まつかぜ日記

暮らしの中で思うこと

IWATATE FOLK TEXTILE MUSEUM

2010年04月05日 | 手仕事のもの
数年前、入手した“簡単に作れる夏服の本”の最後のページに
いい風合いのタッサーシルクが入手できる店として
紹介されていたのが、岩立フォークテキスタイルミュージアムの前身『カディ岩立』でした。

それから、何度か館の前まで行ったことはあるのですが
いつもお休みで(私が週に2~3日の営業日を、すぐに忘れてしまうからです)
そのままになっていました。

昨年、ミュージアムとして新たに開館されたことをhuiziさんのブログで知り
4月1日、館長の岩立広子氏の講演会に行って参りました。

(*huiziさん、いつもありがとうございます!)

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現在の展示は『第2回展 刺繍 接ぎ合わせから始まったテキスタイル』。
お話は
主にインド、パキスタンの大きな飾り布の解説と、収集の経緯について。

手仕事の布。
館内の布は、王侯貴族の為に作られた贅を尽くしたものではなく
家事の合間に作られた、家族のための布です。

たとえば
家に男の子が生まれたら、おばあさんが「布」をつくりはじめる。
長い時間をかけて作られた布は、家族の歴史とともに育まれた布。
それは、いつか迎える男の子のお嫁さんに渡されるのだそうです。

印象に残ったお話ーーー

インドの布といえば、華やかで多様なデザインと手法が
融合しているようなイメージを持っていましたが
刺繍が盛んに用いられているのは遊牧民の「布」に集中しているのだそうです。
・・・確かに、移動する生活に大きな機織の機材は向いていないですね。

個々の家の中で、家族に伝承されていくもの。
家事の合間に進められる手仕事、と考えると
「刺繍」は機織りよりも高度な技術を必要としないからではないか。
というお話もありました。

また、カンタとよばれる刺し子刺繍の敷布には、文様の流派や地域的な特徴などが
見受けられず、一つ一つが非常に個性的なデザインで作られていて
とても不思議だった、というお話も。

・・・・・・・

たとえば、「こぎん刺し」を考えてみるとーー

魔よけや、豊かな暮らしを願って施される刺繍といえば
私がすぐに連想してしまうのが「こぎん刺し」なので・笑

こぎん刺しの文様には地域的な特徴があるそうです。
気候風土がデザインの特徴をつくり、
日常的な生活地域の中で、技術が伝承されていたから、と考えられます。
国は違えど、人の作るもの。
皆、同じように人から人へ、地域の中で育てられていくものだと思っていました。

・・・・・・・・・・・・

タンカの不思議・・・岩立さんは作り手の暮す農村が広大で、
他者からの影響を受けないからか?と想像されていたそうです。
そしてある日、出会った農家の女性と話していて
「この家に嫁いでから、一歩も敷地の外に出たことがないので、隣の人の顔も知らない。」と聞き、
タンカの不思議の謎が解けたような気がした、と話されました。
(正確には細かな部分が違っているかも知れませんが、概ねこのようなお話だったと思われます。)

宗教的な理由もあって、女性が人前に出ない生活をしているそうですが
農家といっても、家の周りの敷地はさほどの広さでなく。
とても驚かれたそうです。(本当に。容易には想像できません)

小さな庭に咲く花々だけを見ながら、あのタンカを作っていたのかと思う。と
感慨深げにお話されていた姿が、とても印象的でした。
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展示室は思ったより小さな部屋でしたが
壁に隙間なく掛けられた布は、簡単には通り過ぎることができない
濃密なものばかりで、見ごたえがありました。
・・・と言っても、その密度に気づいたのは講演後。至近距離で布と向かい合った時からで。
用意された椅子に座って、なんとなく壁にかけられたインドの布を見ていたときは
ハワイアンキルトを想わせる大きな花柄のアップリケ?や
古い更紗の布?も混ざって展示されていると間違えていたのです。
まったくお恥ずかしい話ですが、展の趣旨を理解しておりませんでした(恥!!)

しかしそれは全てが刺繍でした。(展のタイトルが「刺繍」なんですから、当然ですね)
花の形に布を縫い付けているように見えたところも
細い線で描かれたペイズリー柄の輪郭線も、全て針で刺し埋めたものでした。
そして、地布の白い部分もぜーんぶ縫い取ってあるのです!

『民藝』2007年10月号の表紙

↑この実物も展示されていました。

印刷物ですが、近づいてみると・・・

白いところにも全て針目があります。

館内は写真撮影できません。
できることなら、全て目に焼き付けて帰ってきたかった。。。

特に、新しく入手されたという 四隅がペーズリー柄の布の滑らかさ(触れてはいませんが・苦笑)
中央の無地の部分が、起毛しているように
もしくは、きれいな浜辺の砂を乳鉢で小さくして撒いたみたいに見えるのですが
顔を近づけてよ~く見ると、非常に細やかな縫い目で埋め尽くされて
その僅かな凹凸が起毛布のように見えてしまうのでした!

講演会に集まられた方々は、皆さん“ただならぬ人”の気配で・笑
どんな技法で作られているのか?見たこともない様な布を
身にまとっている方も数名いらっしゃいました。
緊張もしていましたが、終始和やかな雰囲気の中
講演後にはスパイシーなミルクティとフルーツケーキも頂戴し。
充実した時間を過ごすことができました。

今展は5月1日まで。
次回は、2010年5月13日ー7月31日「更紗-木版、手描きのテキスタイル」