Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「映画史特別編 選ばれた瞬間」ジャン=リュック・ゴダール

2010-12-21 01:24:33 | cinema
映画史特別編 選ばれた瞬間
LES MOMENTS CHOISIS DES HISTOIRE(S) DU CINEMA
2005フランス
監督・編集:ジャン=リュック・ゴダール


問題作『映画史』の編集版。
もとは全8部からなる長大な作品なのだが・・・というと本作はそのダイジェストなのかーという印象だけれども、そもそも『映画史』自体が膨大な(しかし極端に偏ったw)映画・文学・音楽・写真の記憶のダイジェストなわけで、さらにそのダイジェストだからといってなにかがわかりやすくなったり整理されたりするわけではない。

「編集」が映画の成立において、重要という以上になにかの根幹をなす行為であることをおそらくは人の2500倍くらい感じているであろうゴダール氏は、「映画史=編集」といわんばかりにまあ手当たり次第に壮大なミクスチャーをやってみせたのだが、この特別版も、尺が短いだけで別バージョンのミックスである。

編集によって「別のもの」であった映像と音がつなぎ合わされるときに生じる運動が映画のエンジンだとするならば、乱暴に言えばストーリーだとかプロットだとかという「外部の」説話構造を持たない手法によっても映画は成立するだろう、そしてその方法によって(のみ?)映画による映画史の「記述」は可能だろう。そこに生じる運動性を「観る」ことが映画史の体験である。
・・・というものだろう、とワタシは勝手に思っている。

なので一義的にはぼんやりと(あるいは熱心に)画面を見つめ、音を聴き文字を読む。ときおりワタシという私的な記憶媒体と響きあう場面があり、おおっと思う。映像と文字と言葉のリズムに酔う。字幕を読む苦行が加わる。これを繰り返すことが楽しみである。

一方で、この長大な「編集」にはまた複雑な物語が内在しているともいえる。「編集=引用」としたときに(初めて?)映画による映画史が可能なのだともいえるからだ。作品中の夥しい引用の原点を探り、リストアップし、関係性をマッピングしてみる。引用元について調べ、飲用された理由を推測してみる。そこにはひとつの(あるいは複数の)知の体系(もしくは混沌)を読むことができる。
これが『映画史』の物語である。

この物語はゴダールが紡いだものとして読むことはもちろん、それを読む側の記憶や調査力に左右される観る側の物語でもある。映像と外部を行き来する間に生まれる複数の場である。そういう楽しみもこの作品の「観方」として正しいあり方であるだろう。『映画史』には「ゴダール以降」の作品へのまなざしがない、とか東洋へのまなざしが欠如しているとかで怒るのも、そのような外部の楽しみである。

ワタシという人間にとってみると、後者の「外部の物語」を紡ぐ能力は残念なことにきわめて低く、せっかくの『映画史』体験もあれよあれよという音と像の奔流下りになって最後はおぼれてしまうのが関の山なのだが、そこは幸運にも、「映画史日本DVD制作集団2001」(総合監修浅田彰)による膨大な注釈が映像にリンクする形で付けられた『ジャン=リュック・ゴダール 映画史 全8章』ボックスが販売されている。DVDを観つつ止めつつ注釈を読み、ほほー、へーと感心するのがワタシのスタイルである。

もともとヴィデオ作品でありVHSでの販売のみの形態であった本家『映画史』であるから、このように所有し再生・ポーズ・巻き戻しを駆使するのも間違ったスタイルではあるまいし、DVDになってその「非劇場性」はグレードアップされより「便利に」なっている。
(『映画史』を世界で最初に劇場公開した日本がむしろ特異な出来事なのだろう。)

で、延々と述べておいてナニではあるが結論としては、この「特別編」を劇場で観たワタシは、この止めつ読みつつという行為を封じられたがゆえに、性懲りもなく怒涛の潮流にぐるぐる振り回されてしまい、結果ろくに記憶もできずにすごすごと退散したのです、ということが言いたかったわけです。

特別編も「ああ所有したい!」という欲求が高まったというところですか。

****

全体はやはり8章に分かれているのだが、それぞれの時間が短いがゆえに、章ごとに異なるテーマ(引用のテクスチャーの微妙な違いとなって表れる)の違いがあまりはっきり意識できず物足りない気がしたのは、ワタシの読解力によるものか。

やはり本編?の各章ごとにどっぷり数十分浸かって肌理の濃淡に涙するような観方のほうがよりゴダールに接近できるような気がする。
タイトルを含め、ナレーション等の言葉をかみ締めながらじっくり映像を見ると、時間をかけて迫ってくる映像からはなんとなくなにごとかが伝わってくるものである。ああ、「絶対の貨幣」ってそういうことなのか??とかね。

なので「特別編」でいまいちピンとこないなーと思われた向きには、ぜひこのページで本編DVDをポチっとして、膨大な外部体験込みのDVDを所有し楽しまれることをお勧めする。
(という誘導で終わったりする。)


ジャン=リュック・ゴダール 映画史 全8章 BOX [DVD]
クリエーター情報なし
紀伊國屋書店





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