Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

実相寺昭雄「姑獲鳥の夏」

2006-12-15 23:56:25 | cinema
姑獲鳥の夏 プレミアム・エディション

ジェネオン エンタテインメント

このアイテムの詳細を見る


2005日本
監督:実相寺昭雄
原作:京極夏彦
脚本:猪爪慎一
音楽:池辺晋一郎
出演:堤真一、永瀬正敏、阿部寛、原田知世、田中麗奈
清水美砂、篠原涼子 、松尾スズキ、いしだあゆみ


産院の異様な建築!
これだけで私は満足した。
実相寺は異様な建築フェチであることは間違いなく(笑)、
「曼陀羅」での表現主義的/ダダイズム的モーテルといい、これは実相寺的な世界と言っていいのでは。
なにしろハイライトがまさにこの病院の炎上だったではないですか。
ここにこだわりの深さを勝手に観た私である。

(いや、異様な建築フェチは私か・・(汗))

そう、それと、
あの、墓場に挟まれた土塀の坂道!
あの風情も、十分に個性的なたたずまいだった。
陰湿というのとは違って、妙に安っぽいくせになんだか禍々しいという、独特のたたずまい。あの坂道にはまるかどうかがこの映画のリトマス試験紙だという気がしてならない。
このはまり具合はどこから来るのだろう・・・と問えば、やはり往年のウルトラセブン的?・・・(と毎回のように書いてしまうのもどうかとは思うが・・・)



思うに、前回観た「悪徳の栄え」でもそうだったけれど、実相寺監督は、昭和初期という時代を取り上げながらも、必ずしもその時代臭を出すことには腐心していない。
時代のアイテムもまだ実相寺ワールドを作り出すための手持ちのコマなんだろう。
だから、時代考証や人物の髪型とか原田知世の顔が現代っぽすぎるとか田中麗菜のメイクがありえないとか言い出しても、たぶんそんなことは痛くも痒くもないのだ。

ここはむしろ、暗い室内にありえないスポットライトがゆらめく演出とか、大概水平に対して斜めになっているカメラアングルとか、窓の向こうで怪しくゆらぐ人影とか、いかにも作り物の胎児のホルマリン漬けとか、障子の向こうから移される産女の絵とかを、そういう映像的世界をせいぜい楽しめばいいのだ。

***

原田知世がどう撮られているか楽しみであったけれど、悪くなかったな。
おそらく涼子の清楚な一面を出したくてのキャスティングなのだろう。正面から撮るときの謎めいた落ち着いた涼子はなかなかよかった。
けれど、一瞬のカットで見られる「久遠寺の母」の厳しい表情の知世さんは、まさに実相寺的女性という感じがした。
いささかその表情は一本調子なところはあったにせよ、ラストでの、久遠寺の母から涼子への=姑獲鳥から産女への移り変わりが、表情の移り変わりで表現できていたところはさすがと思った。

ついでにそのあと、温室へ落ちていくカットの美しさはこれまたよかったし、そのあとのサブリミナル寸前のフラッシュバックの応酬も、私的にはなんだか音楽のようで心に響いた。きっと劇場で観たらかなり刺激的なのだろうけれど。


永瀬正敏は好きな俳優さんだけれど、この役ではちょっと力が出せなかったかなあ。彼が力が出ないなんて、相当な現場だったんだろうか?(笑)

池辺晋一郎の、ちょっと時代がかった現代音楽風(笑)音楽も、実相寺以外には使いこなせないだろう的響きだったし。


というわけで、
これは、普通に原作の民俗伝承似非科学的ミステリーとしての謎解きや、市川金田一的陰湿を求めて観ると相当に物足りない映画と察せられるが、あくまで実相寺的映像世界の探求として観るならば十分に面白みのある作品だったのではないでしょうかね~
いきなり、現実は脳が作り出したバーチャルリアリティである!とか上段に構えられても、それは2005年のいまどき、どこか本気じゃないだろうよ~。
本筋こそがサイドストーリーと思って、心して楽しむべし。


好き度:

人気blogランキングへ
↑ぼちっとオネガイします。


↑お買い物はこちらで
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする