理原則、マイペースが発揮される。拍手喝采そたくなるのは小松係長だけじゃない。読者もその気分になることだろう。
< 送検 >
大森署管内のマンションで強姦扼殺事件が発生する。被害者は芦川春香、28歳。金融会社に勤める一人暮らしの女性。大森署に捜査本部が設置される。警視庁の伊丹刑事部長は最初の捜査会議に臨席するという。竜崎は最初から課長や管理官に任せておけばいいと、いつもの持論で反対する。しかし、伊丹刑事部長は臨席する。防犯カメラの映像、指紋と伝票などから、重要参考人の身柄が確保されていた。状況を聞き、伊丹は送検の指示を出す。伊丹は、帰り道の公用車の中から竜崎に連絡して、逮捕状請求・執行の指示を出したと連絡する。竜崎は、「待て。・・・それでいいのか?」と問いかけたのだ。
送検後、事態は思わぬ展開を見せ始める。一方、送検を受けた担当検事は、何が何でも落とせと指示しているという。
冤罪を引き起こしかねない状況の中で、竜崎が伊丹に言うのは、やはり原則論の助言だった。あたりまえのことをあたりまえにやればいいということなのだ。
「今回も、竜崎はいつもと変わらない態度だった。彼は、淡々と自分のやるべきことをやっているだけだ。それが頼もしかった」
この文が、7つの短編作品の背景に共通するものとして、盤石の重みを加えているのだ。いまや大森署に竜崎はなくてはならない存在なのだ。
次はどんな作品が生み出されるか。心待ちしている。
ご一読ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
本書との関連で少し知りたいと思った項目を調べて見た。一覧にしておきたい。
スカイマーシャル :ウィキペディア
航空機警乗スカイマーシャル :「警察おもしろ雑学辞典」
武装警官搭乗(スカイマーシャル)に関する機長組合見解
2004年12月10日 日本航空機長組合
警視庁の組織図・体制 :「警視庁」
警視庁の組織図 pdfファイル
方面本部の体制が警察署一覧として出ています。
警察官職務執行法(昭和二十三年七月十二日法律第百三十六号) :「eGOV」
【警察官職務執行法】の人気Q&Aランキング :「教えてgoo!」
警察官等けん銃使用及び取扱い規範(昭和三十七年五月十日国家公安委員会規則第七号) :「eGOV」
警察官等けん銃使用及び取扱い規範の解釈及び運用について(例規) pdfファイル
警視庁警察官けん銃使用及び取扱規定 pdfファイル
警察官等特殊銃使用及び取扱い規範の制定について 青森県警察本部長 pdfファイル
警察官のけん銃使用に問題はないか 警察ネット 原田宏二氏 pdfファイル
警察官による発砲事例とその基準 :「NAVERまとめ」
第3節 銃器・薬物問題の現状と対策 平成9年警察白書
平成26年警察白書 統計資料
図表4-10 銃器発砲事件の発生状況と死傷者数の推移(平成16~25年)
警察白書 一覧目次 :「警視庁」 ←各年度の白書にリンクしています。
警察学校 :ウィキペディア
警察学校の一日 :「警視庁」
警察学校 :「大阪府警察」
6.研修 ←「1.警察学校入校」~「12.刑事研修3」までのページあり
密着! 大阪府警察学校 :YouTube
警察官のお仕事とウラ話 トップページ
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『捜査組曲 東京湾臨海署安曇班』 角川春樹事務所
『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』 幻冬舎
『闇の争覇 歌舞伎町特別診療所』 徳間文庫
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新4版 (45冊)
収録された作品はそれぞれ独立した内容で、どれから読んでも支障が無い。相互に関連するというものではなかった。各作品では、主な主人公となる刑事は変化する。捜査本部の在り方も様々である。大森署の竜崎署長が直接主人公となって活躍することはない。だが、どの作品でも最後の決断あるいは方針を決めるに当たって要となるのは竜崎署長なのだ。でんと署長室に構え、黙々と管理監督下にある書類の決裁処理を行いつつ、必要な判断を的確に与える。原理原則を踏まえ、即座に指示や助言、方向付けをする。なんとも小気味が良い。さすが竜崎!と喝采したくなるストーリー展開となるのが、実に楽しい。あっという間に7編を通読してしまう。かなりバラエティに富んだ事件が扱われていておもしろい。以下、各作品ごとに内容と印象を簡単に御紹介しよう。
< 漏洩 >
登庁した大森署の貝沼副署長は、まず新聞各紙に眼を通す。東日新聞朝刊に連続婦女暴行未遂事件の容疑者逮捕の記事が載っているのを発見して、愕然とする。マスコミ対策は副署長の貝沼の役目なのだ。貝沼にとり、東日新聞の報道は寝耳に水。貝沼の知らない事実が報道されているのだ。貝沼は署内からの情報漏洩を真っ先に疑った・・・・。
関本刑事課長を呼び出し、事情聴取すると、誤認逮捕かもしれないという言葉が出てくる。現行犯逮捕は昨夜の23時頃だという。送検まで、あと38時間。東日新聞が竜崎署長の眼に触れないようにしておき、貝沼副署長は何とか自分の段階で対応処理しようと行動するのだが・・・・やはり、竜崎署長に報告して指示を仰ごうという結論になる。
竜崎の判断は至極原則論である。一切の迷いがなく、論理明快。気持ちが良い。
終わり方がまた実によい。
貝沼「臨時の記者発表をしようと思いますが・・・・」
竜崎「君に任せるよ」
< 訓練 >
警備企画係所属の畠山美奈子は、菅原警備第一課長に呼ばれて、大阪府警本部に出張して、スカイマーシャルの訓練を受けるようにと指示を受ける。課長は警視庁警備部長藤本警視監の指示だという。畠山はキャリア組である。菅原課長は、警備の現場に立つためとは思えないので、訓練参加の指示を出すのは部長に別の考えがあるためだろうと受け止めている。
スカイマーシャルとは、航空機に搭乗して、ハイジャックなどの犯罪に対処する武装警官のことなのだ。東京から参加するのは、総勢6名。畠山を除き、あとの5名はノンキャリアでSATからの参加者が多いようなのだ。大阪では、訓練期間中、男性5人は機動隊の隊舎内に寝泊まりするという。畠山はそこそこのホテルへの宿泊を指定されたのだ。
厳しい訓練への対応力、待遇の違いへの負い目、大坂府警の警備部長が一席を設けたことへの臨席・・・・重たい気分に沈んでいく畠山の頭をよぎったのが竜崎のことである。
午後十時、畠山は思いあまって竜崎の電話をかける。竜崎との会話は畠山にとって眼からウロコ・・・・となる。認識が変わる。こんなことがスラリと言える竜崎はさすがである。 訓練が終わり、東京駅で他の訓練メンバーと分かれることになる。この最後のシーンは実に絵になっている。
< 人事 >
二月末、警視庁幹部の人事異動があった。第二方面本部の野間崎政嗣管理官は異動を免れた。しかし、方面部長が入れ替わり、ノンキャリアの警視正・弓削篤郎が方面部長として着任した。この作品は、野間口管理官と弓削方面部長の関係づくりを軸にしながら、こんなやりとりがストーリーのはじまりとなる。
「君から見て、特に問題だと思う警察署はどこだね?」
「大森署ですね」
「どういう点が問題なんだね?」
「署長が、少々変わった経歴の持ち主で・・・・」
野間崎は、問題人物として指摘したつもりが、会話が進む中で、竜崎署長を弁護するような発言をしている気にもなるのだ。署長会議を招集する前に、弓削は竜崎署長に会って話をしてみたいいい、野間崎に呼んでくれと指示するのだが・・・・大森署に弓削部長が足を運ぶことになるのだった。
このおもしろい展開のしかたが読ませどころだ。
竜崎の原理原則がいずこにあるか。竜崎の真骨頂が現れていて、愉快である。
< 自覚 >
関本良次刑事課長は、小松茂強行犯係長から自宅で電話を受ける。大田区中央四丁目・・・での強殺事件の発生である。捜査一課長も臨場するという。関本が現場に着くと、ぼんやりとたたずんでいる捜査員が居た。それは戸高刑事だった。関本が「お前は聞き込みをしなくてもいいのか?」と言うと、戸高は「あまり意味がないですからね・・・・・」と答える。そして、そのうち戸高が現場から居なくなる。
遺体が現場から運び出され、捜査員たちが大森署に引きあげようとしたとき、銃声の音がした。銃声のした方向に、捜査員が向かう。発砲したのは戸高だったのだ。
拳銃を撃ったという行為自体が俎上にのっていく。
戸高は、自覚を持って拳銃を使用したという。
日本における警察官の拳銃使用問題がテーマとなっていて、興味深い。
竜崎署長が事情聴取した後の判断は、論理明快そのものである。
この作品の末尾の一行は関本刑事課長の思いが表出されて終わる。
「竜崎には、できればいつまでも大森署の署長でいてほしい、と」
< 実地 >
秋になると、警察学校で初任教養を終えた警察官の卵たちが、職場実習として各警察署に分散して卒業配置される。大森署の久米正男地域課長は、その卒配で最初に受け容れる地域課を担当している。卒配の新米警察官の面倒をみて、現場のいろはを教え、育ててやるのである。
卒配のことを久米が考えているところに、関本刑事課長が怒鳴り込んできたのだ。「地域課のばかが、犯人に職質をかけて、そのまま取り逃がしたんだ。知らないとは言わせない」。久米は事情が分からなかった。関本の暴言に腹を立てる。盗犯係によると、その犯人は、かなり名の通った常習犯であり、逮捕する千載一遇のチャンスだったようなのだ。 調べてみると、その被疑者に職質をかけたのは卒配の新米警察官だった。
警視庁の捜査三課が絡み、野間崎管理官までが現れてくる。
責任の追求問題と事件捜査の遂行。次元の違うフェーズが曖昧に交錯していく・・・・。
「私が話を聞こう」竜崎が発言する。そして、事態が再び事件解決に向かい回転し出す。
< 検挙 >
検挙数と検挙率のアップ。会議の席上でそれが問題となる。警察の上層部は統計的な数値でしかモノを見ていない。数字で考えるということだけの落とし穴をテーマにした短編だ。強行犯係やマル暴にとって、検挙数や検挙率の数値だけの成果アップにどれだけの意味があるのか・・・・。検挙数と検挙率の数値のカラクリがアイロニカルに描き出されていく。
関本課長の指示で、小松係長はやれと言われれば動かねばならない。
戸高は言う。「現場を知らないばかな官僚に音頭を取らせると悲惨なことになりますよ」「やれと言われればやりますが、どんなことになっても知りませんよ」と。
そして法律に則っているが、現実には奇妙な事態が署内に起こっていく。
竜崎が、関本、小松、戸高を前にして言う。「・・・・ばかばかしいのは、検挙数・検挙率をアップしろという警察庁からの通達だ」と。
竜崎の原理原則、マイペースが発揮される。拍手喝采そたくなるのは小松係長だけじゃない。読者もその気分になることだろう。
< 送検 >
大森署管内のマンションで強姦扼殺事件が発生する。被害者は芦川春香、28歳。金融会社に勤める一人暮らしの女性。大森署に捜査本部が設置される。警視庁の伊丹刑事部長は最初の捜査会議に臨席するという。竜崎は最初から課長や管理官に任せておけばいいと、いつもの持論で反対する。しかし、伊丹刑事部長は臨席する。防犯カメラの映像、指紋と伝票などから、重要参考人の身柄が確保されていた。状況を聞き、伊丹は送検の指示を出す。伊丹は、帰り道の公用車の中から竜崎に連絡して、逮捕状請求・執行の指示を出したと連絡する。竜崎は、「待て。・・・それでいいのか?」と問いかけたのだ。
送検後、事態は思わぬ展開を見せ始める。一方、送検を受けた担当検事は、何が何でも落とせと指示しているという。
冤罪を引き起こしかねない状況の中で、竜崎が伊丹に言うのは、やはり原則論の助言だった。あたりまえのことをあたりまえにやればいいということなのだ。
「今回も、竜崎はいつもと変わらない態度だった。彼は、淡々と自分のやるべきことをやっているだけだ。それが頼もしかった」
この文が、7つの短編作品の背景に共通するものとして、盤石の重みを加えているのだ。いまや大森署に竜崎はなくてはならない存在なのだ。
次はどんな作品が生み出されるか。心待ちしている。
ご一読ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
本書との関連で少し知りたいと思った項目を調べて見た。一覧にしておきたい。
スカイマーシャル :ウィキペディア
航空機警乗スカイマーシャル :「警察おもしろ雑学辞典」
武装警官搭乗(スカイマーシャル)に関する機長組合見解
2004年12月10日 日本航空機長組合
警視庁の組織図・体制 :「警視庁」
警視庁の組織図 pdfファイル
方面本部の体制が警察署一覧として出ています。
警察官職務執行法(昭和二十三年七月十二日法律第百三十六号) :「eGOV」
【警察官職務執行法】の人気Q&Aランキング :「教えてgoo!」
警察官等けん銃使用及び取扱い規範(昭和三十七年五月十日国家公安委員会規則第七号) :「eGOV」
警察官等けん銃使用及び取扱い規範の解釈及び運用について(例規) pdfファイル
警視庁警察官けん銃使用及び取扱規定 pdfファイル
警察官等特殊銃使用及び取扱い規範の制定について 青森県警察本部長 pdfファイル
警察官のけん銃使用に問題はないか 警察ネット 原田宏二氏 pdfファイル
警察官による発砲事例とその基準 :「NAVERまとめ」
第3節 銃器・薬物問題の現状と対策 平成9年警察白書
平成26年警察白書 統計資料
図表4-10 銃器発砲事件の発生状況と死傷者数の推移(平成16~25年)
警察白書 一覧目次 :「警視庁」 ←各年度の白書にリンクしています。
警察学校 :ウィキペディア
警察学校の一日 :「警視庁」
警察学校 :「大阪府警察」
6.研修 ←「1.警察学校入校」~「12.刑事研修3」までのページあり
密着! 大阪府警察学校 :YouTube
警察官のお仕事とウラ話 トップページ
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『捜査組曲 東京湾臨海署安曇班』 角川春樹事務所
『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』 幻冬舎
『闇の争覇 歌舞伎町特別診療所』 徳間文庫
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新4版 (45冊)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます