和歌山県田辺市本宮町請川
継桜王子から小広峠を越えると本宮町に入る。
日置川水系から熊野川水系に入ったわけで、大層に言えば文化圏や風土といったものの境界に当たるが、分水嶺を越えても田辺市のまま、というのは、旧本宮町の頃から何度か訪れたことのある私には、未だに違和感がある。
本宮の中心地は、言わずと知れた本宮大社があり、過去に二、三度参拝したことがある。
今回はどうしようかと思ったが、参道の石段を埋める人波を見て、寄らないことにした。
世界遺産に登録される前は、チラホラであったのに、今はゾロゾロである。
代わりにというわけではないが、すぐ近くの店に入って、T君と蕎麦を食べる。
昼食を食べてから、まだ三時間ほどしか経っていないけれど、何故か二人とも食べたくなったのだ。
観光客相手の店だからと期待していなかったが、悪くなかった。
本宮の中心から、熊野川に沿って少し下った請川というところに、「お滝さん」と呼ばれる滝がある。
これは地元の人が、親しみを込めて呼ぶ際の通称あり、正式な名前が他にあるのだろう、と思ったが、どうも「お滝さん」という名前しか使われていないようだ。
素朴で微笑ましい。
国道から横道に入り、すぐのところにある広場に駐車。
が、これは失敗で、狭くなると思っていた林道は、終点まで普通車で難なく通れる良い道であった。
そこからは山道になるが、よく踏まれており、道標もある。
お滝さんは有名な滝ではないと思うし、滝の多いこの辺りでは特に目立つ存在ではないが、以前、NHKの朝の連続テレビ小説「ほんまもん」で、修行するシーンのロケ地に使われたという。
それからは、地元の人以外も少しは訪れるようになって、道標も立てられたのだろう。
道は谷川沿いではなく、登り坂で峠を越え、やや平坦な道を暫く進むと滝の手前で急坂を下る、といったルートを辿る。
運動不足の身には、前半の登りですらキツイものだったのに、帰りにはこの急坂を登らなければならないのかと思うとウンザリする。
やがて滝音が足下から届いてきて、樹間からその全容が望める。
落差はそれほど無く、姿も特に際立つものは無い。
優しい姿の平凡な滝、といった印象。
右側には岩に穴が開いていて、不動尊がある。
平凡な印象、と書いたが、滝壺は広く、部分的に深く抉られていて、夏ならば泳ぎたくなるようなところだ。
この滝壺は魅力的である。
滝の左側へと移動する。
右からも左からも近付いて撮れるのは有難い。
そして、やはり滝壺は美しい。
立派な滝壺と、滝前に寛げる空間があるというのは、写真としてはともかく、滝を楽しむという点では重要な要素だ。
だが、私がこの滝に行ってみようと思ったのは、他の要素だ。
それは、滝の右側、不動尊よりも更に右にある。
滝壺の右側には、逆擂鉢状というか、お椀の欠片を伏せたような形状の岩が、頭上を覆っている。
湛えられた滝壺の穏やかな水と、異形の岩との対比が凄まじく、私は、異空間のようだ、と思った。
で、矮小な人間との対比の意味でも、何やら物思いに耽っているようなT君を入れて撮っておく。
決して彼が矮小な人間という意味ではないです。
小屋があるのがちょっと難だが、ただならぬ気配を感じる場所だ。
超広角レンズが無いので全容が写せないのは残念。
信仰心が育まれるのが当然と思える場所だった。
もう時間はだいぶ遅いが、この近くでもう一ヶ所だけ寄ってから帰ろうと思う。
本宮大社の近くから、音無川沿いの道に入り、1.5キロほど遡ったところで駐車。
入口はちょっと判り難いが、西側から入ってくる小さな谷に小道がついているので辿ると、すぐに目的地到着。
ちちさま、或いは、乳子大師、子安弘法とも呼ばれるところで、乳房を思わせる天然の丸い石が二つ、岩から顔を出している。
お滝さんと同じく、ここも「ちちさま」という呼称が、素朴で飾り気なくていいなぁと思う。
母乳の出が悪い女性や、子育ての信仰対象になったのは当然と思える判りやすさだが、T君は、「胸というよりキン〇マに見える」と言う。
うーん…判らなくもないような…?
それはともかく、お滝さんもちちさまも、自然の妙に感心させられる場所で、熊野の自然と信仰の面白さが感じられて楽しかった。
撮影日時 190224 お滝さん 15時50分~16時30分 ちちさま 17時20分~17時30分
地図 お滝さん ちちさま
倒木やゴミのない滝、良いですね。
滝壺、素敵ですね。どれだけ深いのかしら。
岩、面白いですね。
大地のエネルギーを感じます。
地質を勉強している義弟が見たら、きっと行きたいと言うでしょう。
ちちさま、可愛らしい呼び名です。
お滝さんもそうですが、自然のものに親しみを覚えて呼び名をつけるのは日本の文化でしょうね。
自然とは反対の、コテコテの大阪へ先週行ってきました。
天神橋筋商店街を歩いて裏通りも歩いて、大阪って奥が深いなぁって関心しました。
まだ他の木々が芽吹いていない中で咲く、
モクレンやタムシバ、コブシなどの花には非常に惹かれるものがあります。
いいなぁ、と思いながら、写真を撮らずに通り過ぎたことが何度もあって、
結局、そういった早春を飾る花のいい写真が無いままなんですよねぇ。
お滝さん、普通の体力がある人なら大丈夫だと思いますが、
私はゼェゼェ言いながらでした(笑
滝は優しく穏やか、それでいて右を見れば自然の凄さを感じられる場所です。
私は三月終り頃に南紀へ桜を撮りに、四月の初め頃に丹波へ桜を撮りに行く予定です。
そわそわ、わくわくは大事ですね。
お互い、いい風景に出逢えますように。
優しい滝音が響く、静かなところです。
深さは3mくらいでしょうか。
倒木は、人工物ではないのに、かなり滝の美観を損ねますよね。
こういう地形を見ると、いったいどうやって生成されたのかと想像を巡らせるのが楽しいです。
何千年、何万年、或いはそれ以上の旅を、頭の中でするのはロマンです。
自然と生活が密着した、素朴さと親しみの感じられる呼称で、
熊野では特にそういった傾向が強いように思います。
自然崇拝、原始信仰的なものが色濃く残っているというか。
私は仕事の関係で、二回ほど京都の街中を歩く機会があったのですが、
何でもない道を歩いていて、ふと横を見ると、物凄くしっとりとした、奥深い路地があったり、
高そうな扇子専門の店があったりと、
京都の奥深さを感じたところでした。