三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」

2024年06月24日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」を観た。
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』公式サイト

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』公式サイト

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』公式サイト

 レミーマルタンルイ13世は、バカラのボトルに入っている高級ブランデー(コニャック)で、日本ではかつて100万円のブランデーとして有名だった。今は値が下がっているようだが、それでも50万円は下らない。この高級酒でうがいをする人はまずいない。

 舞台は1970年の年の瀬だ。クリスマスから新年の休暇に学校に残ることになった生徒と教師と給食係の人間模様が描かれる。
 アレクサンダー・ペイン監督の作品では、2011年製作のジョージ・クルーニー主演「ファミリー・ツリー」を映画館で鑑賞したことがある。やはり少人数の人間模様のドラマで、ややキリスト教寄りの世界観だった記憶がある。
 本作品も同じようにキリスト教寄りだが、クリスマスを祝うだけの行事としてのキリスト教の意味合いが強い。説教をする牧師には威厳がなく、どちらかと言うと下衆っぽい印象に描かれている。

 一方、古代史の教師であるハナムには、教養と、教師の矜持がある。古代史の人々を崇め奉るのではなく、現代人と同じ悩みを持つ卑近な存在として捉えている。生徒のタリーは、その話を聞いて、そういう教え方をしてほしいと言う。その方がわかりやすいし、覚えやすい。それに日常生活に役に立つ。
 ハナムの精神性はフレキシブルだ。いくつになっても悩み、成長する。それを生徒と共有すれば、それだけでいい教師になれるのに、ハナムには妙なプライドとコンプレックスがあって、なかなか心を開けない。
 クリスマス休暇でタリーは成長し、ハナムはそれ以上に変化する。人生を見つめ直す物語はペイン監督の得意技だ。高級酒を崇める精神性は、捨て去らねばならない。

映画「九十歳。何がめでたい」

2024年06月24日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「九十歳。何がめでたい」を観た。
映画『九十歳。何がめでたい』|大ヒット上映中!

映画『九十歳。何がめでたい』|大ヒット上映中!

社会現象を生んだ、人気エッセイが映画化。「生きづらい世の中」に悩むすべての人に贈る、笑いと共感の痛快エンターテイメント!あなたの悩みも“一笑両断”!

映画『九十歳。何がめでたい』|大ヒット上映中!

 前田哲監督の作品は、過去に5本鑑賞した。近い順で並べると、
「大名倒産」2023年
「水は海に向かって流れる」2023年
「ロストケア」2023年
「そして、バトンは渡された」2021年
「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」2018年
 いずれも原作のあるヒューマンドラマで、殆どは演出に専念しているが、松山ケンイチが主演した「ロストケア」では、脚本も手伝っている。この中でもっとも社会の病巣に踏み込んだ作品だ。

 本作品は主人公が実在の作家だから、それほど社会問題に切り込むことなく、ほのぼのとしたタッチのドラマになっている。
 とはいっても、完全に能天気かというとそうではなく、主人公が高齢ということが、そのまま高齢化の問題提起になっているところがある。身体の耐用年数を過ぎて、あちこちにガタがきて、そのうち頭の方も故障することになるんだろうという不安と諦めを抱えて、老年を生きる。
 一方、編集者のキッカワは50代の昭和男で、こちらは歩くハラスメント製造機みたいに見られている。さり気なく、現代的な問題を盛り込んでいる訳だ。

 喋ったり、短い文章を書いたりするのは誰でも日常的にやっているが、まとまった文章を書く機会は少ないかもしれない。仕事上の稟議書や報告書、メールなどは、大体がビジネス定型文になっているから、自分で単語を選んだりしなくていい。
 しかし作家は自分で言葉を紡ぎ出さなければならない。人生に意味など求めてはいけないが、好きなことと嫌いなことはある。なぜ好きなのか、なぜ嫌いなのかを掘り下げていくと、自然に文章ができる。優れた作家の文章には無理がない。難解な単語を使っていないのに内容が深くて、しかもわかりやすい。

 本作品も、同じように深くてわかりやすかった。佐藤愛子の原作をうまく生かしきっている。主演のふたりも見事だった。