Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

ジェイムズ・ティプトリー・Jr「愛はさだめ、さだめは死」読了

2005-04-16 16:34:58 | book

 

いやー読みでがあったなあ。

1975年のSF短編集。
1編ごとに作風も題材も文体も違って、1冊で10冊分くらい読んだ気分。

サイケというか、サマー・オブ・ラブ風のテイストの作品にちょっと時代を感じる程度で、あとはどれも今読んで少しも色あせない。
また、アイディアや設定以上の深いつっこみで勝負するタイプなので、読後も考えさせる何かを持っている。

「すべての種類のイエス」
おーなんだか懐かしい60年代の香り。ヒッピーのサブカル感をエイリアンとのディスコミュニケーションと重ね合わせていて、しかもそれで何となく意思疎通しちゃっているという設定が妙に笑えた。しかもすごい深刻な危機だったわけで(笑)

「楽園の乳」
これは異文化との遭遇もの。形をかえたカスパー・ハウザーもの。(あれカスパー・ハウザーでよかったっけ?ええと狼に育てられた少年)

「そしてわたしは失われた道をたどり、この場所を見いだした」
外惑星の調査を描きつつ、認識とは、理解とは、体験とはなにか、ちょっと批判を込めて描いている。小型のソラリス。

「エイン博士の最後の飛行」
文体が面白い。なんかで使えそうだな。今で言うとちょっと「20世紀少年」を思い出しちゃったな。こういう「密かなカタストロフ感」って70年代にはまだ新しい物だったと思うな。

「アンバージャック」
これだけ短い中に運命的なものを詰め込んだファンタジー。岡田史子風のショートショート。

「乙女に映しておぼろげに」
Through a Lass Darklyがどうしてこういう題なのかなあ。でもこれは笑える。こういう変な世界を日常的に描写する手法は好きだな。

「接続された女」
これは一番ストーリー的には手に汗握るかもしれない。設定がサイバーパンクなハードさを持っているんだけど、文題がべらんめぃ調(笑)ラストのゾンビ的迫力も、ちょっとアメコミ風迫力あり(ってアメコミはよく知らないので思いこみ・・)

「恐竜の鼻は夜ひらく」
これはもう笑って読みましょう。SFならではの設定の上で、奔放に遊んでいる快作。しかしよりによって調査団が必死になって「あれ」をしなくてもいいんでは??

「男たちの知らない女」
これは設定はものすごくSFだけれど、読んでいる時は全然そんな気がしない。タイトルどおり、フェミニズム的な問題意識をはらませながら進むファンタジー。

「断層」
これは設定がとっても独創的で想像力を要する。必死になって考えちゃう。ここまで独創的だと、逆にネタだけで勝負してる構成でも不満なし。

「愛はさだめ、さだめは死」
表題作だけど、一番文体になじむのに苦労した。けど、なじんでしまえば全体像がすーっと見え始める。と、見え始めたころに、まさにこれしかないというラストが訪れる。すごい構成かも。

「最後の午後に」
これもちょっと「ソラリス」っぽい、異存在との交流もの。文体的にはいちばんしっくりきたな。テーマへの踏み込みが深い!もう一回読まないと何ともいえない・・・・

というわけで、楽しめました。文体になじむのに苦労するけれど、SFとしては読んで損はしませんね(^^)v
あと、この作家の経歴が書かれた後書きもかなりの迫力なので、それだけでもすごいかも(笑)

コメント (3)
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