神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

大門坂

2010年04月27日 | その他
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山


熊野方面へ出掛けることは多い。
山も川も海も魅力的で、行けば行くほど魅せられてしまう。
だが、熊野古道を歩いたことは無いし、特に歩いてみたいとも思わなかった。
神社好きがこんなことを言うのも何だが、熊野の歴史よりは、熊野の自然に興味が向いてしまう。
それでも、一ヶ所だけ歩いてみたいと思っていた場所があって、それがこの大門坂なのであるが、有名な場所でもあり、観光客も多いであろうから、なかなか訪ねる気にはなれなかった。

那智勝浦町の山中で車中泊をし、朝から沢歩きをするつもりだったのが、生憎の雨である。
雨脚は強く止む気配も無いので、夜が明ける前には沢歩きを断念し、帰ることにした。
一旦は新宮近くまで行ったのだが、ふと大門坂のことを思い出し、Uターン。
平日の雨の早朝なら、誰もいない大門坂を歩けるかも知れないと思ったのだ。
いつもそれなりに車が止まっている大門坂駐車場も、その広いスペースに地元の車が一台あるのみで観光客の姿はない。
雨は降り続いているけれど、何となく清々しい気分で傘を差して歩き出す。


家並みの間の細い坂道に入り、南方熊楠が那智山の植物調査の際に滞在した旅館跡などを見て進む。
鳥居をくぐり、橋を渡ると、門のように聳える夫婦杉が見えてくる。
見事な巨杉で、石畳が敷かれた頃よりずっと大きくなったのだろう、石は持ち上がって波打っている。樹齢は800年とある。


入り口からいきなり深い木々の中で、今度は楠の巨木が現れる。


 
今まで楠の巨木はいくつか見てきたし、これより大きなものも何本か目にしているが、この楠の表情には特に惹かれるものがあった。


  空洞化している部分もあって、力強さと歳月を刻み込んでいる。
これも樹齢800年とのこと。
宇多法皇による初めての熊野御幸が907年のことだから、この楠も先程の夫婦杉も、まだ芽生えてさえいないわけで、当時はいったいどんな風景だったのだろうと気になる。
今は朽ちて跡形も無い巨木が茂っていたのか、それとも意外と明るい道だったのだろうか。


 

 
魅力ある木々が次々と現れてくる。


  振り返れば、先程の楠の威容が望まれる。


 

濡れた石畳。緑の香。


  巨木が多いのは道に沿った部分だけで、左右どちらも奥に目を向ければ植林されたような細い杉ばかりではあるが、それでもこれだけ深さが感じられる空間は数少ない。


  濡れた杉の根元は、生々しいほどの生命感を伝えてくる。


  高い梢も、植林された杉とは違い、躍動感に満ちている。


 

 

 
この木はまるで巌のようだ。


  ここは大門坂の観光写真などで最もよく使われる場所だろう。雨に煙っているせいもあるが、物凄い奥行きで、ここが幽明の境のようにさえ感じられる。
以降、コメント省略。


 

 

 

 

 

 

 

誰にも出会わず、木々と石畳の道に酔いしれた。

那智の滝や那智大社に行かれる方は、車でそばまで行かず、この道を利用されることをお奨めします。


2万5千分1地形図 紀伊勝浦
撮影日時 100420 5時40分~7時

駐車場 あり
地図

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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (幽黙)
2010-04-27 16:13:33
大門坂はまだ若かりし頃
二度歩きました
ただその頃はいわゆる
一般観光客気分で
こうした荘厳な雰囲気を求めるような
そうした状況ではなかったのが
なんとも残念なことで
今になってこういう気配を感じるための
探訪に焦がれるものがあります
それにしても樹の様相が実に素晴らしい
愚生も最近は樹の全体は全体として
部分が非常に気になるようになってきました
愚生が撮る樹は全然hiro1jzさんの
足元にも及びませんがそれなりに
気に入った雰囲気に撮れるようには
なってきたかな…
ということで今回の写真でも
石畳の風情も実に素晴らしいのですが
やはり樹の根元のアップの5カットは
もう気が惹かれて堪りません
殊に6枚目の樹の波打つ樹肌は
今この瞬間にも波打っていそうで
ドキドキします

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Unknown (hiro1jz)
2010-04-27 16:46:26
おお、既に二度も歩かれていましたか。
私も昔だったら、この道の良さを半分も感じられなかったような気がします。
雨と朝と歳のおかげで、しみじみと味わうことが出来ました。
とはいっても、あまり歳は取りたくないですが(笑

樹に関しては、その姿を捉えられることにおいて幽黙さんの感性は見事だと思いますが。
単純に撮ったって、あの姿は写せないと思うんですよね。
私の場合は、姿を撮ろうとすると上手くいかないものですから、
もう少し部分的に切り取って、
何とか表情が撮れたらなぁ、みたいな感じです。
それに、今回は雨に濡れた樹皮と淡い光の力が大きいですね。
もう艶かしいような妖しいような気配を放ってました。
樹は好きなのに、普段あまりクローズアップしないのは、
どうにも上手く撮れないからなんですが、
今回は樹とその撮影を堪能できました。
幽黙さんが撮られたら、この樹達の
また違った魅力を引き出されそうで、
ぜひとも見てみたいものですが・・・
南紀、行かれませんか?(笑
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Unknown (Jun)
2010-04-27 21:10:52
写真を拝見すると、ただ羨ましいの一言です。
まず人がいない空間を独占出来るなんて。
一人で歩きたいと思いますが、実際に一人になると、とても恐いのです。
一人でいることが恐いのではなく、予想外の人が現れるかも知れないと言う、あの神聖な場にはふさわしくない不安がいつもつきまといます。
そんな時は、自分が男だったら、どこまでも歩いて行けるのに、と。

雨に煙った森が引き寄せますね。
とても懐かしいです。
ひだるに遭わないようにお握り持って行きたいです。
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Unknown (hiro1jz)
2010-04-29 08:35:22
ああ、女性なら、当然そういう怖さはついてまわりますね。
私も、自分が女性だったら、こんなところ一人じゃ歩けないだろうな、
なんて考えることがたまにあります。
男であっても、予想外の人間に怯えることはありますから尚更でしょう。
ここは本当の山奥じゃなくて、観光地ですから、
そういった意味では危険は少ないと思いますし、
民家に近い入り口付近でも充分奥深い雰囲気を味わえますから、
雨の日の早朝なんかは狙い目だと思いますよ。
那智周辺は、昔から人が多いですから、
ひだるはいないんじゃないでしょうか。
いてもおかしくない気配なんですけどね。
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この先に (era)
2010-04-30 22:33:08
凶悪に魅力的な神社がある道って感じですね。
メジャーところの16枚目素晴らしいなぁ。観光用
にも使われる場所なんですね。
木も石畳もギャフンです。熊野かぁ・・・

長野行ったんですが車のフロントが大虐殺。一ヶ所
かなりの血がついていて・・・嫌な気分です。
案の定ガソリンスタンドで特殊な荒い方を薦めら
れましたよ。
ムカデもシンドイですよね。
悪友は蜂にさされてから蜂は怖いみたいです。
そろそろ、この手の話増えますね。

トロッコ電車乗りたいんですよ。保津峡ゆったり
見たいですね。一回チャンスあったんですが人
多くて断念したんですよ。
踊り子は海側が見えるような座席配置でしたよ。
伊東より南になると海の色が違うんですよ。だん
だんエメラルド・グリーンになるんですよ。
但馬とかの海のそばの電車とかも乗りたいですよ。

ゴルフは多いんでしょうね。やたら薦める人多い
ですよね。聖地巡りで忙しいですからね。
皆聖地に行こうですよね。
長野大正解でしたよ。長谷寺で雨がピークだった
んですがあとは快晴でしたよ。
玉依姫命神社という場所で古文書のうつしをみせて
もらったんですが神社も御朱印も最高でしたよ。
ここは桜が見ごろでしたよ。
やはり長野は山も木も美しいです。
自宅から坂城ICが二時間十五分で行けるの発見
しました。これなら楽です。
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Unknown (hiro1jz)
2010-05-02 08:59:30
そうなんですよ。
この先に凄く魅力的な神社がありそうな、
神社があったらいいのにな、と思わせる道なんですが、
実際には土産物店が並ぶ車道に出て、
そこから那智大社や那智の滝に行くことになります。
平安衣装に身を包んだ女性を立たせたポスターがあったりします。

昆虫の血って、基本、緑色ですよね。
赤い血が付いていたのなら昆虫ではないのでは?
私はダニ以外の被害に遭ったことは無いのですが、
やはり蜂やヒルは嫌ですねぇ。
蛇がいちばんマシな気がします。

亀岡の神社に行くときに、トロッコ列車を利用するのが良さそうですね。
和歌山の海岸線を南に向かって進むと、
海自体は綺麗なんで゜すが、黒潮の影響か、
黒っぽい濃い青色になっていきます。
だからエメラルドグリーンの海というのは見てみたいですね。
山陰線の但馬辺りは意外と海が見えないですよ。
時々、チラッと見える程度です。

まあゴルフやる人を責めるつもりはないですが、
やはりゴルフは好きになれませんねぇ。
あれだけ自然や生態系を壊す娯楽というかスポーツは他に無いような。

玉依姫命神社は玄松子さんのところには載ってないですね。
玄松子さんは長野の方だったと思うんですが、
意外と長野の神社の掲載数が少ないですね。
桜と古文書と御朱印、充実してますね。
中央道経由、それとも関越道経由ですか?
2時間15分でいけるとは驚きです。
2時間半以内で行けると、かなりお手軽感が出てきますね。
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ひえ~ (era)
2010-05-02 21:59:52
この道の先は世にも恐ろしい土産屋が並ぶ場所な
んですね。地獄げへの道は天国を経由するですね。
このまま那智に続くのがベストですよね。

明らかに虫の死骸が真ん中にあり真っ赤になって
いましたよ。蚊の類ですかね?
蜂は痛いみたいです。アホ悪友は凄くビビリにな
っていましたよ。
蛇もかなり嫌ですよぉ。

次回の亀岡はトロッコ鉄道で移動してからレンタカ
ー借りると面白そうですね。それだ!それで松尾
と愛宕に行こう!
和歌山は黒いは驚きです。和歌山~伊勢に向かう
電車では、あまり海見えなくて気がつかなかった
です。但馬は残念だなぁ。
伊豆の伊東より南の海はホントに綺麗です。ただ
夏は色が変でイマイチなんですけどね。
若狭の電車も海は、あまりよく見れないんでした
っけ?

意外と地元って疎かになりますよ。玄松子さんの
ことだから参拝済みだと思うんですが意外といつ
でも行けるって思って参拝していないのかも?
ホント良い神社でしてね。その日の写メに対して
悪友は恨み・妬み・意味不明のメールばかり返事
来ていたんですが、玉依姫だけは感嘆メールが
帰ってきましたよ。凄くよく撮れる角度あったん
ですよ。古文書も充実。財産目録までデジカメに
収めてきましたよ。
関越経由です。以前は同じ道で三時間いじょう
かかっていたんですけどね。人間慣れですね。

明日仕事終わったら伊勢と美濃行きますよ。
hiro1jzさんも早く遠征して強烈な写真見せて
くださいなっと。
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Unknown (hiro1jz)
2010-05-03 09:36:28
ずっと昔は、いい感じのまま那智大社までいけたのかも知れませんが・・・
でも、蟻の熊野詣と言われるほどでしたから、
車道は無くとも、昔からそれなりに開けていたのかも。

かく言う私も、なぜかバンパーとかに赤い血がついてたりすることがあります。
蚊とか虻なんでしょうかね。血が付いていると誤解されそうで(笑
ビビリになる気持ちはわかりますよ。
私は刺されてはいませんが、スズメバチに追いかけられて以来、
スズメバチに関しては恐怖症といっていいくらいヒビリます。
他の蜂は全く平気なんですが。

観光シーズンは混むでしょうから、閑散期に利用がいいでしょうね。
保津川下りの船を縄で引きながら亀岡まで戻った船曳路が川沿いに残っていますが、
時間と体力があれば歩かれても楽しいかも。
南紀は遠目には濃い青ですね。
時に黒っぽく見えて、なるほど、だから黒潮かと納得します。
近くで見れば、かなりの透明度なんですが、
エメラルドグリーンにはなりません。
ああ、若狭も殆ど生みは見えませんねぇ。
海辺は地形の険しいところが多いので、
内陸側を走ったりトンネルに入っちゃったりしますね。

あのお方のストックは凄そうですから、
たぶん参拝済みなんでしょうね(笑
悪友さんが感嘆するってことは、かなり見事なんですね。
いつかHP開設したら見てみたいもんです。
でも、そういったお宝資料までは、掲載しにくいですよね。
慣れは大きいですね。
特に山間部の道の場合、どこにどの程度のカーブがあるかとかを把握すると、
物凄く時間短縮します。

うわ、長野から帰ってきて早速、伊勢と美濃ですか!
相変わらず凄い行動力ですね。
私は中旬以降に南紀の沢のリベンジと、6月の鳥取までは
近場をブラブラするつもりです。
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Unknown (くまったろう)
2010-05-03 15:36:21
「木霊」の存在を意識せずにはいられない空間。
人は、それに気づき、恐れおののくだろう。
抗うことのできない力が、そこにはあるのだ、と思わずにはいられない。
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はじめまして (hiro1jz)
2010-05-04 06:54:45
くまったろうさん、コメントありがとうございます。

こういう場所に立つと、自分がちっぽけに思えて「畏れ」を抱きますが、
逆に、大きな存在に包まれるような「安寧」も感じます。
もっと対話をするように写真が撮れたら、と思いつつ、
なかなか思うようにはいきませんが・・・。

また気が向けばいらしてください。
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