和歌山県新宮市熊野川町瀧本
新宮といえば海沿いの町であるが、この旧熊野川町にある瀧本集落は、京阪神から訪ねるには、近畿で最も山深く遠い場所のような気さえする。
十津川沿いに紀伊半島を南下していく道中は、山また山の深い谷間の道。その道を本宮辺りまで走ると、川幅は広くなり、漸く明るい快走路となるのだが、暫くで支流の赤木川沿いの道に入る。
やがて道は、車が擦れ違える場所も殆ど無い狭いものとなり、ひたすらカーブを繰り返しながら山奥へと分け入ってゆく。落石も多く、路面には落ちてきた石が散らばっており、うっかりするとタイヤを傷付けたり、車体の底を擦ったりする。
十津川沿いの道を走ってきて少々疲れた状態で、この狭路はかなり堪える。地図で見る以上に、ひたすら長く感じられる道だ。
辿り着いた瀧本集落は、僅かばかりの平地があるだけの小さな集落だが、それでも道中の圧迫感を開放してくれる空の広がりがあって、ほっ、とする場所だ。
標高は200メートルほど。地図上の感覚からすれば、海から比較的近いのだから「そんなものだろう」という気もするけれど、ひたすら山道を走ってきた感覚からすると、「たったの200メートル!?」と驚いてしまう低さだ。500メートルほどの高地にいるような気がするし、周りの風景も山深いものである。
その瀧本集落は、滝が多いことで知られていて、瀧本四十七滝とも呼ばれている。山を越えれば那智の滝にも近く、地質的に似通った、硬い岩盤質の山なのだろうが、周辺の地形の険しさは、那智を遥かに凌ぐ。中でも宝竜滝は裏那智とも呼ばれる瀧本の代表格だ。
この滝を訪れるのは二度目。前回は水量が少なかったこと、すぐ近くにある野の滝を見ていないということ、それから、ブログにぜひ載せたいということで再訪である。
今年最後の紅葉を見るつもりで来たが、南紀とはいえ山間部で気温は低く、葉の散ってしまった木が多い。大阪の気温は7度くらいだったが、こちらは0度に近い。
林道終点近くから、対岸の紅葉。
宝竜滝。
残念ながら今回も水量は少ない。ネット上で見かける画像では、凄まじい勢いで水を落としているものが多いのだが・・・。
運の悪さもあるが、実は上流では発電用に取水されている、という理由もある。
落差は50mほど。ここからは見えないが、更に上段があって、全体で100mほどの滝である。
左手の黄葉した木の裏手から、次々と水蒸気が立ち上っていくのが、なんだかとても不思議な気がした。
この深く抉られた岩盤から、本来の水勢の凄まじさが想像出来るのではないだろうか。
宝竜滝はちょっと拍子抜けだったので、早めに切り上げて野の滝へ向かうことにする。
宝竜滝の近く、左岸に山に入っていく小道があったので奥へ進む。
林内は、まだ鮮やかに色付いていた。
すぐに苔生した小さな谷川に出る。
ここから少し右に目を転じると───
木々の向こうに野の滝が望まれる。
紅葉している木々があるのに、苔などの深い緑があって、北近畿などとは趣の異なる秋の風景だ。
それにしても、林道から僅かな距離を歩いただけなのに、凄まじい山奥の秘瀑でも見ているような雰囲気だった。
上部には霧がかかり、天から落ちてくるかのよう。
落差は60mほど。
滝壺まで行くには、やや危険が伴うようなので遠望にとどめておく。
それにしても気になるのが、
この、滝の上部に生えている木。どうもヒノキのようで、よくこんな岩壁の不安定なところで、これだけの大木に育ったものだと感心する。
渓谷を出て瀧本集落へ。
谷間よりもずっと深い霧に包まれていたが、山の端から、霧を透かして太陽が顔を出してきた。
南紀の集落には石垣が多い。
民家にある柿の木が、霧越しの淡い朝陽に照らされて、枝先の水滴が輝いていた。
神社を撮るよりずっと前は、こういう風景を好んで撮っていた。
2万5千分1地形図 紀伊大野
撮影日時 081204 6時20分~8時20分
駐車場 林道終点、もしくは途中に僅かながらスペースあり
地図