漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「智チ」 と 「知チ」 <智が先にできた字>「痴チ」「踟チ」「蜘チ」

2024年01月13日 | 漢字の音符
智が先にできた

 
上は「智」、中は「知」、下は「矢」
解字 甲骨文はネットの「漢典」に掲載されている字で「〒+口+矢の変形」で構成されている。〒は示の甲骨文であり神を示す意の字。「〒+口」は、神に口で祈る意となる。矢の変形を矢と解釈すると、矢をそなえて祈る形となる。甲骨文の意味は不明だが、武具である矢は、願い事をするときの手段として使われることがあり(例えば「医」)矢が願い事をかなえる道具と意識されていたのかもしれない。
 金文は「大+口+于+曰(いう)」の形。甲骨文の矢の変形とされた字は、ここで大になっている。また〒⇒于になり、さらに曰が下部に付いた。〒⇒于の変化は後の篆文で〒とほぼ同じ形になっていることから、于=示の意味でよいと思われる。金文の意味は①聡明、②知る、③姓、である。この意味から金文を解釈すると、「人(大)が口で神(〒)に祈り(曰)、神の啓示を知ったので聡明だ」となる。
 篆文は、大⇒矢、曰⇒変形となり、楷書は曰の変形⇒日となり、〒の変形が取れた智になった。何故篆文で大⇒矢への変化が起こったのか。その理由は甲骨文字が矢の変形字であり、もともと矢を用いていたが金文でのみ大に変化したのではないか思われる(金文と時代が近い戦国期の智は矢が用いられている字が多い)。
 一方、下欄の知は、篆文から出てきた字で、智の下部を省略した形。智と同じ意味を表すが、のちに、智は、かしこい・さとい等、頭のはたらきがよい意味に限定されるようになり、知は、知る・知らせ・知り合うなどの意味が中心になった。
 チ・しる・しらせる  矢部   
意味 (1)しる(知る)。さとる。わかる。「知覚チカク」「知識チシキ」「知性チセイ」 (2)ちえ。物事を考える能力。「知力チリョク」「機知キチ」 (3)しらせる(知らせる)。しらせ。「通知ツウチ」「告知コクチ」 (4)しりあう。しりあい。「旧知キュウチ」「知遇チグウ」(知見を認めた上での厚い待遇) (5)つかさどる。おさめる。「知行チギョウ」(土地を治める。支配する)「知事チジ
 チ・さとい  日部    
意味 (1)ちえ。頭のはたらき。物事を知り分ける能力。「智恵ちえ」(すぐれた心の動き)「才智サイチ」(才能と智恵) (2)さとい(智い)。さとる。かしこい。賢人。「智者チシャ」「智能チノウ」(=知能)「智謀チボウ

イメージ 
 神の真意を「知る・さとる」(知・智・痴)
 「形声字」(踟・蜘)
音の変化 チ:知・智・痴・踟・蜘

知る・さとる
[癡] チ・おろか  疒部
解字 旧字は癡で「疒(やまい)+疑(うたがう)」の会意。疑い深くなることが病的になること、おろか・くるう意となる。なお、癡は仏教用語として悟りをさまたげる三つの煩悩である「三毒」(貪ドン(貪欲ドンヨク)・瞋シン(瞋怒シンド・いかる)・癡)の一つとされ、 癡は妄想 、混乱、鈍さを指す。発音のチを借りた痴は癡の俗字であったが、常用漢字として用いられるようになった。あえて痴を解字すると「疒(やまい)+知(知る・さとる)」の会意形声。病にかかったように、知る・さとることができなくなる意となる。
意味 (1)おろか(痴か)。たわけ。おろかもの。しれもの(痴れ者)。「痴人チジン」「痴態チタイ」「痴呆チホウ」 (2)色情に迷う。「痴漢チカン」「痴情チジョウ」「痴話チワ」 (3)一つのことに夢中になる。「書痴ショチ」 (4)[仏教]悟りをさまたげる三つの煩悩である三毒のひとつ。痴(ち)は、無知や誤解、妄想などの心の状態を表す。

形声字
 チ  足部
解字 「足(あし)+知(チ)」 の形声。踟は「踟躕チチュウ」「踟躇チチョ」など、二字連文として使われる字で、同じ意味を表す「躊躇チュウチョ」の「躊チュウ」と最初の音が同じことから、躊チュウ(ためらう・たちもとおる)の意味で使われた。
意味 (1)たちもとおる。いきつもどりつする。「踟躕チチュウ」(たちもとおる)「踟躇チチョ」(いきつもどりつする)(2)とどまる。
 チ  虫部
解字 「虫(むし)+知(チ)」の形声。チは踟(いきつもどりつする)に通じ、クモの巣の上でいきつもどりつする虫のクモをいう。
意味 「蜘蛛チチュウ・くも」に用いられる字。蜘蛛は、発音が同じ「踟躕チチュウ」(たちもとおる。いきつもどりつする)を知と朱に虫をつけて表し、巣の上でいきつもどりつするクモを表した字。「蜘蛛手くもで」(蜘蛛の足が八方に出たような形)「蜘蛛の巣」(蜘蛛の掛けた網)「蜘蛛膜くもまく」(脳を包む膜のひとつ。蜘蛛の巣のような模様が見られることから)
覚え方 「虫+知(ちえ)」で、精巧な網を張る知恵のある虫。
<紫色は常用漢字>

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※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

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