ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

カトリヤンマの交尾態

2020-09-06 15:57:22 | トンボ/ヤンマ科

 カトリヤンマの交尾態を撮影したので、9年間で撮りためた静止(枝止まり)、飛翔、産卵の写真の中から複眼の美しさに拘ったものをセレクトして、交尾態と併せて全12点を掲載した。

 カトリヤンマ Gynacantha japonica (Bartenef, 1909)は、ヤンマ科(Family Aeshnidae) カトリヤンマ属(Genus Gynacantha)で、北海道南部から九州まで広く分布し、平地や丘陵地の細い流れや池沼、林縁の水田などに生息するヤンマで、初夏に羽化し、その後は雑木林の中で過ごす。夕暮れや早朝に飛びまわり、文字通り蚊や小さな昆虫を捕食。昼間は、薄暗い藪の中で木の枝にぶら下がって休んでいる。秋になり成熟すると産卵時期を迎え、メスは午後になると稲刈りが終わった水田の畔などの泥の中に産卵、オスは水田の上でホバリングする今が旬のヤンマである。
 カトリヤンマは、かつて普通に見られた種だが、圃場整備による水田の乾燥化や山裾の水田の放棄荒廃により、近年減少傾向が著しい。環境省RDBカテゴリにはないが、22の都府県でRDBに掲載しており、関東では東京都と千葉県で絶滅危惧Ⅰ類に、栃木県では絶滅危惧Ⅱ類に、神奈川県や静岡県では準絶滅危惧種に選定している。
 水田は元来、生物多様性に富み、周囲の環境とともに「里山」という豊かな生態系を維持する重要なもので、そこに生息するカトリヤンマは、ヘイケボタル同様に水田環境に適応した昆虫だ。彼らが絶えることなく生き続けているということは、今後の里山のあり方や稲作の農法を考える上での指針にもなる。

 カトリヤンマとの出会いは、今から44年前になる。その頃は一時期千葉県松戸市に住んでおり、近くには水田と雑木林があった。夕方、林縁を歩くと細いトンボがピョンピョンと跳ねるように飛んで枝に止まる姿が多く見られた。昆虫少年であったから、それがカトリヤンマであることはすぐに分かった。ヤゴを飼育し、自宅で羽化させたこともあった。その当時に写したポジフィルムも大切に保管している。
 30数年の時を経て、デジタル一眼レフで様々な昆虫の写真を撮り始めるようになると、カトリヤンマの美しい姿もデジタルで残したいと思い探索が始まった。インターネットの情報や写友からご教示いただいたこともあり、日本各地の多産地にて様々なシーンを撮ることができた。今回訪れた場所は、雑木林に足を踏み入れた途端に数十頭のオスが足元から飛び立つという場所。飛んでも、すぐに近くの枝に止まる。何だか可愛く思えてくる。オスの枝止まり写真は、これまで何度も撮っているが、完璧な美しさを撮れていないのでカメラを向けてしまう。将に撮り放題なのだが今回も50点。(本記事に掲載はしていない。)
 カトリヤンマは、薄暗い藪の中にいる場合は、ストロボを発光させて撮影することほとんどだが、ストロボ1灯では光の当て方が難しく、平面的で不自然な反射も目立ってしまう。かと言って自然光では複眼の美しさが際立たない。ストロボ光と自然光のどちらが良いかは撮影者自身の好みの問題でもあると思うが、図鑑写真でも生態写真においても、単なる記録(証拠写真)の範疇を越えて最高に美しい姿を写真に残すために色々と試行錯誤を繰り返していきたい。

 カトリヤンマの交尾態の撮影が今回の大きな目的。静止(枝止まり)、飛翔、産卵というシーンは撮影済だが、交尾態は未撮影。これまでに訪れた多産地においては目撃すらできていなかった。湿地や水田に隣接する雑木林や藪に容易に踏み込めないという環境が要因である。
 今回は、撮影には恵まれた環境であり、藪の中には午前7時頃から時間をおいて出入りしてみた。3回目では明らかに確認できるオスの数が減っていた。これは、高い位置でメスと交尾しているに違いない。そう思いながら枝をかき分けて進むと、2組の雌雄が交尾態のまま飛翔し枝に止まった。1組は見えない位置に止まり、もう1組は少々高い場所ではあるが、何とか撮影できる枝に止まった。これを撮るために来たので、冷静にカメラを向けてシャッターを切った。

 本記事では、カトリヤンマの様々な写真を羅列したが、生態における「羽化」というシーンがまだ写真として残せていない。トンボに限らず羽化の瞬間は、変態という奇跡の瞬間であり「旅立ち」というドラマチックなシーンでもあるが、ホタル以外の昆虫では、なかなか生態の各ステージを細かく捉える時間的余裕がないのが現状である。

 季節はもう9月。昆虫の季節は終盤である。今年は、ホタル以外の昆虫はトンボがメインでチョウ類はほとんど撮っていない。高知県にて「イシガケチョウ」を撮ったくらいである。ギフチョウやゼフィルス等、予定は色々とあったが、新型コロナウイルスと長梅雨の影響で断念せざるを得なかった。
 今後、9月は前々回の記事に掲載した「ルリボシヤンマ 青色型メス探索」を信州の同じ生息地にて引き続き行い、10月は、静岡県にて大陸からの飛来種であるスナアカネの産卵を確認し撮影すること、天候と気分・体力によって和歌山県にて「サツマシジミ」の開翅写真を撮ること、これら3つを目標にして本年の昆虫撮影を締めくくりたいと思う。昆虫撮影の後は、星空、紅葉、霧氷・・・自然風景の撮影に切り替えて行きたい。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。

カトリヤンマの写真

カトリヤンマ(オスの静止)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 内蔵ストロボ使用 / 絞り優先AE F5.6 1/5秒 ISO 400 +1/3EV(撮影地:千葉県 2016.8.06 10:11)

カトリヤンマの写真

カトリヤンマ(オスの静止)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 内蔵ストロボ使用 / 絞り優先AE F5.6 1/30秒 ISO 400 -2/3EV(撮影地:千葉県 2016.8.06 10:14)

カトリヤンマの写真

カトリヤンマ(オスの静止)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 内蔵ストロボ使用 / 絞り優先AE F6.3 1/50秒 ISO 400(撮影地:静岡県 2011.10.29 12:49)

カトリヤンマの写真

カトリヤンマ(オスの静止)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F5.6 1/50秒 ISO 1250(撮影地:埼玉県 2019.9.07 12:44)

カトリヤンマ(静止飛翔)の写真

カトリヤンマ(オスのホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 800 +1EV(撮影地:神奈川県 2016.10.23 13:06)

カトリヤンマ(静止飛翔)の写真

カトリヤンマ(オスのホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.0 1/500秒 ISO 640(撮影地:神奈川県 2013.10.14 15:02)

カトリヤンマ(静止飛翔)の写真

カトリヤンマ(オスのホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.0 1/500秒 ISO 640(撮影地:神奈川県 2013.10.14 15:04)

カトリヤンマの写真

カトリヤンマ(メスの静止)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 1250(撮影地:埼玉県 2019.9.07 11:47)

カトリヤンマの写真

カトリヤンマ(メスの静止)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 内蔵ストロボ使用 / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:愛媛県 2018.10.07 16:27)

カトリヤンマ(交尾態)の写真

カトリヤンマ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / Speedlite 550EX / 絞り優先AE F8.0 1/50秒 ISO 400 -2/3EV(撮影地:埼玉県 2020.8.30 8:50)

カトリヤンマ(産卵)の写真

カトリヤンマ(産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 内蔵ストロボ使用 / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1 2/3EV(撮影地:愛媛県 2018.10.07 15:47)

カトリヤンマ(産卵)の写真

カトリヤンマ(産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 3200 +1/3EV(撮影地:愛媛県 2018.10.07 16:22)

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