貧困に悩む女性を、支援する女性たち「相談会には生理用品もお花も」
貧困に悩む女性を、支援する女性たち「相談会には生理用品もお花も」 https://joshi-spa.jp/1083334 コロナ禍で、女性の自殺率や実質失業率が上がっている今、女性同士による助けあいの輪が広がっています。 今年2021年3月13(土)?14(日)日には、東京都・新宿区立大久保公園で「女性による女性のための相談会」が開催されました。 この相談会を実行したのは約60名にも及ぶ女性スタッフ。 看護師、保育士、心理カウンセラー、弁護士、労働組合スタッフ、DV被害、セクシュアルマイノリティのための相談員など、専門性 を持ったスタッフが集結してテントを設置し、生活、労働、子育て、DV被害や性被害など幅広い相談を受け付けました。 マッサージ、衣料品、食料品(野菜や果物)、生理用品、シャンプー、基礎化粧品、花などの無料支給品を配布し、キッズコーナー も設けて子連れの女性でも気兼ねなく訪れることができる画期的な相談会として大きく注目を浴びた「女性による女性のための相談 会」。 ツイッターでも相談者の喜びの声が多数投稿されています。この相談会の実行委員のひとりであり、長年労働問題に取り組んできた ジャーナリストの松元千枝さんに、コロナ禍で困窮する女性についてお話を聞きました。 「女性が現れなかった」過去のコロナ相談会 ――2020年の年末から2021年年始にかけて、大久保公園で行ったコロナ相談村での経験から、女性のための相談会の必要性を感じ発足 されたと聞いています。 松元千枝さん(以下、松元)「2020年の夏以降、コロナ禍でますます深刻化された貧困問題が浮き彫りになり、各地で多くの対面・電 話・LINEなどの相談会が開催されてきました。2020年11月に労働組合が行った日比谷公園での相談会は『2008年の派遣村(※)になる のではないか』とみんなで話をしていました。私と仲間が応援に行くと、女性専用テントがひとつあったのでテントのなかで待ってい たのですが、誰も来ないんですよ! 私が見た限りでは全体の来場者のうち、女性はたったの2、3人。スタッフも女性に対応できるように準備していたのに。困窮してい る女性は男性よりも多いはずなのに、女性の姿が見えない。不思議だ、とみんなで話していました」 ※「年越し派遣村」…リーマンショック後の、2008年12月31日から2009年1月5日まで、派遣切りされた労働者らが年を越せるように、 日比谷公園に開設した避難所。505人の相談者のうち、女性はわずか5人だった。 女性が入りづらい雰囲気だった ――それはどうしてでしょう? 松元「開催者も来場者も男性が多い上に、冬だったので黒っぽいジャケットを着用していました。だから、外からパッと見ると、黒っ ぽい男性ばかり大勢。女性には非常に入りづらい会場だった、と気づいたんです。 その反省もあったので、2020年から2021年にかけて、日本労働弁護団有志と各労働組合が新宿区立大久保公園で開いた『年越し支 援・コロナ被害相談村』では、女性弁護士と女性相談員がいることを大々的に宣伝しました。すると、3日間で60名以上の女性が見え て、来場者全体の2割を占めたんです。これをきっかけとして、女性専用テントの必要性を感じました」 たとえば“生理の貧困”は男性には話しづらい 男性に生理用品のことは相談しづらい ――それが今回3月に開かれた『女性による女性のための相談会』に繋がったわけですね。約60名もの実行委員が集まったと聞きまし た。 松元「はい。『年越し支援・コロナ被害相談村』のスタッフだった女性およそ20人と、『やはり、男性相談員には、生理用品など女性 特有のニーズは話せないよね』、『次は女性だけでやろうよ』という話になり、最終的に60人が集まったんです。一応、みなさんに声 を掛けを始めたのは私ですが、この委員会は縦のつながりはなく、横のつながりで作られているので、代表者は置いていません。支援 団体で、こういう形は実は珍しいんです」 経済基盤がないままスタートした相談会 ――「経済的基盤がないまま始めた相談会だった」と聞きました。 松元「こういう大規模な相談会をやるときは、スタッフが所属する組織を通して資金を集めたりしますが、今回の実行委員会の女性た ちは個人としての参加でしたので、経済基盤がないままスタートしました。寄付に頼るしかなかったのですが、予想以上に寄付が集ま り本当に感謝しています」 ――今回、スタッフの皆さんはなぜ個人で参加したのでしょう? 松元「組織の規模が大きいほど、ひとつのことを決定するにも手続きに時間がかかります。今回、『組織を脱いで集まろう』と号令を かけたわけではなかったのですが、なんとなく、みんな個人で参加してくれました。組織や肩書きにとらわれないのも、女子だからで きたことかもしれません。実行委員の60人を含め、2日間で合計200人ものボランティアがスタッフとして参加しました」 DV夫が相談会について来ることも… ――『女性による女性のための相談会』は、公園の出入り口を1カ所の女性専用にし、相談ブースのテントは外部から中が見えないよ うに目隠し布を取り付けたとか。 松元「60人の実行委員は日本労働弁護団の弁護士、労働組合や市民団体の活動家、女性支援グループなど個人の集まりですが、これま で活動してきたなかで、女性が求める“安心安全な相談会”のあるべき形をずっと心のなかで温めていたように思います。活動の各現 場でも女性は少数派なので、どうしても男性視点の設定になってしまうんですよね。今回は、『相談に来る女性のプライバシーを守 り、意思を尊重する』ことを最優先し、公園の出入り口を一箇所に限定した上に、メディア取材も規制しました」 ――なぜ、そこまでする必要があったのでしょう? 松元「相談者のなかにはDVから逃げている人もいます。手元やシルエットだけでも、写真や映像から個人が特定されると命の危険につ ながることもあるので、絶対に当事者を撮影しないように努めました。なかには、相談会について来るDV夫もいると聞きます。そんな 状況では、女性は相談したいことでも相談できませんよね。今回も、男性と一緒に来た女性がいたので、DV夫かどうかは分かりません でしたが、男性には出入り口の外で待ってもらいました」 相談に来た女性たちの事例 ●70代女性 「家族からの暴力で家を出て、友人宅にいます。住むところを探しているけど、保証人がいない。緊急連絡先が身内でないとダメとい う条件がある。その2点の条件がネックとなり、住むところが見つかりません」 ●50代女性 「夫の暴力で離婚したいです。母親に相談したら、『あなたが我慢した方がいい』と言われ、20年以上我慢してきました」 →離婚の具体的な法的な手続きについて案内。 女性にしか分からない女性のニーズ ――会場にはお花も置かれていましたね。 松元「今回、私も驚いたのは、『相談会にはお花があるといいよね』と言う声が上がったことです。男性主導の相談会では、まずそん な声は出て来ません。 それに、支給する物にも、生理用品を含め女性ならではの目線が活かされていたと思います。例えば、男性主導だと、調理できない インスタント食品を支給しがち。ネットカフェや路上で生活している人たちには、こうした物かすぐに食べられる物が必要ですが、女 性相談者には子どもや家族がいる人も多く、栄養のことも考えているだろうから、生野菜や自分で料理できる食品がいいと話し合いま した」 野菜や果物の配布にも嬉しい一工夫 ――自分で好きな野菜や果物を選べるのがいいなと思いました。 松元「私たちがまとめて渡すのではなく、八百屋さんで自分が選びながら持って行けるようなお店、もしくは小さなマルシェみたいな 雰囲気にしました。幸いなことに、農民運動全国連合会の女性農家さんたちが全国から白米、野菜、お花などを2日間ではさばけない ほどたくさん送って下さったんです。 しかも、『5キロの重さの白米は重すぎて持ち帰るのが大変だろう』と2合ぐらいずつに小分けにして送って下さった! そういう心 遣いは本当に嬉しかったです」 就活に必要な基礎化粧品や白シャツも用意 ――洋服やバッグなどの寄付もあったとか。 松元「相談者の女性たちは、仕事がないことによる生活の困窮に苦しんでいます。長期化するコロナ禍で、仕事をクビになったり、雇 い止めに遭ったりしている人が多い。いざ就職しようにも、就活には身だしなみが必要です。そういうわけで、基礎化粧品、ストッキ ング、就職活動用の白シャツ、PCが入る通勤用のバッグ、パンツ、マスクなどを企業から寄付してもらいました」 ――確かに女性ならではの視点ですね。2日間で125件の相談があったと聞きましたが、どのような年齢層の女性たちが困窮しているの でしょうか? 松元「年齢を言わない、年齢をこちらから聞かない場合もあるので100%正確ではないかもしれませんが、手元にあるデータ上では40? 50代の女性が多かったです。コロナ禍で打撃を受けた飲食業などのサービス業に従事していた女性たちが雇用から押し出されて、日雇 いの職に就いたというケースも多いのではと思います」 ●相談に来た30代・シングルマザーの事例 「2020年秋にコロナの影響により会社都合で退職させられました。子供の食費や制服にお金がかかるし、失業給付もそろそろ切れそ う。公的制度や支援団体の情報を教えてほしいです」 →住居確保給付、緊急小口資金の制度や、支援団体を紹介。緊急小口資金は借金をすることになり返せないから使えないと思っていた が、住民税非課税世帯は免除などがあることを知り、自治体の窓口に行くことになりました。 来月の家賃が払えない ――女性が就く日雇いの仕事とはどんなものでしょう? 松元「男性の場合は製造業系や現場系の日雇いが多いようですが、女性の場合はイベント系が多いですね。イベントの給仕係や準備 係。その他、コールセンターや在宅でできるラベル貼りなど。イベントは1回につき数時間の就業なので、1日8時間労働だったとして も最低賃金(東京都)であれば8,000円ほどの収入にしかなりません。 そういう人は複数の派遣会社に登録しているので、どこかの派遣会社から仕事が入るかもしれないと毎日自宅で待機しているんです よ。そして気がついたら、1ヶ月まるで仕事がなく、来月の家賃が払えないという状態に陥ってしまう現状があります」 ※後編は「ジェンダー規範で区別された求人」「小池都知事との面会」「ハードルの高い生活保護受給」の話へ続きます。 【取材協力】 松元千枝(まつもと・ちえ) 「女性による女性のための相談会」実行委員、ジャーナリスト、メディア協同組合「Unfiltered(アンフィルター)」エディター、法 政大学法学部メディア分析非常勤講師、東京大学大学院情報学環学術支援員。英字記者、海外通信社の東京特派員を経て独立。共著に 『マスコミ・セクハラ白書』(文藝春秋 2020年)、共同翻訳には『世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター共同代表か らのメッセージ』(明石書店 2020年)、『ストする中国』(彩流社 2018年)がある。 <取材・文/此花わか> 手持ち500円、派遣切り。コロナ貧困の女性に伝えたい「生活保護を遠慮しないで」 https://joshi-spa.jp/1083335/ コロナ禍で女性の自殺率や実質失業率の上昇が取りざたされるなか、今年2021年、3月13(土)?14(日)日に東京都・新宿区立大 久保公園で「女性による女性のための相談会」が開催されました。スタッフは全員女性、相談者は様々な悩みを抱えた女性たち。 衣料品、食料品、生理用品、花などの無料支給品を配布。女性ならではの目線が活かされた相談会に注目が集まりました。 「コロナで派遣契約が終了。数年働いた職場だったのでショックでした」と話す女性は、仕事が見つからず、この日の所持金は数千 円。「家族内のトラブルで家を追い出され、ネットカフェで寝泊まりしています。生活保護を受けてアパート暮らしをしたいです」と 相談に来た女性もいました。 前回に引き続き、この相談会の実行委員のひとりであり、長年労働問題に取り組んできたジャーナリストの松元千枝さんに、コロナ 禍で困窮する女性について話を聞きました。 生活保護受給のハードルを高くしてきた役所の水際作戦 ――相談者が生活保護を受けられるように、役所へ付き添いもされたとか。 松元千枝さん(以下、松元)「生活保護を受給させないようにしてきた役所の水際作戦のせいで、男性も女性も生活保護を受けること が“悪”だと刷り込まれています。手持ちが500円しかなくても、皆さん『もうちょっと頑張ってみます』と言うんですよ。そんなと きは『仕事が見つかって、給料が入れば生活保護を打ち切ればよいだけなのだから受けても大丈夫。生活保護は、憲法で守られた私た ちの権利なんですよ』と説明しています」 ――困窮していても生活保護を受けたくない人も多いと聞いています。 松元「このコロナ禍で初めて厚生労働省が『生活保護は国民の権利だ』という広告を打ち出して、やっと社会の意識が変わってきまし たが、役所にひとりで行き、生活保護の担当者に聞かれるままに質問に答えていったら、申請できなかったという話はよく聞きます。 生活保護を申請すると14日以内に支給の可否が決まるはずなのに、『1ヶ月ぐらい施設に入って、そこで観察を受けてから可否が決 まる』と周りの人から聞いたと言って、そのように思い込んでいる女性もいました。実際、実行委員のひとりがその女性に付き添って 役所へ行き、申請をしたら1週間以内に支給が決まりました」 とにかく申請することが大切 ――でも、実際に現金が500円しか残っていなくて、1週間や2週間も待てない人はどうすればよいのでしょうか? 松元「生活保護の申請をした後は、可否が決まる間、食費として1日1,000円が支給されます。それに加えて、ネットカフェやホテルに 滞在している人には宿泊料が支給されたり(保護の受給が決まると、その月の保護費から差し引かれる)、無料低額宿泊所や施設など に入居することもできます。 ネットには間違った情報が氾濫しているので、まずは行政のホームページを読み、相談会や支援団体に同行支援をお願いしたほうが よいでしょう。生活保護申請書も現在は民間のNPOのホームページからダウンロードして、記入したものを役所に持参することができ ます。役所は申請自体を断ることはできません。申請時には面接もありますが、とにかく申請すれば審査手続きは進むので、申請する ことが大切です。数年前まで、役所では申請書が市民の手が届かない、職員のカウンターの奥にに置かれていたぐらいですから……」 自分のことは後回しにしてしまう女性が多い ――役所は意図的に申請書を提出させないようにしていた、と? 松元「昔は申請に行くと、面接されて申請書を簡単に提出させてはくれなかったんですよ。いまでもまだこういった傾向があって、時 としてニュースにもなりますが大分改善されました。とはいえ、今回女性の相談会を始めた一番の目的は、『(女性も)相談してもよ いんだよ』と女性に発信したかったから。女性は常に社会で『お世話をする役目』を担わされています。相談会に来ても、自分の夫や 親や子どものことについて相談はしても、自分のことは後回しという女性が多いです」 相談者の女性のほとんどが暴力の被害者…… ――今回の相談会で松元さんが発見したことは何だったのでしょう? 相談者の女性の殆どが暴力の被害者…… 「女性による女性のための相談会」では会場の出入り口を1カ所に限定し、外部から見えないように目隠し布を取り付けプライバシー を確保。付き添いの男性は外で待ってもらいました。 松元「来場した女性たちの多くが、何かしらの暴力をこれまで受けてきたことです。虐待、セクハラ、性被害、DV、パワハラ…幼い頃 から大人になるまでに、人生のどこかの時点で暴力を受けています。痴漢が原因で男性と一緒に仕事ができなくなり、就ける仕事が限 定された女性もいました。 会場には『生活』、『仕事』、『法律』、『家庭と家族』、『心と体』などの相談ブースを設置していましたが、『法律』や『仕 事』の相談ブースに来た方の話を聞くと、夫によるDVを受けて精神を病んでしまっていて、『心と体』の相談ブースにも立ち寄るな ど、複数の相談を利用された女性が多かったです。とにかく、相談者のほぼ全員が暴力を受けていたんです。これは男性の相談会では ありえません」 性別で区別される研修・就職支援 ――生活保護を受けながら生活を立て直すために、どのような公的支援があるのですか? 松元「コロナ禍で設置された『TOKYOチャレンジネット』という、行政による研修・就職支援があり、『年越し・コロナ被害相談村』 ではそこに 女性を繋げていったのですが、ひとつ問題がありました。そこで提供される支援が性別で区別されているんです。 男性には警備、建設、フォークリフトの運転免許が取れる研修がありますが、女性は介護職を勧められました。私も今回初めて知っ たのですが、暴力を受けたことのある女性は、他人と近距離になる介護職に就けないと言っていました。虐待やDVの被害者の多くに とって、介護職は恐怖と苦痛でしかないんですよね。必ずしもそうとは限らないのに、女性は“誰かのお世話”をするのが上手だと思 われている。フォークリフトの運転は女性でもできますが、ITや簿記など、他にも女性が働きたいと思えるような選択肢を広げてほし い。そういった提言も行政にしていきたいと思っています」 小池都知事との面会で言われたこととは? ――松元さんと実行委員会は、相談会開催の2週間ほど前に小池都知事と面会をされたようですが、どんなお話をされたのでしょう か? 松元「介護職以外にも研修や就職先を広げてほしいとお話したら、『介護職は人員不足だから』と。そして、『コロナ禍で感染防止の ために一生懸命努めていますのでご協力をお願いします』と言われました。相談会にもお誘いしたのですが、残念ながらお見えになら なかったです」 ――今年3月23日の閣議で決定された、新型コロナウイルスに関連する政府の支援策のひとつに、地域で女性支援を行う団体に最大 1,125万円を自治体を通じて支給するため、13億5,000万円が計上されました。これについてどう思いますか? 松元「これまで女性支援をしてきた団体には非常に喜ばしいニュースですが、民間に予算を出すよりも、行政でできるところは行政が きちんとするべきだと思っています。応急処置的な制度も必要ですが、女性の貧困の根底に眠る、女性の雇用や暴力について行政にで きることがもっとあるはずです」 あまりにも根深い、男女の格差 ――なぜ根本的な解決に行政は取り掛からないのでしょうか? 松元「福祉の分野でも民間団体や業者に事業の一部を委託しているように、ノウハウがある民間に任せた方が適切だと思っていたり、 行政も人手不足だという問題があります。行政は福祉政策の人員も予算もカットしてきました。その結果が、現在、コロナ禍で福祉に 繋がっていない困窮者が増えている理由のひとつだと言われています。 男女格差、非正規問題、マイノリティ差別は一刻も早く改善される必要があります。とりわけ、男女格差は賃金・収入格差にはっき りと現れていますから。 もともと正社員でも女性は、結婚して子どもを産むと仕事を辞めざるを得なくなる人も多い。日本の育休制度は世界と比べても悪く はないのに、男性の取得率が低いですよね。男性だって本当はとりたいのに、企業文化がそれを許さない。そういったジェンダー規範 から見直していく必要があります。 そもそも、採用時に性別によって総合職と一般職に分けたり、就職に年齢制限を設けるなど、日本の社会には女性の選択肢が少な い。女性政治家が少なく、政策自体に女性目線が欠けていることも問題ですね。そして、あるべき姿の社会を報道するメディア側にも 意思決定の場に女性が少ない、という点も問題だと思っています」 わずかな貯金で、何も支援を受けられない女性も ――今回の相談会で、松元さんが衝撃を受けた事例はありますか? 松元「コロナ禍が継続して福祉制度の狭間にいる女性が存在していることです。 ある女性は、DVが原因で離婚をしましたが、離婚時の財産分与で少しの貯金と手に職もありました。けれども、コロナ禍になって失 業し、登録型の日雇い派遣の仕事をしていましたが、それもなくなりました。 DVで精神を病んでいるので、障がい者年金をもらってはいますが、それは家賃に消えていく。家賃以外の食費や光熱費、あと月5万 円ほど稼ぐことが彼女の課題になっていました。貯金も100万円を切っていましたが、預貯金は世帯の最低生活費の半分以上あると生 活保護は申請できないんです。 結局、家賃を削るしかないという結論にいたりましたが、ご本人もすでに都営住宅などの抽選に何度も応募されているんですが当た らず。相談員の私たちもどうすればよいかわららなくて、一緒に頭を抱えました。会場にある支給品をできるだけ持って帰ってもらう しかないかと想っていたんですが、ご本人は『こんなに親切にしてもらったのは初めて』だと言って喜んでいました。 コロナ禍が長期化しているせいで、あらゆる制度を利用しても困窮状態から抜け出せなかったり、生活保護を受けられない女性もい るんです」 「あなたの責任ではない」と知ってほしい ――活動家ではない私たちが女性の貧困を改善するために、何ができると思いますか? 松元「一番重要なのは、意識改革だと思います。簡単なことではないですが、生活困窮している人には『自分たちのせいでこうなった わけではない』と意識してほしいし、彼女たちの責任を追及する人にも立ち止まって考えてほしいです。暴力を受けたのも、貧困に 陥ったのも、すべてが自分の責任ではないことを自覚して、誰かに相談して支援を求めてほしいです。これは誰に対しても言えること です。 私たちは何でも自己責任だと思わされているし、そういう考えに慣らされてしまっている。もし、なんでも自分の責任だと信じる と、他者への眼差しも厳しくなってしまいがちですよね。そのため、社会に問題提起をしなければいけないときに、声がひとつになり づらい。 自己責任ではなく、国が社会をよりよくし市民の命と生活を守るために、政策を変えていかなくてはならないのだ、という方向へ意 識を向けることが必要です。私たちは、憲法25条で基本的生活を保障されているのだから、国には私たちの生活を保護する義務がある ことを皆さんに認識してほしい」 コロナ以前の世界に戻してはいけない ――コロナ収束後、困窮する女性たちをとりまく環境はどのようになると予測しますか? 松元「コロナ以前の世界に戻してはいけないと思っています。男女格差や非正規問題、マイノリティ差別のあった世の中に戻してはい けない。これまで、声も上げることができない被差別コミュニティもありました。困窮していない、特権を享受している人々が取り残 されたコミュニティと一緒に声を上げるべきなんです。今がまさに、社会のあり方を変えていく機会ではないでしょうか。政治に訴え るだけではなく、私たちひとりひとりが意識を変えていってこそ、社会に変革を起こせると信じています」 【取材協力】 松元千枝(まつもと・ちえ) 「女性による女性のための相談会」実行委員、ジャーナリスト、メディア協同組合「Unfiltered(アンフィルター)」エディター、法 政大学法学部メディア分析非常勤講師、東京大学大学院情報学環学術支援員。英字記者、海外通信社の東京特派員を経て独立。共著に 『マスコミ・セクハラ白書』(文藝春秋 2020年)、共同翻訳には『世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター共同代表か らのメッセージ』(明石書店 2020年)、『ストする中国』(彩流社 2018年)がある。 <取材・文/此花わか>