文庫本の表紙には、赤色・水色・紫色の朝顔がデザインされている。ここに描かれていないのが黄色の朝顔。この小説、黄色い朝顔にまつわる謎解きストーリーである。江戸時代、朝顔は園芸植物として流行したという。何かの本で、江戸の浪人が内職の一つとして朝顔栽培をしていたと読んだ記憶がある。手許の辞書を引くと、「朝顔市」という見出しで、「朝顔などを売る市。毎年七月上旬に、東京都台東区入谷の鬼子母神境内周辺で行われているものが有名。」(『日本語大辞典』講談社)と説明されている。江戸時代、黄色の朝顔が実際にあったということが記録に残っているという。それがあるときから、ぱたりと消滅したのである。黄色いアサガオの謎がなぞを重ねていく。
余談だが、最近「幻の花」と呼ばれていた「黄色い朝顔」が遺伝子組み換え技術で再現され、花をさかせたという報道をインターネットの検索で知った。
さて、このミステリーは、面白いことに2つのプロローグから始まる。
「プロローグ1」では、1歳の娘のいる真一・和子夫妻に起こる悲劇が記される。七時過ぎに社宅を出て、家族揃って商店の並ぶ駅前通りを歩いている時、突然そばの路地から現れた男が、手にしていた日本刀で夫妻を殺害したのだ。年月の記載はない。そのシーンが描写される。
「プロローグ2」は、冒頭に記した台東区入谷での朝顔市の場面から始まる。毎年七夕の頃、蒲生家は家族揃って朝顔市を見物し、鰻を食べに行くのが恒例行事になっている。このストーリーの主な主人公の登場である。一人は蒲生蒼太。プロローグのシーン時点では14歳。蒼太には、13歳も年上で公務員という仕事に就いている兄・要介がいる。蒼太が父・真嗣に好例となっている朝顔市巡りの理由を尋ねても、特に理由はないと言うだけで多くを語らない。兄の要介はこの好例行事について、何ひとつ不平を言わないのだ。蒼太はそれを不思議に思う。ここに、蒲生家の謎の伏線が敷かれる。
この朝顔市で蒼太は浴衣姿の若い娘を見て、一目惚れする。たまたまその時、通りすがりの人が財布を落としたことに気づき、後を追いその人に手渡すという行為がきっかけで二人は話し合うことになる。その娘の名前は、伊庭孝美で、蒼太と同じ中学2年。孝美の家は代々医者だという。二人はその後密かに交際を始める。だが、その交際はあるとき唐突に終わりとなる。理由は不明。ここにまた、別の伏線が敷かれていく。
プロローグはこの全く無関係と思われる2つの場面から、福島原発事故後数年が経過した現在時点に切り替わる。
蒲生蒼太は、関西に所在する大学の物理エネルギー工学科二科、かつての原子力工学科に在籍し、卒業を目前にして将来の進路選択を迫られる学生の立場にある。
現在時点のストーリーは、秋山梨乃の登場で始まる。秋山梨乃はオリンピック選手候補として嘱望された水泳選手だったが、それを断念した。文学部国際文化学科の学生として何となく目標を見失った形で大学に在籍している。そんな状態の中で、梨乃の父方の従兄にあたる鳥井尚人が、自宅マンションから飛び降りて死亡したのである。事件性が認められないことから、警察は自殺と判断する。尚人はアマチュアバンドの活動をしていて、大学を中退し、音楽の道を選んでいた。
尚人の葬儀の席で、祖父の秋山周治と話をして、約束した梨乃は西荻窪にある祖父の家を訪ねる。祖父は庭で沢山の花を育てていた。花の写真を撮り、パソコンに画像ファイルを残し、大学ノートに生育記録をメモしていた。周治は花の写真に生育記録メモを添えた本の出版を夢見ている。梨乃はインターネットでの日記公開を勧め、それを手伝う約束をする。2ヶ月ほど後に、梨乃が周治の家を訪れると、今朝咲いた黄色い花について調べているという。小さな鉢植えのその花はしおれてしまったらしい。その花の写真はファイルに保管されていた。周治は詳しいことは今言えないが、その花をブログに載せるわけにはいかないと梨乃に語ったのだ、
それから3週間後、梨乃が周治の家を訪れる。そして、梨乃は祖父が殺害されていることを発見する。事件の解明がここから始まって行く。
ストーリーの構想が面白くなっていく。異なる次元の3つの軸が交錯しながら、ストーリーが展開していくことによる。
1つは、殺人事件なので、警察が捜査を開始する。早瀬亮介刑事が関わって行く。早瀬は秋山周治に面識があった。今は離婚しているが、息子の裕太が万引き容疑を受けた時、周治の目撃証言で救われたという恩義がある。事件が報道されると、息子の裕太から恩人が殺された事件を父に解決してほしいと切望される。勿論、早瀬はその気で取り組む。早瀬刑事の捜査活動で、情報が集積されていく。一方で、梨乃が祖父が殺害されているのを発見した時に、後で記憶から呼び起こした重要な情報を警察に通報したが、やる気のなさそうな警官が重要情報とは認識しないという問題も起こっていく。早瀬刑事の地道な捜査の積み上げと推理が事件解明へのサブ的な読ませどころとなる。
2つめは、蒲生要介が登場して来るのである。梨乃が祖父のブログに祖父の他界を知らせる記事を載せ、「名称不明の黄色い花」というタイトルで、祖父が最後に咲かせた花として画像を開示した。このことに対して、要介が敏速に反応した結果である。要介は実名で梨乃にメールを送り、花の写真の削除とブログ閉鎖を助言する。要介は「ボタニカ・エンタープライズ 代表 蒲生要介」という肩書の名刺を梨乃に示し、表参道にあるオープンカフェで会って話をする。
プロローグ2で、蒼太が兄は公務員と言っていたのに、なぜ? 読者には不可解な印象を抱かせる登場である。要介の正体は? 彼は何を知っていて、何をしようとしているのか?
要介は、梨乃に祖父からMM事件について何か聴いたことがないかと質問する。
そして、事件は警察に、花のことは自分に任せて、素人は手を出さない方が良いと、要介は梨乃に助言する。読者の関心を惹きつけていく要介の登場である。
3つめは、勿論、蒲生蒼太である。父の三回忌のために帰省してきて、翌日、檀家寺で法要を済ませ、実家に戻ったところ、門前に立つ女性を見て、声を掛ける。その女性が梨乃だった。梨乃は要介に会い話をするために来たのである。梨乃は蒼太に要介の名刺を見せることで、二人の関わりが始まる。蒼太は兄・要介が警察庁の役人だと告げる。
ならば、なぜ? こんな名刺が・・・・。梨乃は祖父の死と謎の黄色い花について蒼太に語る。蒼太が黄色い花の謎の解明に関わって行く。それは、不可解な兄・要介のことを知るための行動に繋がり、かつ秋山周治が殺害された事件の真相究明に関わって行くことになる。
三者三様の立場から、黄色い花のなぞが追究されていき、周治殺害との関わりが明らかにされていく。読者は3つのアプローチが織りなす推理・究明と進展プロセスを総合的に知り乍ら読み進める立場に立つ。それでいて、展開の一二歩先を見通せないというもどかしさを、読者として感じることだろう。先を読み進める動機づけになる。
蒼太と梨乃の協力。蒼太は早瀬刑事と接点を持つことにもなる。一方、それは要介の予測外の動きでもあった。蒼太の推理の進展が二人を思わぬ方向に導いていく。蒼太の推理の展開と行動力が謎の黄色い花に起因する波紋を重層的に拡げていくことになる。
秋山周治が生前に携わっていた仕事の内容が明らかになっていく。
梨乃の従兄の自殺の真相が明らかになる。音楽を介した人間関係が明らかになる。
蒲生家という系譜に秘められていた謎が明らかになる。
中学時代の蒼太にとり突然断絶した伊庭孝美との交際の真相までもが明らかになる。
伊庭孝美も、黄色い花に関わることを運命づけられていたのだった。
そして、プロローグ1。最終段階で深い関わり合いがあったことが明らかになる。
黄色い花の謎が、意外な展開として膨らんでいく。すべてが黄色い花に関わっていた。蒼太も例外では無かったのである。なんという展開! というところ。
最後に、この小説のキーワードは勿論タイトルの「夢幻花」である。そのコインの裏面は「負の遺産」がキーワードとなっている。
著者は、蒼太の在籍する大学の学科を物理エネルギー工学科二科、かつての原子力工学科と設定した。さらに、福島原発事故後の現代という同時代を背景におき、古くは江戸時代にまで遡り、限定的には親子三代という明治以来のロングスパンの事の推移を背景にして、このストーリーが構想されている。そのキーワ-ドが「負の遺産」である。
蒼太が「負の遺産」である原発と付き合っていく生き方を選択することで「エピローグ」を締めくくる。ここにも、著者の巧みなストーリーの構想が組み込まれている。
このフィクションに一貫性を持たせて、著者はエピローグをきっちりと書き込んでいる。それと同時に、この小説におけるフィクションとしての「負の遺産」というキーワードは、現実世界において原発の生み出したリアルな「負の遺産」に読者の目を転じさせる。虚から実に、このストーリーを離れた現実に目を向けさせることに転換していく余韻を残す。
リアルな「負の遺産」は現実に継続していることに気づかせる。著者の社会批判の視点が織り込まれていると感じた。誰が負の遺産の面倒を見ていくのかト・・・・・。
なかなか、興味深い展開となる。巧妙に仕掛けが組み込まれたストーリーである。
この作品、第26回柴田錬三郎賞受賞作である。やはり、受賞するだけの面白さを発揮している。
ご一読ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
この作品の関心からの波紋で、インターネット検索で得た事項を一覧にしておきたい。
「黄色い朝顔」時超え咲いた 遺伝子組み換え技術で再現 :「YOMIURI ONLINE」
「幻の花」黄色い朝顔を咲かせたぞ :「Science Portal」
幻の花と呼ばれた「黄色い朝顔」を復活させることに成功 :「IRORIO」
入谷朝顔まつり ホームページ
入谷の朝顔市 :「コトバンク」
夏の風物詩「入谷の朝顔市」 YouTube
朝顔の歴史 江戸っ子も熱狂させたその魅力をたどる :「はな物語」
不思議な形の変化朝顔図鑑 :「NAVERまとめ」
アサガオ ホームページ(九州大学)
アサガオの園芸史 :「九州大学」
江戸期の文献(図譜)にみるアサガオの突然変異体 :「九州大学」
マリリン・モンロー暗殺疑惑 :「ラウンンジ・ピュア」
http://ww5.tiki.ne.jp/~qyoshida/kaiki2/151marilynmonroe.htm
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
ふと手に取った作品から私の読書領域の対象に加わってきました。
次の本をまずは読み継いできました。お読みいただけるとうれしいです。
『祈りの幕が下りる時』 講談社文庫
『赤い指』 講談社文庫
『嘘をもうひとつだけ』 講談社文庫
『私が彼を殺した』 講談社文庫
『悪意』 講談社文庫
『どちらかが彼女を殺した』 講談社文庫
『眠りの森』 講談社文庫
『卒業』 講談社文庫
『新参者』 講談社
『麒麟の翼』 講談社
『プラチナデータ』 幻冬舎
『マスカレード・ホテル』 集英社
余談だが、最近「幻の花」と呼ばれていた「黄色い朝顔」が遺伝子組み換え技術で再現され、花をさかせたという報道をインターネットの検索で知った。
さて、このミステリーは、面白いことに2つのプロローグから始まる。
「プロローグ1」では、1歳の娘のいる真一・和子夫妻に起こる悲劇が記される。七時過ぎに社宅を出て、家族揃って商店の並ぶ駅前通りを歩いている時、突然そばの路地から現れた男が、手にしていた日本刀で夫妻を殺害したのだ。年月の記載はない。そのシーンが描写される。
「プロローグ2」は、冒頭に記した台東区入谷での朝顔市の場面から始まる。毎年七夕の頃、蒲生家は家族揃って朝顔市を見物し、鰻を食べに行くのが恒例行事になっている。このストーリーの主な主人公の登場である。一人は蒲生蒼太。プロローグのシーン時点では14歳。蒼太には、13歳も年上で公務員という仕事に就いている兄・要介がいる。蒼太が父・真嗣に好例となっている朝顔市巡りの理由を尋ねても、特に理由はないと言うだけで多くを語らない。兄の要介はこの好例行事について、何ひとつ不平を言わないのだ。蒼太はそれを不思議に思う。ここに、蒲生家の謎の伏線が敷かれる。
この朝顔市で蒼太は浴衣姿の若い娘を見て、一目惚れする。たまたまその時、通りすがりの人が財布を落としたことに気づき、後を追いその人に手渡すという行為がきっかけで二人は話し合うことになる。その娘の名前は、伊庭孝美で、蒼太と同じ中学2年。孝美の家は代々医者だという。二人はその後密かに交際を始める。だが、その交際はあるとき唐突に終わりとなる。理由は不明。ここにまた、別の伏線が敷かれていく。
プロローグはこの全く無関係と思われる2つの場面から、福島原発事故後数年が経過した現在時点に切り替わる。
蒲生蒼太は、関西に所在する大学の物理エネルギー工学科二科、かつての原子力工学科に在籍し、卒業を目前にして将来の進路選択を迫られる学生の立場にある。
現在時点のストーリーは、秋山梨乃の登場で始まる。秋山梨乃はオリンピック選手候補として嘱望された水泳選手だったが、それを断念した。文学部国際文化学科の学生として何となく目標を見失った形で大学に在籍している。そんな状態の中で、梨乃の父方の従兄にあたる鳥井尚人が、自宅マンションから飛び降りて死亡したのである。事件性が認められないことから、警察は自殺と判断する。尚人はアマチュアバンドの活動をしていて、大学を中退し、音楽の道を選んでいた。
尚人の葬儀の席で、祖父の秋山周治と話をして、約束した梨乃は西荻窪にある祖父の家を訪ねる。祖父は庭で沢山の花を育てていた。花の写真を撮り、パソコンに画像ファイルを残し、大学ノートに生育記録をメモしていた。周治は花の写真に生育記録メモを添えた本の出版を夢見ている。梨乃はインターネットでの日記公開を勧め、それを手伝う約束をする。2ヶ月ほど後に、梨乃が周治の家を訪れると、今朝咲いた黄色い花について調べているという。小さな鉢植えのその花はしおれてしまったらしい。その花の写真はファイルに保管されていた。周治は詳しいことは今言えないが、その花をブログに載せるわけにはいかないと梨乃に語ったのだ、
それから3週間後、梨乃が周治の家を訪れる。そして、梨乃は祖父が殺害されていることを発見する。事件の解明がここから始まって行く。
ストーリーの構想が面白くなっていく。異なる次元の3つの軸が交錯しながら、ストーリーが展開していくことによる。
1つは、殺人事件なので、警察が捜査を開始する。早瀬亮介刑事が関わって行く。早瀬は秋山周治に面識があった。今は離婚しているが、息子の裕太が万引き容疑を受けた時、周治の目撃証言で救われたという恩義がある。事件が報道されると、息子の裕太から恩人が殺された事件を父に解決してほしいと切望される。勿論、早瀬はその気で取り組む。早瀬刑事の捜査活動で、情報が集積されていく。一方で、梨乃が祖父が殺害されているのを発見した時に、後で記憶から呼び起こした重要な情報を警察に通報したが、やる気のなさそうな警官が重要情報とは認識しないという問題も起こっていく。早瀬刑事の地道な捜査の積み上げと推理が事件解明へのサブ的な読ませどころとなる。
2つめは、蒲生要介が登場して来るのである。梨乃が祖父のブログに祖父の他界を知らせる記事を載せ、「名称不明の黄色い花」というタイトルで、祖父が最後に咲かせた花として画像を開示した。このことに対して、要介が敏速に反応した結果である。要介は実名で梨乃にメールを送り、花の写真の削除とブログ閉鎖を助言する。要介は「ボタニカ・エンタープライズ 代表 蒲生要介」という肩書の名刺を梨乃に示し、表参道にあるオープンカフェで会って話をする。
プロローグ2で、蒼太が兄は公務員と言っていたのに、なぜ? 読者には不可解な印象を抱かせる登場である。要介の正体は? 彼は何を知っていて、何をしようとしているのか?
要介は、梨乃に祖父からMM事件について何か聴いたことがないかと質問する。
そして、事件は警察に、花のことは自分に任せて、素人は手を出さない方が良いと、要介は梨乃に助言する。読者の関心を惹きつけていく要介の登場である。
3つめは、勿論、蒲生蒼太である。父の三回忌のために帰省してきて、翌日、檀家寺で法要を済ませ、実家に戻ったところ、門前に立つ女性を見て、声を掛ける。その女性が梨乃だった。梨乃は要介に会い話をするために来たのである。梨乃は蒼太に要介の名刺を見せることで、二人の関わりが始まる。蒼太は兄・要介が警察庁の役人だと告げる。
ならば、なぜ? こんな名刺が・・・・。梨乃は祖父の死と謎の黄色い花について蒼太に語る。蒼太が黄色い花の謎の解明に関わって行く。それは、不可解な兄・要介のことを知るための行動に繋がり、かつ秋山周治が殺害された事件の真相究明に関わって行くことになる。
三者三様の立場から、黄色い花のなぞが追究されていき、周治殺害との関わりが明らかにされていく。読者は3つのアプローチが織りなす推理・究明と進展プロセスを総合的に知り乍ら読み進める立場に立つ。それでいて、展開の一二歩先を見通せないというもどかしさを、読者として感じることだろう。先を読み進める動機づけになる。
蒼太と梨乃の協力。蒼太は早瀬刑事と接点を持つことにもなる。一方、それは要介の予測外の動きでもあった。蒼太の推理の進展が二人を思わぬ方向に導いていく。蒼太の推理の展開と行動力が謎の黄色い花に起因する波紋を重層的に拡げていくことになる。
秋山周治が生前に携わっていた仕事の内容が明らかになっていく。
梨乃の従兄の自殺の真相が明らかになる。音楽を介した人間関係が明らかになる。
蒲生家という系譜に秘められていた謎が明らかになる。
中学時代の蒼太にとり突然断絶した伊庭孝美との交際の真相までもが明らかになる。
伊庭孝美も、黄色い花に関わることを運命づけられていたのだった。
そして、プロローグ1。最終段階で深い関わり合いがあったことが明らかになる。
黄色い花の謎が、意外な展開として膨らんでいく。すべてが黄色い花に関わっていた。蒼太も例外では無かったのである。なんという展開! というところ。
最後に、この小説のキーワードは勿論タイトルの「夢幻花」である。そのコインの裏面は「負の遺産」がキーワードとなっている。
著者は、蒼太の在籍する大学の学科を物理エネルギー工学科二科、かつての原子力工学科と設定した。さらに、福島原発事故後の現代という同時代を背景におき、古くは江戸時代にまで遡り、限定的には親子三代という明治以来のロングスパンの事の推移を背景にして、このストーリーが構想されている。そのキーワ-ドが「負の遺産」である。
蒼太が「負の遺産」である原発と付き合っていく生き方を選択することで「エピローグ」を締めくくる。ここにも、著者の巧みなストーリーの構想が組み込まれている。
このフィクションに一貫性を持たせて、著者はエピローグをきっちりと書き込んでいる。それと同時に、この小説におけるフィクションとしての「負の遺産」というキーワードは、現実世界において原発の生み出したリアルな「負の遺産」に読者の目を転じさせる。虚から実に、このストーリーを離れた現実に目を向けさせることに転換していく余韻を残す。
リアルな「負の遺産」は現実に継続していることに気づかせる。著者の社会批判の視点が織り込まれていると感じた。誰が負の遺産の面倒を見ていくのかト・・・・・。
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「黄色い朝顔」時超え咲いた 遺伝子組み換え技術で再現 :「YOMIURI ONLINE」
「幻の花」黄色い朝顔を咲かせたぞ :「Science Portal」
幻の花と呼ばれた「黄色い朝顔」を復活させることに成功 :「IRORIO」
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アサガオの園芸史 :「九州大学」
江戸期の文献(図譜)にみるアサガオの突然変異体 :「九州大学」
マリリン・モンロー暗殺疑惑 :「ラウンンジ・ピュア」
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