三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「東京カウボーイ」

2024年06月10日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「東京カウボーイ」を観た。
映画『東京カウボーイ』 公式サイト

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井浦新、アメリカ映画デビュー&初主演! 映画『東京カウボーイ』 公式サイト

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 以前、在留資格が切れて強制送還されそうになっているアメリカ人の嘆願手続きを手伝ったことがある。話を聞いて、入管(出入国在留管理局)に提出する書類を日本語で書くのだが、何度出しても撥ねつけられて、結局、在留の延長は叶わなかった。本人が義務を怠っていたことが原因だと後で分かるのだが、そのことは本人から聞かされていなかった。もう少し英語力があれば、突っ込んだ質問ができて、もっとましな嘆願ができたかもしれないと、心残りがある。

 言葉が通じないのは、とてももどかしい。同じ言語を話しても真意が通じないことが多いのに、他言語となると尚更だ。そして場所が他国だと、もどかしさよりも圧倒的に不安が心を占める。
 序盤の井浦新は、まさにそんな感じで、覚束ない英語力がコミュニケーションを阻害する。思いつきのような安易なプランは、現地の事情によってあっけなく崩壊する。しかし重ねてきた成功体験で、今回も上手くいっていると思い込む。または自分に思い込ませる。
 どうなることやらと思っていたが、持ち前の粘り強さと底抜けのポジティブシンキングで、なんとか事態を打開しようとする。取り敢えず郷に入っては郷に従えという諺を実践したのが功を奏することになる。突破口はいつでも現場にあるのだ。

 金融資本による強欲な展開は、一時的な利益と引き換えに、環境破壊と格差をもたらす。そして多くの人々を不幸にする。M&Aで手に入れた菓子メーカーのチョコレートは、利益優先の味がして、食べた子供は吐き出してしまう。現実を無視して効率だけを考えた結果が、子供を幸せにできないチョコレートだったという訳だ。
 それを思い知らされたときの井浦新の表情がとてもいい。ビジネスマンらしく、ショックを受けるよりもすぐに次の展開を考える。ピンチはチャンスだと知っていても、切り替えるのは簡単ではない。これまでのたくさんの成功体験がそうさせるのだろう。

 企業のプロジェクト物語としては観たことのあるパターンの展開だが、異文化を舞台にしたところと、たったひとりで立ち向かうところに新しさがある。開国時の日本人が海外に出かけたときを彷彿させるが、明治維新の人々が自国の利益だけを考えて、軍国主義の道を突き進んだのに対し、本作品の主人公は、現地の人々の将来を考える。
 殺すM&Aから、生かすM&Aへのコペルニクス的転換が、主人公の中で起きたのを、地味な演出の中に確かに感じる。誰もが、別人になったみたいだと感想を述べるのが面白い。必要なのは寛容と共生だ。それに共感が加われば、ビジネスチャンスになる。
 ちょっと上手くいきすぎの感はあるが、人間はいくつになっても変われるということがテーマのひとつなのかもしれない。面白かった。