
第6図以下の指し手。▲3三飛成△同桂▲8五歩△3九飛▲6八金打△8五飛▲8六歩△3五飛▲6四角(第7図)
島井咲緒里女流二段の名角が炸裂した局面。私は、1970年12月2日・3日に東京都千代田区紀尾井町「福田屋」で指された第9期十段戦第5局(主催:日本将棋連盟、読売新聞社)・▲中原誠八段VS△大山康晴十段の一戦を思い出した(参考A図)。

第6図で▲3六飛は、飛車が逃げるだけの手だから指せない。勢い▲3三飛成としたが、私はそこで△7七歩成(参考B図)を恐れていた。

まあ▲同桂と取ってみるが、△8七角成▲同玉△7六銀打▲7八玉(▲7六同金は△同銀▲7八玉△7七銀成で下手負け)△6七銀成▲同玉△7六銀▲5八玉△3三桂(参考C図)は、上手優勢である。

ところが島井女流二段は、振りむいて私の竜を一瞥すると、ひょいと△同桂と取ってしまった。これは私も▲8五歩として、この銀得が大きい。
島井女流二段の△3九飛には、私が王手と錯覚したこともあるが、▲6八金打と1枚入れた。ここでケチってはいけない。
「あれ? 私駒損してる?」
と島井女流二段がつぶやいたが、飛と金銀の2枚換えで、上手がやや損している程度だ。
島井女流二段は△3七飛成と指しかけたが、▲6四角がある。よって島井女流二段は迷いつつ△8五飛としたが、私は▲8六歩と追い、やはり▲6四角。この角は、どのくらい効いているのだろう。

第7図以下の指し手。△7七歩成▲同桂△8七角成▲同玉△7三銀打▲5三角成△3七飛行成▲4八銀打△7六歩▲6五桂△8四銀(第8図)
島井女流二段は拠点の歩を成り捨て角を切ってきたが、ややありがたかった。角はこの位置でニラミを利かされたほうがイヤだった。
だが△7三銀打に代え△3七飛行成!はあったようで、▲同角には△7五桂が厳しい。仮に▲7八玉なら、△8七銀▲7九玉△6七桂不成▲同金△7八金まで、詰み。
よって下手は▲3七同角でなく▲4八銀打と辛抱するのだろうが、取れる竜を取れないようでは苦しい。
とすると第7図では、まだ私のほうが悪かったということか。
本譜に戻り、▲5三角成に△3七飛行成。これだと飛車の両取りがあるが、3五の飛車も働かせづらいところである。
私は▲4八銀打。そこで島井女流二段は△7五桂と打てると錯覚していたようだ。これも多面指しの弊害で、注意力が散漫になるのはやむを得ない。
△7六歩には幸便に、▲6五桂と跳んだ。

第8図以下の指し手。▲6四角△7五桂▲同角△同銀▲同馬△7七歩成▲同玉△7三歩▲3七銀△同飛成(第9図)
私は2度目の▲6四角と打った。下手はこの筋を死守しておきたいのだ。
そしてこの角が、▲3七角と▲7一馬の両狙い。よって島井女流二段は7五桂と打ったが二枚換えとなり、初めて優勢を意識した。
島井女流二段はまたも拠点を成り捨て、△7三歩。だけどだんだん守りが弱体化していく。
私はやっと飛車を取り、いよいよ攻めである。

第9図以下の指し手。▲7二歩△6一金▲3一飛△5一歩▲1一飛成△4五桂▲6四香△7四銀▲同馬△同歩▲6一香成△5七桂成▲同金寄(第10図)
私は▲7二歩から攻めたが、ややダサかったか。
▲6四香は焦って指したが、▲8五香と、こちらに打つのだった。
ただ本譜△7四銀に▲同馬と取り、▲6一香成とできて、ようやく上手玉が見えてきた。

第10図以下の指し手。△7五歩▲8八桂△4九角▲7一歩成△7六銀▲7八玉△3八竜(第11図)
島井女流二段は妖しく△7五歩。私は彼我の寄せが読み切れず▲8八桂と受けたが、よくなかった。島井女流二段は「しっかり受けますね」と感心してくれたが、ここは▲7一歩成と踏み込んでよかった。
△4九角には、ついに▲7一歩成といった。島井女流二段も「おおー」と驚く。実はこの歩成、こっそり詰めろである。
だが△7六銀▲7八玉に、△6七角打▲7九玉△6五銀(参考D図)が、詰めろ逃れの詰めろ(△8七桂)になるのでアオくなった。

だが冷静に考えると、そこで▲6七金右として下手勝ち。
△3八竜で、勝ちを確信した。

第11図以下の指し手。▲8三桂△同銀▲8一と△同玉▲8二金(投了図)
まで、123手で一公の勝ち。
第11図から▲8一とでも詰むかもしれないが、簡便さに欠ける。私は▲8三桂と打った。これで玉の退路を封鎖するのがミソである。
そこで▲8一と△同玉に▲8二金と、金を捨てるのが好手。ここで島井女流二段が投了した。
以下は△8二同玉に▲7三銀△9三玉▲8二銀打まで。銀の特性がよく出た詰み上がりだ。

感想戦は口頭で、「ちょっと攻めすぎましたかねー」と島井女流二段の弁。だけど第6図で△7七歩成の攻めを絡めたら、たぶん島井女流二段が勝っていた。
まだ1時間あるので、2局目の開始となる。私が負けた場合はすぐ去るが、勝てた場合は勝ち逃げをせず、2局目も教わるのが私のスタンスである。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲7五歩△4四歩▲7八飛△3二銀▲5八金左△4三銀▲4八玉△3三角▲3八玉△2四歩▲9六歩△2二飛▲4八金直△2五歩(第1図)
3手目、▲7五歩と指してみた。島井女流二段は△4四歩と我が道をいったが、上川香織女流二段なら、△3五歩と指す。
▲7八飛と振ると、「なんでも指しますね」と島井女流二段。「でも相居飛車の感覚だからいいのか」。
後の相振り飛車を想定しての言葉だが、私は見様見真似で指しているので、却って申し訳ない気持ちである。

第1図以下の指し手。▲7四歩△同歩▲同飛△7二金▲7六飛△6一玉▲9五歩△6二銀▲2八銀△5四銀▲7七桂△4五歩▲8六歩△6四歩(第2図)
▲7四歩△同歩▲同飛には△7二飛とぶつけられるのがイヤだったが、よく考えたら飛車交換後、▲2三飛で下手十分だ。
よって私は手順に▲7六と引け、まずまず。
以下も慎重に指し手を進めたが、角の処置に迷った。

第2図以下の指し手。▲8五歩△6三銀引▲6八銀△7三銀▲9七角△5二金▲6六歩△7四歩▲9八香△2六歩▲同歩△同飛▲2七歩△2四飛(第3図)
私の狙いは▲8五桂からの端攻めである。だが上手の玉が6一なので、効果が薄いと判断し、▲8五歩と
伸ばした。これはこれで、飛車の横利きが通って悪くなかったと思う。
そこで島井女流二段の△6三銀引が意外で、この銀は5四にいたまま、△6五歩の仕掛けを見せられたままのほうがイヤだった。
角は▲9七角と、こちら側で使う。そして迷いつつ、▲6六歩と指した。島井女流二段は笑いながら「(上手に飛車先の歩の交換は許すけど)いつかは指さなきゃなりませんからね」と言った。

第3図以下の指し手。▲7五歩△同歩▲同飛△6六角▲4五飛△4三歩▲4六飛△4四角(第4図)
このあたりでLPSAファン氏の将棋が終わった。LPSAファン氏は研究が不発だったらしいが、指導対局で作戦の齟齬はよくある。
LPSAファン氏は簡単な感想戦を終えると、風のように帰った。医師は忙しいのである。
第3図で▲7五歩と合わせ、△4五歩を取りにいったのが勝手読み。△7五同歩▲同飛△7四銀左▲4五飛△4四歩▲4六飛△7六歩で、駒損を免れなかった。上手の歩が2つになるのをうっかりした。
ところが島井女流二段は「歩が取れるけど……」とつぶやき、とまどいながら△6六角と飛び出した。
この手も厳しいが、私も4五の歩を取っているので、チャラである。
▲4六飛に、島井女流二段は△4四角と引いた。この手が私の攻めを呼び込んだ。9手一組の攻めである。

(つづく)