Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「銃・病原菌・鉄」ジャレド ダイアモンド〈上巻〉

2010-12-11 02:36:54 | book
銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
ジャレド ダイアモンド
草思社


銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
ジャレド ダイアモンド
草思社


「銃・病原菌・鉄―一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎」ジャレド・ダイアモンド 上巻

朝日新聞社がまとめた「ゼロ年代の50冊」のベスト1となった本だというので読んでいる。
「ゼロ年代の50冊」は、新聞等で書評を書いている「識者」に対するアンケートで選んだ上位50冊ということで、アンケートは2000年から2009年の間に出た本からベスト5を挙げてもらう内容。151人から回答があり、書名が挙がったのは約620冊とのことで、なんだ、みんなばらばらのものを挙げてるってことでしょうかね?w
それだけいろいろな読書体験があり選択眼があるというのはいいことでしょうね。

そのなかで最高得点を得たのが本書ということです。
本書のテーマが魅力的だというのもあるけれど、同時に、上下巻買って4000円弱という価格がまあワタシになんとか手が届く感じなのが大きかったですねーw。1冊4000円だったら絶対に買ってない。
「識者」のツテなり財力なりも有限ですから、安くて面白い本は読まれやすい=選ばれやすいのかなあ?とか想像してみるのですが。。

****

とりあえず上巻を読んだところなんですが、この本のテーマは、この人間世界の勢力不均衡はそもそもなんで生じているのか?ということで、それはなんとなくワタシもずっと不思議だったんですよね。

少なくともちょっと前までは世界は圧倒的にヨーロッパやアメリカが牛耳っている感じで、いわゆる文明化とか近代化とかいうことも、要するに欧米的価値への社会改変だったりするわけで。アメリカの支配層ももとはヨーロッパからの移民だから、じゃあヨーロッパってなんでこんなに強くなったんだろう?
象徴的なこととしては、海を渡ってインカ、マヤの文明を滅ぼしたのはスペイン人だけど、なぜ「その逆」は起こらなかったのだろう?

ちょっと視野を広げると、ヨーロッパのキリスト教文化圏に対してイスラムの勢力も大きいわけだけど、それだって発祥はなんというかユーラシア大陸の西のほうだもんね。
東のほうには中国の文化圏があるけれども、それもまあやはりユーラシア大陸でのこと。アメリカ大陸やアフリカ大陸、オーストラリアなどにもそれなりに文明はあったわけだけど、どうしてそれらは支配的な勢力にならなかったのか?

本書はその謎を解き明かす論証を、まず1万年前の人類の誕生と変遷から始めている。わくわくするね~。アフリカ起源の人類は各大陸へいつごろ伝播していくのか。人類がたどり着いた時期が遅ければ文明発生の時期も遅くなるということか?

著者はさらに、人間が狩猟採取生活から農耕牧畜生活へ移行する時期に着目する。
植物の栽培や動物の家畜化のもたらすものが狩猟採取のそれを上回り、定住定着生活を人間に選ばせる条件には、気候や野生植物の分布や動物の生態など様々な事柄が関わる。
ここでもやはり問題は単純ではなく、たとえば同様に農業に適した土地にあっても農耕文明が定着したところがある一方、狩猟採取生活が続きついに農耕社会が成立しなかった地域もある。
この違いはなぜ生じたのか?

このように疑問は入れ子状に積み重なっていくのだが、本書はそれを丁寧に端から順に論証していく。
おかげで、上巻のほとんどを費やしているのが、農作物と家畜の発生と伝播に関することだ。この調子で本当に現在まで至る勢力図形成の謎に語り至ることができるのか??という疑念を抱きつつも我々はひたすらエンドウマメの性質や突然変異のことやら、羊やシマウマの性格のことやら、なぜ肉食動物は家畜にならないのかとかいう話を辛抱強く読むことになる。

それはもちろん楽しいもどかしさなのだが。

農耕発生のくだりを先を急ぐように読み進むと、最後のほうに世界の三大大陸の形状の話が出て、ようやく今度は農作物の伝播の話が始まるといった具合で。

少なくともタイトルから察するに、鉄と銃と病原菌の話が出てこないはずはなくw。上巻の最後の最後にちょろっとその兆候が現れるのですが、こりゃあこの先どうなるんだ??と思いつつも上巻を閉じることになるのです。

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著者の姿勢に共感する点は、文明論や世界勢力の議論のなかでしばしば現れる「民族の優位性」という観点に対し、それは誤りであり環境的要因ですべて説明できるという立場をとる点ですね。
そういう考え方を捨てるのにはやはり丁寧に論理立て物事を理解することが必要なんでしょうね。根拠をしっかり理解するということは重要ですね。
そういうことがまさに優位にいるヨーロッパや文明発祥の地のひとつである中近東で火種になっていることもまた悲しいことですし、また、このアジアの一角で半ば扇情的に近隣国の「国民性」などについて騒いだりするのはなんとも虚しい話ですよ。


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