漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「余ヨ」と「除ジョ」「徐ジョ」「叙ジョ」「斜シャ」「途ト」「塗ト」「茶チャ」

2022年09月27日 | 漢字の音符
 「余」はその字源に諸説がある。加藤常賢氏は『漢字の起源』で、「傘のような形の亭屋」とし、藤堂明保氏は『学研漢和大字典』で、「スコップで土を押し広げるさま」とし、白川静氏は『字統』で、「取っ手のある細い手術刀の形」としている。その後、落合淳思氏の『甲骨文字辞典』は、「字源については建築物の一種とする説と刃物の一種とする説があるが、甲骨文字には仮借した一人称の用法しかなく、証明は困難である」としている。中国ネットを調べると、『象形字典』(Vividict.com)が簡易な宿舎説でもあることから、今回、加藤説で解字した。
 なお、現在、『象形字典』(Vividict.com)はネットから消去されています。蜍ジョを追加しました。


 ヨ・われ  人部

解字 甲骨文は、一本の柱の上に屋根がつき、柱から支えがのびている簡単な家屋の形。簡易な休憩所や宿舎を意味する。しかし、本来の意味と関係なく「われ」「自分」の意味に仮借カシャ(当て字)された。金文から、下部にハがついた余のかたちになり、現代に続いている。
意味 われ(余)。自分。「余輩ヨハイ」(わがともがら。われら)

イメージ  
 「仮借」
(余)
 「簡易な宿舎」(余[餘]・途・除・徐・斜)
 「形声字」(塗・叙・蜍)
 「その他」(荼・茶)
音の変化   ヨ:余・余[餘]  シャ:斜  ジョ:除・徐・叙・蜍   チャ:茶  ト:途・塗・荼

簡易な宿舎
[餘] ヨ・あまる・あます  人部
解字 旧字は餘で「𩙿(食べ物)+余(簡易宿舎)」 の会意形声。簡易宿舎に食べ物が多くあること。小さい宿舎なので入り切れず、あまる意となる。新字体の余は、旧字から食を略した。この結果、「われ・じぶん」の余と同じ字体となった。
意味 (1)あまる(余る)。あまり。のこり。「余力ヨリョク」「残余ザンヨ」「余韻ヨイン」 (2)ほか。それ以外の。「余技ヨギ」「余興ヨキョウ」「余罪ヨザイ
 ト・みち  之部
解字  「辶(ゆく)+余(簡易宿舎)」の会意形声。簡易宿舎に泊まりながら行くこと。宿舎がある街道の「みち・みちすじ」をいう。また、旅行をする方法・手段をいい、転じて旅行以外にも使う。
意味 (1)みち(途)。みちすじ。「途中トチュウ」「帰途キト」 (2)手段・方法。「用途ヨウト」「使途不明シトフメイ」「途方トホウ」(取るべき方法)
 ジョ・ジ・のぞく  阝部
解字 「阝(ハシゴ)+余(簡易宿舎)」 の会意形声。簡易宿舎にハシゴをかけて、屋根を掃除したり、室内の高いところのホコリをはらうこと。とりのぞく・はらう意となる。阝には、ハシゴの意と、丘の意があるが、この字ではハシゴの意。
意味 (1)のぞく(除く)。とりさる。はらう。「除去ジョキョ」「除夜ジョヤ」(旧年をとり除く日の夜。大晦日の夜) (2)数学で割り算をいう。「除法ジョホウ」「除数ジョスウ」(割る方の数)
 ジョ・おもむろ  彳部
解字 「彳(ゆく)+余(簡易宿舎)」 の会意形声。簡易宿舎に泊まったり、休んだりしながら行くこと。ゆっくりの意となる。途と字の構造が似ているが、途が、宿舎がある道筋に重点をおくのに対し、徐は、宿舎に泊まりながら、ゆっくり行く意となる。
意味 おもむろに(徐に)。ゆるやか。ゆっくりと。「徐行ジョコウ」「徐徐ジョジョ
 シャ・ななめ・はす  斗部
解字 「斗(ひしゃく)+余(=徐の略体。ゆっくり)」 の会意形声。柄杓をおろして水を(こぼれないように)ゆっくりとくむこと。すると柄杓が傾くので、斜めの意となる。発音はシャに変化。
意味 (1)くむ。くみだす。 (2)(柄杓を下して水をくむと柄がななめに傾くことから)ななめ(斜め)。はす(斜)。かたむき。はすかい。「斜面シャメン」「傾斜ケイシャ」(傾も斜も、かたむく意)「斜陽シャヨウ」(太陽が西に傾くこと。また、没落しかかること)

形声字
 ト・ぬる  土部  
解字 「氵(水)+土(つち)+余(ト)」の形声。トは度ト・ド(敷物をひろげる)、鍍ト(メッキをする)に通じる。鍍は、金属の皮膜で敷物をしくようにおおう意からメッキをすること。塗は、「氵(水)+土(つち)」(水と土を混ぜた泥)で、ひろげるようにおおう意から、ぬる意となる。
意味 (1)ぬる(塗る)。ものをぬりつける。「塗装トソウ」「糊塗コト」(塗ってとりつくろう) (2)どろ(塗)。どろにまみれる。まみれる(塗れる)。まぶす(塗す)。「塗炭トタン」(①どろと炭。きたない物の例え。②どろにまみれ、炭火に焼かれる苦しみ) (3)(途に通じ)みち。「道塗ドウト」(みち=道途)
[敍] ジョ・のべる  又部
解字 旧字は敍で「攴(手の動作)+余(ジョ)」 の形声。ジョは序ジョ(順序をつける)に通じ、手の動作で順序よく並べること。転じて、順序だてて事を行なったり、順をおって述べること。新字体は旧字の攴⇒又に変化した。敍ジョと序ジョは、上古音・中古音でも同じ発音。
意味 (1)順序をつける。官位をさずける。「叙勲ジョクン」「叙位ジョイ」 (2)のべる(叙べる)。順をおってのべる。「叙述ジョジュツ」(順序だてて述べる)「叙事ジョジ」(順をおって事実を述べ記す)「自叙伝ジジョデン
 ジョ  虫部
解字 「虫(両生類)+余(ヨ⇒ジョ)」の形声。ジョと呼ばれる虫。「蟾蜍センジョ」(ひきがえる)に用いられる。

月の中の「ひきがえる」https://m.hackhome.com/InfoView/Article_235593.html
意味 「蟾蜍センジョ」とは、①ヒキガエルをいう。いぼのたくさんある大型の蛙。②月の中にいるというヒキガエル。中国では《西王母セイオウボの秘薬を盗んだ姮娥コウガが月に逃げてヒキガエルになったという伝説(後漢書)がある》③転じて、月のこと。

その他
 ト・タ・ダ・にがな  艸部
解字 「艸(くさ)+余(ト)」の形成。トとよばれる野菜。にがい味がするので苦荼クト(苦菜)と呼ばれた。また、タ・ダの発音で梵語の音訳字に使われる。
意味 (1)にがな(荼)。苦菜。「苦荼クト」(にがな)。のげし。(2)苦しみ。「荼毒トドク」(苦しみと毒。転じて害毒をなすこと) (3)梵語の音訳。「荼毘ダビ」(火葬にする)
 チャ・サ  艸部
解字 中唐以後に使われるようになった字。もとは荼で苦菜(にがな)の意。お茶もにがいことから、当初「荼」を使用していたと思われるが、唐の陸羽が『茶経』(760年頃成立)の中で余から一画減らした「茶チャ」を使い始めてから、この字が一般に認められるようになった。
意味 (1)ちゃ(茶)の木。ちゃの若芽を製したもの。また、その飲料。「緑茶リョクチャ」「紅茶コウチャ」 (2)いろ。「茶色チャいろ」 (3)抹茶をたてる作法。「茶道チャドウ」「茶会チャカイ」「茶人チャジン
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


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