遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『京都府の不思議事典』 井本伸廣・山嵜泰正編 新人物往来社

2013-08-21 22:05:22 | レビュー
 はや20年近くの時が経ったが、1994(平成6)年に平安京建都1200年記念祭があった。長らく都が置かれた京都。なぜこの地に都がおかれたのか・・・そんな旧都に、様々な不思議が累積されていてもおかしくはないだろう。その都の周辺にも関心を広げて、京都府という地域の様々な「なぜ?」を集めた本である。府県単位で不思議事典が出版されている。その1冊だ。本書は2000年の出版である。
 京都に生まれ育ち、今はその近傍に住むが、いくつか「なぜ?」と思うことがあり、この本を手にとってみた。

 他県の事典は見ていないので、同じ構成かどうかは知らない。
 本書は、不思議なことを、7つの領域に分類してまとめている。伝承・説話篇、文学・芸術篇、行事・寺社その祭礼篇、宗教篇、歴史篇、産業篇、地理篇、自然篇である。
 ある意味で、不思議なこと、なぜ?とふと思ったことについて、繙いてみるのに手頃な本である。雑学、豆知識、コラム記事という類にあたる読み物を集めた本といえる。短い文章で簡潔に「なぜ? 不思議・・・」と思えることに解説を加えてくれている。「あとがき」で触れられているが、本書の1項目は800字以内で説明され、191項目が採りあげられている。(確認のカウントはしていないので・・・・受け売りですが。)ものによっては、さまざまな見解や解釈が併記されている。

 編著者は「あとがき」でこう述べている。
 「土地の持つ歴史的な重層性は京都の面白さ・不思議さを倍増させる。時代や見る角度を少し変えると、いろいろな人物や日本史が透けて見えてくる。そこが『京都府の不思議』と魅力であろう」と。
 もともとの平安京の構想は構想倒れとなった。現実の土地の住みよさなどの影響もありその中心が移動して行ったのである。また戦乱兵火や幾多の火事などで都が広範囲に焼け、その後に繰り返し再建されている都である。秀吉のように、さらに強引に己のプランで聚楽第やお土居を含め、都の大改造がなされた時期もある。まさに、同じ都の中で、重層的に様々な歴史が育まれてきたところだ。その周辺の地域が、都の有り様に影響を受け変化するのも当然だろう。

 そんな中から、今思うと、なぜ?が出て来てあたりまえ。名所旧跡を解説した観光ガイドブックと本書を組み合わせてみると、面白さに深みが加わると思う。私自身のちょっとした「なぜ?」の解消から始まって、幅広くわが郷土を見つめ直す参考になった。
 2000年の出版なのだが、不思議さという視点から言うならば、歴史の長さから見てちょっと前に出版されたくらいのもの。疑問点があれば、まず項目があるかどうか、繙いてみるとよい。「事典」形式なので、気楽に必要な項目だけ読めばよい。私は通読してしまったが。

 たとえば、こんな疑問について、説明が加えられている。本文からほんの一部を要約抽出してみた。
*小野篁はエンマの冥官ってホント!
  → 東山・六道珍皇寺には冥界に通じる井戸がある。
*一寸法師と御伽草子の『一寸法師』はどう違うの?
  → 山崎の天王山中腹にある宝積寺には鬼退治をした小男が鬼から褒美に
    もらった太刀と打ち出の小槌一対が存在する。
*陰陽師・安部晴明が祭神だってホント?
  → 堀川の一条戻り橋の少し北に晴明神社がある。
    『今昔物語』『古事記談』『酒呑童子』掲載の晴明の逸話が語られている。
*鬼になった女・鉄輪(かなわ)って?
  → 京都市下京区堺町通松原下ル鍛冶屋町の路地の奥に「鉄輪の井戸」がある。
    この伝承にも安部晴明が登場する。
*紫式部の本名・居所はわかるの?
  → 京都市上京区にある廬山寺内と言うのが現在の通説
*恋い多き和泉式部の晩年はどうしたのか?
  → 式部遺愛の「軒端の梅」が左京区の真如堂町にある。
    晩年に住んだ東北院の小堂が中京区新京極六角の誠心院にある。
    相楽郡木津町に和泉式部の墓という五輪石塔がある。
*円山応挙の幽霊画は客寄せだった?
  → 四条通堺町東入ル南側に応挙の邸宅跡の碑があり、墓は悟真寺(太秦)に。
*夏目漱石の句の「女」って誰?
  → 中京区御池大橋西詰、御池通に漱石の句碑がある。
    「春の川を隔てて男女かな 漱石」と印刻されている碑である。
*大文字送り火の謎
  → 昔は、「い」「一」「鈴」「蛇」などの送り火があったそうだ。
    大文字は山麓が葬送地で洛中どこからでも眺められるので選ばれたのだとか。
*西行は人造人間を造った?
  → 西行は河内国弘川寺で73歳の生涯を閉じた。
    『撰集抄』に記された西行の逸話が引用されている。
*一休さんの老いらくの恋ってホント?
  → 81歳で大徳寺住持48世となった一休は、京田辺市にある酬恩庵に引きこもる。
    『狂雲集』には、森女と関連する漢詩を数多く残している。風狂に生きた。
*桂離宮になぜ7つのキリシタン灯籠があるのか?
  → 宮元健次氏(龍谷大学)は桂離宮を小堀遠州が作庭・普請したと主張する。

これらの謎、すべてご存知のことばかりでしょうか?

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上記関連で、ネット検索で知り得ることは、こんなこと。一覧にしておこう。
探せばもっといろいろ情報はあることだろう。疑問、謎の回答説明を含めて・・・・

六道珍皇寺 :ウィキペディア
六道珍皇寺 :「京都風光」
宝積寺 :「京都府」
鉄輪の井戸(かなわのいど)
京都魔界のパワースポット 丑の刻参りの鉄輪の井戸 命婦稲荷 :YouTube
「鉄輪(かなわ)」:「銕仙会~能と狂言~」
天台圓淨宗 大本山 廬山寺 ホームページ
円山応挙 :ウィキペディア
落語「応挙の幽霊」の舞台を歩く :「落語の舞台を歩く」
夏目漱石と京都 :「京都検定合格を目指す京都案内」
京都府の最南端、木津川市にある和泉式部の墓と伝える五輪塔
   :「京都検定合格を目指す京都案内」
五山送り火 :ウィキペディア
五山送り火 ::「京都観光協会」
 京の夏の夜空を彩る風物詩 8月16日 午後8時点火 
撰集抄 :ウィキペディア
弘川寺由縁と西行記念館 :「敷島随想」
酬恩庵一休寺 ホームページ
桂離宮 :ウィキペディア
桂離宮と修学院離宮 文化史11 :「フィールドミュージアム・京都」
織部灯籠 :「茶道百字辞典」
キリシタン灯籠 :「私立PDD図書館」


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