以下の指し手。▲2四馬△同歩▲4四飛△3五玉
まで、一公の勝ち。
某氏は▲2四馬ときた。私の△同歩に、某氏はまたも長考し、▲4四飛。私の△3五玉に、某氏は長考。さっきは3局で1時間で済んだのに、もう午後1時にならんとしている。対局数もそうだが、熊倉紫野女流初段との指導対局が遠のくのがマズイ。
局面。どう考えても、自玉に詰みがなくなっている。と、某氏が突然、投了してしまった。私はすぐに、▲5二馬を示す。すなわち図から▲5二馬△4三銀▲同金で先手勝ち。しかしあとで考えたら、▲4四飛で▲4四金でも詰みだった。もう、そのくらい私が負けていた、ということだ。
某氏には残念な結果だったが、上の手順は簡単なので、同情できない。ここまでうまく指したのだから、最後もスパッと決めてほしかった。
指導棋士の3人は、昼食休憩に入るようだ。私も軽食を摂ろう。テラスにおにぎりを取りに行くと、ミスター中飛車氏がくつろいでいた。
「調子はどうです?」
「Mimaさんに勝っちゃった…」
「えっ!?」
私は聞き直す。「もちろん平手で…? だよね」
「うん、相振り飛車で」
「……」
Mima氏といえば、泣く子も黙る、全国区のアマ強豪である。その氏に平手で勝つとはミスター中飛車氏、大殊勲である。
先日はKaz氏がM奨励会1級に1対1の平手で勝つし、私の周りはどうしてこんなに強豪が多いのだろう。
気が付けば、参加者はかなり増えた。60人は越えているのではあるまいか。
5局目は関西のShig氏と。Shig氏は将棋ペン倶楽部会報の常連で、その優れた文章には感心することが多い。今回も交流会だけのために来京したはずで、その熱意には頭が下がる。
今回は初対局。Shig氏はどんな将棋を指すのかと思ったら、先手中飛車できた。私は二枚銀を繰り出すが、攻めの糸口を掴めない。
私は△5五銀から△4六銀と歩得を果たす。ここでShig氏は▲3八金と締まったが、これは有難かった。私は△5五銀と引き、局面を収める。これで私が指しやすくなったようである。
もっとも以下も難しい戦いが続いたのだが、最後はShig氏の攻めが切れ模様になり、私が一気に寄せた。
感想戦は、わりと長めにやった。Shig氏が指し将棋にも熱心で、つい私も付き合ってしまった、という感じだった。
熊倉女流初段の指導対局は、3面がすべて埋まっている。気のせいかもしれないが、指導対局に時間制限はないので、みんな心ゆくまで考えている感じだ。
「ShigさんとHayさん、指しますか」
の声がする。Hay氏も関西からの来京で、これもすごい組み合わせである。しかしさすがに2人は、指さなかったようだ。
私は交流将棋を停止して指導対局の順番待ちをしようかと思ったが、元「近代将棋」編集長の中野隆義氏が空いているとのことで、中野氏と指すことにした。
将棋界の有名人は、棋士だけではない。観戦記者や雑誌記者もあこがれの対象で、その方々に自分を認識してもらえることがうれしい。
「指導対局の空きが出たら、私が投了しますから」
と中野氏。
「いえいえ私が投げます」
と私が返して、対局開始となった。
中野氏の先手四間飛車に、私は急戦。仕掛けはうまくいったと思ったが、中野氏も手に乗って捌き、▲5六の金をグイッと▲4五金と出る。鍛えの入った手だと思った。
△6六同角の飛び出しに、中野氏は得たりと▲7七角。△同角成▲同飛の結果は、▲5五角が残り、居飛車具合が悪い。このあたり、中野氏の大局観に感心しきりだった。
私は泣きの涙で△5四歩。▲5五角を消しただけの冴えない手だが、▲5四同金に△5三歩が素朴ながら好手で、▲5五角△9二飛▲1一角成に、強く△5四歩と金を取って、一息ついた。
もっともこのあとも、ホントに難しい戦いが続いたのだが、中野氏の攻めに誤算があったようで、私が受け切ったようだ。
最後は中野玉を追いまわして、中野氏が投了。私は詰み手順が分からなかったから、これは僥倖だった。
最初は中野氏の対局カードに「五段」とあったので眩暈がしたが、そのいっぽうで、中野氏はアマチュア相手に勝ちに行かない、という都市伝説がある。本局は典型的な例で、中野氏に巧妙に緩めてもらったのかもしれない。
時刻は午後3時を過ぎている。いまから指導対局は完全に不可。交流会で対局を受けられなかったのは、記憶にない。やはり20代の独身女流棋士は人気が高かった。
さて、私は7局目を指すことにする。時間的にも、これが最後である。
今度の相手も、「五段」。もう、駒を落としてもらいたいが、振り駒で私の後手になった(と記憶する)。
五段氏の石田流に、私は△4四歩から△4五歩と4筋の歩を切り、△7二金と締まる。最近この形で勝ってないが、固さより広さを優先する棋風なので、どうしてもこんな感じになってしまう。
右では、バトルロイヤル風間氏とTod氏が、なかなかの熱戦を展開している。これも異色の組み合わせだ。
▲6五歩△同歩▲同銀に、私は決断の△7七角成~△6五金。この「金」がミソで、「銀」だと、後に▲5五角が残る。
本譜は指しやすくなったと思った。五段氏の飛車は4筋に蟄居し、私は6~8筋に成駒を作り、楽勝の態勢。逆の立場だったらとっくに投了しているが、五段氏はガンバる。
もちろん私が勝勢だったが、粘ればいいことがあるらしい。五段氏捨て身の攻めに私が応手を誤り、けっこう形勢は接近した。しかしそこで五段氏が正着を逃し、また私が優勢。
そして先手・4九飛、5九角 後手・7七成香、7八と、9九竜…の局面で、私は△6九とと入ろうとした。
しかしそれだと、▲7七角で一遍に逆転となる。私は着手寸前で戻したが、勝負に辛い人なら、許さなかったはずだ(私は着手していないが)。
私は改めて別の手を指し、優勢を持続する。それでも五段氏にまだまだ粘りの手はあったのだが、このあたりで五段氏も疲れたようだ。「これはダメですね…」と投了してくれた。
ここで4時が近くなり、順次対局が終了。みんなで盤を片付ける。この合間に、Ok氏が上野裕和五段に、著書にサインをもらっていた。これはOk氏、いい記念になったことだろう。
上野五段と話をさせていただくが、現在、駒落ち別の棋書の発売を考えているという。もちろん話はまだまだ先だが、発売されたら、いい本ができると思う。
入れ替わりにテーブルを出し、今度は懇親会である。その合間に、私はビール運びを依頼される。そこで、Ok氏にも声を掛けた。しかし2人とも結果的に、必要なかったようである。
テーブルが長方形に並べられた。私はいつも、下手側の後方の内側の席に着くのだが、今年は上座近くにいたブ氏に勧められ、ブ氏の向かいに座ることになった。
懇親会開始。慣例では、ここで成績優秀者から呼ばれ、自己紹介を兼ねたスピーチをする。私は6勝1敗だったから、女流棋士の色紙ぐらいもらえそうである。
…ところが、湯川博士幹事の話だと、今年はそれらがないようだった。しかも、賞品の取得方法も変わるらしい。
加賀さやか嬢が代わって説明する。すると、今年は成績の良かった人からクジを引き、数字が書かれていたら、それと同じ数字が貼ってある色紙がもらえる、というものだった。
では数字がなかったら――。その場合は、棋書になるらしかった。
これはちょっと、話が違うぞ。私は色めき立った。
(つづく)