千里眼クラシックシリーズの第7弾である。2004年8月刊行の小学館文庫『千里眼の死角』に修正が加えられ、完全版として2008(平成20)年12月に刊行された。
砂漠で逃走するジャジ・ア・バラカが突然火だるまになり断末魔の叫びをあげる。世界各地で原因不明の人体発火現象が相次いで発生、7人が焼死した。アメリカのある研究所の2人の研究員がクレイトン議員に質問を受ける。あるシステムの誤動作ではないかと。
一方、イギリスでのシンポジウムでふたつの講演と会議に出席予定だった臨床心理士の嵯峨は、英国王室に招聘され、精神状態の不安定なシンシア妃を診断し、1時間で公務に戻れるようにと治療を求められる。シンシア妃は嵯峨に言う。次に炎に焼かれるのは私だ、そこで部屋隠れている。部屋から出れば、時速63マイル以上の速度で移動し続けないと確実に地獄の炎に焼かれるのだと。薬物の過剰投与も原因となり、パニック障害と同じ症状が出ているが、シンシア妃が命が危険にさらされているとの発言は本当だと診断する。冒頭は、こんなシーンの描写から始まる。
このストーリーも話のスケールは大きい。異なる国々でそれぞれのサブ・ストーリーがパラレルに進行する。この組立がおもしろい。それらがどのように関わって行くか。共通項は人体発火現象である。フィクションとしての状況設定のおもしろさに読者が引きこまれていく要素が満ちている。
1.嵯峨がバッキンガム宮殿内の敷地内移動用の1台のミニクーパーを使い、突飛もない行動に出る。嵯峨はシンシア妃に時速63マイル以上で走行することを約束する。シンシア妃が助手席に乗り込むと、嵯峨は即座に車を発車させた。ミニクーパーで逃走する。そしてあることに気づく。嵯峨はこの事態に深く関わっていくことになる。
2.クレイトン議員は、研究所を訪れて、ジョナサン・ボイド技術主任と対峙する。クレイトンはディフェンダー・システムの誤動作・暴走を疑っている。政府の特別立法により、システムの誤動作やトラブルの発生は即、技術員の犯罪とみなされる。ボイドら技術員は戦々恐々となっている。クレイトンはモニタリング・ルームへの案内を命じ、調査を開始する。
バイオ素子を使ったプロアクティヴ・コンピューティングというIT技術領域を背景にして原因探しが始まる。
3.飛行機恐怖症の人々をYS11に搭乗させ、彼等の恐怖心を解消するという療法をリバプールで行うために岬美由紀はイギリスに来ていた。機上の美由紀に嵯峨から連絡が入る。美由紀はパラシュートで降下し、宮殿に向かうという突拍子もないシーンを発端に、事件に関わって行く。まず、この設定が読者を楽しませる。
美由紀は事件を担当するマクガイア警部に協力することになる。人体発火は血液の突沸とスコットランドヤード鑑識課は分析していた。
美由紀は臨床心理士の知識に加え科学知識力を駆使して、事件に取り組み始める。
ある推論から、彼女は古巣との関わり・コネを利用する。その結果、ディフェンダー・システムへと導かれて行く。
4.ダビデが逃亡者として登場する。ダビデは美由紀との面会を要求していた。横須賀基地に逗留する米空母キティーホークでの対面となる。ダビデはメフィスト・コンサルティング・グループを離れたと言う。ダビデはメフィスト・コンサルティングがコンピュータ・ヒプノタイズ(催眠化)の技術を開発したのだと、美由紀に告げた。疑心暗鬼ながらも、美由紀は一連の事件の裏にメフィスト・コンサルティングの暗躍を感じ始める。
ダビデとの協力関係が始まる。
ストーリーの後半は、舞台が日本に移っていく。全国の自衛隊基地壊滅という事態までも発生していくことに。そして遂に、世界統治を目論むメフィスト・コンサルティング・グループ総裁マリオン・ベロガニアが映像の形で出現してくる。
決戦はジャマイカ。カリブ海の中にあるメフィストの島となる。マリオン・ベロガニアの目指す島の構造が興味深い。
難攻不落と思われるこの島に美由紀は上陸する。決戦の渦中で美由紀は死角に気づく。美由紀の果敢な戦いが最後の決着をつける。
本書の魅力は、高度な科学技術を駆使するSF的側面を織り込んでいるところにあると思う。ストーリーに含まれる荒唐無稽さが逆におもしろさを引き出す形に転化している。最先端の科学技術のその先を取り込んだ虚実の融合が背景となり、科学知識に長けた美由紀がその頭脳をフルに駆使して、マリオン・ベロガニアに挑んでいく姿が爽快である。
ご一読ありがとうございます。
本書から関心事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
アラン・チューリング :ウィキペディア
チューリングマシンとは?コンピューター・ソフトウェアの生みの親アラン・チューリング :「パーソナルテクノロジースタッフ」
バイオ素子 :「コトバンク」
バイオ素子 :「機械工学事典」
バイオコンピュータ :ウィキペディア
コンピューティングの未来!)!)「いつでもつながる」の到来(下):「日経XTECH」
量子コンピュータ :「NRI」
フォトモデラー カメラを使って実世界を測定し、モデリング :「XLSOFT]
【2022年】3DCG制作ソフトのおすすめ人気ランキング17選 :「mybest」
ステファンボルツマン定数 :「CAE用語辞典」
スターウォーズ レーガンのハッタリ BS世界のドキュメンタリー :「NHK」
第11回 レーガン大統領とスターウォーズ計画 :「アメリカ合衆国現代史」
【スターウォーズ計画】 :「航空軍事用語辞典++」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。その点、ご寛恕ください。)
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『小説家になって億を稼ごう』 松岡圭祐 新潮新書
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅳ シンデレラはどこに』 角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅱ』 角川文庫
松岡圭祐の作品 読後印象記掲載リスト ver.3 総計45冊 2022.9.27時点
砂漠で逃走するジャジ・ア・バラカが突然火だるまになり断末魔の叫びをあげる。世界各地で原因不明の人体発火現象が相次いで発生、7人が焼死した。アメリカのある研究所の2人の研究員がクレイトン議員に質問を受ける。あるシステムの誤動作ではないかと。
一方、イギリスでのシンポジウムでふたつの講演と会議に出席予定だった臨床心理士の嵯峨は、英国王室に招聘され、精神状態の不安定なシンシア妃を診断し、1時間で公務に戻れるようにと治療を求められる。シンシア妃は嵯峨に言う。次に炎に焼かれるのは私だ、そこで部屋隠れている。部屋から出れば、時速63マイル以上の速度で移動し続けないと確実に地獄の炎に焼かれるのだと。薬物の過剰投与も原因となり、パニック障害と同じ症状が出ているが、シンシア妃が命が危険にさらされているとの発言は本当だと診断する。冒頭は、こんなシーンの描写から始まる。
このストーリーも話のスケールは大きい。異なる国々でそれぞれのサブ・ストーリーがパラレルに進行する。この組立がおもしろい。それらがどのように関わって行くか。共通項は人体発火現象である。フィクションとしての状況設定のおもしろさに読者が引きこまれていく要素が満ちている。
1.嵯峨がバッキンガム宮殿内の敷地内移動用の1台のミニクーパーを使い、突飛もない行動に出る。嵯峨はシンシア妃に時速63マイル以上で走行することを約束する。シンシア妃が助手席に乗り込むと、嵯峨は即座に車を発車させた。ミニクーパーで逃走する。そしてあることに気づく。嵯峨はこの事態に深く関わっていくことになる。
2.クレイトン議員は、研究所を訪れて、ジョナサン・ボイド技術主任と対峙する。クレイトンはディフェンダー・システムの誤動作・暴走を疑っている。政府の特別立法により、システムの誤動作やトラブルの発生は即、技術員の犯罪とみなされる。ボイドら技術員は戦々恐々となっている。クレイトンはモニタリング・ルームへの案内を命じ、調査を開始する。
バイオ素子を使ったプロアクティヴ・コンピューティングというIT技術領域を背景にして原因探しが始まる。
3.飛行機恐怖症の人々をYS11に搭乗させ、彼等の恐怖心を解消するという療法をリバプールで行うために岬美由紀はイギリスに来ていた。機上の美由紀に嵯峨から連絡が入る。美由紀はパラシュートで降下し、宮殿に向かうという突拍子もないシーンを発端に、事件に関わって行く。まず、この設定が読者を楽しませる。
美由紀は事件を担当するマクガイア警部に協力することになる。人体発火は血液の突沸とスコットランドヤード鑑識課は分析していた。
美由紀は臨床心理士の知識に加え科学知識力を駆使して、事件に取り組み始める。
ある推論から、彼女は古巣との関わり・コネを利用する。その結果、ディフェンダー・システムへと導かれて行く。
4.ダビデが逃亡者として登場する。ダビデは美由紀との面会を要求していた。横須賀基地に逗留する米空母キティーホークでの対面となる。ダビデはメフィスト・コンサルティング・グループを離れたと言う。ダビデはメフィスト・コンサルティングがコンピュータ・ヒプノタイズ(催眠化)の技術を開発したのだと、美由紀に告げた。疑心暗鬼ながらも、美由紀は一連の事件の裏にメフィスト・コンサルティングの暗躍を感じ始める。
ダビデとの協力関係が始まる。
ストーリーの後半は、舞台が日本に移っていく。全国の自衛隊基地壊滅という事態までも発生していくことに。そして遂に、世界統治を目論むメフィスト・コンサルティング・グループ総裁マリオン・ベロガニアが映像の形で出現してくる。
決戦はジャマイカ。カリブ海の中にあるメフィストの島となる。マリオン・ベロガニアの目指す島の構造が興味深い。
難攻不落と思われるこの島に美由紀は上陸する。決戦の渦中で美由紀は死角に気づく。美由紀の果敢な戦いが最後の決着をつける。
本書の魅力は、高度な科学技術を駆使するSF的側面を織り込んでいるところにあると思う。ストーリーに含まれる荒唐無稽さが逆におもしろさを引き出す形に転化している。最先端の科学技術のその先を取り込んだ虚実の融合が背景となり、科学知識に長けた美由紀がその頭脳をフルに駆使して、マリオン・ベロガニアに挑んでいく姿が爽快である。
ご一読ありがとうございます。
本書から関心事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
アラン・チューリング :ウィキペディア
チューリングマシンとは?コンピューター・ソフトウェアの生みの親アラン・チューリング :「パーソナルテクノロジースタッフ」
バイオ素子 :「コトバンク」
バイオ素子 :「機械工学事典」
バイオコンピュータ :ウィキペディア
コンピューティングの未来!)!)「いつでもつながる」の到来(下):「日経XTECH」
量子コンピュータ :「NRI」
フォトモデラー カメラを使って実世界を測定し、モデリング :「XLSOFT]
【2022年】3DCG制作ソフトのおすすめ人気ランキング17選 :「mybest」
ステファンボルツマン定数 :「CAE用語辞典」
スターウォーズ レーガンのハッタリ BS世界のドキュメンタリー :「NHK」
第11回 レーガン大統領とスターウォーズ計画 :「アメリカ合衆国現代史」
【スターウォーズ計画】 :「航空軍事用語辞典++」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅱ』 角川文庫
松岡圭祐の作品 読後印象記掲載リスト ver.3 総計45冊 2022.9.27時点