一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

大山十五世名人の、対中原十六世名人の勝率の推移

2024-06-19 20:26:21 | 将棋雑記
大山康晴十五世名人が、若き中原誠十六世名人と初対局したのは、自身が44歳のときのこと。大山十五世名人自身、「私はこの青年に名人を取られるかもしれない」と警戒はしていたが、果たして対局が続くと、大きく負け越してきた。具体的には、最初の20局を6勝14敗、勝率3割である。
このあと、大山十五世名人は棋力が下り坂。いっぽう中原十六世名人は上り坂となる。ではその後、両者の対戦成績はどうなったのか。大山十五世名人側から見た勝率の推移を、10局ごとに見てみよう。

●○●○●●●○●●(3勝7敗.300)
●●●○○●●●●○(3勝7敗.300)
●●○●○○○●●○(5勝5敗.367)
○●●○○●●○○●(5勝5敗.400)
○●○●●●○○●○(5勝5敗.420)
●●○●●○●○●●(3勝7敗.400)
●●●●○●●●○●(2勝8敗.371)
○●○○●●○●○●(5勝5敗.388)
○●●●○●●○●●(3勝7敗.378)
●●●●○●●●●○(2勝8敗.360)
●●○○●●●○○●(4勝6敗.364)
●●●○●●●○●●(2勝8敗.350)
●○○●●○●●○○(5勝5敗.362)
●●●○●●○○○●(4勝6敗.364)
●○●○●●●●●●(2勝8敗.353)
●○●●●●○●●●(2勝8敗.344)
●●(2敗=55勝107敗.340)

50局を終了した時点で、21勝29敗.420。これが対中原戦の瞬間最高勝率である(最初の4局を除く)。
その後は緩やかに勝率も下っていくのだが、中には盛り返している時期もある。140局終了時点で、勝率.364。低勝率ではあるが、30局終了時点の.367と大して変わっていないのだ。ことに、131局~140局の20局は9勝11敗。大山十五世名人57歳から59歳の期間で、棋力が衰えていなかったことを示すものである。
中原十六世名人がいなかったら大山十五世名人のタイトル数はもっと増えていた。ただ、中原十六世名人がいたから、晩年までその棋力を維持できたともいえるのだ。
44歳から同じ相手とタイトル戦を20回、162局戦う。こんなケースは、もう起こり得ないだろう。
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逆王手

2024-06-02 23:13:40 | 将棋雑記
第9期叡王戦第4局では、カド番に追い込まれていた藤井聡太叡王が伊藤匠七段に勝ち、2勝2敗のタイに追いついた。
こういうとき、ネット(マスコミ)で踊る表現が「逆王手」である。
将棋のルールを知らない記者が使いたがる常套句だが、伊藤七段だって「王手」を継続中なのだ。観戦記者の田辺忠幸氏などは、「王手はどちらか一方しか掛けられない」と、専門誌でよく諫めていた。
だけど「逆王手」には「クロスカウンター」「どんでん返し」的なカッコ良さがあり、使いたくなる気持ちも分かるのだ。
今回も、数社がこの単語を使った。

「八冠維持」へ逆王手か・それとも…藤井聡太八冠・21歳の“正念場”(中部日本放送)

藤井聡太叡王、完勝でのシリーズ逆王手に“ホッ”?ファンを前にジョーク披露「次局は持将棋がなければ最終局に…」視聴者は爆笑「やめとけw」(ABEMA TIMES)

藤井聡太叡王 逆王手!八冠陥落危機耐えた2勝2敗タイ 激闘「何がよかったかは分からない」 4連覇かけ6・20最終決戦(デイリースポーツ)

いまや将棋中継の代名詞であるABEMAがこの単語を使っているのはご愛嬌である。
王手は片方しか掛けられないから、「両王手」がまだしもの気がするが、これだってどちらか一方が2つ同時に王手を掛けているわけで、意味合いがまったく違う。
でも個人的には、「逆王手」もいいかなと思っている。誤用にしても、将棋の話題が書かれるのはいいことだから。
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夢の終わり

2024-05-21 22:41:35 | 将棋雑記
先日の第37期竜王戦で5組降級が決まった川上猛七段だが、引退の報はなかった。
考えてみたら、川上七段が昨年3月31日にフリークラス満了になったとき、竜王戦はとうに36期が始まっていた。よって、川上七段は第38期も参加できることになる。
そして川上七段は、第38期に4組に復帰しないと、アウトだ。

   ◇

さて、きょうは第37期竜王戦(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)ランキング戦6組決勝・藤本渚五段VS山下数毅奨励会三段戦がある。言うまでもなく、本局に山下三段が勝って優勝すると奨励会三段リーグの次点1となり、累計2で四段昇段の権利を得られる。ABEMAでは今回も中継があり、ありがたいことだった。
将棋は山下三段の先手で、相居飛車になった。その後角を換わったが、お互い角を打ち、じっくりした進行になる。ABEMAの形勢バーはわずかに山下三段よし。今回私は山下三段の応援なので、まずまずだ。
そのまま夕方になった。藤本五段は雁木。山下三段は金矢倉に銀が付き、美しい。形勢バーも「山下65:35藤本」で、優勢に近い有利だ。
しかし山下三段はせわしなく頭を動かし、落ち着きがない。
山下三段、ぶつかっていた6筋の歩を取る。これが若干疑問で、形勢が縮まった。藤本五段は桂で取るが、山下三段は銀を逃げる。すると藤本五段は8筋の歩を突く。以下継ぎ歩の形になったが、山下三段は相当迷いながら桂を取った。しかし藤本五段に8筋の歩を取りこまれ、これじゃあ桂得くらいじゃ合わない。
山下三段は飛車先に歩を打ったが、藤本五段は1枚金を剥がし、そのあとこの歩を取り、王手。あれだけ美しかった金矢倉がボロボロにされてしまった。この間、わずか10分程度ではなかったか。
いやいやいやいや、これが山下三段予定の進行とは思えない。なんで読み直さなかったのだろう。せめて銀を逃げるところで考え直せばまだまだだったが、この進行じゃダメである。私だったらバカバカしくて投げるところである。
本譜は山下三段が玉を引き、夕食休憩まで7、8分となったところで、藤本五段が夕食休憩を申し出た。
大山康晴十五世名人や中原誠十六世名人が得意にしていた手段で、ふだんはもっと早くから休憩に入るのだが、この夕休の間、不利な相手に局面を考えさせ、諦めさせるのである。
本局も、この時勝負が決した。再開後、山下三段も粘ったが、藤本五段は間違えない。19時29分、即詰みまで指して、山下三段が投了した。
本局、山下三段が勝っていれば、仮に四段昇段を選んでも、それが実現するのは10月1日からだった。
よって竜王戦決勝トーナメントでは「奨励会三段」の肩書で参戦することになり、また別の意味で、その戦いぶりが注目されるところだった。
しかし負けちゃったんじゃしょうがない。夢が、終わった。
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陽のあたらぬ戦い

2024-05-13 23:33:05 | 将棋雑記
9日は名人戦第3局、竜王戦6組準決勝のほかに、第35期女流王位戦第2局もあって、賑やかだった。
しかし私が最も注目したのは、第37期竜王戦5組昇級者決定戦・中村太地八段VS村田智弘七段戦である。あちらが華やかな戦いなら、こちらは文字通り、裏街道での陽のあたらぬ戦いである。
これに村田七段が勝ったから驚いた。村田七段はフリークラス。中村八段は第82期順位戦にA級で新加入し、堂々の残留を果たした。そのふたりが戦えば、中村八段が勝つと思う。そこを村田七段が勝つところに、将棋の面白さがある。
そういえば中村八段は、前期4組での残留決定戦でも、川上猛七段との決戦に敗れ、5組に降級した。
川上七段もフリークラス。つまりフリークラスとA級の実力は紙一重、いや紙0.1枚、ということになる。
そのフリークラス棋士に引退へのカウントダウンがあるのが口惜しいが、その一方で毎年プロが4人生まれている現在、こうでもしないと現役棋士が減らない、というジレンマもある。難しいところである。
では、現在フリークラスで戦っている棋士の戦績はどうなのか。フリークラスに降級してしまった棋士で、まだ引退が確定していない棋士の直近10局を調べてみた。

長沼洋八段(59)○○●○●●●○●● 2025年3月31日
増田裕司七段(53)○○●●●●○●●● 2025年3月31日
藤原直哉七段(58)○●●●○●●●○● 2026年3月31日
小倉久史八段(55)○●○●○●●●●● 2027年3月31日
岡崎洋七段(57)●○●●○●○●●● 2028年3月31日
中田功八段(56)●●○●○○●●●● 2028年3月31日
渡辺正和六段(38)●○○○●○○●●● 2029年3月31日
島本亮五段(44)○●●●●●●●●● 2030年3月31日
大平武洋六段(47)●●●○●●●○○● 2031年3月31日
村田智弘七段(43)○○○○●●●●●○ 2031年3月31日
矢倉規広七段(49)●●●○●●●●○● 2033年3月31日
堀口一史座八段(49)●●○●○●●●●● 2033年3月31日
竹内雄悟五段(36)●●○●○●○●●○ 2034年3月31日

13名の合計は41勝で、平均3.2勝。冷静に見れば、やはり勝率は低い。その中で村田七段は、渡辺六段と並んで5勝を挙げている。まだ43歳と若いからスタミナもある。順位戦復帰を期待していいのではなかろうか。
いま、「村田」といえば村田顕弘六段だが、智弘七段にも注目してみようか。
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山下奨励会三段、竜王戦5組昇級!!

2024-05-12 00:06:54 | 将棋雑記
名人戦第3局2日目が行われていた9日、同じ東京で、将棋会館でも注目の一戦が行われていた。第37期竜王戦ランキング戦6組準決勝・井出隼平五段VS山下数毅奨励会三段戦である。竜王戦は各クラス、決勝に進出した時点で、その2名は昇級となる。よって本局、山下三段が勝てば、竜王戦37期にして棋士以外で初めて、ランキング戦昇級者が出現するのだ。
相手の井出五段は振り飛車の使い手で、先日のNHK杯では解説者で出演した。2つほど突っ込みどころがあったが、おしなべて軽快な解説で、いかにも実力者を思わせた。
そして注目の結果は、山下三段の勝ち!! ついに5組昇級を勝ち取ったわけだった。
山下三段は15歳。14歳の藤井聡太四段が竜王戦で大活躍したことを考えれば、山下三段が竜王戦で活躍したって、不思議はない、ともいえる。
そして、本チャンはこれからなのだ。以前も当ブログで記したが、山下三段は現在、次点1を持っている。よって、次の決勝戦に勝てばさらに次点1が付与され、累計2で四段昇段の権利が与えられるのだ(というかそもそも、前期三段リーグで次点を取得したから竜王戦に出られたわけだが)。
いままで棋士編入試験から四段になった例はあるが、三段リーグ次点+竜王戦ランキング戦優勝からの四段は異質。山下三段は今回、アマ1名・プロ5名に勝ってきており、これだけでもう、次点1の価値はある。
ちなみに対プロ5勝の中には、瀬川晶司六段、今泉健司五段と、棋士編入試験でプロ入りした棋士がいるのも感慨深い。
そして決勝の相手は、藤本渚五段。これがまた、作ったような組み合わせだ。
現在は藤井竜王・名人の天下で、伊藤匠七段以外の棋士がパッとしないいま、最も期待されている新たな刺客が藤本五段で、藤本五段に勝ってほしいところもある。しかしそれは、王位戦や王座戦で実現してくれればいい。奨励会員が勝ち抜いてこそ、竜王戦は面白い。
6組の決勝は例年、6月上旬。棋聖戦五番勝負に加えてまたひとつ、楽しみなカードが出現した。
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