一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

2021年長崎旅行・6「10億円を獲り損ねた男」

2021-12-31 00:10:53 | 旅行記・九州編
お茶屋の店頭には年末ジャンボ宝くじの幟がたなびき、出入り口のガラスには、宝くじ各種のポスター、高額当選金の実績などが掲げられていた。ここは、その筋の販売で有名なのか?
私は近くの交通整理員に聞いてみる。私はこの初夏から、この類の人には親近感を抱いているのだ。
「なんでこんなに客が来てるんですか?」
「ここは宝くじが当たるんで有名なところでしてね」
やはりそうか。「ほら、あそこに店の電話番号が書いてありますでしょ」
庇の幌のところだ。「××―1192。いいくじ、と読めるわけです」
「ほう」
その左には、「銘茶 たばこ 宝くじ 冨田園茶舗」とあった。



「最たる例があそこの○○屋さん。1等が当たったんですよ」
「おおお」
「それでもう、県外からお客さんがワンサカ来るようになって……」
「……」
それで交通整理員まで雇って?いるのだから、物凄い売り上げということだろう。
私は年末ジャンボ宝くじを買ったり買わなかったりだが、今年は買うつもりだった。今回はちょうどいい機会で、買うしかないと思った。
年末ジャンボは連番、バラがそれぞれ箱に入れられており、客は自由に取ることができた。これなら恨みっこなしだ。
私は連番20枚、バラ10枚を買った。が、欲の皮を突っ張らかして、バラも20枚にした。
「12,000円です」
店員さんが散文的に言う。が、私の指に連番がもう1袋くっついてきた。
「15,000円です」
「いや、これは違います、買いません。
……でもこれが運命の分かれ道だったりして」
私は冗談めかして言ったが、実際そうだったのではないか? 私は10億円をみすみす手放してしまったのではないか?
私は気を取り直し、お茶を買う。1,000円だったが、いい買い物をした。
しかし駅に戻る時も、あの手放した宝くじが気になって仕方がない。あれは本当に10億円だったのではないか?
私は財布をまさぐった。残金は1万円と、あといくらだろう。だが、家を出る時1万円を足したおかげで、宝くじを15,000円分買おうと思えばできた。これが微妙な綾で、私に「買え」という、神様の計らいだったとも思えるのだ。
そう考えると、私はますます落ち込むのだった。
伊万里駅前からは高速バスに乗った。博多までは鉄路で行っても似た額だが、さすがの私も乗り換えが面倒だし、高速バスは誰に気兼ねすることなくのんびりできるからいいのだ。
天神日銀前までは1,880円。ポケットには千円札を2枚忍ばせたが、小銭で880円あった。
天神日銀前でピッタリを払い、降車。いつもの天神バスターミナルでなかったのでかなり迷ったが、福岡市役所ふれあい広場になんとか着いた。いつもの「天神クリスマスマーケット」である。
今年もきらびやかにライトアップされているが、私はここに来るのが目的なので、もう中には入らなかった。





ちょっとお腹が空いた。中洲川端の商店街に「ウエスト」があったので入る。頼むはもちろん「ごぼ天うどん」(大盛り)である。福岡のうどんはコシがないが喉ごしがよく、つるつる食べられて、私は好きだ。
会計は560円。しかしSuicaは使えないとのことで、小銭をかき集めたら、5円や1円を除き、470円しかなかった。さっきは560円あると思ったのに、錯覚だったか……。
レジには「千円札が不足しています」の張り紙がある。だがないものはなく、私は最後の壱万円札を使うしかなかった。
気を取り直して、博多駅前に行く。ここは「博多クリスマスマーケット」と名前を変える。ここもお馴染みの光景で、1年振りに帰ってきたという感慨がある。しかし何というか、客の熱気が昨年ほどではないような気がした。
一回りしてくると、たぶん有名なソプラノ歌手だと思うが、ステージで素晴しい歌声を響かせていた。無料で楽しめるステージは醍醐味で、私はさっぽろ雪まつりが懐かしくなった。









時刻は午後8時にならんとしている。帰りの飛行機は21時05分なので、もう空港に向かうしかない。
博多空港に着くと、多くの客が手荷物検査場に並んでいた。時間に余裕を持たせたのに、けっこう際どかった。
飛行機はANAとスタ―フライヤーの共同運航便。機材はスターフライヤーで、背もたれの液晶画面がよかった。
無事離陸・着陸し、帰りも京急を使い、12時前に自宅に着いた。これにて1泊2日の現実逃避は終了である。

風呂に入る前にジーパンのポケットをまさぐると、なぜか千円札が出てきた。
伊万里からの高速バスのとき用意していたおカネだ。だが一部は小銭で払ったため、この千円札は使わなかったのだ。
ということは、ウエストで壱万円札を使う必要はなかったのだ。
私は呆れるしかなかった。
それはいいとして、問題は年末ジャンボである。決戦は2021年12月31日。
ここで10億円が当たればいいが、外れたら、私が買わなかったあの宝くじが、10億円だった可能性がある。
さて結果やいかに。
(おわり)
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2021年長崎旅行・5「あてもなく」

2021-12-30 00:04:59 | 旅行記・九州編
海沿いに出て歩いていくと、平戸交流広場があった。ここで市内のパンフレットをいただく。
その先はまだ観光地があるが、ここで引き返す。山側に行けば平戸ザビエル記念教会や「寺院と教会の見える風景」があるが、どちらも数年前に訪れているので、再訪しない。
もっともそれだと平戸に来た意味が薄れるが、松浦鉄道に乗り、鉄印状がいただけることで、十分釣り合いは取れていると考える。
平戸新町バス停の近くに「めしどころ一楽」なる食堂があったので、昼食に入る。注文は平戸ちゃんぽんだ(770円)。
平戸ちゃんぽんは野菜が多く、食べ応えがあり、とても美味かった。旅人に十分オススメできる食事処である。
12時12分の平戸口経由・佐世保行きバスに乗った。平戸大橋を通り、平戸口桟橋着。近くに瀬戸市場があるのでよほど降りようかと思ったが、先を急ぐ。
ところがこのバスが、平戸大橋へ戻り、その脇を抜けてあらぬ方向へ行くので驚いた。佐世保方面に行くのだ。平戸口経由とあったからてっきりたびら平戸口駅を通ると思ったのだが、平戸口とはこの辺のことをいうのだった。
私は北小学校入口で降車する。若干回り道をしたが、傷は浅かった。



とりえず、平戸大橋の全景を撮った。駅まで直行していたら、目にできなかった光景である。
ついでに平戸瀬戸市場にも入る。だが、にぎりの類は売っていなかった。もう、その時間帯は過ぎてしまったのだろうか。
魚売り場に行ったが、魚もあまり並んでいない。今朝は時化につき、水揚げが悪かったらしい。結局、何も買わなかった。
駅に向かう道すがら、「長崎カステラ」と大書してある洋菓子屋があったので、ここでカステラを買った。いつもは有名メーカーのそれを買うが、たまには自営の店で買うのもよい。そして、味も大手と遜色ないと信じた。
たびら平戸口駅に戻り、鉄印帳(2,200円)を買う。そして松浦鉄道の鉄印も所望した。
この鉄印状の巧妙なところは、ご朱印状を真似て、有料(300円)にしたことだ。
たとえばJRだったら、遥か昔から無料の駅スタンプがあった。スタンプ帳は500円程度で売られていたが、それは市販のメモ帳でも事足りた。
ただ無料がゆえに有難味もなかった。鉄印状はそこを逆手に取り、有料にした。そこに有難味が生じ、ヒット企画となったのである。
しかもこの鉄印状取得には、もうひとつ条件がある。すなわち、この路線の切符を提示しなければならないのだ。
釧網本線・北浜駅、指宿枕崎線・西大山駅など、駅そのものに特徴がある駅は、クルマで来てそのまま帰る観光客も多い。でもそれでは鉄道会社が儲からない。そこで切符購入を条件としたのは、いいアイデアだと思った。
あ! それで入場券か⁉ これを購入すれば、鉄印状がもらえる権利を得るのかもしれない。
もっとも私も、入場券を買った。てっきり「西浦ありさ」がデザインされていると思いきや、武骨な硬券そのものだった。
鉄印は、路線1つにつき1種類のようで、その点はよかった。ただ、紙片で支給された。つまり、帳面に直接揮毫はしなかった。神社のように書の専門家はいないし、この措置は仕方がない。
ただ、路線すべてがこの手法だと、鉄印帳が分厚くなってしまう。



次の列車は13時48分。かなり時間があるので、駅構内をぶらぶらする。改札脇でも本格的ちゃんぽんを供する店が営業していたが、さすがにもう入らない。
駅舎の外では猫の鳴き声がする。見てみると、ジュースの自動販売機の奥にある物置の下の隙間を根城にしているようだった。今回の旅では猫がキーワードのようだ。





列車に乗る。乗客は数人で、この中途半端な時期と時間、コロナ禍もあるが、旅行する人は少ないのだろう。



15時55分、伊万里に着いた。ここでは1時間ないし2時間が持ち時間となる。私は隣接の観光案内所でパンフレットをもらい、とりあえず北へ向かった。川沿いには、昔は味のある家々が建っていたようだ。でも、現在はその面影はほとんどない。
川を越えて東に行くと、伊萬里神社があった。入口に龍宮城を思わせる楼門があり、急な階段を登ると、こぢんまりした社殿があった。5円を投じ、いままでの愚行を吐露する。
社務所に戻り、ご朱印を所望しようとしたが、人がいなかったうえ、紙のご朱印は提供していない、の注意書きがあり、今回は諦めた。
もう博多に行こう。幸橋という、平戸にもあった名前の橋を渡り、駅に向かう。その途中、お茶屋があった。旅先では時々お茶を買う。伊万里茶もよかろうと購入しようと思ったが、ずいぶん人が来ている。
店の横は5~6台が駐まれる駐車場になっているが、そんなにこのお茶屋は大きいか? 見たところ、ふつうの一軒家だ。
だが駐車場はこちら側一帯にもあり、しかもかなりのクルマが駐車している。ご丁寧に警備員までおり、クルマを誘導していた。
なんなんだここは。あっ! これは、まさか……!?
(つづく)
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2021年長崎旅行・4「鉄印帳を求めて」

2021-12-29 00:12:43 | 旅行記・九州編
テレビ番組じゃあるまいし、ホテルを求めて佐世保の街をさまよい歩くのはイヤだ。
早岐のビジネス旅館は3,980円。しかも残り1室とあっては予約したくなる。ただ、すでに480円区間の切符を買っていたから、いくらかは無駄になる。それがどうにも腹立たしいが、ここは冷静に判断した。
18時13分、早岐で途中下車した。川棚からの料金は280円。純粋に200円の損で、川棚駅ではオレカの件など、いつも余計な出費をしてしまう。
早岐駅前に見覚えがあったが、そういえば「潮音荘」の文字にも見覚えがあった。ここも以前泊まったことがあるはずだ。
右手にうどん屋が見えてきた。「伊予製麺」だ。ここも同じ日に入っており、きょうも同じ行動となった。
釜揚げうどんの特大が欲しいが、ここにある大桶をセルフで取るのだろうか。
「それはこちらでやりますから」
と店員さん。ああ、前回も同じ注意を受けたことを思い出した。結局私は、進歩がないのだ。
釜揚げうどんとアジフライを美味しく食べ、潮音荘に入る。やはり以前泊まった宿だった。
応対は若旦那風の人がしてくれた。何となく、家族経営の気がした。
畳の部屋に旅装を解き、ほっと一息。あんでるせんの後は、またあと1年かと、いつも何とも言えない気持ちになる。
この日東京では、「千原ジュニアのタクシー乗り継ぎ旅」「出没!アド街ック天国」を放送しているが、放送局は東京ローカルなので、長崎ではリアルタイムの放送がない。
朝食は500円だったので、フロントに行き、注文した。
しかし部屋に戻ってもやることがない。
内風呂はないので大風呂に行くと、半円形の大舟に、ジャグジーがいくつか噴射している。独占状態で湯につかると、天下を取ったようで気分がいい。外風呂は不便ともいえるが、ゆったりできるからかえってよい。
風呂から出たらサッパリして、そのまま寝てしまった。

翌19日(日)。この日はフリーで、夕方までに博多に着けばよい。
宿は満室ではなかったようで、スマホの「残り1室」は、予約をあおるキャッチコピーだったようだ。
朝食は食堂で摂る。この食堂ももちろん見覚えがあり、以前も私ひとりだった。
魚の切り身が薄かったが、それもまた良しで、美味しくいただいた。
早岐では7時47分の列車に間に合った。タイム13分で佐世保着。きょうの天気は曇天で、降雨の雰囲気すらある。よって九十九島観光はやめにし、松浦鉄道に乗ることにした。
これにはもうひとつ訳がある。全国に40ある第3セクターが共同で、昨年7月から「鉄印帳」を始めた。全国的にブームになっているご朱印にあやかった企画だ。
詳細は分からないが、松浦鉄道は比較的老舗の第3セクターである。どうもブームに乗っかるようで味が悪いが、一番手に訪れる路線として、最西端にある松浦鉄道はふさわしいと思った。
が、松浦鉄道佐世保駅に行くと、窓口営業は午前9時からである。これなら宿でゆっくりすればよかったと思うが、ノープランだから仕方がない。なお私の経験から言うと、ノープランは誤算が多くなる。「行き当たりバッタリ」というと面白い旅に聞こえるが、実際は綿密な計画を立てたほうが、楽しい旅になる。
ここから北西に行けば、させぼ四ヶ町のアーケード街がある。私は日本全国を旅したが、偏見を承知で書けば、このアーケード街を歩く女子高生は、日本一の美しさだと思う。
だが雨がパラパラ降ってきて、私は駅前をうろうろするばかり。まさか傘は使わないと思ったから、用意していない。まったく間が悪い。
何とかアーケード街に入ったが、その中途にあるはずの、佐世保中央駅が見つからない。
いったん佐世保駅に戻ったりして、ようやっと佐世保中央駅前に着いたのは8時59分だった。味のある商店街の先に、へばりつくように佇む駅で、私が好きな駅のひとつである。



窓口が空いていたので、鉄印帳を所望する。しかし駅員さんいわく、佐世保駅とたびら平戸口のみの販売、記帳になるという。
鉄印帳の全容がよく分からないが、佐世保とたびら平戸口で、記帳の内容が変わるのだろうか。だとすると、ここまで歩いてきたのは失敗だったことになる。
とりあえず1日乗車券(2,000円)を買った。佐世保駅に戻る手はあるが、私はたびら平戸口に向かう。1日フリーとはいえ、博多に行くことを考えると、意外に時間はない。
車内は数人で、閑散としていた。松浦鉄道はJRから第3セクターに変換した際、駅数を32から57に増やし、列車本数も増やし、第3セクターの優等生となった。だが松浦鉄道も他の路線と同じく、過疎化とコロナ禍に苦しめられているようである。
沿線は高架もあるが木々の中を走り、風情は満点である。
9時50分、佐々で乗り換え。佐々駅舎はログハウス風だったが、現在改築中だった。その一隅に物品販売所があり、松浦鉄道では「西浦ありさ」を売りにしていた。
缶バッジがあったが、3つセットで600円は、ちょっと手が出ないところである。硬券の入場券を所望したが、「それはたびら平戸口で」と言われた。
19分の待ち合わせで、たびら平戸口方面に乗る。ここはちょっと混んでいたが、しばらくすると余裕で座れた。
タイム35分で、たびら平戸口に着いた。早速鉄印帳を買いたいが、駅員さんは改札業務に入っており、しかも市街方面へのバスが到着した。
ここでの滞在時間もはっきりしないが、最大3時間だろう。私はバスに乗ったが、どこまで行くべきか。平戸瀬戸市場を抜け、平戸大橋を抜けた。以前瀬戸市場を訪れたときは、中で購入したにぎりが新鮮で美味かった記憶がある。
平戸城に行く最寄りバス停でも降りそびれ、結局平戸新町まで行った。
この辺りも観光の宝庫なのだが、以前も訪れているので、新鮮味に欠ける。幸橋、というめでたい橋を愛でたあと、商店街に入ると、風情のある建物が目に入った。
観光用に遺しているものもあるのだろうが、日本人がほっとする風景である。





(つづく)
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2021年長崎旅行・3「今年も参加できなかった」

2021-12-28 12:10:09 | 旅行記・九州編
15番氏がトイレに行ったのは不可抗力である。ということは、マスターはそれも織り込み済だったということか。
新たに19番氏が当たり、マスターが「好きな絵を描いてください」と言う。19番氏は何かの動物を描いたが、もちろんマスターはピッタリ当てた。
あぁ、私の右隣の15番氏は残念、と思いきや、戻ってきた彼には新たに整理券が当たり、マスターに誕生日を聞かれた。カウンターには小箱が置かれている。
「8月10日です」
「じゃあ私と同じだ」
……!! マスターの人となりは謎に包まれていて、家族の類は一切明らかにされていない。でも誕生日が「8月10日」ということが分かった。これは貴重な情報と言えまいか。
マスターは手帳を取りだす。そこには各日にアイテムが書いてあり、8月10日は「チキン」だった。
そこでマスターが小箱を開けると、チキンの小物が出てきた。つまり365分の1の確率で、これを当てたということだ。これもマスターが、「結果」から予知を導いたということだろうか。
3番の女性が整理券を自ら当て、マスターから、何かの格言を書いた紙をもらった。こうした非売品のプレゼントが客としてはいちばん嬉しく、私も長年狙っているのだが、なかなか当たらない。というか、ここ何年かは一度も整理券すら当たらない。ひょっとしたら、マスターが私を意識的に外しているのかもしれない。
終盤になり、スプーンの登場である。これをマスターはぐにゃぐにゃに曲げ、さらに一部を齧ってしまった。
「このおたまのところが美味しいんです。軸のところは美味しくない」
スプーンに味があるものかと、私たちは苦笑しつつ驚愕する。
さらにコインマジックである。今回も100円玉を3つに割り、500円玉に爪楊枝を通し、10円玉を小さくし、大きくした。やっぱりコインマジックがいちばん面白い。
新たに50円玉を求められ、一瞬の間が空いたので、私が供する。ついに事前の準備が役に立った。
マスターは千円札にこの50円玉を泳がせた。客は悲鳴を上げる。その気持ち、よく分かる。
マスターはジュース缶の底から、10円玉を中に入れる。驚くのは、それを5番の女性にもトライさせたことだ。
そして女性は、10円玉を缶の底から一発で貫通させてしまった。「入った!」と、私もつい、絶叫してしまった。
これが誰にでもできることなのか、それともマスターが補助をしているのか。たぶん後者だと思うが、それはそれですごいことになる。
「予約は2ヶ月前の1日からで、もう来年2月いっぱいのカウンターは埋まっています。
あと、予約は2日以降でもできますからね。勘違いしている人も多いですけど。
なかなか電話が繋がりにくくて申し訳ないですけど……。ま、(私が)呼びますよ。皆さんに来てほしいときはネ」
とますたーが静かに言った。
さて、長かったマジックショーも終わらんとしている。時刻は午後5時にならんとし、確かに長時間となっている。
卵のマジックのとき千円札を供した女性に、代わりの千円札が出される。その際にマスターが貫通、異動のマジックをやった。しかし、失敗っぽい感じがした。
いままで私たちは驚異のマジックをさんざん見てきたから、カウンターの実年男女は、これも演出のひとつと思ったようだ。だがこれは違う。こんな結果は見たことがないからだ。
マスターは6番の女性から新たに千円札を借り、今度は成功した。私はマスターの意地を感じたのである。
これにてお開きである。今年も面白かったのだが、何となくマスターの雰囲気がハードというか、全体的にピリピリしたムードが漂った気もした。
最後は一本300円のスプーンを、みなが買うのが慣例である。私は先ほどの50円玉を回収せねばならないが、それはスプーンを購入するときでよい。
今年はカウンターでの会計を兼ねており、そのぶん時間がかかる。個人の名前を書くサービスも、省略されているようだ。
私の前の女性は、右腕に気をかけてもらっていた。いよいよ私の番である。だが、カウンターにはおカネが一切なかった。私の50円玉は、誰かが持って行ってしまったのだろうか。
「面白かったです。スプーンをください」
マスターは何も言わず、スプーンをくれた。マスターのマジックを初めて拝見してから22年。この間マスターは人生の指針を教えてくれた。だが私は守れず、結婚もできぬまま転職を繰り返し、いまも人生の底辺で迷走している。マスターには、私が堕落した人間にしか見えないのだろう。もう、掛ける言葉もないということだ。
私は50円玉のことを言うと、マスターが返してくれた。これが私の出した50円玉だったのか、レジから出した50円玉だったかは判然としない。前者であることを願う。
川棚駅に戻ると、17時23分の上下線は出ていた。次は17時54分で、これも上下同じ時刻である。
私はこのあとの予定をまったく立てていない。昨年の2日目は、長崎・眼鏡橋近くの匠寛堂に行った。今年も行って、今年は皇室御用達のカステラを購入しようか。だが、カステラだけのために、わざわざ再訪するのもどうかと思う。購入するならネットでもいいからだ。
駅員さんは女性だった。それで、駅員さんにどちらの列車に乗るか、決めてもらおうと思った。
「長崎駅の方が宿泊場所はいっぱいありますけど」
駅員さんは困惑しつつ、答えた。
「ホテルは男ひとり、どこでも泊まれると思いますので、推しの観光地をお願いします」
と言ったって駅員さんが私の運命を決められるはずもなく、私は何となく、佐世保に行くことになった。
「480円です」
駅員さんが券売機の「480」を押してくれ、私は480円区間を乗ることになった。
この駅はまだオレンジカードを使えるし、私も所持しているが、この券売機はオレカ使用にやや不安があるので、現金で買う。
と、構内に真っ白い毛並みに絶妙な黒ぶちの猫が現れた。メスなのか、ものすごい美形で、彼女?が人間だったら、相当に男を惑わすことだろう。
私はカメラを向けると、猫は逃げないどころかこちらに寄ってくる。よほど人間に慣れているのだろう。



私は猫の盆の首あたりを撫でてやると、猫はさらに擦り寄ってきた。そして私の手首を噛み、爪を立てた。これは猫なりの愛情表現と解した。
列車が到着したようだ。猫ともお別れである。
「佐世保駅前に東横インがあります」
「ああどうも、私、会員なんです」
私は気持ちよく列車に乗り込み、スマホで佐世保の東横インを繰る。すると、満室になっていた。ほかのホテルも同様である。
佐世保にはサイバックというネットカフェがある。しかし場所がうろ覚えだし、ネットで調べてもそれらしき店はなかった。むろんほかにもネットカフェはあるが、1泊だけなので、布団の中で眠りたいところでもある。
ためしに、佐世保の手前の早岐を調べると、1軒だけ、ビジネス旅館の空きがあった。
どうしようか……。
(つづく)
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2021年長崎旅行・2「マジックつづく」

2021-12-27 00:32:10 | 旅行記・九州編
(25日のつづき)

4、5個揃った指環のいくつかを、マスターが小さい小箱に入れる。それをライターで下からあぶると、やがて音がしなくなった。あとは例年通り、マスターのキーホルダーから出てきたり、マスターが首から下げたネックレスから出てきたりした。
カウンターの1番から4番までは一組で、年配の男女が座っている。「あらあー」と頓狂な声を出すが、これくらいで驚いていては身が持たない。
軽いジャブが終わったあと、マスターがおカネを所望する。例の夫婦が速攻でお札を出し、硬貨ともども、全種類がたちまち揃った。やはり、私のおカネの出番はなかった。
マスターが千円札を薬指に立てる。さらに8つに折り、中空に浮かせた。みなが「ゲエッ」と驚き、私はゲラゲラ笑った。私のように23回目になると、もはやみなの反応を見て楽しむスタンスになる。
「ハウス!」今度は千円札がマスターの肩の上に乗った。
お次はESPカードである。これもカウンターの4人が当てるのだが、というかマスターが当てるのだが、これもうまくいった。
続いてカード(トランプ)に移る。これも素晴らしいマジックばかりなのだが、カードについては、手練れのマジシャンのそれをテレビで見たりするので、やや驚きは落ちる。ただ、かぶりつきで見るマジックはやはり一味違う。
「まいちゃん、ちゃんと見てますか」
私の後方の女性が、あいまいに返事をした。彼女がまいちゃんだったのである。時々これを挟んでくるからマスターのマジックは恐ろしい。
3番の女性が整理券を引き、1番の男性が当たった。
「この紙に、あなたの好きなトランプのマークと数字、それと1から52までの好きな数字を書いてください」
男性は戸惑いながら書き、それを丸めてカウンターに出す。だがマスターは不満そうである。
「違うんです」と、マスターがかみ砕いて説明する。つまり、一例では「♥5・38」とか書くのだが、男性のそれには不備があったらしい。
男性が書き直し、前に出した。
「……もう、やめます!」
マスターが不機嫌そうに言い放った。「あなたは最初、♦の9、今度は♠の9を書きましたよね。だけどそれだけではダメなんです。1から52までの数字も書いてもらわないと。それがカードの上から同じ枚数のところにあるから、このマジックは面白いんです。でもあなたは書けなかった。このマジックはもうしません」
マスターが1番氏の書いた数字やマークを透視していたのに驚いたがそれよりも、マスターがこんなに不機嫌になったのを初めて見た。「やめます」と言うから、今日のマジックが休止になると思ったほどだ。
マスターのマジックは観客参加型で、観客と一緒にイベントを作っていくところがある。だからマジックには純粋に驚かなければいけないし、笑わなければならない。無反応の客や、マスターの指示に迅速に従わない客は敬遠される。実はマスターは、すこぶるストイックな人である。その本質に気付いている客はごく少数だと思う。
でも幸い、マジックは続行された。
このあとは、「ウルトラセブン」や「AKB48」と、定番のマジックが披露された。
壁の額縁に切れたカードが瞬間移動するマジックも披露された。今回はカードが現れるのに微妙なタイムラグがあり、それが妙に可笑しかった。
「壁のカードは、後日あなたの家へ移動しますよ。だけど新聞の間とかに移動するので、半分以上の方が、分からずに捨ててしまいます」
これは相当眉唾だが、どうなのだろう。
マスターが再びお札を所望した。例の夫婦の旦那のほうは長財布を用意し、中には札束が見えていた。壱万円札だって4枚でも5枚でも出しますという意気込みが感じられ、これじゃあこっちは勝てないと思った。
でも千円札を出したのは7番の女性。その千円札を使い、例の生卵マジックが披露される。
袋の中で生卵と千円札がご一緒し、千円札が生卵から出てくるという離れ業だ。この千円札はどろどろに濡れてしまうので、マスターが一時預かりとする。
その後も新作旧作を織り交ぜたマジックが展開される。今年面白いと思ったのは「π」の書籍で、小数点以下の数字がただ羅列されているだけの本があるのだ。マスターはそれを眺めるのが好きだという。鉄道マニアは、時刻表を読み物として楽しみ、列車の発着時刻だけ見て愉しむのだが、マスターのそれもかなりマニアだ。
マスターが女性に任意の2ケタの数字を2つ言わせる。するとマスターが4ケタの数字を答えた。たとえば「52頁の12行目」と言ったとして、その行の最初の数字4つを当ててしまったわけだ。つまりマスターはこの本の数字ほとんどを憶えているというわけだ。
マスターがスマホの電卓で、カウンターの人々に4ケタの数字を入力させる。
「それは○頁の○行目です」
しかしこれは外れていた。でもこれは、無理もないのだ。1番の男性の動きが怪しく、ちゃんと計算できていなかった可能性があるからだ。年配の人は見る専門にしてもらいたいが、上にも書いたように、このマジックは観客参加型なので、そうもいかない。
また複数で来店する場合、客の中でもマジックに対する熱量に差があり、低い人に当たると、シラケることがままある。ここが複数客の難しいところだ。
続いてルービックキューブのマジックをいくつか。これもすべて素晴らしいが、圧巻は一瞥したキューブを客に渡し、マスターが頭の中で6面を完成させるというものだろう。
これは将棋でいえば、長編詰将棋を一瞥して頭の中で解くようなものだが、レベルとしてはキューブのほうがはるかに難しいと思う。
「宿命、という言葉があります。きょうはこのときのために来てくれた人がいますよ。その人にはこれから、絵を描いてもらいます」
3番さんが整理券を引く。「15」で、私の右の男性(夫婦の旦那)が当たった。だが彼は現在、トイレに行っていた。
「じゃあ宿命の人ではなかったということで」
なんと、15番氏を除く、再抽選になったのだ。
「ええっ!?」
15番氏が宿命の人ではなかったのか⁉ 私たちは驚いた。
(つづく)
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