Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

サミュエル・R・ディレイニー「ノヴァ」

2006-06-09 00:26:26 | book
ノヴァ

早川書房

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ディレイ二ー67年の長編「ノヴァ」
これはSFというより、なんというかファンタジーぽい。
というか、あまり読んだことがないスペースオペラ的というべきなのかもしれない。
(読んだことがないのでよくわからないのだが)

筋立ては実に単純
どんでん返しもなければ、クライマックスもあるといえばあるかなというくらい。

しかし、どうやらこの小説は、数限りないシンボルがちりばめられた、暗喩に満ちたものらしい。
とくに古代のヨーロッパに根ざす聖杯伝説からのメタファーに貫かれているそうな。
・・でも、聖杯伝説もアーサー王も円卓の騎士も、あまりなじみのないわたしには、どうもそれだけでは楽しくないのだよ。
むしろ、登場人物をめぐる性的なほのめかし、近親相姦的愛情あり、同性愛的交友ありのほうが、話としてはピンと来る。
ああ、なんというか、日本の片隅で無学に育ってしまった者には、心底楽しめない小説なような気がするのでした。

でも、登場人物のひとりが、どうやらこの小説の執筆者なんじゃないか、という設定はおもしろかったな。
作中で、「俺は小説を書きたい」といって、宇宙を巡りながら、小説のアイディアをレコーダーに吹き込んで歩く。
その独白はこの小説自体の構想を表現したものと考えることができる。
つまり、著者による注釈が物語のなかに織り込まれているわけですね。

そのくせ最後のページで、「おれは小説が書けない気がする」とか言い出して、う~ん、この小説自体がそいつの書いたものかそうでないのかすら、はっきりしなくなる。

こういう変な構造は好きだな。これを60年代のSFという分野でやったのはすごいことなのかもしれない。

著者の構想が差し挟まれるというのは、同じくディレイニーの、これまた同じく67年の長編「アインシュタイン交点」とも共通する特徴で、そっちでは、もっと明確に著者の日記として挟まれている。
そういう観点で整理してみると、両者の共通点がちゃんと見えてくるかもしれない。

でも再読するかなあ??
コメント (3)
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