漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「文ブン」<入れ墨の文様>と「蚊ブン」「閔ビン」「紋モン」「吝リン」

2023年02月01日 | 漢字の音符
 ブン・モン・ふみ  文部

解字 甲骨文・金文は、人の正面形の胸のところにXやVなどの文身(いれずみ)の文様を加えた形の象形。甲骨文字は地名またはその長。殷末の王名。金文は、周の王名(文王)、広く政治および文化事務(武文)、先祖の尊称(文人)などに用いられた。篆文から文様が略され現代字の文となった。のち、文は文様のように描かれた文字の意味になり、さらに文章の意へと拡がった。文は部首となる。
 なお、甲骨・金文の文の意味について、[字統]は「文は祭事に文祖・文考(亡き父)・文母のように先人に冠していう語で、文とは死者のいわば聖記号である。死葬のとき呪飾として朱色をもって胸にその絵身カイシン(身体に絵文様を描く)を加え、祭るときには文を冠してよんだ」とする。この用法は後世の字である閔ビン・憫ビン・吝リンに残っている可能性がある。
意味 (1)あや(文)。もよう。「文様モンヨウ」「文身ブンシン」(入れ墨) (2)ふみ(文)。もじ(文字)。ことば。「文言モンゴン」「文案ブンアン」 (3)言葉を綴ったもの。「詩文シブン」「序文ジョブン」 (4)記録。書物。「文献ブンケン」「文庫ブンコ」 (5)学問や芸術の分野。「文科ブンカ⇔理科リカ」「人文ジンブン
参考 文は、部首「文ぶん」になる。漢字の中や下部・側面に付き文様を表す。
常用漢字 2字
 ブン・ふみ(部首)
 ハン・まだら(文+班の略体)
常用漢字以外
 ヒ・あや(文+音符「非ヒ」)
 ヒン・うるわしい(文+武の会意)など。

イメージ 
 入れ墨を描いた象形であり「もよう」(文・紋・紊・虔・旻)
 「形声字」(閔・憫・吝・悋) 
 「ブンの音」(蚊)
音の変化  ブン:文・蚊  ビン:紊・閔・憫・旻  モン:紋  リン:吝・悋  ケン:虔

もよう
 モン・あや  糸部
解字 「糸(いと)+文(もよう)」 の会意形声。糸で織り出した織物の文様。
意味 (1)あや(紋)。模様のある織物。 (2)いろんな形の文様。「波紋ハモン」「指紋シモン」 (3)[国]もん(紋)。家を表すしるし。「家紋カモン」「紋章モンショウ
 ビン・ブン・みだれる  糸部
解字 「糸(いと)+文(もよう)」の会意形声。文様が、糸がからまったように乱れること。紋は、糸が横について整然とした文様ができる意、紊は、上の文様が下の糸に乱される意。
意味 みだれる(紊れる)。みだす。「紊乱ビンラン・ブンラン」(秩序・道徳などがみだれること)「紊烈ビンレツ」(みだれてばらばらとなる)「紊煩ビンハン」(みだれていりまじる)
 ケン・つつしむ  虍部
解字 「虍(とら)+文(もよう)」の会意。虎の毛皮の文様の意。文様のみごとな毛皮に座る貴人にうやうやしく接すること。
意味 つつしむ(虔む)。おごそかにつつしむ。うやうやしい。「恭虔キョウケン」(つつしみ深くうやうやしい)「敬虔ケイケン」(うやまいつつしむ。特に神仏に帰依して仕えること)
 ビン・ミン  日部
解字 「日(太陽)+文(もよう)」の会意。太陽の出ている空の天気が、さまざまな雲の文様をみせる秋の空をいう。[説文解字]は「秋空也」とする。「秋空は雲の展覧会」によると、秋の空は、「すじ雲」(巻雲)「巻積雲」(いわし雲)「高積雲」(ひつじ雲)など、さまざまな雲が出現する。
意味 (1)そら。あきぞら。「旻宇ビンウ」(秋空)「旻雲ビンウン」(秋雲)「旻穹ビンキュウ」(秋の蒼天)「高旻コウビン」(天高い秋空) (2)閔ビンと通じ、あわれむ。

形声字
 ビン・あわれむ・うれえる  門部
解字 「門(もん)+文(ビン)」の形声。ビンは愍ビン(あわれむ・いたましい)に通じ、あわれむこと。なぜ門があるかについて[説文解字]は「弔者在門也」(弔問客が門にいる也)と説明している。
 なお、[字統]は「文は祭事に文祖・文考(亡き父)・文母のように先人に冠していう語で、文とは死者のいわば聖記号である。死葬のとき呪飾として朱色をもって胸にその絵身カイシン(身体に絵文様を描く)を加え、祭るときには文を冠してよんだ」としており、この説で解釈すると「門(もん)+文(絵身のある葬式の死者)」で、家の門前に集まった人々が死者をあわれむ意となる。
意味 あわれむ(閔む)。うれえる(閔える)。「閔凶ビンキョウ」(父母に死別する不幸)
 ビン・あわれむ・うれえる  忄部
解字 「忄(心)+閔(あわれむ)」の会意形声。あわれむ心の意で、閔と意味は同じ。熟語では憫を使うことが多い。
意味 あわれむ(憫れむ)。うれえる(憫える)。「憐憫レンビン」(あわれむこと。なさけをかける)「憫笑ビンショウ」(あわれみ笑う)「憫察ビンサツ」(あわれみ思って察してください。手紙で用いる)
 リン・おしむ・けち・しわい  口部
解字 「口(くち)+文(ブン⇒リン)」の形声で発音はリン。[説文解字]は「恨惜コンセキ(非常に惜(おし)い也。口に从(したが)い文の聲(声)」とする。大変惜しい意で、発音はブン⇒リンに変化。口々に大変惜しがること。惜しい⇒捨て難い⇒おしむ・けちの意となった。
 なお、[字統]は前述のように「文とは死者のいわば聖記号である」としており、「口(くち)+文(絵身のある葬式の死者)」で、葬式に参加した人々が口々に惜しがる意となる。惜しい意から、けち(吝)への変化は同じ。
意味 おしむ(吝しむ)。けち(吝)。しわい(吝い)。やぶさか(吝か)。「吝嗇リンショク」(けち。けちな人)「吝惜リンセキ」(おしむ。ものおしみする)「貪吝タンリン」(むさぼりとって出し惜しむ)「吝太郎しわたろう」(非常にけちな人)
 リン・ねたむ  忄部 
解字 「忄(心)+吝(おしむ)」で、おしむ心の意。吝と同じ意味だが、日本では、ねたむ意でも使われる。
意味 (1)ものおしみする。けち。「悋嗇リンショク」(=吝嗇) (2)ねたむ(悋む)。嫉妬シットする。「悋気リンキ」(ねたむこと。やきもち)

ブンの音
 ブン・か  虫部
解字 「虫(むし)+文(ブン)」の形声。ブーン、ブーンと音を出して飛ぶ虫の蚊。
意味 か(蚊)。小さい飛虫で、動物を刺して血を吸う。「蚊帳かや」(蚊を防ぐため吊り下げて寝床をおおう網)「蚊吟ブンギン」(蚊の鳴き声)「蚊虻ブンボウ」(蚊とあぶ)
<紫色は常用漢字>

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